第178話 展開

「う、嬉しい!!嬉しすぎます!!」

「リン様の宿屋を、サンデル王国の領土にも出店できるなんて!」

「リン様が生活空間にお作り下さった拡張領域がありますから、出店する店舗に設置する部屋は二十~三十部屋程にして、それ以上にお客様が来られたら拡張領域のお部屋にご案内すれば…」

「リン様は宿屋の拡張領域はいくらでも増やせる、とおっしゃってくれてますから…大丈夫ですね!」

「同胞となります建築業者の方々に店舗の建築をお願いして、拡張領域への転移陣の設置はリン様にお願いさせて頂いて…」

「ああ!リン様の宿屋の素晴らしさを、もっと多くのお客様に知って頂きたいです!」


リンの多大なる功績に報いる為、国王マクスデルが提示した謝恩の一つにあった…

リンの商業施設をサンデル王国の領土に展開すると言うもの。


それを実際にリンから聞かされた、リンの商業施設で働く従業員達は…

すでに一つの都市になる程に大きくなっている、リンの生活空間の居住地全体に響き渡る程の歓喜の声と諸手を上げて喜ぶ。


リンの商業施設の目玉の一つとなる宿屋の従業員達は、その知らせを受けてすぐさま宿屋の展開の計画についてみんなで話し合い始める。

リンの宿屋は、今はリンの生活空間に客に宿泊してもらう為の部屋と施設の大部分があり、実際の店舗からもそこに移動できる為、今後展開していく宿屋は規模よりも利便性を優先し、確保できる土地のことも考え、なるべく店舗面積が小さくなるようにしようと考える。

そんなこんなを従業員同士で話し合い、実際にそれが形になった時のことを思い浮かべて、宿屋の従業員達はとても楽しくてたまらない気持ちで、心がいっぱいになってくる。


「リン様がお作り下さったレストランも、サンデル王国の領土にお店出していきたいな!」

「幸い、リン様の生活空間にある従業員の居住地にレストラン、宿屋、冒険者ギルドの食堂の為の調理場もあるから、調理はそこでできるな」

「ただ、サンデル王国の至る所に店舗出すんなら、調理場はもっと拡張する必要はあるだろうし、料理人ももっと雇う必要はあるかもな」

「店舗はほぼお客様の為の空間にして、バックヤードはこの生活空間にすればよさそうね。リン様の生活空間に行き来してることがバレないように、程ほどのダミーの空間だけ作っておけばいいんじゃないかな」

「使っていい食材や調味料は、リン様はもちろんリン様の従魔達や農場の人達が凄い勢いで作ってくれてるから、どんなに使っても全然なくならないし、いくらでも料理が作れるから、品切れの心配はないね」

「店舗の建設は、同胞の建築業者のみんなにお願いしようよ。あの人達なら、きっと素敵な店舗建ててくれるはずだもん」

「リン様のレストラン、もっと多くのお客様に利用して欲しいな!」


レストランの従業員達も、サンデル王国の領土に店舗を出していくことに非常に乗り気で、全員でそのことについて話し合いを始めている。

調理場もバックヤードも、生活空間の居住地を共有する形にすれば店舗はほぼ客の為の空間にすることができる。

なので、店舗展開に向けての人員確保が最優先となると、従業員達は見込んでいる。


わいわいと楽しそうに話し合い、誰もが新たに増える店舗のことを考えると自然と笑顔が浮かんできている。


「ついに!ついにジュリア商会の支店をサンデル王国の領土に展開できる!」

「リン様と同胞達が作られる、とても上質な食品をいっぱい販売させて頂ける!」

「商会全体の経理・事務の施設をこの居住地に作らせて頂いて、そこで各支店の業績を管理できるようにすればいいんじゃないかな?」

「それはいいな!リン様の業績管理の為の魔道具と収納の魔道具があれば、すぐにでもできそうだ!」

「ジュリア会頭には収支の確認と、案件や稟議の最終の決済だけしてもらって、後はリン様の専属秘書に専念してもらおうよ!」

「その通りだ!後は支店共通のバックヤードも、この居住地に作ってなるべく支店は販売スペースを優先して作ろうか!」

「そうだね!そうすれば商品の見本を多く置けるし、多くのお客様に入って頂けるからね!」

「支店が増えるなら、販売スタッフももっと必要になってくるな…でもそれは、言い換えればスタトリンの、さらにはサンデル王国の雇用促進につながってくるから、むしろいいことだな!」

「リン様とジュリア会頭のこの商会、もっと多くのお客様に利用して欲しいな!」


ジュリア商会の従業員達も、他の従業員に負けない盛り上がりを見せている。

今は会頭であるジュリアがしている、店舗の業績管理を自分達でできるように居住地にそれ用の施設を作り、専任の人員で各支店ごとに業績を管理していくようにし、会頭であるジュリアにはその確認と最終決裁、後はリンの専属秘書に専念してもらえるようにする。

支店共通のバックヤードもこの居住地に作り、支店は販売スペースを最優先する作りにして、多くの客に利用してもらえるようにする。


などなど、色々と意見を出し合って新しい支店の展開に向けて、全員が楽しそうに話し合っている。


「あ、あたしのパン屋の支店を、サンデル王国にかい?」

「そうよ!おばさん!」

「おばさんのパン、めっちゃ美味しいもん!」

「リン様にお願いしたら、絶対いいって言ってくれるよ!」

「…みんな…」

「おばさんはパン作りに専念してね!売るのはアタシ達が頑張るから!」

「そうそう!ねえ!ジュリア様とイリス様に相談して、おばさんのパン屋の売り子、もっと雇ってもらいましょうよ!」

「それいい!わたし達はリン様のおかげでおばさんのパン屋で雇ってもらえて、おばさんのおかげで毎日楽しくお仕事できて、おまけに美味しいパンいっつも食べさせてもらえてるし!そのリン様とおばさんの為、前のわたし達みたいにお仕事もなくて大変な思いをしてる子達の為に、おばさんのパン屋の支店作って、そこで雇ってもらおうよ!」

「支店のバックヤードはここにできるし、おばさんのパン工房もここにあるし、お店は販売スペースだけでも全然やれるわよね!」

「お店の中で食べてもらえるようにもしたら、もっとお客さん来てくれるね!」

「慣れてきたら、みんなで交代して他の支店とかで売り子したりできるし!」

「リリムちゃんとか、リン様のメイド部隊のメイドさん達とか、フェリスちゃんベリアちゃんコティちゃんとかにも、日替わりで売り子お願いして、やってもらお!」

「おばさんの手作りパンに、リン様の手作りパンまであるのよ?ぜ~ったいに繁盛するわ!」

「おばさん!アタシ達がお店のこと、ジュリア様とイリス様に相談するから!」

「だから、おばさんは安心して美味しいパンい~っぱい作ってね!」

「…みんな…みんななんでこんなに可愛いのよお…こんなにも可愛い娘がいっぱいで…あたしゃ嬉しくてたまんないよお…」

「えへへ!おばさんが喜んでくれて、わたし達嬉しい!」

「アタシ達、おばさん大好きだもん!」

「ありがとねえ…あたしもあんた達のこと、大好きだよお…」


そして、今やスタトリンでは絶賛されているパン屋も、スタッフの女子達がサンデル王国に支店を展開しようと、目を輝かせて店主であるおばさんにプッシュしてくる。

リンがオーナーになって、店舗の改装が行なわれてから店はずっと大繁盛…

それからもちょくちょくと、仕事も住処も失って行き場のない女子を店舗の販売スタッフとして雇い入れていた。

一時からリンの生活空間に、リン所有の商業施設で働く従業員の為の居住地が作られ、それからは全員がリンの生活空間で、日々幸せに暮らしている。

おばさんも自身のパン工房を生活空間の居住地に建ててもらい、パンはそこで作るようになった為、店舗をさらに改装して販売スペースと店内飲食スペースを拡張し、より多くの客を受け入れられるようにしている。

サンデル王国に展開する支店も、今のスタトリンの店舗同様にし、リンの生活空間からどの支店にも行けるようにしていこうと、スタッフの女子達はわいわいとしながら話し合う。

そして、かつての自分達のような不遇な状況にいる女子達を雇って、パン屋の販売スタッフを確保すると同時に不遇な状況に苦しむ女子達を救おうと、スタッフ達は話し合う。


おばさんは、自分の娘のように可愛がっているスタッフ達がこんなにも自分の店を愛してくれて、さらには店の為にいろいろと考えてくれて…

そんなスタッフの女子達が可愛くて可愛くてたまらず、ほろりと涙を零しながらぎゅうっと抱きしめてしまう。

スタッフ達も、おばさんが喜んでくれているのが嬉しくてたまらず、おばさんに抱き着いて喜びながら、支店の展開を絶対に実現させようと心に誓うのであった。




――――




「な、なんと!!そのようなサービスまで、リン様はお作りされ、運用なさっておられるのか!?」

「はい、リン君が構築してくれた貸倉庫サービスとごみ処理事業…これはもはやスタトリンにはなくてはならないものとなっております」

「貸倉庫サービスは、リンちゃんが技能で保有する収納空間の一部を、言葉通り貸倉庫として貸し出すサービスです。リンちゃんの収納空間は容量無限、時間経過がない為品質の劣化がない、手で物に触れなくても収納できて、目に映る場所であればどこにでも好きなところに取出が可能、と…非の打ちどころのない空間です。おまけにその技能を付与した魔導具をリンちゃんは作ることができて、その魔道具ごとに使用者の登録もできます。そうすれば、登録した使用者以外には一切使えなくなるので、防犯性も極めて高いです」

「で、では…リン様の貸倉庫さえあれば、王家に代々伝わる宝物や、国庫にある備蓄も全て…」

「はい。使用者を国王陛下、王妃陛下がお認めになられた方に限定すれば極めて安全に、かつ容易に保管・取出ができますし、王城や民の為に保管する備蓄も一切劣化せずに永久に保管できます。もちろん、国の運営資金を保管する金庫としてもお使い頂けます」

「な、なんと……」

「ごみ処理事業も、リンちゃんの収納空間を最大限に活用した事業で…一般家庭はもちろん、飲食店や商会で出るごみを全て引き取って、それをリンちゃんが用意してくれた収集用の拠点に運び、その拠点でリンちゃんの収納空間に収納することで、ごみの処理を行なう事業となってます」

「労力はそれなりに伴うことになりますが、運び屋ポーターを主な生業とする冒険者や、【闇】属性の【収納】魔法が使える冒険者…後は体力に自信はあるけど戦闘には不向きな冒険者にとって、契約先に出向いてごみを運ぶことでまとまったお金が得られる常設依頼として、このエイレーン殿がリン君と共に考案してくれたのですよ」

「そ、それならば領地の衛生面も向上し、ごみの放置によって土壌が汚染されたり、それによって疫病が発生する確率も極めて下げられる、と言うことだな…」

「ああ…リン様はなんて素晴らしいお方なのでしょう…」

「また、ごみの収集の拠点には孤児院を併設しており、集められたごみをリンちゃんの収納空間に収納する仕事を、その孤児院で受け入れている孤児達に任せることで、孤児達だけで孤児院の運営ができるようにしております。ちなみにこれも、リンちゃんが考案してくれた仕組みです」

「!こ、孤児院まで…」

「リン様は、親に捨てられた…もしくは親と生き別れた不憫な子供達をもお救いくださってらっしゃるのですね!」


場所は変わり、リンの拠点の地下一階。

この日の公務を終えてこちらにやってきたマクスデルとエリーゼに、ジャスティンとエイレーンが今のスタトリンにある、リンが作ってくれた仕組みについて説明をしている。


国庫は基本厳重に管理・守護しているとは言え、いつ誰に狙われ、保管している物を奪われても不思議ではない。

その問題が、リンの貸倉庫サービスでほぼほぼ解消される。


サンデル王国内の領土においても、やはりごみの処理は重労働かつ頭を悩ませるものとなっており…

その問題が、リンのごみ処理事業でほぼほぼ解消される。


そして、いつになってもなくならない…

心なき親に捨てられたり、親と生き別れたり死に別れたりする孤児は、慈愛と母性に満ち溢れていて、子供が大好きでたまらないエリーゼはもちろん、子供を国の未来を担う宝と思っているマクスデルにとっても何が何でも解消したい問題。

その問題が、リンの孤児院でほぼほぼ解消される。


聞けば聞く程に、それがサンデル王国にあれば間違いなくよき未来が訪れると言い切れるであろう、リンが作り上げた仕組み。

マクスデルもエリーゼも、改めてリンがサンデル王国の守護神であることを感じさせられてしまう。


「しかし…いくらリン様の収納空間が無限の容量を誇るとは言え…」

「そのようにごみを日々大量に収納して、後の処理はどうされているのですか?」

「…実は、そこがこのごみ処理事業の最大の肝なのです」

「?と、言うと?」

「リンちゃんは、【浄化】と言う魔法を使うことができます」

「?【浄化】、ですか?聞いたことのない魔法ですが…」

「【浄化】は、言葉の通り物や人の汚れを全て消し去ることのできる魔法…この魔法も、今この世に置いてリンちゃんにしか使うことのできない魔法です」

「!そ、そんな魔法を、リン様は……」

「そして、その【浄化】を使うことで、集められたごみの再生を行なうことができるのです」

「!!な、なんだと!?」

「さ、再生とは、ど、どのような…」

「衣類や布製品は、洗濯しても落ちないような汚れすら消し飛ばして、必要ならばリンちゃんが修繕するなどして再利用可能に…紙類のごみは、書かれた文字はもちろん折れや曲がりも消し去って新品に…鉄や金属の製品は、汚れを消し飛ばした後にリンちゃんが修理するか、【火】魔法を使って一度溶かしてインゴットに戻したり…食品に至っては、食べられない箇所を消し飛ばして、元のサイズより小さくはなりますが取れたての状態にまで戻すことが可能なのです」

「!!お、おおお……」

「ああ…リン様…リン様はまさに守護神様です……」


そして、ごみ処理事業の最大の利点である、ごみの再生についても説明を受け…

マクスデルもエリーゼも感動のあまり涙が零れ落ちてしまっている。


ごみを処理するのみならず、集めたごみを再生して使うことができるようにする。

それはまさに神の御業だと、マクスデルもエリーゼも感動が止まらなくなっている。


「凄いです!リンお兄様は、本当に神様なのですね!」


その話をそばで聞いていたアルストは、自分が兄と慕うリンがまさに神そのものであると感動し、そのくりくりとした目をきらきらと輝かせている。


「貸倉庫サービスとごみ処理事業は、このエイレーン殿がギルドマスターとなる…サンデル王国の冒険者ギルドから独立した新生冒険者ギルドにて運営しております」

「!!な、なぜエイレーン程の者がギルドを退職したのか謎だったが…そうか、独立したのか…」

「はい…ギルドマスターは私ですが、オーナーはリンちゃんとなります。新生冒険者ギルドの本室と分室二つは全てリンちゃんが建ててくれて…中の設備も全て作ってくれました。どれも以前とは比べ物にならない程利便性が高く、職員は皆楽しそうに業務に励んでおります」

「!!まあ…独立した冒険者ギルドのオーナーまで…」

「リンちゃんはオーナーでありながら現役の冒険者でもあり…現状唯一の白金プラチナランク冒険者となっております」

「!!なんと…オーナーとなられてなお、自ら現場に…」

「リン様…なんというお方なのでしょう…」


そして、エイレーンが独立して新たに冒険者ギルドを起ち上げ、リンがオーナー兼現役冒険者、それも最高峰となる白金プラチナランクとなっていることを聞かされ…

マクスデルは国内の冒険者ギルドの急激な凋落、そしてエイレーンの退職の理由が分かり、納得の表情を見せる。

さらに、リンがオーナーの立場でありながらなお現役冒険者として自ら現場に出ていることに、深い感銘を覚える。


「…エイレーンよ」

「エイレーンさん」

「?はい?」

「ならば構うことなどない。そなたの古巣であるギルドはもう崩壊しているようなもの…エイレーン、そなたのギルドの支部を、サンデル王国に展開していってほしい」

「!よ、よろしいのでしょうか、陛下?」

「むしろこちらが頭を下げてお願いしたい程だよ!そなたがギルドマスターとなる冒険者ギルドなら、多くの冒険者達がこぞって来てくれるだろう!そして、魔物討伐のみならず、その地域に住む民達の困りごとなども解決してくれる…我はそう信じている!」

「!陛下…」

「実はわたくしもこっそりと、こちらのギルドに行ってみたのですが…職員の方々も、冒険者の方々も本当に活気があって、とても楽しそうにされていて…エイレーンさんがギルドマスターで、リン様がオーナーとなられていることでこうなっていると思うと…わたくしはエイレーンさんのギルドに、国内に支部を作って頂きたいです」

「!王妃陛下…」

「それに…今の時点で登録されている冒険者数は相当なものではないのですか?」

「は、はい……独立してまだ一月程なのですが…もうすでに三千人を超えております…」

「!た、たった一月で…そこまで冒険者が…」

「はい…最近は元の職場でゴールドランクにまでなっていた冒険者まで、ちらほらとこちらに登録してくれて…」

「まあ…やっぱり冒険者の方は分かっておいでなのですわ」

「うむ…エイレーンよ、支部を建設する場所の都合は我からジャスティンに依頼しておく」

「!は、はい!」

「場所の都合が付き次第、ジャスティンからそなたに連絡する。そなたは新規支部の展開に、力を注いでほしい」

「は!仰せのままに!」


新生冒険者ギルドの支部の展開を、他でもないマクスデルから命じられ…

エイレーンは、その心に力が漲って来る。

自分には、リンがいてくれる。

リンがいつも、自分を支えてくれる。

それだけで、怖いものなど何もなくなってしまう。


エイレーンは、サンデル王国に支部を作っていく為の計画をすでにその明晰な頭脳で練り始め…

サンデル王国の為、ひいてはリンの為に、この話を絶対に成功させると、その心に誓うのであった。

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