第205話 天界

(リン…リン…わたくしの声が聞こえますか?)


リンを崇拝する教会ができ、スタトリン中でそれが祝福されるかのように参拝者が訪れるようになってから数日。

生活空間にある自身の自宅で、いつものように神への祈りを捧げていたその時。


リンの耳に、とても優しくて温かい、母性と慈愛に満ち溢れた女性の声が聞こえてくる。


「?」


聞き覚えのない声が突然聞こえてきたことに、リンは何事かと周囲を見渡すものの…

その声を発したと思われる人物はおらず、なんだろうと思ってしまう。


ただ、それは従魔達やフレア達精霊娘と言葉を交わす時のような、頭の中に響いてくるものであることが分かった為…


(き、聞こえます。あ、あなたは誰ですか?)


その要領で、頭の中で声を発するようにしてみた。


(ああ!よかった!やっと…やっとあなたと言葉を交わすことができました!)


自分の声がリンに届いて、反応を返してくれたことがよほど嬉しかったのか…

その思いがそのまま伝わってくるかのような、喜びに満ち溢れた声が返って来る。


(いきなりで驚かせてしまい、済みませんでした。わたくしはアルテナ。この世界を司る神の一柱で、愛を司る女神をさせて頂いてます)

(!!か、神様、ですか?…)

(はい)


いきなり頭の中に響いてきた声の主が、まさかの神であると言われ…

リンはその驚きを隠せなくなってしまう。


(ああ…声だけではもどかしくなってしまいます…やっと、やっとリンとこうしてつながることができたのに…)

(ア、アルテナ様?)

(リン…わたくしの…わたくし達神の希望であり、愛すべき子…)

(あ、あの…)

(ああ…リン…わたくし、もう…えい!)

(!!)


女神アルテナがその力を行使したと分かる声が聞こえたかと思うと、リンの視界が神々しい真っ白な光で埋め尽くされてしまう。

まともに直視できなくて、リンは思わず目を固く閉じてしまう。


「……な、何?今の……」


その光が止んだと思い、リンは恐る恐る固く閉じていた目を開いていく。


「……?……こ、ここって……」


リンが目を開き、その視界に映ってきたもの…


見渡す限りが果てのない、広大な場所。

足元を見ると、見慣れた地面ではなく空に浮かんでいるはずの雲が敷き詰められたものとなっている。

それ以外には何もない、本当にただ広すぎる程に広いだけの空間。


「ああ……リン……」


リンを呼ぶ声がしたので、その方向に振り向くと…


そこにいるのは、一人の妙齢の女性。

光の加減で白く見える程に輝いている、背中まで真っすぐに伸びた金の髪。

色素が抜け落ちたかのような眩い肌に、その美しさを強調する白に近い金色の瞳。

その母性的な愛情に満ちた性格であることが伺える、垂れて優し気な目。

ばさばさの睫毛も、にこやかに優しいカーブを描いている細く美しい眉毛も、髪の色と同じ白光りする金色。

筋の通った形のいい鼻に、適度にふっくらとした艶のいい唇も、その美貌を強調するものとなっている。

凹凸の激しい抜群のプロポーションを誇るその肢体を包む純白の装束。

袖がなく肩と鎖骨が露わになっている、少しゆったりとしながらも自己主張激しい胸部と、それとは裏腹に儚げなくびれを描くウエストラインを形作る上半身。

そのくびれたウエストから魅力的な大きさとカーブを描く臀部、そして適度な肉付きの太ももと形のいい脚部のラインを綺麗に描く、くるぶしまである長いスカートに包まれた下半身。

頭の上には天上の存在であることを示す、白金に輝く輪が浮かんでいるのが見える。


その女性は、よほどリンにこうして会えることを待ち望んでいたのか…

心からの喜びがそのまま笑顔として、その神の造詣となる美貌に浮かんでいる。


「あ、あな、た、が、ア、アルテナ、さ、様、で、ですか?」


先程頭に響いてきた声と、今この人物が発した声が同じものであることから、リンはこの女性が女神アルテナだと思い、確認の声をあげる。


「そうですよ、リン…ああ…なんて可愛らしいのでしょうか♡」


女神アルテナはゆっくりとリンのそばに寄ってくる。

そして、リンを最愛の我が子であるかのように、その身体で包み込むように優しく抱きしめる。


「!!あ、あの…」

「リン…ようやく…ようやくこうして会うことができて…わたくし、本当に嬉しいです♡」

「ぼ、ぼく…」

「リン…わたくしはあなたのことをずっと見てきました。あなたがどれ程他の為に生きてきたのか…その力をどれ程他の為に惜しまずに使ってきたのか…他の喜びを我が事として喜ぶことのできるその尊く美しい心…わたくし、あなたのことが大好きで大好きでたまらないのです♡」

「!あ、う…」

「そして、我ら神に捧げてくれるその純真無垢な祈り…リンはわたくしを含む神々から、それはもう溺愛されているのです♡」


リンを抱きしめることができるのがよほど嬉しくて幸せなのか…

女神アルテナはその母性と慈愛に満ち溢れた笑顔のまま、リンの頬に頬ずりまでしてしまう。




名前:リン

種族:人間

性別:男

年齢:14

HP:20480/20480

MP:409600/409600

筋力:27600

敏捷:28000

防御:30400

知力:118400

器用:113400

称号:神々の愛し子→New!、勇者、護りし者、ぼっち、古の竜の伴侶、不老、精霊の友人、世界樹の家族

技能:魔法・5(火、水、土、風、光、闇、雷、無)

   剣術・5

   格闘・5

   空間・5(収納、生活、召喚、転移、結界、検索、解体、作業)

   鑑定・5

   家事・5(料理、洗浄、掃除、裁縫、整理)

   算術・5

   医療・5(診断、施術、処方)

   生産・5(鍛冶、錬金、製薬、農業、建築)

   探索・5(気配、罠、痕跡)

   魔力・5(制御、回復、減少、詠唱、耐性)

   従魔・5

   息災・5(火、水、風)

   精霊・5(認識、同調、交信、共有、増幅、変質)

※各ステータス値は、各称号の影響を受けていない本来の数値。




称号

・神々の愛し子

日々敬虔な神子として生き、神々から溺愛される者に与えられる称号。

【神の導き子】の上位互換となる為、【神の導き子】の効果をそのまま引き継ぐ。

常時、全ステータスが四倍になり、HPとMPの回復速度が倍になる。

加えて、各技能の力や精度が通常の倍になる。

さらに、祈ることで神々との交信が可能になり、より深く祈りを捧げることで少しの間だが天界にその魂を呼び出してもらうことができる。




称号【神の導き子】が【神々の愛し子】に変化したことで、リンの力は飛躍的に向上することとなった。

さらには、地上にいながら神々と言葉でやりとりをすることが可能となり、今女神アルテナにされたように、こうして天界に魂を呼び出してもらうことも可能となった。


「うふふ…♡…リン…わたくしの愛しい愛しい神子…♡」

「は、はな、して…」

「だめです♡こんなにも可愛くて愛おしいリンを離すなんてこと、わたくしにはできません♡ず~っと会いたくて…こうしてぎゅうってしたかったのですから…リン…親もおらず、称号【ぼっち】の影響で人との触れ合いが絶望的なあなたを、わたくしがこうして包み込んで、い~っぱい愛してあげますね♡」


自らがお腹を痛めて生んだ我が子にそうするかのように、女神アルテナはリンをその胸の中にとても愛おしそうに抱きしめている。

その溢れんばかりの母性と慈愛をリンに向けることができて、女神アルテナは幸せに満ち溢れた笑顔を、その神々しい美貌の顔に浮かべている。


リンは女神アルテナに抱きしめられて、ついつい儚い抵抗をしてしまうものの…

女神アルテナにはリンのそんな抵抗もあまりにも可愛すぎて、離すどころかますますぎゅうっと抱きしめて離そうとしない。


「リン…♡…こんなにも可愛くて健気なリンは、このわたくしがこうして包み込んで、護って差し上げますね♡これからは、いつでもわたくしとお話ができますし、いつでもこうして天界に呼ばせて頂くこともできますから♡」

「あ、う…」


女神アルテナの愛情いっぱいの抱擁に、リンはたじたじしてしまっている。

女神アルテナの豊満な胸含む、女性としてとても理想的な身体に包み込まれているのがとても恥ずかしくて、どうすることもできずに俯いてしまっている。


そんなリンの身体が、淡く光り始める。


「うふふ…♡…ああ…もう時間なのですね…リン、寂しいですけどリンが元の身体に戻る時間になってしまいました…リン…このわたくし、女神アルテナはリンのことを心から愛してますよ…♡…ですから、また会いましょうね♡」


視界がぼやけ、どんどん真っ白になっていく。

女神アルテナの顔が、うっすらとしか見えなくなっていく。


ふわふわとした、柔らかで心地のいい感覚に包まれたまま…

天界に呼び出されたリンの身体は、女神アルテナの懐でゆっくりと消えていくのであった。




――――




「ああ……リン様……」

「リンちゃん……そんな……」

「リン…お主にいなくなられたら、妾は、もう……」

「リン君……」


リンの魂が天界に召喚されていた頃。


生活空間の自宅から一向に姿を見せないリンのことが気になったシェリルが、リンの様子を伺いに来たら…

うつぶせに倒れて意識を失っているリンの姿を目の当たりにして、シェリルはまるで身体中の体温が一瞬にして奪われてしまったかのような、恐ろしい悪寒に襲われてしまう。


すぐさまリンを抱き上げて、リンの自宅のベッドに寝かせるのだが…

生気に満ち溢れた、血色のいい肌の色であるにも関わらず呼吸をしておらず…

どれ程呼び掛けてもまるで反応がなく…

その命を天に引き取ってもらったかのように、静かに眠り続けるリンに、シェリルはパニックを起こしてしまう。


リンの様子を見に行ったシェリルがなかなか戻ってこないのが気になって、エイレーン、ジャスティン、リリーシア…


「リンちゃん……なんで?こんなの…こんなの…」

「お兄ちゃん…お兄ちゃんがいなくなっちゃったら、ボク、ボク…」

「おにいちゃん…」

「旦那様…旦那様がいなくなるなんて…そんなの…そんなの…」

「旦那様…やだよ…」

「旦那様…目を、目を開けてよお…」

「リン様…」

「リン様…目を覚ましてください…」

「リン様が…リン様がいなくなるなんて…」

「そんなの…そんなの…」

「リン様がいなくなってしまわれたら…」

「わたし達…生きていけません…」

「リン様…」

「リン様…」


さらには、リリム、リーファ、ミリア、フェリス、ベリア、コティ、メイド部隊の面々もリンの自宅に訪れ…

死んだように眠り続けるリンの姿に、大粒の涙をぼろぼろと零しながらリンの目が覚めることを祈り続ける。


「あああ…リン様…リン様…リン様がいなくなってしまわれるなんて…そんなの…」


サンデル王国王家の侍女であり、現在ではリン専属の侍女ともなっているアンも、リンを失ってしまうかもしれないこの状況に、その場に腰を落として立つことすらできない程の絶望に泣き崩れてしまっている。


「リン様…」

「リン様…あああ…」

「リンお兄様…」


サンデル王国の王家となる国王マクスデル、王妃エリーゼ、第二王子となるアルストも、リンがこのまま帰らぬ人となってしまうかも知れないこの状況に、自身の心にぽっかりと穴が空いてしまったかのような絶望感を感じてしまっている。


エリーゼはアン同様、立つこともできない程に泣き崩れており、アルストも大好きで大好きでたまらないリンが目を覚まさないことが悲しくて悲しくて、そのくりくりとした目から大粒の涙をぽろぽろと零してしまっている。


(リン…しんじゃいやなのー…)

(リン…おきてなのー…)

(リンがいなくなるなんて、ぜったいにだめなのー…)

(リン…めをさましてなのー…)

(リン…わたちリンがいなくなったらさみしすぎてきえちゃうのー…)

(リン…しんじゃうなんて、やなのー…)


リンと生涯の友として契約を結んでいるフレア達精霊娘も、リンがこのままこの世からいなくなってしまうかもしれないこの状況に、悲しくて大粒の涙をぽろぽろと零しながら、懸命にリンの目覚めを祈り続けている。


今こうして、大勢がリンを見守り、リンの目覚めを心の底から祈り続けている。


そんな皆の祈りが通じたかのように、リンの身体から淡く優しい、白い光が放たれる。


「!!こ、これは!?」

「リ、リン様!?」

「リンちゃん!?」

「リン君!!」


突然のことに、その場にいる全員が驚愕し、混乱に陥ってしまう。


身動き一つ取ることもできない、周囲の者達をよそに、リンを包み込むように放たれていた光は、蝋燭が燃え尽きるかのように儚く消えていく。




「…………ん……んん……」




そして、まるで死んでしまったかのように眠り続けていたリンの身体がぴくりと動きを見せ…

じょじょにそのくりくりとした目が、開かれていく。


「!!!!!!あ、ああ……」

「リ、リンちゃん…」

「リン様、リン様…」

「リン君…」


その場にいる誰もが願い、祈り続けていたリンの目覚め。

それが現実となったことに、誰もが喜びの涙を零してしまう。


「……あ、あれ?…ぼ、ぼく…」


目が覚めて、視界がはっきりとしてきたところに映ってきたのは、自身で作り上げた自宅の天井。

ただ、女神アルテナによって天界に魂を召喚され、女神アルテナとの触れ合いがあったことは、自身の記憶にはっきりと残っていた。


自身の身体がベッドの上に横たわっていることに気づき、ゆっくりと上半身を起こす。


「??ど、どう、して、み、みんな、が、こ、ここ、に?そ、それ、に、な、なんで、な、泣いて……」


身体を起こして周囲を見渡すと、自身を見つめながら涙を流して喜びの笑顔を浮かべている、拠点に住む者達の姿。

状況がまったく分からず、リンはきょとんとした表情を浮かべてしまう。


「リン!!」

「リンちゃん!!」

「リンちゃん!!」

「リン様!!」

「リン君!!」


稀代の英雄であり、今代の救世主…

そして、スタトリンの神であり、サンデル王国の守護神であるリン。

そのリンが、死んだかのような深い眠りから目覚めたことに、周囲は火が付いたかのように大きな大きな喜びの声をあげる。


そして、シェリル、エイレーン、リリム、リリーシア、ジャスティンを筆頭にその場にいる全ての者がリンにべったりと抱き着いてくる。


「!!??え?え?」

「あああ…リン…リンが目覚めてくれて、生きててくれて…妾、妾…」

「リンちゃん…本当に生きててくれて、よかった…」

「もおおおお!!リンちゃん!!お姉さんほんとに心配したんだからね!!」

「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」

「おにいちゃん!!ミリアすっごくしんぱいしたもん!!」

「リン様、リン様あ!!」

「リン様が死んじゃうなんて、あたし絶対に耐えられませんでした!!」

「旦那様!!旦那様!!」

「旦那様が死んじゃうなんて、ワタシ絶対に嫌だ!!」

「旦那様が起きてくれて、あたいほんとに嬉しい!!」

「リン様!!アンはリン様が目覚めて下さって、本当に嬉しいです!!」

「リン様!!」

「リン様!!」

(リン、おきてくれたのー!!)

(リンがしんじゃうなんて、ぜったいにだめなのー!!)

(リンはず~っと、わたしたちといっしょなのー!!)

(リンはぼくたちがず~っとまもるのー!!)

(リンがいきててくれて、ほんとによかったのー!!)

(リンがおきてくれて、ほんとにうれしいのー!!)


リンを失うかもしれないと言う全員の絶望を吹き飛ばすように、リンが目覚めてくれたことを喜び、ただひたすらリンの生存を感じたくて誰もがリンにべったりと抱き着いて離そうとしない。


そんな状況に何が何だか分からない、と言った表情のリン。


「リンちゃん…!!ジュリア君、すぐに商会の医師団にリンちゃんの精密検査と、必要ならば治療の要請を!!」

「!は、はい!!」

「リンちゃんがこんな状態になるなんて、私は初めて見た…万が一リンちゃんの身体に何かあったら、またこんなことになるかも知れない…そして、次はもう目覚めてくれないかもしれない…」

「!!そ、そんなこと、絶対にだめです!!」

「リン様には私達メイド部隊が常にお傍にお付きして、リン様のご負担がないように常にお世話をさせて頂きます!!」


普段から健康そのもので、まるで疲弊する様子を見せないリンが意識不明のこん睡状態に陥るなど…

今ここにいる誰もが初めて見た事態。


この事態を重く受け止めたエイレーンは、すぐさま商会の医師団にリンの精密検査と治療を依頼するようにジュリアに命じ、ジュリアもすぐさま動き出す。


メイド部隊はこれまで以上にリンの傍仕えとして、リンのお世話をすることを宣言する。


「あ、あの…ぼ、ぼく、べ、別、に…」

「リンちゃん!!あたしもリンちゃんが楽になれるように、お世話するからね!!」

「お兄ちゃん!!ボクいつでもお兄ちゃんが疲れたりしたら、回復してあげる!!」

「おにいちゃん!!ミリアも!!」

「旦那様!!辛くなったらいつでもウチがお支えしますね!!」

「旦那様!!ワタシも!!」

「旦那様!!あたいも!!」


別に身体に問題はない為、リンは大丈夫だと言おうとするのだが…

そこにリリム、リーファ、ミリア、フェリス、ベリア、コティもリンの為にお世話をすると力強く宣言してくる。


こうして、リンはこの日は全員から絶対安静とされ、ベッドの上でゆっくりとすることが決定。

その間はメイド部隊のメイドを筆頭に入れ代わり立ち代わりで、拠点の女性陣全員がリンのお世話をすることとなった。


そして、何もしないことが落ち着かなくてこっそりとベッドから立ち上がって、いつもの作業場に行こうとするリンを目ざとく見つけては、その溢れんばかりの愛情をぶつけるように抱きしめて気絶させ、無理やりにでも休んでもらう為にベッドに強制送還するのであった。


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