第206話 安静
(ほほう…女神アルテナ様とお会いになられましたか)
(は、はい)
(リン様はとても純真無垢で奇麗な祈りを常に捧げられてましたから…アルテナ様もおっしゃっていたと思われますが、どの神もリン様のことは溺愛されてますよ)
(それならぼく、嬉しいです)
(ははは…リン様にお会いすることができて、アルテナ様は大層お喜びだったでしょう?)
(は、はい…ぼく、ず~っとぎゅ~ってされてて…)
(なるほど…アルテナ様は本当にリン様のことを溺愛されてて、いつ見てもリン様のことでとても幸せそうなお顔をされておりましたから)
女神アルテナに天界に召喚されたことで、リンの肉体が仮死状態になってしまっていた為…
拠点に住む全ての者に、世界の終わりに匹敵する程の絶望感を感じさせてしまったリン。
天界から魂が肉体に帰還して、普通に目を覚ましたのだが…
全員からそれはもう、過保護な程に心配されてしまい、この日は神の宿り木商会所属の医師団に精密検査をされたり、特に問題ないと診断されても安心してもらえず…
結局、絶対安静を言い渡されて自宅のベッドの中でごろごろとするだけの日になってしまった。
最も、【空間・作業】の作業空間でいつものように生産活動をすることはできたので、この日しようと思っていた生産活動は一通りこなすことはできた。
そして、特に身体は問題ないので、ちょっと動こうとしたら…
「リン様?何をされてらっしゃるのですか?」
「!あ、あの…ちょ、ちょっと、さ、散歩…」
「リン様?今日は私も、エイレーン様よりリン様は絶対安静と申しつけられておりますし、私自身もリン様の御身がとても心配でたまらないのです。ですので、どうかベッドにお戻りに…」
「ぼ、ぼく、だ、だい、じょ、じょう、ぶ、で、です、から…」
「…こんなにもお可愛らしくて尊いリン様に何かあったらと思うと、この拠点で暮らす者はもちろん、商会の者、スタトリンで暮らす者全てがどれ程大きな悲しみに打ちひしがれてしまうことでしょう…リン様の御身に、ご無理をさせたくないのです」
「で、でも…」
「…リン様♡私がそばにいさせて頂きますから、ベッドでお休みくださいね♡」
「!あ、や、やめ、あ、あ、う、う、あ、あ、う……………きゅう……」
「もお♡ちょっと聞き分けのないリン様も本当に可愛いです♡もっとい~っぱいちゅーして差し上げないと…♡」
と、こんな感じで傍付きのメイドに目が笑っていない怖い笑顔をされて、ぎゅうっと抱きしめられてキスされて気絶させられ…
強制的にベッドの上に戻されると言うループを繰り返してしまっている。
「はい、リン様♡あ~ん♡」
「ぼ、ぼく、ひ、一人、で…」
「だめです♡リン様は今日は絶対安静の日なのですから…わたしが責任をもって、リン様のお世話をさせて頂きます♡」
「うう…あ、あ~ん…あむ…」
「(ああ~♡わたしの手からお食べになってくださるリン様…可愛すぎて…♡)リン様、お味はいかがですか?」
「ん…んむ…お、美味しい、です」
「リン様に美味しいって言って頂けて、わたしとても嬉しいです♡」
当然ながら食事もメイド部隊のメイドが、この日は絶対安静としてベッドに釘付けになっているリンの為に心を込めて作り、それをリンにあーんして食べさせては、幸せに浸っている。
しかもそれだけではなく、シェリルやエイレーン、リリムにリーファ、ミリア、フェリス、ベリア、コティ…
さらにはエリーゼ、リリーシア、アルスト、アンまでもが事あるごとにリンの様子を見に来て、ベッドの上で大人しくしているのを見て安堵する、と言うことも何度も繰り返されている。
リンが倒れたことは居住地にいる商会の従業員達にも伝えられ、今は安静にしていることまで聞かされている。
「おい野郎共!リン様はお倒れになられる程にお疲れなんだ!だから建築はわし達がリン様の分までしっかりとやらせて頂くぞ!」
「もちろんですぜ!親方!」
「リン様のご負担を少しでも減らせるように、あっし達が頑張りやす!」
「さあみんな!リンちゃんにこれ以上負担をかけないように、あたし達でいっぱいパン作ってくよ!」
「もちろんです!」
「リン様がお倒れになってしまう程お疲れだったなんて…リン様に安心して頂く為にも、い~っぱいパン作り、頑張ります!」
「リン様が倒れられる程にその御身を酷使なさっておられたとは……わし達はリン様の御身のご負担を少しでも減らせるように、しっかり農作業を頑張っていくのじゃ!」
「うむ!」
「い~っぱい育てて収穫して、リン様にもっとお休み頂けるように頑張りましょう!」
その為、従業員達はいつも以上に生産や営業に力が入っており…
会頭となるリンに余計な心配をかけないように、リンが動けない分も自分達が目いっぱい生産に取り組むと活気づいていて、商品の生産量も普段の三割増しとなっている。
接客・販売の方も普段よりも丁寧でよりよい対応となっており…
倒れて安静にしているリンに喜んでもらえるように、と思ったら自然とそれができるようになっていて、目の前の客をリンだと思えばより自然にそれが行えるようになっている為、神の宿り木商会の評判もさらに上がることとなっている。
そんなリンの元に、小型の狼に姿を変えたフェルが訪れてリンの胸元にすり寄り…
リンに懐く素振りを見せながら、リンと念話で会話をしている。
「(ああ…小さな狼の魔物と戯れるリン様…なんと尊くお可愛らしいのでしょう…リン様はこの小さな御身をどれ程酷使なさっておられたのでしょうか……リン様…このアンが、リン様のお世話を誠心誠意させて頂き、リン様のご負担を少しでも取り除かせて頂きます…♡)」
今はどうしてもと懇願して代わってもらったアンがリンの傍付きとなっており、リンと小さな狼が戯れている光景に頬を緩めながら、リンのベッドの横に椅子を置いて腰掛けている。
(でも、どうして神様と念話できたり、天界に行けるようになったのかな?)
(…おそらくですが、リン様を崇拝する教会ができたことで、リン様を経由して神々に純粋な祈りが届くようになったのと、リン様がこれまで積み重ねられてきた敬虔な姿、そして祈りが合わさって、称号を得る条件が満たされたと思われます)
(!そ、そうなんですか?)
(はい。リン様のおかげで敬虔な教徒がリン様の元へと集まり、この生活空間に祈りの力が急速に集まっておりますから。そして、崇拝の対象となるリン様が神々への敬虔な祈りを深め、他の者の祈りも合わさる形で神々に届くようになったおかげでしょう)
(そうなんだ…教会に来てくれる人達の祈りが、ぼくを通して神様に届いてるのなら、ぼく、嬉しいな)
(リン様はまさにこの世に生きる神そのものと言えます。そのリン様を崇拝する者が集い、その祈りが結集されるようになったおかげで、神々の力の源となる祈りがリン様を通して集まるようになったのです。神々はもはや、リン様が心底愛おしくてたまらないことでしょう)
神の宿り木商会所有となる、リンを神として崇拝する教会ができたことで…
人口五万人超の小国にまで成長したスタトリンの全ての国民が、純粋で清浄な信仰心を育むことができるようになった。
その祈りがリンの生活空間にある礼拝堂に集結し、そのおかげでリンを通して国民の祈りが神々に届くようになったのだ。
「おにいちゃんがかみさまになって、ミリアたちのいのりをうけてくれるから、おそらのうえのかみさまにもミリアたちのいのりがとどくようになったの!」
普段から教会の礼拝堂に足を運んでは、診療所で治療に勤しんだり、リンの神像への祈りを、その場にいる者達と共に捧げたりしているミリア。
そのミリアの、聖女としてのこの発言が、日々参拝に訪れる者達の心にある、リンを始めとする神々への信仰心を燃え上がらせることとなり…
リンの拠点で暮らす者、リンの生活空間にある商会の居住地の住人達はもちろん、スタトリンに住む全ての者が日に一度は教会に訪れ、リンに抑えることができない程の感謝の祈りを捧げるようになったのだ。
それがリンの大きな功績となり、これまでもリンはずっと敬虔な教徒としての行ないに祈りを積み重ねており、その二つが合わさったことで称号【神々の愛し子】を取得することとなった。
(そのおかげで、リン様ご自身の神気がより強くなっておられます。そしてそれがこの生活空間、そしてスタトリン全体にもとてもいい影響を及ぼしており…世界樹も一層喜んでおります。リン様はまさに、神であり救世主です)
(ぼ、ぼく、ただの平民だけど…みんなが喜んでくれるなら、嬉しいです)
リンの多大な功績を心から称賛するフェルの言葉に、リンは照れくさくて顔を思わず赤らめてしまうものの…
それでも、このスタトリンで暮らす多くの人が喜んでくれるのが嬉しくて、にこにことした笑顔を浮かべている。
ちなみに神の宿り木商会所有の村となる神の宿り木村にも、リンの生活空間にある礼拝堂への出入り口となる教会が建てられたので、神の宿り木村の村人も参拝することができるようになっている。
世界樹が日々、救世主となるリンのことをお告げで多くの亜人達に知らせてくれているので、神の宿り木村に訪れる者もかなり増えており…
今の時点で村人は二百人に到達しようとしている。
その村人達も、リンの神像が祀られている教会の礼拝堂で、リンに感謝の祈りを捧げるのが日課となっている為、より多くの信奉心を育み、神々に届けることができるようになっている。
「(ああ…リン様があんなにもお可愛らしい、にこにことした笑顔に…♡…リン様、そんなお顔をされては、アンは…アンは…♡)」
ベッドの上で子狼化したフェルと戯れながら笑顔を浮かべているリンに、傍付きとなっているアンはもうメロメロになってしまっている。
リンのことを思いっきり抱きしめたい。
リンの可愛い唇に思いっきりキスしたい。
リンのことを思いっきり可愛がってあげたい。
この日の朝、何の前触れもなく倒れてしまったことでその体調を過保護な程に心配され、絶対安静となっているリンに負担をかけたくなくて、そのどうしようもない程の愛情をギリギリのところで抑え込めているものの…
リンを見つめる瞳には、その溢れんばかりの愛情を示す形がはっきりと浮かんでしまっている。
「リン……大丈夫かえ?」
そこに、スタトリンの国営について首脳となるジャスティン、エイレーン、リリーシアと会議を行なっていたシェリルが、その会議を終えてその足でリンの元へと姿を現した。
リンが倒れて、どれ程呼びかけても何の反応も示さなかったのを見てしまったおかげで、シェリルは普段の老成した落ち着きが嘘のような、とても不安げな表情を浮かべてリンを見つめている。
そして、リンのそばまで来て、愛おしそうにリンの頬を撫でる。
「ぼ、ぼく、だ、だい、じょう、ぶ、で、です」
そんなシェリルに、リンはとても朗らかな笑顔を浮かべて元気そうに答える。
だが、シェリルはそんなリンの言葉だけでは不安でたまらないのか…
「…アン、リンの様子はどうなのじゃ?」
「…今のところは、特に体調が悪化されるようなご様子もなく、至ってリン様ご本人がおっしゃられる通り、健康そうでございます。私の前の当番のメイドからも、ご飯もしっかりと食べておられたと聞いております」
「…そうか…ひとまずは安心なのじゃな…アン、ご苦労なのじゃ」
「とんでもございません、シェリル様…リン様のお世話をさせて頂けるのは、侍女として最高の誉でございますから」
アンからの言葉に、シェリルは少し安堵したのか、ほうっとした表情になる。
そして、もう絶対に離したくない、と言わんばかりにリンの幼く小さな身体をぎゅうっと抱きしめてしまう。
「!シェ、シェリル、さん?…」
「リン…リンがいない世界なんて…妾、妾もう考えたくもないのじゃ…リンがいなくなったら、妾もう生きていけないのじゃ…」
「あ、う…」
「リン…あのように倒れてしまう程にこの幼い身体を酷使しておったのじゃな…そんなことにも気づかなかった妾を許しておくれ…リン…」
「ぼ、ぼく、だ、だい、じょう、ぶ…」
「だめなのじゃ。リンは自分がどれ程重要で必要な存在なのか、無自覚すぎるのじゃ。妾達がいいと言うまで、リンはしっかりと休んでその疲れを癒さないといけないのじゃ」
「そうですよ、リン様…リン様があのように倒れられているのを見て…私もどれ程の絶望と恐怖に押しつぶされそうになってしまったことか…リン様はこの世の救世主であり守護神様…リン様を失うなどと言うこと…私は恐ろしすぎて…そんなことになってしまわれたら、私も生きてはいけません」
リンを失う、と言うことがよほど恐ろしすぎてたまらなかったのか…
シェリルもアンも、リンを挟んで包み込むように優しく抱きしめて、リンがどれ程この世界にとって大切な存在なのかを、我が子に言い聞かせるように言葉にする。
そんなシェリルとアン、そしてリンが倒れていた場面に居合わせていた者達、商会の全ての関係者達…
その人達に、どれ程の思いをさせてしまったのか。
自分を抱きしめてくる二人の様子から、リンはそれを痛い程に感じてしまう。
「ご、ごめん、な、なさい…そ、そんな、にも、し、心配、さ、させて…そ、そんな、にも、こ、怖い、お、思い、を、さ、させて…」
そのことが本当に申し訳なくて、リンは素直に謝罪の言葉を声にする。
「だめなのじゃ♡リンは妾にとっても寂しくて、とっても怖い思いをさせたのじゃ♡じゃからもう、責任を取ってい~っぱい慰めてもらうのじゃ♡」
「リン様…私も怖くて怖くてたまりませんでした♡リン様をぎゅ~ってさせて頂けますと、怖いのがなくなっちゃいます♡」
そんなリンがあまりにも可愛すぎたのか…
シェリルもアンもリンをよりぎゅうっと抱きしめて、両側からリンの頬にキスの雨を降らせてしまう。
「あ、や、やめ、て…」
「やなのじゃ♡リンが可愛すぎるから、妾もっとリンにこうしたくなるのじゃ♡」
「リン様♡私ももっともっとリン様にこうさせて頂きたいです♡」
かたや絶世の美少女、かたやクールな印象の美女…
そんな二人にべったりと抱き着かれて、キスされて…
リンのコミュ障がどんどんどんどん大きくなっていく。
「だ、だめ、あ、あ、あ、う、う、あ…………きゅう……」
そして、いつものようにあっさりとその意識を失ってしまう。
「リン…心の底から愛してるのじゃ♡」
「リン様…心の底から愛しております♡」
気を失い、すうすうと可愛い寝息を立てて眠るリンが愛おし過ぎて…
シェリルとアンはますますリンを愛そうとしてしまう。
リンが眠ったままひたすらに愛されてしまうその光景を、フェルはとても面白そうに眺めているのであった。
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