第151話 施策

「え!?マジで!?」

「この宿屋、部屋数増えたの!?」

「はい、こちらの棟の百部屋とは別に、千部屋ある棟が増築されました」

「!せ、千部屋!?」

「じゃ、じゃあ今までみたいに予約待ちなんて、しなくていいの!?」

「はい。空いているお部屋から、ご案内させて頂きます」

「すげえ!じゃあオレ、今日から泊まるんで、手続きします!」

「ボクも!」

「あたしも!」

「ウチも!」

「ご利用頂き、誠にありがとうございます。カードキーに登録できましたら、順次お部屋へご案内させて頂きます」


リンの宿屋は、生活空間の方に千部屋増築されたことでさらに宿泊客が増加。

さすがに増築された部屋が全て埋まる、と言うことはないものの…

それでも日に三百~五百は部屋が埋まるようになり、当然ながら売上は大幅に増加している。

そして、増築した方にも食堂がある為、食事目的の客もより多く入ることができるようになった。

その為、食堂利用の客もこれまでの五倍以上となっている。


元々が百部屋だったのに、その十倍の千部屋が追加されたことで多少はサービスの質の低下が危ぶまれたものの…


「ああ…こんな私でも、リン様の宿屋で雇って頂けて…本当に嬉しいです」

「僕もです!こんな素敵な宿屋で働かせてもらえるなんて!」

「俺も、こんな凄い宿屋の食堂のシェフを任せてもらえて、本当にやりがいがあるよ!」

「皆さんが来てくださって、わたし達本当に助かってます」

「さあ皆さん、リン様の為にもこの宿屋をもっともっと盛り上げていきましょうね」


増築前の時点で、交代制も考慮してすでに二百人近くの従業員を雇用していたのだが…

追加された部屋数と食堂のこともあって、一気に五百人以上もの従業員を雇用することとなった。

日に日に増加していく移民希望の民を、誰一人断ることなく受け入れ…

その中でリンの宿屋での雇用を希望する民はことごとく採用し、一気に人手を確保することに成功したのだ。


もちろん、新しく雇用された従業員も、リンの生活空間の居住地にそれぞれの住居を新規で建ててもらい、多くの同胞達と交流を深めながら、日々をとても楽しく生きることができている。




「マ、マジで!?」

「この集合住宅、千部屋も増えたの!?」

「はい!ですから今、新規で入居者募集させて頂いてます!」

「よ、よかったあ!」

「せっかくこんな住み心地のいい町に来れたのに、家が決まらなかったからどうしようかって思ってたんだよ!」

「あ~!安心したわ~!」

「ほんとほんと!これでお家で困ることなくなったわ~!」

「では、皆様…新規でご契約、されますか?」

「もちろん!」

「もう今日からでも住みたいよ!」

「わたしも!」

「あたしも!」

「はい!ありがとうございます!お部屋は順次ご案内させて頂きますね!」


そしてリンの集合住宅も、一気に千部屋が増築されたことで入居希望者が殺到。

非常に機能性が高く、それでいて住み心地のいい住宅と言うことで評判だったのだが、最初に用意されていた百部屋が瞬く間に契約されてしまっていた為、そこから新たに移民としてスタトリンに来た独身冒険者達のうち、かなりの人数が、住居が決まらずに困っていた。

そんな時に、この評判の集合住宅が千部屋も増築されたと言う話を聞いて、次々と部屋の契約がされていくようになった。


わずか数日で、増築された千部屋の内四百部屋の契約が完了し…

新規入居者はその住み心地に大いに満足して生活している。

月の家賃が金貨三枚と言うのも、部屋の広さと利便性から考えれば破格と言える程なので、今の仕事に困らないスタトリンなら、十分過ぎる程に安定して暮らせると言える。


「管理人長!お疲れ様です!」

「お疲れ様です。どうですか?ここのお仕事は?」

「建物自体の機能性がめちゃくちゃ高くて、することって言ったら廊下や階段、出入口の掃除がほとんどなんですが…住んでいる方々の笑顔を見られるだけで凄く嬉しくなってきて…楽しいです!」

「うふふ…それならよかったです」

「こんなあたしを雇ってくれたリン様の為に、この集合住宅を護っていきたいです!」

「私もです。どうかよろしくお願いしますね」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」


この集合住宅も、新たに五人程住宅内の管理業務をする管理人を雇用し…

増築した棟も含めて、日々仕事に励んでいる。

建物自体がほとんどメンテナンスフリーと言うこともあり、普段は軽く清掃か、住人から要望やクレームがあった時に対応するくらいのもの。

後は、月極の家賃を住人達から集金するくらいで、それも管理人室にあるリンお手製の住人管理用魔導具が、登録されている住人のカードキーの情報を常に保持していて、それが集金のタイミングで各カードキーに通知を出してくれるから、基本的には住人から管理人室に家賃を納めてくれる。

それも、カードキーに収納の機能が付与されているので、住人はそれを使って家賃を納めればいいので非常に簡単。

もちろん、入金された時点で管理用魔導具にもその情報が共有されるので、管理人はそれを使って家賃の払い込み状況を確認すればいいだけ、となっている。

それでも、住人が笑顔でこの集合住宅で生活してくれていることが嬉しくて、ここを護っていこうと言う気持ちが湧き上がってきている。


もちろん追加で雇用された管理人達も、この集合住宅の部屋を一部屋ずつ与えられており、その部屋はリンの生活空間の居住地への出入り口が設置されている。

リンの元で働く同胞達と情報交換をしつつ、リンのレストランや宿屋の食堂で新しいメニューが出たと聞いた時には、それとなく集合住宅の住人に教えてそこに誘導するようにもなっている。


これからもっと、スタトリンへの移民希望者は増えていくと、彼女達は確信している。


こんな住みやすくて、幸せいっぱいの町なら、絶対に移民したくなる。

彼女達はそう思っている。


そんな移民達をぜひこの集合住宅に迎え入れて、少しでも幸せになってもらおう。

彼女達はそう、心に誓うのであった。




「なんだここ…めっちゃ心地よくて、空気も綺麗だな!」

「めっちゃ広々としてて、テント用意するのも気兼ねなくできるしな!」

「すぐそばの山は山菜にキノコ、果物とかいっぱいあるし、そこから来てる川も水めっちゃ綺麗で飲めるし、野営にも困らないな!」

「気候が凄くいいから、テントだけでも全然いけちゃう!」

「しかもあの洞窟、階層があって地下二階まで潜れば害獣指定の魔物がちょこちょこ出てくるんだよ!」

「マジか!じゃあ討伐すれば報酬が…」

「おお!もらえるぜ!」

「しかもそれだけじゃなくて、地下一階なら薬草とかも生えてるし」

「地下一階は中がちょっと迷宮みたいになってるんだけど、そこまで入り組んでなくって…」

「しばらく歩いてたら、出口があってさ」

「そこから出たら、スタトリン周辺の森に出てくるんだ」

「!マ、マジかそれ!?」

「ああ、マジだぜ」

「しかも一つだけじゃなくて複数あってさ」

「出るところによって、薬草の採取ポイントだったり、キノコや果物の採取ポイントだったり、ボアとかの討伐ポイントだったりしてさ」

「依頼こなすのにちょうどいいとこに出てこれるんだよ」

「マジか…それめっちゃいいな」

「地下二階の中の魔物も、弱いのしかいないから結構サクサク進めるしな」

「討伐の練習するのに最適だと思うぜ」

「いやほんとすげえな…この新しい冒険者ギルド」

「こんな場所まで確保してるなんて」

「ここなら野営の練習も、魔物討伐の練習もできて一石二鳥だな!」

「マジでおれ、思い切って元のギルド辞めてこっちで登録してよかったわ!」


そして、リンの生活空間に作った冒険者用の空間はすぐさま、スタトリンを拠点にする冒険者達に利用されることとなった。


まだ住居を決めていない冒険者も、ひとまずここで野営することができるので、住居が決まるまでの仮住まいにすることができる。

洞窟の方は地下一階なら薬草があるし、地下二階なら討伐には手頃な魔物が程よく出現してくるので、その魔物を討伐したり薬草を採取したりして稼ぐこともできるし…

地下一階は奥の方まで行けば森に出られる出入口まであり、しかもそれぞれが絶好の採取ポイントや討伐ポイントだったりするので、この空間を拠点とする冒険者も順調に増えていっている。


リンの生活空間を活用した施策が、わずか数日で一気に二千人も増えた移民も問題なく受け入れ、さらには領地も十分に空きがある状態を維持すると言う、最高の結果をもたらしている。


新たな移民としてスタトリンを訪れた二千人のうち、実に三分の二程はリンの宿屋と農場にそれぞれ雇用されて、全員がリンの生活空間の居住地にて住居を得られた為、スタトリンの領地を使うことなく住民を受け入れられた。

残りは冒険者だが、増築できたリンの集合住宅で受け入れることができ…

さらにはリンの生活空間にある冒険者用の空間もかなりの頻度で活用されている為、こちらも領地の圧迫がまるでなくなっている。




「わずか数日で二千人も移民が訪れるとは…本当に今のスタトリンは、他の町や村から見れば、さぞ理想郷に見えるのじゃろうな…」

「リン様が生活空間を使って従業員の居住地、宿屋と集合住宅の増築、冒険者対象の空間などをお作り下さらなければ、とっくに領地はいっぱいになって、移民を受け入れることなんてできなくなってしましたね!」

「リン君が従業員が一同に集まれる居住地を作ってくれたおかげで、全員が一体感が出て、施設間を超えて情報共有なども積極的に行なっているとか…そのおかげでリン君の商業施設がまた凄い勢いで繁盛しているな」

「農場の作業員達は、大幅に増えた人員を活かして生活空間内の居住地にも農場を作って、作物を育て始めたそうです…そのおかげで、リンちゃんの収納空間に納められる農作物の量が、一日で二十トンを超えるようになりましたし、リンちゃんが作り始めたミソ、ショーユ、ニガリ、トウニュウ、オカラ、トウフも順調に生産量が増えてます」

「そのおかげでジュリア商会、宿屋の食堂、レストランも売上が大幅に増加してます!冒険者対象の空間も多くの冒険者達が利用してくれて、討伐によるボアの持ち込みや薬草などの採取も非常に活発になってます!」

「我がジャスティン商会も、リン君が新たに作り出してくれた食品のおかげで大幅に売上が増加しているよ…スタトリンの総人口も、現時点で六千人を超えそうな勢いだし、今後さらに増える見込みだしな」

「ほんとに凄いですよね!スタトリンに第二領地ができてから、まだ二ヶ月も経ってないのに…わずか六十人程度の規模だったスタトリンが、もう六千人を超えそうな規模になってるなんて!」

「リンちゃんの各施設の管理も、この拠点の地下一階で全て行えているし、ここに非常に優秀な人材が来てくれたから、ギルドも含めて運営も管理も滞ることなく順調だよ」


リンが提案してくれた、リンの生活空間を活用した策が見事はまり、スタトリンはさらに住民を得ることに成功。

そのおかげでリンの元で働く従業員はさらに増え、同時に各商業施設の業績もさらに右肩上がり。

ジャスティン商会もその影響を受けて、業績は右肩上がりの状態が続いている。


加えて、エイレーンの元に、業績管理部隊として非常に強力な人材が訪れた。


「エイレーンさん!」

「私達をここで働かせてもらえるように、リン様に進言してくださってありがとうございます!」

「リン様は、本当に素敵で優しくて…まさに神様のようなお方です!」

「私達、リン様とエイレーンさんの為に、全力でお仕えさせて頂きます!」


その人材とは、かつてサンデル王国の冒険者ギルドで上層部の秘書をしていた女性職員達。

エイレーンが職を辞し、ギルドの希望と支えとなっていたスタトリン支部が閉鎖されたことでギルドそのものを見限り、その場で退職を申し出てその足でスタトリンに訪れたのだ。

そして、エイレーンと再会し…

エイレーンの進言でリンの拠点で業績管理部隊に、住み込みで加わることとなったのだ。


エイレーンが本部を離れてからその頭角を現していた彼女達の実力は折り紙付き。

元々順調だった業績管理がさらに順調になり、各施設への連絡や報告もより風通しがよくなっている。


何より、その美しい容姿ゆえに老害達にいやらしい服装を強要されていたのだが…

自分達の仕える対象がリンになってからは、そんなセクハラな行為を受けることなど微塵もなくなり、物のように扱われるどころか常に自分達を気遣ってもらえている。

しかも、自分達が喜んだら、それを我が事のように喜んでくれる、まさに天使のような心。

彼女達がリンに心酔し、リンに最大の忠誠を誓うのに、時間はかからなかった。


おまけに、成功の二文字しか見えない商業施設の業績管理がとても楽しく…

リンが作ってくれた魔導具のおかげで管理も非常にやりやすく、業務も常に余裕を持って取り組むことができる為、彼女達は天国にいるような感覚を常に感じている。

しかも、自分達の主人と言えるリンが、自分達の為にとても美味しい料理を作って労ってくれるのは、もう蕩けてしまいそうな程の幸福感を感じることができるのだ。

お風呂も毎日入ることができるし、睡眠もとても質のいいものとなっており…

元々美しい彼女達の容姿は、ますます磨きがかかっている。


そんな幸せな生活を送れていることが、彼女達のリンへの忠誠心と愛情を日に日に深めることとなっており…

これまでは存在すら否定したくなるような老害達にいやらしい目で見られて、おぞましさと嫌悪感でいっぱいだったのに…

リンに対してはむしろ自分達を女として愛してほしいのか、積極的にその美しい曲線を描く身体を押し付けながら抱きしめる、などのスキンシップが激しくなっている。


「新生冒険者ギルドと孤児院の管理、運営も彼女達が主となってくれてますから…私はスタトリンの代表としての役目に比重をおけそうです。それでも、ギルドマスターとして重要な決済と明確な方針決めなどはさせてもらいますが」

「まさか王国の冒険者ギルドで実質の経営をされてた実力者が四人も一気にここに来てくれるなんて…そのおかげでリン様の業績管理にもいい方向で影響が出てますし、私もいろいろと分からないことを聞かせて頂けるので、とても頼りになります」

「エイレーン殿の実力と人柄があったからこそ、彼女達のような有能な人材が来てくれて…そしてリン君のおかげで彼女達がここでの生活を幸せに感じてくれて…本当に二人のおかげだな」

「ふふふ…今ここで町の経営やリンの業績管理に努めている者達は本当に誰もが優秀で…全員が独立後のスタトリンの要人として、欠かせない存在になっておるのじゃぞ?」

「!シェリル様…」

「リンが生活空間に住居を与えている従業員も、一人一人が今後のスタトリンの経済を支えてくれる欠かせない存在ばかり…のう、ジャスティンよ、これだけの人材が揃い、しかも国の食料や特産物の自給も、それらを格納する倉庫も、民を養う程の経済力も全て兼ね備えたリンが神となって支えてくれる国…破綻するような未来など、あるかのう?」

「ははは!それこそ愚問でしょう、シェリル殿。リン君が神となり、あなたが王となる国に破綻の未来など、微塵も見えますまい!ましてや、あなたが言われる通り、ここにはこれ程有能な人材が揃っている!国として経営するのも、何も不安などないでしょう」

「ふふ…ジャスティン程の男がそう言ってくれるのなら、何も心配はないのう…」


着々と進む、スタトリン独立。

リンの拠点の地下一階が実質の運営拠点となっており、そこに集う人材は他国から見れば有能な人材の宝庫とすら、言える程。


何より、食料や特産物の自給も…

それら国の備蓄となるものを永久に保存できる倉庫も…

国そのものを守護する結界も…

直轄の民を住まわせ、養える空間も…


それら全てをたった一人、しかも己の持つ技能、魔法で全てを可能とする存在。

その存在であるリンが、スタトリンの神となってくれるのだから。

そして、数千年と言う永き時を生き、その叡智と戦闘能力で国を守護してくれる王、シェリルまでいてくれる。


それ程の国ならば、破綻する未来などあるはずもない。

それ程の国ならば、民はとても幸せな未来しか見えない。


この辺境の地が国土となる。

多くの自然の恵みを与えてくれる豊穣の地。

魔物は、リン、シェリル、リンの従魔達、リンの召喚獣達がいくらでも討伐してくれるし、中位以下の魔物ならゴルド率いる護衛部隊と、新生冒険者ギルドに集う多くの冒険者達がいくらでも討伐してくれる。


シェリル、ジャスティン、エイレーン、リリーシアはこれからのスタトリンを思うと…

それだけで子供のようにわくわくして、楽しい気持ちが抑えられなくなってくるのを実感してしまうのであった。

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