第150話 団結
「そ、それ、なら、ぼ、ぼく、の、きょ、拠点、で、じゅ、従業員、の、み、みな、さん、に、す、住んで、も、もらい、ま、ましょう」
スタトリンの人口増加に関する問題。
それをシェリルの方から説明し、リンに伝えた。
それを聞いて、少し考え込んでいたリンから出た第一声が、冒頭の台詞。
「!そ、それは非常に助かるが、いいのかい?」
「リンちゃんがいいのなら、私は大賛成だが…」
「リン様は、それでよろしいのでしょうか?」
重度のコミュ障であるリンが、それ程多くの人を自身の拠点に受け入れると言うことを聞かされ…
ジャスティン、エイレーン、リリーシアはその案にすぐにでも飛びつきたいものの、やはりリンのことが心配になって、一度お伺いを立ててしまう。
「リン…よいのじゃな?」
「は、はい」
「そうか…さすがリンは妾が唯一認めた、妾の生涯の伴侶…頼もしいのじゃ♡」
だが、当のリンはそれでこの問題が解決するならばと、微塵の躊躇いも見せず肯定の意を示す。
そして、リンは自身の提案の詳細を、コミュ障ゆえの拙い口調で、その場にいるシェリル、ジャスティン、エイレーン、リリーシアに説明を始める。
要は、リン所有の関連施設の従業員は全員、リンの拠点で受け入れると言う案。
それを、リン自身が提示したのだ。
現在、リン所有の関連施設で働く従業員数は千を超えている。
鍛冶・衣料品店、集合住宅、パン屋、孤児院は、建物に住居スペースがあり、診療所はそもそもリンの拠点の一部なので問題はない。
・宿屋
・農場
・レストラン
・パン屋
・ジュリア商会
・建築業者
・公衆浴場
・新生冒険者ギルド
これらは従業員数も多く、しかも各個人が住居を持っていることもあり…
ここを全員、リンの拠点で受け入れるだけで領地はかなりの面積を確保できるようになる。
しかも、今後新たに雇用される従業員もリンの拠点で受け入れるようにすれば、領地は少なくとも、そうすぐには圧迫されるようなことはなくなる。
しかもリンはこの際と言うことで、リンの所有施設で働いてくれる人達全員が交流できるように、鍛冶・衣料品店、パン屋、集合住宅の管理人室、そしてドワーフ達の工房からも行き来できるようにしようと考えている。
「なるほど…従業員同士の交流…」
「それを気軽に行なえるならば、お互いに今後の業務につながるヒントを得られるかもしれないですね!」
「ああ…それに堅苦しい感じでなく、ちょっとした異文化交流みたいな感じでいい刺激になるかもしれないな」
「業績管理部隊も、実際に現場の人間とやりとりすることでまた見えてくるものもありそうだし…」
「町の代表となる私達も、普段から住民と接している従業員達からいろいろと話を聞いて、情報を得られるかもですね!」
「うむ、これはいいな!」
ここまでのリンの説明に、ジャスティン、エイレーン、リリーシアからは好感触を得られている。
リンを中心に集まっている者達が気軽に交流し、お互いに情報交換ができるのは業績管理部隊や代表となる三人にもメリットが大きいと判断。
領地の節約効果も、今となっては全人口の三分の一を占めるリンの所有施設の従業員丸ごとの居住区を空けることができるのだから、非常に大きい。
もう、やらない手はない、と言う雰囲気になっている。
「ま、まだ、あ、あり、まして…」
「?リン、他にもあるのかえ?」
ここで、まだ説明は終わっていないとリンが言葉を紡ぐ。
リンが考えている案の詳細に続きがあり…
それは、リンの【空間・生活】で生成されている生活空間を活用する、というもの。
収納空間同様、無限の広さを持つ生活空間の一部を、従業員達の居住地にして、そこにすでにある家を丸ごと引っ越ししたり、新たに家を建てたりする。
家の建築は、リンの建築業者の職人達にお任せする。
今後増えることが予想されるであろう、新たな従業員も必然的にここに受け入れるようにして、常に全員が交流できるようにする。
さらに、生活空間の居住地への出入り口を鍛冶・衣料品店の工房、パン屋、集合住宅の管理人室、ドワーフ達の地下工房、孤児院の地下二階に全てつなぎ、いつでも生活空間に出入りできるようにする。
また、すでに寮のある新生冒険者ギルドの職員達もこの居住地に住居を構えてもらい、寮として使っていた地下空間は新たな集合住宅として使うようにする。
もちろん、この生活空間の居住地から従業員がすぐに行けるよう、各施設に生活空間への出入り口を設けることとする。
また、増築を考えていた宿屋と集合住宅だが、増築先をこの生活空間にする。
生活空間の地下に、宿屋の領域を作り、そこをカスタマイズする形で今後宿屋の部屋を増築できるようにする。
さらに集合住宅の領域も作り、宿屋同様そこをカスタマイズすることで今後集合住宅の部屋を増築できるようにする。
今領地にある宿屋から、この増築領域に増築した部屋に行き来できるようにして宿泊客の受け入れ数を増やしたり…
同じように集合住宅も、この増築領域に増築した部屋に行き来できるようにする。
このカスタマイズは、必要な時にリンが【空間・生活】の技能を使って行なうようにし、最初は宿屋も集合住宅も千部屋を増築する予定としている。
以降は不足すればさらに増築することにする。
後は、冒険者の野営を目的とした野営スペースを、生活空間の一部を使って作ることにする。
新生冒険者ギルドに登録し、冒険者カードを持っている冒険者のみがその空間に入れるようにし、出入口は新生冒険者ギルドの各拠点に設置する。
冒険者が持参するテントを立てて野営ができるような広々とした空間を用意する。
スタトリンにあるような便利施設や設備こそないものの、コテージのすぐ近くには自然の恵みである山菜、キノコ、薬草などが豊富な山に、そこから清浄な水が流れる川も下ってきている。
山の中には、その恵みを糧とする動物が生息しており、その山の恵みで自給自足は十分可能なので、ある程度は普通に生活できるようになっている。
短期集中で野営をする際のトレーニングや、住居が決まらなくて宿屋も空いていない場合の一時的な仮住居として使える空間とする。
そしてその付近に、地下の洞窟への入り口を作り、その地下の洞窟内でリンの魔力と【空間・生活】の技能を駆使してスタトリン周辺の森と同レベルの魔素を充満させるようにする。
洞窟には階層を作り、階層ごとに魔素の密度を変えるようにして、自然発生するものが階層ごとで変わるようにしていく。
洞窟の地下一階には自然の恵みとなる薬草、地下二階にはゴブリンやウルフ、ボアなどの害獣レベルの魔物、地下三階には害獣指定の魔物よりも強い低級の魔物…
と言った具合に、それぞれ適度に発生させるようにする。
この魔物達は冒険者を見かけて攻撃を仕掛けてはくるが、決して殺しはしないように制限をかけることができるので、討伐が苦手な冒険者達が実戦による討伐訓練を行なうことができる。
加えて、山で採取した食料や薬草に狩りで捕らえた動物、地下の洞窟で採取した薬草や討伐した魔物もギルドでの買い取り対象となるので、報酬を稼ぐこともできるようになっている。
地下の洞窟はちょっとした迷宮のような作りにし、地下一階はさらに深く潜っていくことでスタトリン周辺の森の至る所に小さな洞窟としてカムフラージュした出入口を作ることで、生活空間の洞窟からスタトリン周辺の森に出ることもできるようにする。
ケア草やマナケア草の採取ポイント、キノコ類や果物の採取ポイント、素材や食材として有用なボアなどの魔物、またはゴブリンのような害獣指定されている魔物の討伐ポイントに、ピンポイントで行けるように出入口を設置する。
これは新生冒険者ギルドに登録している冒険者への特典のようなものであり、住居としても訓練空間としても使ってもらえるようにする。
そこまでのざっくりとした内容を、リンは拙くも一生懸命説明していく。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
リンの説明を聞いていたシェリル、ジャスティン、エイレーン、リリーシアは、その内容のあまりの規格外さに言葉を失ってしまっている。
「?だ、だめ、だった、で、でしょう、か?」
「!い、いや違うよリン君!あまりにもその内容が凄すぎて驚いていただけだよ!」
「リンちゃんの生活空間…まさかそこまでのことができるなんて!それならば宿屋と集合住宅も今後拡張していけるし、野営と討伐の訓練ができるような空間があれば冒険者の質もどんどん上げていける!ほんとに凄いよ!リンちゃん!」
「しかもリン様の生活空間に家を建てて暮らすのでしたら、従業員の方々は普段からリン様に守護されているようなものじゃないですか!しかも今後いくら従業員の方が増えても、その居住区に家を建ててあげればいいなんて!ああ!リン様は本当に凄いです!」
「それならば生活文化の違う亜人達も、自分達の好む生活習慣や家を作ることができるじゃろうし、状況に応じてリンが生活空間をカスタマイズすればいいわけじゃな…リンはまさに神様じゃな!」
自分の説明を聞いて、何も言葉を発さなくなっていたシェリル達を見て、リンはきょとんとした表情で、何かだめだったのかな、と思い、尋ねてみる。
実際には、リンが話した内容があまりにも規格外過ぎた為、驚いていただけで…
そこからはリンが話してくれた内容が確実に今の人口増加の問題を解決できるものだと分かり、そこからは大絶賛の声が立て続けに上がる。
特に宿屋と集合住宅は初期の増築でそれぞれ千部屋も増やすとなれば、さらに人手は必要になる為、ますますスタトリン内の雇用促進につながる。
しかも、今後は雇用した従業員はリンの生活空間の居住地で暮らしてもらえば、スタトリンの領地の節約にもつながってくる。
やはりリンは、このスタトリンの神だとシェリル達は改めて思わされ…
この重度のコミュ障を抱えた偉大な神の為にも、自分達がスタトリンの要人となってリンを支えていけるようになろうと、心に誓うのであった。
――――
「こ、これがリン様がお作りになられた世界の…中!」
「な、なんと穏やかで、清浄な空気…」
リンが提案した内容はすぐに行動に移すことが決定し…
リン所有の施設で働く従業員達は、リンがすでにカスタマイズし終えた生活空間の居住地に立っている。
この居住地への出入り口はもちろん各関連施設それぞれに設置され、職場と家の往復もわずかな時間でできるようになっている。
加えて、自身の住居をすでに持っている従業員の住居は、引っ越しの為に全てリンの収納空間に収納されており、これからこの居住地に設置されることとなる。
しかも、居住地の中心となる場所にはスタトリンの領地と同じように水の供給設備に公衆浴場と公衆トイレへの転移陣まで設置されており、いつでもそれらを利用できるようになっている。
もちろん、収納の魔道具も設置されており、資材や食料はここから取り出せるし、ごみは全てここに捨てることができる。
もちろん、住居兼店舗となっている鍛冶・衣料品店の工房、領地の集合住宅の管理人室、パン屋、ドワーフ達の工房、孤児院の地下二階にもこの居住地の出入り口が設置済みなので、いつでもここに来ることが可能となっている。
「ああ…あたしがリンちゃんの住んでるところで、住めるようになるなんて…あたしゃほんとに幸せだよお…」
「あたしもだよお…おばさあん…」
「こんな素敵なところで住めるなんて…幸せ…」
パン屋のおばさんと従業員の女子達は、自分がリンの
「ここが、ここがリン様の住む世界か!」
「すげえ…なんて自然に溢れた清浄な…」
「ここにも住めて、しかもいくらでもここで物作りしていいなんて!」
「ここに住むのって、リン様の持ってる施設で働いてるやつばっかりなんだよね?」
「じゃあ、ウチ達の仲間じゃないか!」
「だったら、その仲間の為にいろんなもん、作ってみてえなあ!」
ドワーフ達はすでにリンだけでなく、リンの所有施設で働く従業員を同胞と認め…
リンのみならず、その同胞達の為にももっと物作りに精を出そうと、笑顔で心に誓う。
「こ、こんなすげえところで、わし達住まわせてもらえるのか…」
「自然がいっぱいで空気も美味しくて…」
「ここで農業したら、作物がすっごく美味しく育ちそう!」
「家畜の生育にもすげえよさそうだし!」
「酒の製造にもよさそうだよな!」
「よし!リン様の為にも、この地にも畑を作ろうではないか!」
「さんせー!」
「僕達のように、リン様の所有施設で働いてる仲間の為にも、いっぱい美味しい作物、育てよう!」
リンの農場で働く農作業員達は、この環境が非常に農業に適していることを感じ取り、この地でも農業を始めようと活気に満ち溢れている。
「いやはや、ほんとにすげえなあ…リン様は」
「こんな、リン様の元で働く同胞達が集える住処まで与えて下さるなんてなあ…」
「その同胞達の為に、あっし達が家を建てさせてもらえるなんて、めっちゃ腕がなりやすぜ!」
「おいおめえら!リン様の為にも、リン様の元で働く同胞達の為にも、この地で腕を振るうぞ!」
「合点でさあ!親方!」
「今後は職人の同胞も増えるだろうからな!店が手狭にならねえように、わし達の作業場も作っておくぞ!」
「ぜひやりやしょう!」
リンがオーナーとなる建築業者の職人達は、自分達の腕を信頼してこの地の建築や施工を任せてくれたリンの為に、そしてそのリンの元で働く同胞達の為に、これまでの研鑽で磨き続けてきたその腕を、思う存分振るおうと活気づく。
「ああ…リン様はまさに神様です…」
「こんな、こんな素晴らしい世界で住まわせて頂けるなんて!」
「我らジュリア商会の職員一同、これからより一層、リン様の為にリン様がお作り下さる食品を住民の方々に販売させて頂きます!」
「店長!今後はすぐにリン様の農場で働く作業員の方々にもお話を聞くことができます!ですので、その方々から各食品の素晴らしいところを直に聞くことができるかと!」
「!そうだ!よく言ってくれた!今後はしっかりとそのようなリサーチもしっかりとして、よりお客様に正確に商品のアピールポイントをお伝えできるようにしていこう!」
「了解しました!」
「また、こちらからも食品加工や容器・袋詰めなど、手伝えるところは手伝わせてもらおう!」
「あとは、商品のパッケージデザインで意見をもらうこともできますね!」
「!そうだな!ああ…リン様がお作り下さったこの居住地…そのような意見交換に協力体制がすぐにできて…本当に素晴らしい!!」
ジュリア商会で働く従業員達は、リンに一層の忠誠を誓うと同時に、リンの農場の作業員に作物や食品のことを直に聞くことが容易にできることに気づき…
これからは、そんなリサーチにも力を入れてより一層、客にアピールできるようにしていこうと活気づく。
「え、えへへ……み、みな、さん、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」
リンの生活空間の居住地に入れてもらえたことで、その場にいる全員がリンの家族として認めてもらえたと言う思いが心から溢れかえってきて…
誰もが喜び、リンや同胞達の為にと活気に満ち溢れているその光景に、リンはとても嬉しそうな笑顔を浮かべて、幸せそうに喜ぶ。
そんなリンの笑顔を見て、リンの元で働く従業員達はその瞬間、喜びの頂点に達したと言える程の幸福感で、心が溢れかえってしまう。
「「「「「「「「「「リン様!!リン様は我ら一同の神様です!!リン様にお仕えさせて頂けることは我らの喜びであり、至上の幸せであります!!」」」」」」」」」」
リンは、間違いなく自分達の神様。
リンは、間違いなく自分達の救世主様。
そのリンに仕えることのできる喜び、幸せ。
それは、何物にも代えがたい程のもの。
一介の従業員に過ぎない自分達に、ここまでのものを与えてくれるリン。
少しでも、少しでも返したい。
この喜びを、幸せを。
全員で一体となって、リンに喜んでもらう。
リンに幸せになってもらう。
その目的一つで、その場にいる全員の心が一致団結し…
職業の垣根を越えて、誰もが積極的に交流し、今後もリンの所有する施設を盛り立てていこうとするようになるので、あった。
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