第145話 設立

「…しかし、本当によかったのか?」

「もちろんです!」

「てか、スタトリンの新生冒険者ギルドのマスターなんて、エイレーンさんしかいないでしょ!」


本部の方に、自身の辞職とスタトリン支部の閉鎖を連絡し…

関連書類全てを王都の本部に発送した、スタトリン支部の面々。


冒険者ギルドの資産であった各設備は全て撤去済であり、その当時までの記録、そして本部に入るであろう見込みの売上まで全て、元の職場であった冒険者ギルド本部への返却物と提出物も全て整理してまとめ終わっている。


「そうそう!本部の老害共とか、デケえツラするだけで何にもできねえのによ!」

「おまけにランク至上主義で、シルバー以下なんてゴミ扱いだし!」

「向こうでゴミ扱いされてきた俺達をこんなにも大事にしてくれて、しかも身入のいい仕事もどれやろうか、って楽しく悩むくらい多く抱えてくれてるなんて!」

「むしろエイレーンの姉御がギルドマスターやんないで、誰がやんのよ、って話だしなこれ!」

「姉御!俺ら絶対に姉御の味方だぜ!」

「そうよ!エイレーンさんがマスターになってくれるギルドだったら、あたし元のギルド除籍してこっちで再登録しちゃうもん!」

「そらここにいる冒険者全員がそうだよなあ!」

「エイレーンさん!私同じ冒険者の友達い~っぱいいるから、その子達みんなこっちに連れてくるね!」


そして、エイレーンが独立して新たに冒険者ギルドを設立する、と言う話を聞きつけた、スタトリンを拠点としている冒険者達は…

即座に元の冒険者ギルドの除籍と、新生冒険者ギルドへの登録を願い出てきたのだ。


それも、スタトリンにいる冒険者全員が。


さらには、まだスタトリンに来ていない友人の冒険者達にも、こちらへの移住と新生冒険者ギルドへの登録を促す、とまで言い切ってくれている。


王都の方では、人らしい扱いをされていなかったのに…

エイレーン率いるスタトリン支部では、ランクに関係なく誰もが自分達に優しくしてくれて…

しかも、討伐系以外でも非常に多くの依頼を抱えてくれていて、そのどれもが報酬が高い。


町そのものもどんどん規模が大きくなり、発展が進み…

王都と比べても非常に住み心地がよく、ずっとここにいたいとさえ、思えてしまう。


スタトリンに元から住んでいた冒険者達はもちろん、新たに移住してきた冒険者達もエイレーンをとても慕っており…

エイレーンがギルドマスターになってくれるのなら、と言うことで諸手を上げて新生冒険者ギルドへの登録を願い出てくれたのだ。


「全く…みんなはこんなに私を喜ばせて、何がしたいんだ?」

「姉御が喜んでくれるのが、俺らは一番なんだよ!」

「エイレーンさんが喜んでくれて、あたし嬉しいもん!」


理知的に見えて情に厚いエイレーンが、この状況を喜ばないはずもなく…

その目を潤ませながら笑顔を見せるエイレーンに、冒険者達はもちろん元スタトリン支部の職員達も心が弾んでしまう。


「よ、よか、った、で、です、ね。エ、エイレーン、お、お姉、さん」

「リンちゃん…ありがとう…もう何もかもリンちゃんのおかげだよ」

「エ、エイレーン、お、お姉、さん、が、す、凄い、か、から、ですよ」


そして、スタトリンで新生冒険者ギルドが発足し、そのマスターとしてエイレーンがとても歓迎されていることを…

エイレーンのそばにいたリンもとても喜んでいる。


「おお!スタトリンの救世主様!」

「そして、新生冒険者ギルドのオーナー様にして…」

「新生冒険者ギルド唯一の白金プラチナランク冒険者様!」

「みんな!このリン様がオーナーで、エイレーンの姉御がギルドマスターになってくれる冒険者ギルドなんて、絶対に成功する未来しか見えないよな!」

「もちろん!」

「ああ~!もうほんとにスタトリンに来てよかったあ!!」

「リン様!エイレーンさん!わたしいっぱい依頼こなして、ギルドのお役に立つから!」

「オレもこのギルドに貢献できるように、めっちゃ依頼頑張るぜ!」


そして、スタトリンでは唯一無二の英雄であり、資産家としても有名になっているリンが、新生冒険者ギルドのオーナーとなってくれると言う話には、エイレーンやギルド職員はもちろんのこと…

新生冒険者ギルドで新規登録をした冒険者達も盛大に喜びの声をあげている。


しかも、旧スタトリン支部時代に積み重ねた、その多大なる実績と貢献が認められ…

新生冒険者ギルドでは最上位の白金プラチナランク冒険者として登録されている。

この査定に文句が出るどころか、『やっとリンちゃんの功績が認められたか!』と町全体が大喜び。

冒険者達も、リンが森の方に出かけている時にばったりと会って、その時にいつも助けてもらっているので文句など出るはずもなく…

むしろ、現役最強冒険者でありながらギルドのオーナーまでしてくれると言うことで、絶対的な守護神として崇められている。


そして、リンがオーナーになると言うことで新生冒険者ギルドの施設はすぐに作られることとなり…

旧スタトリン支部時代よりも広く作られたそこには、旧時代よりも遥かに利便性の高い設備や資材がいっぱいとなっている。


冒険者カードは登録者の身体の一部を媒介に登録するようになっており、カードに個人のランクや名前、ステータスなどの個人情報を保有するようになっている。

加えて、受注している依頼の内容、進捗まで管理してくれているので、冒険者はカードに魔力を通すだけでそれらを確認することができるし、その情報は常に職員側で使用するリンお手製の板状の管理用魔導具と共有されている為、職員もすぐに確認することができる。

また、その管理用の魔道具で、ギルドで受注した依頼の登録と管理も行なうことができるようになっており、そこから依頼を冒険者に照会することもできるようになっている。

その為、依頼の受注も冒険者カード一つで行なうことができるようになったので、冒険者側も職員側も非常に手続きを簡潔にできるようになり、とても喜んでいる。


旧時代からスタートしていた貸倉庫サービス、ごみ処理事業はもちろん継続されている。

貸倉庫サービスは冒険者対象の貸し出し用の魔導具が新たに作られており…

別途料金はかかるものの、討伐系の依頼で魔物の死体などを持ち帰るのに非常に重宝されている。

採取や討伐の成果物も、受付の横にある受取スペースで出せば受付がその場で査定後にギルドの備品となる収納の魔道具で収納し、解体チームに連絡することとなる。

酒場と食堂も、より綺麗になって居心地がよくなり…

リンが作る高機能のキッチンまで設置されているので、より料理の質が向上しており、当然ながら食材や食品、酒もリンの収納の魔導具から使い放題な上に、作った料理を出来立てのまま作り置きしておくこともできる。

また、リンの鍛冶店の商品の委託販売を行なうスペースまで作られており…

量産品ならばここで購入することができるようになっている。

リンの診療所への転移陣もそのまま移設されているので、怪我や病気などの場合はすぐに診療所に行けるのはそのまま。

地下空間も広く作られており、その中にリンの拠点にもある訓練空間が作られ…

しかもそこは、登録されている冒険者なら誰もが無料で使用できるので、戦闘訓練も安全に行なうことができるようになっている。

解体作業の部屋も地下に作られており、旧時代よりも遥かに広く、解体用の道具もリンの収納空間から、リンが作った上質で利便性の高いものを使えるし、解体する魔物の死体もそこから取り出せるので、非常に作業がやりやすくなっている。

この二つの地下空間は本室にのみ作られているのだが、第一分室、第二分室に地下空間への転移陣が設置されている(解体作業室は職員専用)ので、三拠点で共有することができている。


当然ながら、ギルドの売上はオーナーであるリンに入ることになり…

そこから、ギルドマスターであるエイレーンが運営や各種経費に割り当てていく。

と言っても、経費はそのほとんどが人件費であり、施設や設備の維持はリンが行ない、資材、食品関連は全てリンから提供されるので、売上は大部分が純利益となる。


旧時代からの依頼となる町の守衛部隊や諜報部隊も、資材などは全てリンが提供してくれる形になったので、より報酬が大きくなっている。

新生スタトリンの噂を聞いて移住してくる冒険者は後を絶たず、守衛部隊や諜報部隊の依頼を受注する冒険者も当然ながら増えているので、より強固になっていっている。


ギルド職員の管理や経営の管理は例によってリンの拠点で行なわれるので、ギルドマスターであるエイレーンと、リンの所有施設の業績管理に抜擢されたエレノアは基本的にリンの拠点に常駐する形となっており、必要に応じてギルドの本室や分室に出入りすることとなる。


「なあ!もっと王都や他の町でくすぶってる知り合いの冒険者に、今のスタトリンはめちゃくちゃいいって声かけようぜ!」

「そうしよう!で、もっとリン様とエイレーンの姉御が作ってくれた新しい冒険者ギルドに、冒険者を増やそうぜ!」

「だってこんなにも凄いギルドだもん!絶対にみんな登録して、ここを拠点にしてくれるもん!」

「戦闘が苦手な冒険者も、採取や町のお役立ち依頼とかいっぱい報酬のいい仕事あるし、常設依頼のごみ収集や公衆浴場の受付も、いつでも受注できるのに報酬かなりいいしな!」

「そうそう!しかもそれもちゃんと実績としてくれるから、戦闘が苦手でもランクアップしてもらえるし!」

「俺達が魔物の素材とか、植物系の素材とかをギルドに売れば、リン様がいいものを作ってくれるから、町にもっといい武器や防具、道具とかが出てくるしな!」

「水はいくらでも供給してもらえるし、食事にも全然困らないし、住むところも普通にあるし…」

「こんなに住み心地のいい町なのに、税金は住民税だけで安いし…」

「もっともっとここに冒険者を集めて、もっともっと大きな町にしていこうぜ!」

「そしたら、もしかしたらリン様が一つの国にしてくれるかも!」

「!それ、すっごくいいじゃない!」

「だよな!」

「よおおし!このスタトリンを国にする為にも、もっともっと他の冒険者に声かけていこうぜ!」

「僕は諜報部隊に入ってるから、いつでも他の町や村に行けるんだ!だから偵察に行く時に冒険者とか、移民希望の人とかに声かけてくるよ!」

「あたしも他の町とかに偵察よく行くから、声かけるね!」

「自分は守衛部隊で、この町と町の人達を護っていきます!」

「おれも守衛部隊だから、怪しいやつが町に入らないようにしっかり門番するぞ!」


こうして、新たに独立した冒険者ギルドが設立したことによって…

スタトリンはまさに、冒険者の為の町となっている。


町としての住み心地も非常によく、ギルドの応対や依頼も非常にいい。

何より、町の守護神であり英雄であるリンが、現役最高ランクの冒険者にしてギルドのオーナーとなってくれていると言う事実は、スタトリンを拠点とする冒険者達にとっては絶対に崩れることのない、頑強な後ろ盾があるのと同意。

しかもギルドマスターはエイレーンなのだから、この冒険者ギルドは絶対に良好でつぶれる未来なんて、微塵も見えない。


この町、そしてこのギルドをもっと大きく発展させることができれば…

間違いなく冒険者にとっての楽園と言える地になると、全員が確信している。


だから、どの冒険者も素敵な未来を思い描いて、活気に満ち溢れており…

少しでもこの町に多く、人を連れてこようと言う気になっている。

このスタトリンに来るまでの自分達のように、不遇な扱いを受けていた冒険者達は特に声をかけてあげようと言う気になっている。


「リン様!ギルドマスター!」

「私達、リン様とギルドマスターの為にも、この素晴らしいギルドで全力で務めさせていただきます!」

「ここで登録してくださる冒険者の方々に、喜んで頂けるように精いっぱい取り組んでいきます!」

「リン様とギルドマスターが作ってくださったこのギルドを、もっともっと盛り上げていきます!」


そしてそれは、新生冒険者ギルドの職員達も同じ。

分室が二つも増えたこともあり、職員の数も旧時代と比べてかなり増えている。


分室二つも、本室と変わらない施設と設備を持っており、しかも本室と各分室に行き来できる転移の魔法陣も、リンが設置してくれたこともあり…

人の配置も必要な時にすぐに変更などができるようになっている。


しかも、希望者はリンが地下空間として作ってくれた、新生冒険者ギルドの職員用の寮に住みこんでの生活もできるようになっている。

リンが作った集合住宅と同じ部屋の内装に設備があり、生活は非常に便利で…

生活に必要な資材や食料などはリンが提供してくれる上に家賃も無料。

地上に作られた集合住宅よりも部屋数が多く、数百人は住めるようになっている。

無論、本室と各分室に行き来できる転移の魔法陣もあるので、職場への出勤も帰宅も一瞬となっている。

これ程の好待遇まで付けられたこともあり、誰もがリンが作ってくれた寮での生活を希望。


ただの職員一人一人に対してここまでの好待遇をしてくれるリン、旧時代からその精神は変わることなく、常に他を思いやってギルドを運営してくれるエイレーンが組織のトップにいてくれることが、職員達にとっては何より誇れることであり、何より幸せなことだと言う思いで心が一つになっている。


冒険者も職員も、非常に和気あいあいとしながら心一つに…

このスタトリンをもっともっと発展させていこうと手を取り合っていくこととなる。




「…これで、スタトリンの主要施設のほとんどはリン君の所有施設になったなあ…」

「はい!リン様は…リン様は本当に凄いお方です!」

「我がジャスティン商会も、リン君と横並びで協力関係を結ばせてもらってるおかげでどれ程商会の機能も経営も右肩上がりで伸びていることか…」

「エイレーンさんがギルドマスターとなる新生冒険者ギルド…そのオーナーとなってくださったリン様…サンデル王国の至る所からその噂を聞いて、このスタトリンへ冒険者が移住してきてます!」

「もう本当に…何もかもがリンちゃんのおかげです…リンちゃんが後ろにいてくれるおかげで、ギルドの経営は何も心配いらないし…リンちゃんが白金プラチナランクになってくれたおかげで、今ここを拠点にしている冒険者達は大盛り上がりで、次々にうちのギルドに加入してくれてます」

「…こんなにも早く、独立計画が進展するとは…思い切って王国の冒険者ギルドを辞して、独立した冒険者ギルドを設立して、よかった…なあ、エイレーン殿」

「…本当にその通りです。これで、スタトリンを独立国家にする計画を前進させることができました」


第三領地が完成してからも、住民の増加が著しいスタトリン。

領地拡大前まではせいぜい六十程度だった住民はすでに千を超えており、その全員が何かしらの仕事を持ってきちんと生活をすることができている。


本来ならば不安定の象徴とさえ言われている冒険者も、このスタトリンにおいては非常に収入も安定しており…

誰もが喜びと幸せに満ち溢れた生活を送ることができている。


町の経済は言うまでもなく好調そのものであり、運営も非常に順調。

もともとこのスタトリンで営んでいた他の商会や業者も次々とリンをオーナーとして傘下に下りたい、と交渉の席を希望しており…

現在、専属秘書であるジュリアとイリスが交渉の席に座り、好条件を勝ち取ろうと全力で交渉中の状態となっている。


町の代表であるジャスティン、エイレーン、リリーシアの三人は、日々各領地を出歩いて視察をして住民と他愛もない会話をして情報収集をしながら、今後の独立計画を進めていく為の方針を各自で練っている。

そして、リンの拠点の地下一階でそれを擦り合わせて、相談役となるリンへの相談事、冒険者ギルドへの依頼事を洗い出すなど、非常に建設的な会議に勤しんでいる。


そうして会議に勤しみながらも、こうして一息ついて三人で他愛もない会話も楽しんでいっている。


「リン様の農場はアイリさんが来てくれたことで、収穫量がますます増加しています!畜産に酒類の製造も非常に順調!売上はより右肩上がりになっております!」

「鍛冶・衣料品店も冒険者ギルドに販売委託スペースができたことで売上がさらに上昇!」

「ジュリア商会、パン屋はお客様が途切れることなく売上は絶好調!レストランは常に満席状態!宿屋も常時満室で食堂も常時満席状態です!」

「リン様の診療所も、依頼で怪我をした冒険者や体調を崩した住民がすぐに来るようになっており、売上は好調です!ジャスティン商会の医療部隊から派遣で医師が来てくださっているので治療が滞ることもなく、町でも最大級の称賛を頂いております!」

「公衆浴場も営業時間中はお客様が途切れることなく、大繁盛しております!」

「新生冒険者ギルドは冒険者の新規登録が途切れることなく、凄まじい勢いで増えております!依頼も討伐、採取、町のお役立ちに常設依頼と、あるものが次から次へと受注され、順調に達成されています!酒場、食堂の売上も非常に好調で、貸倉庫サービス、ごみ処理事業も売上は絶好調です!」

「ギルド依頼の守衛部隊からは、特に不審な人物もおらずと報告がきております!人員が増えた為業務にも支障が出ず、非常に快適だと喜びの声も届いております!」

「同じくギルド依頼の諜報部隊からは、スタトリンへの道中に遭難した移民を何人か見かけたので保護に…その中で重傷者がいたのでリン様の診療所へと運び込んだ、との報告が!加えて、西の森にオークの群れを発見したと報告がありましたので、狩り担当のナイトくんを中心にザードくん、メイジくんで討伐隊を編成してもらい、討伐に出てもらっています!」


リンの所有施設は、スタトリンの好景気を象徴するかのごとく大繁盛を続けている。

町の守衛部隊と諜報部隊は新生冒険者ギルド預かりとなったこともあり、オーナーであるリンの直属部隊として、リンの業績管理部隊の方で管理をすることとなった。

そして、そこから来る報告に対し、リンのメイド部隊、従魔達の力が必要な場合はすぐに連絡するようになっている。


リンの専属秘書も、メイド部隊も、業績管理部隊も誰もがリンに仕えることが幸せで、リンの為に働けることが嬉しくて嬉しくて…

今日も町の為、何よりリンの為に己の業務に精いっぱい勤しむので、あった。

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