第146話 製造

「…で、できた」


所有する商業施設が全て大繁盛しており、資産は増える一方。

施設で働いてくれる従業員はとても働き者ばかり。

新生冒険者ギルドに登録する冒険者も全員がリンとエイレーンに心酔しており、湯水のように湧いてくる依頼をことごとくこなしてくれる。

拠点に受け入れている家族達も、常にリンの為に動いてくれて…

メイド部隊は拠点内の家事や生産活動を支援してくれて…

専属秘書はリンに関わる業務の補佐、リンへの交渉を希望する者への窓口をしてくれて…

施設運営部隊はリンが所有する施設の運営・管理をしてくれて…

従魔達はリンが望むように町のお役立ちになることや、リンの生産活動の支援をしてくれて…

そのおかげでリンは今、非常に順風満帆な生活を送ることができている。


自身の所有する施設や設備を、自ら確認しに行ったりすることもあり、それなりに町には出たりしているのだが…

普段は自身の技能【空間・生活】によって作られた、自分だけの生活空間の中で、ひたすら生産活動に勤しんでいる。


この日は自身の【空間・作業】による作業空間を使っての生産活動をしている為、傍から見ればただ一人でじっとしているようにしか見えないのだが…

その様子とは裏腹に、リンはその作業空間で、自身がたまたま噂程度で耳にしただけの…

このサンデル王国にはないものをいくつも作り上げていた。


その作り上げたうちの一つが、このサンデル王国から遥か彼方となる東の国で、日常的に調味料として使われている『ショーユ』。


リンは、自身の属性変換していない純粋な魔力で、カビなどの微生物なら生み出すことができることに気づき、合間を見つけてそれの研究をしていた。

その生み出せるカビにショーユを作るのに必要な『コウジカビ』があり、リンはそれを狙って生み出し、しかも培養までできるようになった。


しかもリンには技能として最高レベルの【鑑定】まである為、【鑑定】を使ってショーユの詳細な製造工程を知ることもできたのだ。


そこまで準備が整ったなら、後は実際に作ってみるだけ。


作業空間に【空間・結界】で作ったタンクのような器に、今となっては日に数トンのレベルで収納空間に納められていく大豆と小麦をそれぞれ大量に入れる。

大豆は【闇】属性の重力魔法で加圧しながら、火と水の【息災】を使って蒸していき、小麦は火の【息災】で炒って、その後に魔力を調節して温度を下げた風の【息災】で冷やして、【闇】属性の重力魔法で加圧して砕く。

そうしてできた素材を【空間・結界】で作った一つのタンクに入れ、培養したコウジカビを加えて原料となる『コウジ』を作る。

そのコウジに【水】魔法で生成した清浄な水と食塩を加え、自身の魔力をそのタンクに調節しながら送り込んで、原料の発酵を促進させていく。

発酵は本来ならば最低でも半年はかかる工程だが、リンはそれを己の魔力制御によって期間を大幅に短縮させることに成功。

わずか三日で、発酵の工程を完了させてしまう。

そうして熟成させた原料を【闇】属性の重力魔法で加圧し、液状に絞り出して【生産・錬金】で不純物を分離していく。


そうしてリンは、ショーユの生産を成功させたのだ。


さらにリンは、コウジを狙って作り出せるようになった為…

ショーユ同様に遠い東の国で愛されている調味料、『ミソ』も作ることにした。


こちらもまた、日に数トンのレベルで収納空間に納められている大麦を使って『ムギコウジ』を作ると同時に、【浄化】で洗浄した大豆を【水】魔法で生成した清浄な水に浸し、火の【息災】で加熱、【闇】の重力魔法で加圧しながら蒸し煮にしていく。

蒸し煮を終えた大豆は風の【息災】で冷却して【闇】の重力魔法で加圧してつぶし、同時に作っていたムギコウジと清浄な水と食塩をしっかりと混ぜ合わせる。

そして、ショーユの時と同様に己の魔力を駆使して発酵を促進させる。

こちらの発酵も本来ならば数か月以上はかかる工程なのだが、リンはわずか二日足らずで完了させてしまう。

そして、【生産・錬金】で不純物のみを分離し、完成。


原料となる大豆、小麦、大麦がすでに数百トンは収納されていることもあり…

リンはこの時にそれぞれ数トンもの原料を使って、ショーユとミソを大量に作りだしたのだ。


当然、完成したショーユとミソは、すぐさま収納空間に収納。

それらをリンの小さな指先にわずかに乗る程度のみ取り出し、試食。


「…うん!これ、塩の味が利いてて美味しい!コメとすっごく合いそう!」


その味も申し分ない、上質なものであることに満足し、にこにこ笑顔が浮かんでくる。


そして、ショーユとミソの製造工程のレシピをすぐさま召喚獣への命令書として作成し…

コウジに関する工程と、不純物を除去する工程は自身が行なうので、それ以外の単純な工程を全て【火】【水】【闇】の魔法が使える召喚獣に任せることにし…

【浄化】が必要な工程は【浄化】を付与した魔導具を追加して使ってもらう形にし…

すぐさま、大量生産に入ることにした。


東の国の民にとって、魂と言える程馴染んでいる食品である『コメ』も、リンはすでに生活空間の農場とスタトリンの第二領地にある農場の両方で作っていることもあり…

せっかくなので、リンは作ったばかりのショーユとミソを使って、東の国の料理を作ってみることにした。


コメ自体はすでに、リンがオーナーとなる宿屋の食堂とレストラン、そして冒険者ギルドの食堂にも使われているのだが…

今のところ、普通にパンの代わりの主食として出すか、後は塩をまぶす、もしくは中にほぐした焼き魚などを入れて食べやすい形に握る『オニギリ』くらいしかメニューがない状態。

一部の客はその味にハマって来る度に当然のように注文してくるのだが、まだそれ程浸透はしておらず、頻度としては少ないと言える。


なので、これができればコメももっと美味しく食べてもらえるのではないか。

そうなれば、美味しいものをもっと多くの人に食べてもらえるのではないか。


そう思うと、リンの顔にとても嬉しそうな笑顔が浮かんでくる。

心に幸せな気持ちが溢れてくる。


「えへへ…早く作ってみよっと」


そんな幸せな気持ちと共に、リンは自分で作ったログハウスのキッチンに移動し…

まずは一人で試してみようと、簡単に作ってみることに。


収納空間の中に大量に収納されている魚を一匹と、同じく大量に収納されていて拠点に住む家族達によく振る舞うオークの肉を一切れ取り出す。


魚は切り開いてシンプルに作ったばかりのショーユを塗り、コンロの上にスキレットを置いて火にかけて、少し油をひいて焼いていく。

オーク肉の方は食べやすい大きさにカットして両面に小麦粉をまぶし、作ったばかりのミソに水、砂糖、ショーユを混ぜてソースを作って、火にかけて少し油をひいたスキレットの上で作ったソースに絡めながら焼いていく。


どちらも焼いているだけでとても美味しそうな匂いがして、それだけでリンは顔が綻んでしまう。


さらに、炊き終えて収納していたコメを取り出し、二つ手頃な大きさのオニギリにすると、一つにはミソ、もう一つにはショーユを塗り、それをコンロの上に置いた金網の上で焼いていく。

加えて、小さな鍋に水を入れて火にかけ、沸き立ったところでミソを溶かし込み、小さくカットした野菜を入れて、弱火で煮たてていく。


こちらもとても美味しそうな匂いがしてきて、リンはますます顔が綻んでしまう。


「できた!…」


ミソとショーユを使った料理を作り終え、リンはログハウスのリビングにあるテーブルに皿を出す。

スキレットと小鍋を【浄化】で綺麗にして収納し、作り終えた料理を一旦収納空間に収納して、リビングで取り出して綺麗に盛り付けていく。


ミソとショーユのヤキオニギリ。

ミソベースのソースを使ったオークのステーキ。

ショーユを塗った焼き魚。

ミソを溶かした野菜たっぷりのスープ。


どれも美味しそうでたまらず、リンはすぐに椅子に座って食べようとする。


「…神様、今日もこうして食事を頂けること、心より感謝致します…」


そして、いつものように神様にこうして食事を頂けることへの感謝の祈りを捧げ…

自分が作った料理を、しずしずと口にしていく。


「!……美味しい!…ミソとショーユ塗って焼いただけなのに…こんなに美味しくなるなんて!…お肉もお魚もすっごく味がしっかりしてて、コメがもっと欲しくなる味になってる!…スープも野菜の甘味とミソの塩っけが絶妙で…ほんとに美味しい!」


作ってみた料理はどれも本当に美味しくて、どれもコメに合うとリンは幸せそうに食べていく。

ミソとショーユが凄い調味料で、これならもっと美味しい料理が作れるし、もっとコメに合う料理が作れると確信する。


こんなにも美味しいもの、みんなにも食べてほしい!


一通り食べ終えたリンは、空いた皿を【浄化】で綺麗にして収納すると…

みんなにも食べてもらおうと今度はログハウスの外に出て、すぐそばにあるキッチンで同じ料理を作り…

生活空間にいたシェリル、アイリと、たまたま勢ぞろいしていた従魔達に食べてもらうことにした。




「う、美味い!美味いのじゃ!こんなにもコメが美味くなる調味料があるとはのう!これが遠き東の国にあると言われる、ショーユとミソなのじゃな!」

「と、とても美味しいですリン様!こんなにもしっかりした味付けなのに、お腹に優しくて…コメがとても美味しいです!」

(マスター!これめっちゃくちゃおいしいよ~!)

(おいしいの~!)

(主!このミソなるもので焼いたオークの肉が美味過ぎて…我は感動しております!)

(ご主人様!このショーユで焼いた魚、わたしとっても好みです!すっごく美味しい!)

(主様!このミソで作ったスープが絶品すぎます!いくらでも入ってしまいます!)

(あ、あるじさま!このにくもさかなも、め、めちゃくちゃおいしいんだな!)

(主様~!おいらこのミソとショーユっていうの?めっちゃくちゃ気にいっちゃった!これ塗って焼くだけで肉めっちゃ美味しくなるね!)




実際に食べてみたシェリル達は、リンが作ったミソとショーユを使った料理を大絶賛。


全員がとても幸せそうに、美味しそうに食べてくれて、リンもとても嬉しくてにこにこ笑顔が浮かんでいる。

もっと欲しそうな顔をしているシェリル達に追加で作って、それを食べてもらい…

その間にリンは拠点の地下一階に移動して、そこにいるみんなにも食べてもらおうと、地下一階のキッチンで料理を始めることにした。




――――




「リ、リン君!このミソとショーユを使った料理は絶品だね!コメが進む進む!」

「お、美味しい!美味しいですリン様!」

「リンちゃん…これはコメが進んで仕方がない程美味しいよ!」

「リン様!まさかミソとショーユの製造に成功するとは…」

「リン様!とても美味しいです!」

「リンちゃん!これすっごく美味しい!」

「お兄ちゃん!すっごく美味しくて、もっとコメ食べたくなっちゃう!」

「旦那様!こんなにも美味しい料理を食べさせて頂けて…ウチとっても幸せです!」


地下一階にいたジャスティン、エイレーン、リリーシアと、リンのメイド部隊に専属秘書、そして所有施設管理部隊、そして診療所の休憩に入っていたリーファとライラに、リリムとフェリスが、リンが作ったミソとショーユを使った料理を口にして…

その美味しさを大絶賛しながら、凄い勢いで食べている。


「リン様!このミソとショーユも、ジュリア商会からリン様生産の商品として出させて頂いても、よろしいのでしょうか!?」

「…は、はい。い、一回、に、す、数トン、は、つ、作、れる、し、せ、設備、を、つ、作れば、ぼ、ぼく、で、な、なく、ても、つ、作れる、ので…」

「!す、凄いですリン様!でしたらすぐに商会の幹部達と詳細を詰めさせて頂きますね!」

「あ、あり、がとう、ご、ござい、ます」

「!もお~リン様ったら!むしろこちらの方がありがとうございます、ですよ!リン様がうちの商会のオーナーになってくれて、業績も業務も待遇もとてもよくなっていってるんですから!もっともっとこのジュリアが、リン様の為にリン様が生産してくださる食品を、い~っぱいお売り致します!」

「ジュ、ジュリア、さん、や、み、みんな、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」

「!!~~~~~~~リン様!!心の底から愛してますう~~~~~~~!!」


そして、リンの手料理をとても美味しそうに食べているジュリアから、リンが製造したミソとショーユを、商品として出してもいいかとお伺いと立ててくる。

ジュリアのお伺いにリンは少し考えるものの、最終的には召喚獣だけで運用できる設備を作ってしまえば自分でなくても永続的に生産はできるから問題ないか、と思い、商品として出すことを許可する。


その返答にジュリアは諸手をあげて大喜びし、すぐに商会の幹部達と商品化に関して詳細を詰めようと、うきうきしながら笑顔を浮かべている。

一つの商会を起ち上げたジュリア達なら、きっといい形にまとめてくれるだろうと思い、リンはそんなジュリアに笑顔で感謝の言葉を贈る。


「リ、リン君!できれば我がジャスティン商会でも、このミソとショーユを取り扱いたいのだが…卸してもらえるだろうか?」

「は、はい。ジャ、ジャスティン、さ、さん、が、よ、喜んで、く、くれる、なら…」

「!ありがとうリン君!君のおかげで、我が商会はもっと喜びに満ち溢れることとなるよ!」

「ぼ、ぼく、も、い、いつも、ま、魔物、の、そ、素材、とか、オ、オーク、ション、で、う、売って、も、もらって、ま、ます、から…と、とても、た、助かって、ます」

「!!何を言うんだいリン君!!それも含めて我が商会はとても利益を出せていると言うのに!!君はまさにこの世に降りてきた天使そのものだな!!」

「そうですよリン様!!このイリスも、リン様の専属秘書にして頂いて、どれ程の幸せを頂けているか!!リン様、このイリスは、何があろうとリン様をずっと、心の底からお慕いしております!!」


さらに、ジャスティンからもリンが製造したミソとショーユを卸してほしいと、お伺いが来るのだが…

リンはそれを二つ返事で了承する。


そして、一気には出せない高級魔物素材や、リン自身が作っている武具類に魔導具、薬品類などのオークション売買を一手に引き受けてもらっていることへの感謝を、リンはとても嬉しそうに言葉として贈る。

そんなリンが本当に天使そのものだと、ジャスティンもイリスも思えてならず…

ますます二人はリンのことが大好きになってしまう。


「リン様!リン様の宿屋、レストラン、冒険者ギルドの食堂で、今リン様が作ってくださったような料理を出せば、もっともっとコメを好きになってくれるお客様が増えると思います!」

「ですので、ぜひこのミソとショーユを使わせて頂ければ!」

「は、はい。お、お願い、し、します」

「!あ、ありがとうございます!」

「これでリン様の宿屋、レストラン、冒険者ギルドの食堂はますます繁盛致します!」


そして、リン所有のお食事処となる宿屋、レストラン、冒険者ギルドの食堂でもミソとショーユを使わせてほしいとの所有施設運営部隊からのお伺いにも、リンは二つ返事で承諾。

そんなリンの返答に、それぞれのお食事処で今後の売れ筋間違いなしの新メニューができると言う確信に、ますます繁盛すると管理部隊の者は大喜び。


自分が作ったもので、こんなにも多くの人が喜んでくれる。

幸せになってくれる。


そのことが嬉しくて、リンの顔には可愛らしいにこにことした笑顔が絶えないのであった。

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