第202話 調査④
「お、王家の監査だとおおおおおおおお!!!!????」
「は、はいっ!!それも国王陛下の勅命ですので…」
「(ま、まずいまずいまずいまずい!!このままでは私の地位が!!)」
ドグサレ商会の会頭となるドグサレが、神の宿り木商会との会談に訪れ…
それまでの悪事の決定的な証拠を掴まれ、第一王妃となるエリーゼ直々の命で拘束されて数日。
ドグサレ商会の本部は、王家より編成された監査部隊が到着し、一切の容赦のない厳密な監査の結果…
事前に神の宿り木商会の諜報部隊が調べ上げた場所に、これまでの悪事の決定的証拠が残されており、違法に捕えていた奴隷達も無事に発見された。
まだ正式な決定には至ってはいないものの、ドグサレ商会は完全に取り潰しが確定。
加えて、商会の財となるものは全て国が没収、会頭のドグサレ含む商会の関係者は全て無期懲役、国の労働奴隷として生涯鉱山での労働を命じられることとなる。
さらに翌日、グドン名誉子爵の屋敷にも国の監査が抜き打ちで入ることとなり…
そこでも、神の宿り木商会の諜報部隊が事前に調べ上げてくれたおかげであっさりと不正や犯罪の証拠の押収、そしてドグサレ商会から買い上げた違法奴隷の救出が成されることとなった。
また、グドン名誉子爵は以前に、今は神の宿り木村で黄昏商店を営むエイミの家族を、不当な理由で追い出したあげくエイミの両親を冒険者を雇い殺害したこと…
それのみならず、同じようにキーデン領地の民を不当な理由で虐げてきたことも今回の監査で発覚することとなり…
元々名誉子爵である為領地もなく、一代限りであり、その上領地経営の能力など皆無であることから、当然ながら爵位は剥奪。
屋敷含む財産は全て国が没収、屋敷の使用人及び関係者は全て国の労働奴隷として無期限に国が命じる労働を強制されることとなる。
そして当主となるグドンは、キーデンの公開処刑場にて領民の晒し者になりながらのギロチンによる死刑の判決が下された。
また、犯罪組織となる闇ギルドも、以前よりその存在を知っていたにも関わらずなかなか尻尾を掴めなかったのだが…
こちらも神の宿り木商会の諜報部隊が調べ上げてくれたおかげで、相手に逃げる隙も与えることなく一網打尽にすることができた。
当然、ギルドの財は全て国が没収、ギルド関係者は一人残らず死刑が確定することとなった。
「なんと……この私が違法奴隷の購入をしてしまうとは……」
そして、図らずとも違法奴隷の購入と言う罪を犯してしまったキーデン伯爵だが…
国の監査部隊からその事実を、加えてグドンが提示した奴隷商認定の書類が偽造だったことも知らされ、心底申し訳なさそうに肩を落としてしまう。
サンデル王国では、違法奴隷で商売をすることはもちろん、購入するのも大罪となる。
その為、キーデン伯爵には情状酌量の余地があるとは言え、厳罰は免れない。
「偉大なる国王陛下、第一王妃の信を裏切るような結果になってしまったこと、申し開きもありませぬ。どうかこのキーデンに、陛下からの厳正な裁きを」
キーデン伯爵は、領主としては可もなく不可もなくと言った、お世辞にも傑物とは言えないが、かと言って愚物とも言えないと言う評価。
だが、民を決して食い物にせず、民を蔑ろにするようなことのない清廉な人格は、領民からも一定の支持を得ていた。
そして、何より
「はくしゃくさまは、ぼくたちにとってもやさしくしてくれたの!」
「はくちゃくちゃま、わたちにやちゃちくい~っぱいおちえてくれたの!」
「はくしゃくさまは、おれにしようにんのしごとをあたえて、どれいからかいほうしようとしてくれたんです!」
「そんなはくしゃくさまが、わるいことをするなんてしんじられません!」
「はくしゃくさま、どうなっちゃうの?」
「はくしゃくさまをいじめないで!」
当のキーデン伯爵に購入された違法奴隷となる子供達が、キーデン伯爵にどれ程よくしてもらってきたかを懸命に訴え…
キーデン伯爵を護ろうとしてきたのだ。
キーデン伯爵が購入した奴隷達は、誰一人としてキーデン伯爵を悪く言うことなどなく…
それどころか、とてもよくしてもらえたと言うことしか言ってこなかった。
そもそもキーデン伯爵は、幼い身の上で奴隷となってしまった子供達を救おうとして購入したと言う経緯だった為、子供達を慈しむのは当然であったと言える。
加えて、そんなキーデン伯爵の人格を知っている領民達からも減刑の嘆願の声が相次いで届くこととなった。
その為、本来ならば最低でも爵位のはく奪と領地及び財産の没収は避けられないはずの、違法奴隷の購入と言う罪を犯したキーデン伯爵だったのだが…
爵位、領地はそのままに、財産の五分の二の没収、今後一年間は国からの監査の元に領主としての実務を全うする、と言う…
違法奴隷絡みの犯罪を犯したとは思えない程の軽い罰で済んだのだ。
「おおお……こんな私をかばってくれた子供達、そして領民達……私は皆の為にも、今後はより民が幸せになる領地作りをしていかねば……そして、まだ私に領主としての任をお与えくださった陛下の為にも……このキーデン、粉骨砕身で勤めていかねばならぬ!!」
キーデン伯爵は本来ならば罪人として裁かれていた身であり、それが多少制限はあれどこれまでのように領主として働けることを心から喜び…
愚かな自分を救ってくれた奴隷の子供達と領民、そして自分を領主として置いてくれた国王マクスデルに心からの感謝の念を抱き、今後は今まで以上に領主として民が幸せになる為、粉骨砕身で領地経営に臨むことを誓う。
そして、その直後に王城にて謁見があると言うことで、キーデンの領地を代官に任せ、王都チェスターまで出向いて国王マクスデル、第一王妃エリーゼとの謁見に臨んだキーデン伯爵。
謁見場所が二人の寝室であることに、さすがに疑問を抱かずにはいられなかったのだが。
「キーデン伯爵…そなたに会ってもらいたいお方がいる」
「そのお方は、間違いなくキーデンの領地によき未来をもたらしてくださいますわ」
そんなマクスデルとエリーゼの言葉の後、寝室の何もないはずの壁がまるで扉のように開き…
一人の少年が姿を現したことに、キーデン伯爵は驚愕の表情を浮かべる。
「は、はじめ、ま、まして。ぼ、ぼく、リ、リン、って、い、言い、ます」
「へ、陛下…この少年は…」
「このお方…リン様は、このサンデル王国の守護神様なのだ」
そんなマクスデルの言葉に、キーデン伯爵は一瞬、何を言われたのか分からなくなってしまう。
だが、リンがサンデル王国王家に代々伝わる『王家の友』をその首から下げていること…
そして、リンが【雷】属性の魔法を自在に操れるところを実際に目の当たりにしてしまう。
その光景は、マクスデルの言葉が紛れもない真実であることを、間違いなく証明するものとなった。
そして、キーデン伯爵はこのサンデル王国が緩やかに国営が傾いている、まさにこの時にこの国で伝説とされる守護神が降臨してくれたことに、言いようのない程の感動を覚え、涙が溢れて止まらなくなってしまう。
さらに、リンが元は数十人規模の小さな小さな、国が見捨てた町であるスタトリンをたった数ヶ月と少しで数万人規模の小国として独立まで導いたこと…
そして、中位以上の脅威度の魔物十万超の大氾濫を、実質たった一人で退け、スタトリンのみならずこの大陸を救ってくれた救世主であることを、マクスデルとエリーゼから聞かされ…
まさにこの世に生きる救世主が、自身の目の前に現れたことを確信し、絶対の忠誠心が芽生えてしまう。
「リン様!!私はキーデンの領主を担わせて頂いているキーデン伯爵と申します!!知る由もなかったとは言え、違法奴隷の購入などを仕出かした罪人たる私が、守護神様にお会いさせて頂けたこと…大いなる喜びで心がいっぱいです!!」
「ぼ、ぼく、キ、キーデン、は、伯爵、が、よ、喜んで、く、くだ、さって、う、嬉しい、です」
「!ああ……なんと、なんと尊く優しい御心をお持ちなのでしょう…このキーデン、リン様に生涯の忠誠をお誓い致します!!」
自分の喜びを、我が事のように喜んでくれるその天使のようなリンの笑顔に、キーデン伯爵はリンのそばで跪き、その場で絶対の忠誠を誓ってしまう。
「キーデン伯爵…リン様はスタトリンとサンデル王国の守護神様であると同時に、あの神の宿り木商会の会頭でもあるのですよ」
「!!な、なんと…あの超優良商会と評判の…」
「キーデンの領地で困りごとがあるのでしたら、リン様の神の宿り木商会に相談をさせて頂くとよろしいですわ。今は我が王家も直接契約を結ばせて頂いて…もうすでに国の備蓄に国庫の問題などを解決して頂いてますわ」
「!!リ、リン様!!このキーデン、領民と奴隷として購入した子供達に救われた恩を返す為にも、民が幸せになる領地作りに励みとうございます!!どうか、どうかリン様の、リン様の商会のお力を、お貸し願えますでしょうか!?」
「ぼ、ぼく、は、伯爵、と、キ、キーデン、の、領地、の、ひ、人達、が、よ、喜んで、く、くれる、なら、きょ、協力、さ、させて、ほ、ほしい、です」
「!!あ、あああ!!リン様!!ありがとうございます!!このキーデン、国王陛下と第一王妃殿下、そして守護神であるリン様の為、国に尽くす所存でございます!!」
そして、エリーゼからリンが神の宿り木商会の会頭であり、王家との直接契約を結んでいること、すでに国の備蓄に国庫の問題を解決してもらっていることを聞かされ…
キーデン伯爵は、自らの領地をより良くするためにリンの助力を求める。
リンは、そんなキーデン伯爵の願いを快く承諾。
しかも、領主となる自分と領民が喜んでくれるならと、笑顔で引き受けてくれたリンのどこまでも優しい心に、キーデン伯爵は感激の涙が止まらない。
キーデン伯爵は、リンを守護神として崇め、神に仕える思いでリンに尽くそうと、心の底から思うのであった。
――――
「リン様!!できましたぜ!!」
王都チェスターでの謁見が終わり、キーデン伯爵が自身の領地に帰ってきた。
取り潰しとなったドグサレ商会の本部跡地に、領主となるキーデン伯爵の許可を得て、神の宿り木商会の建築業者が商会の拠点となる事務所を建設。
場所がキーデン伯爵の屋敷に近いこともあり、キーデン伯爵が商会に相談事を持ち込む時の会合場所として…
もちろん他の商会、商店、商人の交渉場所としても運用していくこととなる。
国境となる峠に作られた拠点と同様の建築物となっており、もちろん奥の事務室に見せかけた応接準備室には、リンの生活空間につながる扉が設けられている。
また、エイレーンの希望で交渉時に荒事に持ち込もうとする不届きな輩を幽閉する為の地下牢も同じように作られている。
「あ、あり、がとう、ご、ござい、ます」
「いえいえ!神の宿り木商会の拠点がじょじょに増えていくのは、わし達にとっても嬉しいことでさあ!」
「リン様にお喜び頂けるのは、本当に嬉しいですぜ!」
建築業者の職人たちも、こうして神の宿り木商会の支店や拠点が増えていくのは本当に喜ばしいことであり、いい仕事をしたと言わんばかりの笑顔が浮かんでいる。
「リン様!!リン様の神の宿り木商会の拠点がこのキーデンにできたこと、領主として本当に喜ばしいことでございます!!ここにはジャスティン商会の支店もあるので、これから経済が活性化する未来しか見えませぬ!!」
神の宿り木商会の窓口と言うべき拠点が、キーデンの町にできたことを領主となるキーデン伯爵が最も喜んでいる。
自身の領地経営の腕を過信せず、ただただ民の為に領地をよくしていきたいと言う思いしかないキーデン伯爵にとって、そのことを相談できる先ができたのは嬉しいことこの上ないことである。
すでにキーデン伯爵の屋敷でも、リンの貸倉庫サービスとごみ処理事業の契約を済ませており…
屋敷はもちろん、領地でも悩みの種となっていたごみの処理、そして安全かつ利便性の高い倉庫の件が最高の形で解決したこともあり、キーデン伯爵はますますリンへの敬愛心と忠誠心が満ち溢れてきている。
「リン様…私はリン様の御心に沿わせて頂き、この領地を笑顔と幸せでいっぱいにさせて頂きます!!もう幼い子供が奴隷にされるようなことなどないよう、しっかりと領地経営をさせて頂きます!!」
「そ、そう、な、なったら、ぼ、ぼく、も、う、嬉しい、です。ぼ、ぼく、は、伯爵、の、お、お手伝い、い、いっぱい、します」
「!!リン様!!ああ……このサンデル王国の守護神様!!リン様は、このキーデンのみならず、領地全ての恩人でございます!!ぜひいつでも我が領地、我が屋敷においでください!!最高のおもてなしをさせて頂きます!!」
領地の膿を吐き出してくれたリンは、キーデン伯爵のみならず、領地にとっても恩人中の恩人となった。
グドン名誉子爵に虐げられる民もいなくなり、それをバックにしたドグサレ商会の横暴に苦しめられる民もいなくなった。
さらには、どうしようもなくなって廃業し、路頭に迷っていた商人をジャスティン商会と共に救いの手を差し伸べ、それぞれで雇用していった。
どちらで雇用されても、リンの生活空間にある居住地で住処までもらえて、とても穏やかで幸せな生活を送ることができ、職場は仕事が最高に楽しく、同胞となる従業員も優しく温かで、最高の職場となる。
「リン様!!路頭に迷っていたあたしを拾ってくださり…さらにはこんなにも素晴らしい商会の一員として住処まで与えて下さって、本当にありがとうございます!!あたし、もしリン様がよろしければ商会に来る交渉の担当をさせて頂きたいです!!」
「リン様!!わたしにもよろしければ、この神の宿り木商会の顔として交渉を担わせてください!!大恩あるリン様の為にも、絶対にいい条件を勝ち取ってみせます!!」
「リン様!!」
「リン様!!」
そうして、新たに雇用した従業員のうち十数名が、神の宿り木商会の交渉担当として志願し、ジュリアとイリスを長とした交渉部隊が設立することとなった。
全員が個性はあれど、見目麗しい美貌を持つ若い女性であり、商会の顔として華やかさが増すこととなり…
誰もが大恩あるリンの為にと、上司となるジュリアとイリスから交渉についての指導を受けながら、神の宿り木商会の顔としてしっかりと交渉に臨むようになった。
交渉部隊にはジュリアとイリスはリンの専属秘書となる為、いざという時に出張ってもらうこととなり…
今順調に増えている商会の拠点に最低一人が常駐してもらい、神の宿り木商会に交渉を持ちかけてくる商人の応対、さらには建築や鍛冶など、商会に直接持ち込まれる超高額依頼なども対応してもらうようになった。
「ぼ、ぼく、こ、交渉、って、す、すっごく、に、苦手、だから、み、皆、さん、がし、して、く、くれる、の、す、すっごく、う、嬉しい、です。あ、あり、がとう、ご、ござい、ます」
「(はあ…リン様がお喜びくださってる…嬉しい…♡)」
「(ああ…リン様の笑顔…本当に天使様…可愛すぎます…♡)」
「(リン様…恐れ多くもわたし、リン様を心から愛しております…♡)」
「(リン様…リン様…♡)」
自身が最も苦手とする交渉を自ら志願して、交渉部隊を設立してくれたことがとても嬉しくて、リンは心からの感謝の思いを、まさにこの世に舞い降りてきた天使のような愛らしい笑顔で言葉にする。
その言葉と笑顔に、交渉部隊の隊員は全員心を奪われ…
リンの為ならばと、日々交渉人としての実力を磨く為の努力を惜しまず、商会で生産される商品について居住地でリサーチし、さらには諜報部隊が収集してくる市場調査の情報も活用して、常に交渉で優位に立てるようにと準備を怠らないように取り組むようになった。
ただ、リンを愛する想いが溢れてどうしようもなくなり、全員がリンを見かける度にリンをめちゃくちゃに可愛がることとなってしまう。
加えてキーデン伯爵の屋敷に訪れる度に、リンは今代の救世主、そして国の守護神として手厚いおもてなしをされることとなり…
特に女性の使用人からはめちゃくちゃに可愛がられることとなってしまうのであった。
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