第184話 拡大
「ジャスティン様!エイレーン様!リリーシア様!今日も多くの移民希望者が、このスタトリンに来てくださいました!」
「おお!それは嬉しいことだな!」
「一体、どのくらい来てくれたんだい?」
「詳細は、どのようになっているのでしょうか?」
「はい!総人数でちょうど二千人となっております!」
「内訳が…人族が五百人、豚人族、馬人族、兎人族がそれぞれ四百人ずつ、犬人族、猫人族、狐人族がそれぞれ百人ずつとなっております!」
この日もまた、スタトリンに多くの移民希望者が押し寄せてきている。
しかもこの日の内訳では、獣人が圧倒的に多くなっている。
豚人族は、人の姿を
種族特性で男女共にふくよかでずんぐりむっくりな体形がほとんどとなっている。
その為鈍重で敏捷性に乏しい傾向だが、その肉厚ゆえの防御力の高さと、重量ゆえの重心の強さは特筆もので、戦闘における盾役として非常に信頼がおける者が多い。
魔法こそは使えないものの、種族特性として魔力による身体強化を可能としており、それを使うことでさらに強固な盾として、味方を護ることができる。
ちなみに派生の種族として、猪人族がおり…
外見は基本的に豚人族と同じだが、下顎から雄々しく生える牙が大きな違いとなっており、全体的に毛深く豚人族よりも寒さに強く、暑さに弱い傾向にある。
また、その鈍重な身体を支える強靭な下半身から繰り出す体当たりが非常に強力で、攻撃もこなせる盾役として、戦闘力は高い傾向にある。
また、どちらの種族も食べることに目がなく、美味しいものが食べたくて自ら料理人になったりする者も多く、種族特性として料理が上手な傾向にある。
馬人族は、全体的に男女共に痩身だが非常に筋肉質となっており、特に下半身の筋力が人族と比べても遥かに強い傾向にある。
外見的特徴として、人の姿に馬の耳と尻尾があり、少年(少女)期から大人びた容姿となる者が多い。
基本的な移動速度が速く、その上持久力まで兼ね備えているので、長距離を人族よりも遥かに短い時間で移動することができる。
加えて、種族特性として敏捷性が高く、その強靭な足腰から繰り出される蹴り技の威力は特筆ものであり、近接格闘特化の前衛として戦闘で力を発揮できる。
動物の馬と違い、肉も食べることはできるのだが、やはり野菜の方が好みと言う個体が圧倒的に多く、特に人参には目がない。
兎人族は、外見的特徴として人の姿に兎の長い耳と丸くふんわりした尻尾がある。
馬人族とは対照的に幼げで小柄な容姿の者が多く、特に女は可愛らしくもメリハリのあるスタイルをした個体が多い為、その手の趣味趣向を持つ悪の者の慰み者として狩られることも非常に多い。
戦闘能力は低いものの敏捷性が高く、逃げ足の速さは特筆もので、しかもその長い耳は非常に高い聴力を備えており、周辺の魔物や隠者の存在を察知したりするのに向いている。
その為、領地で防衛するにあたっての斥候役で力を発揮する。
こちらも馬人族同様、肉を食べる個体もいるが基本的には菜食主義者が圧倒的に多く、特に人参には目がない食性をしている。
犬人族は耳や尻尾の形が多種多様で、それによって容姿の可愛らしさ、美しさ等がかなり分かれてくる。
その為、多くの好事家の愛玩奴隷として、闇の奴隷商会に非合法に奴隷に落とされたりすることも多く、種族として人族を毛嫌いする傾向にある。
種族特性として、嗅覚が非常に敏感である為調査に向いているのと、特定の者や一定のルーチンに従って、と言う性質の者が多い傾向にある。
魔力がなく魔法は使えないものの、身体能力は人族と比べてかなり高く、純粋な肉弾戦はお手の物。
特に集団で統率されている時の強さは計り知れない。
猫人族も犬人族同様、耳や尻尾の形が多種多様で可愛らしい容姿や美しい容姿の者が多く、愛玩奴隷として人気が高い為闇の奴隷商会に非合法に奴隷に落とされたりすることが多い。
その為、種族として人族を毛嫌いしている。
種族特性として、直感が強く危険察知能力が高い為、斥候としての適性が高い。
そして、犬人族とは対照的に集団行動を好まず、単独行動を好む性質となっている。
全体的に夜行性の傾向にある為夜目が聞き、敏捷性も高い為暗躍や暗殺にも向いている。
魔力がなく魔法が使えないものの、身体能力は人族と比べてかなり高い。
犬人族が力の方に長けているのに対して、猫人族は素早さに長けている。
正面からの攻撃ではなく、遊撃部隊として敵の死角から個体個体で自由に攻撃、と言うのが非常に強い。
狐人族は数多い獣人族の中で非常に希少な、魔法の力に長けた種族。
その反面、身体能力こそ他の種族に劣るものの、魔法に関しては複数属性を普通に扱える者が多い。
また、容姿も可愛らしいタイプと美しいタイプがそれぞれあり、犬人族や猫人族同様に整った容姿の者が多い為、愛玩奴隷として捕らえられることが非常に多い。
使える魔法の種類は個体によって異なってくるものの、攻撃、補助、防御、回復など多種多様に使いこなせる傾向にある為、戦闘では後衛としてうってつけの存在であり、普段の生活においてもその魔法の力で便利にすることができる。
ちなみにこの狐人族も、人族と同じで男より女の方が魔法の力が強い傾向にある。
その為、種族の中では男より女の方が地位が高い傾向にある。
「二千人!…そんなにも一気に…」
「しかも、獣人がそんなにも…」
「凄いです!もうこれでスタトリンの総人口は三万人を超えます!」
この二千人の移民希望者を受け入れると、スタトリンの総人口は三万人を突破する。
一万人を超えてから、わずか一月程しか経っていないにも関わらず、それ程に人口が増加していっている。
日に日に発展を続けるスタトリンの噂は、水滴が水面に波紋を浮かべるかのように日々広まっていき…
移民希望者の数は、増える一方なのだ。
本来ならば、それ程急激な人口の増加を、スタトリンのような小規模の領地しかない町が受け入れられるはずなどないのだが…
そこはリンの生活空間を活かして作られた、リンの集合住宅の拡張領域、そして新生冒険者ギルド登録の冒険者御用達となる野営地が十分過ぎる程に補ってくれている。
加えて、リンの所有する商業施設への勤務を希望する者は、リンの生活空間に作られた居住地で暮らせる為…
これ程に人口が増加しているにも関わらず、スタトリンは未だに領地の圧迫がほぼ起こっていない。
それどころか、現状でかなり余裕がある程なのである。
町の備蓄は、リンの生産活動や農場はもちろんのこと…
世界樹がリンの生活空間で復活を遂げたこともあり、増える一方。
加えて、新生冒険者ギルドに納品される食用可能な魔物の納品も、多ければ日に数百kgを超えることもあり、肉類の備蓄も増える一方。
その為、時間経過による劣化がなく永久に保存できるリンの収納空間の中には、数千万トンもの食料や食品が保管されている。
おまけに、町の施設や設備に必要な消費魔力は、リンの天文学的な数値にまで膨れ上がっている魔力があれば微々たるものであり…
未だに税金は一人あたり銀貨四枚と言う住民税のみでありながら、町の税収は増える一方となっており…
それをいつでもリンへの相談事の報酬や、町の維持に使えるようにしている。
「今日の移民希望者の方々ですが、全員がリン様所有の商業施設での雇用を希望しております!」
「その内訳ですが――――」
今回の二千人にも及ぶ移民希望者の全てが、リン所有の商業施設での雇用を希望しており、その詳細を業績管理部隊の隊員が報告してくる。
報告される内訳は、以下のようになっている。
人族
・レストラン
コック…二十人
調理補助…三十人
接客…五十人
・パン屋
パン作り…十人
販売・接客…十人
・集合住宅
管理…十人
・大衆浴場
受付…二十人
・ジュリア商会
販売・接客…七十人
経理・事務…三十人
・冒険者ギルド
受付・事務…五十人
・診療所
医師…五人
受付・事務…十五人
・鍛冶・衣料品店
鍛冶師…五人
裁縫師…五人
販売・接客…十人
・孤児院
家事・育児…二十人
孤児受入…二十人
豚人族
・清掃業者…五十人
・食肉加工施設…五十人
・魚介類加工施設…五十人
・食品包装施設…五十人
・レストラン
コック…二十人
調理補助…三十人
・パン屋
パン作り…十人
・農場…九十人
・防衛部隊…五十人
(うち冒険者登録…五十人)
馬人族
・建築業者…五十人
・木材加工…二百人
・配送業者…五十人
・農場…五十人
・防衛部隊…五十人
(うち冒険者登録…五十人)
兎人族
・清掃業者…百人
・レストラン
接客…五十人
・パン屋
販売・接客…十人
・ジュリア商会
販売・接客…五十人
・農場…九十人
・防衛部隊…百人
(うち冒険者登録…百人)
犬人族
・食肉加工施設…二十人
・食品包装施設…二十人
・農場…二十人
・防衛部隊…四十人
(うち冒険者登録…四十人)
猫人族
・魚介類加工施設…五十人
・防衛部隊…五十人
(うち冒険者登録…五十人)
狐人族
・食肉加工施設…二十人
・魚介類加工施設…二十人
・食品包装施設…二十人
・農場…二十人
・防衛部隊…二十人
(うち冒険者登録…二十人)
リンが所有する商業施設は今、業績管理部隊と従業員の提案もあってさらに増えている。
清掃業者は文字通り、町の清掃を定期的に行なう業者となっている。
だが、それとは別に一般家庭や店舗から依頼が来た時にも個別に清掃を請け負うようにもなっている。
清掃に必要な資材は全てリンの収納の魔導具で管理しており、必要な時にそれを使って資材を出すようにしている。
町の清掃はローテーションで、個別依頼の清掃は手空きの清掃員がそれぞれ行ない、他の清掃員は居住地の清掃を日々、行なっている。
木材加工業者は、リンが生活空間に【木】魔法を使って作っている森から木を切り倒し、木材として加工するのを業務としている。
主に建築資材として使うものを優先して加工し、ドワーフや人族の鍛冶師が使う素材の分も加工している。
もちろん、商品として出せるものはジャスティン商会に卸している。
リンの【木】魔法でいくらでも植林ができることもあり、作業員は日々、無理のない範囲で作業を行なっている。
配送業者は、町の中や居住地の中で、物資の移動が必要になった時に請負で配送をしている。
作業員はリンが【闇】属性の【収納】魔法を付与した魔導具を使い、送り主から依頼された貨物を受け取って、指定の送り先へと配送する。
町の中と居住地の中の、比較的短距離の移動となるので依頼一つあたりの売上は少ないが、意外に需要が高く依頼は非常に多い為、かなりの売上を叩き出している。
食肉加工施設は、リンの収納空間に日々大量に収納されていく魔物の肉を、食品として加工していく。
商品として適正なサイズにカットするのはもちろん、日持ちのいい干し肉や燻製にしたり、調味料で味付けして調理をしやすくしたりと、業務は多種多様。
業務の際に試食もできる為、食べることが好きな者が作業者として、日々楽しく試行錯誤しながら商品開発も行なっている。
魚介類加工施設は、食肉加工施設と同様にリンの収納空間に日々大量に収納されていく魚介類を、食品として加工していく。
リンの収納空間を活かして、遠き東の国で親しまれている食文化の『サシミ』を目玉にしつつも、干物にしたり食べやすいように切ったりと、こちらも業務は多種多様。
業務の際の試食もあり、やはり食べることが好きな者が作業者として揃っていて、日々楽しく試行錯誤しながら商品開発も行ない、作業に勤しんでいる。
食品包装施設は、各加工施設で加工済の食品を商品として包装していく。
リンの収納の魔導具を使って、食品ごとに個包装を行ない、ジュリア商会での販売やジャスティン商会へ卸す商品として仕上げる作業をしていく。
包装用の容器もリンが作っている使い捨てのものを使って包装することになり、購入した客が容器は捨てることになるのだが…
それはごみ処理事業でリンの元へと戻って来るので、それらを【浄化】で綺麗にして再利用していく形になる。
ちなみに各加工施設で加工された食品は、当然ながら宿屋の食堂、レストラン、新生冒険者ギルドの食堂でも使われる食材として、重宝されている。
逆に食堂やレストランから、指定する形での加工を依頼されることも多いので、まさに縁の下の力持ちとなっている。
防衛部隊は、新生冒険者ギルドで依頼として出している町の守衛部隊とは別の、リンの拠点、生活空間を護る為の部隊となっている。
リンの生活空間に本部となる拠点を構え、リンの地下拠点と生活空間を守護するのと、それとは別に隊員がローテーションでリンの各所有施設を守護するのを、主な業務としている。
業務の内容が内容である為、戦闘能力の高い獣人が部隊の隊員のほとんどとなっており…
冒険者登録もしていて、冒険者と兼業している者ばかりとなっており、非番の者は自身の鍛錬も兼ねて森やリンの生活空間にある地下迷宮に出て、討伐の依頼をこなしたりもしている。
だが、単純な戦闘だけではなく、非戦闘員でも周辺の偵察や敵の位置を探知する役割を担っており、新生冒険者ギルドから依頼を出しているロクサル率いる諜報部隊と連携を取って情報収集なども行なっているし、非番の時でも採取や町のお役立ち依頼をこなしたりしている。
ちなみに、防衛部隊の本部にもリンお手製の訓練空間があるので、隊員はそちらでも訓練を行なうことができるようになっている。
これは、悪しき人族に命を狙われ、住処を追われ、劣悪な生活環境しかない仲間達を救いたいと言う亜人の従業員達の思いや、貧富の差を突き付けられて貧しく生きることを強要され続ける仲間を救いたいと言う人族の従業員達の思いもあり…
立場上スタトリンの王となるシェリルからも、今後もこの日のように町に流れ着いてくる多くの存在の為にも、雇用の拡大は必要だと断言され…
リンもそんなみんなの言葉に、救える人は全部救いたいと思い、自身が所有する商業施設の拡大、業種の多様化に賛同し…
居住地で幸せに暮らす従業員達や、拠点で暮らす業績管理部隊の意見も交えて、雇用先となる所有施設を増やしていった結果、こうなったのである。
「ふむ…もはやリン君は歩く総合商会のような存在になっているな…これ程多種多様な仕事があって、しかも従業員は全員がリン君の生活空間で暮らせるのだから」
「リンちゃん個人の備蓄も資産もすでにサンデル王国クラスの国二つは賄える程にありますし、今後もその生産量と資産は増える一方です。おまけにリンちゃんの冒険者ギルドも、いわばリンちゃんの非正規従業員と考えるならば、労働力の確保も容易となってます」
「それ程の規模の資産と物資があり、ジュリア商会も有しているならリン君個人で所持している商材の販路を作るのも決して難しくはないはず…なのに販路として、我がジャスティン商会を主としてくれているのは、非常にありがたいことだ」
業種も日に日に多様化していき、その一つ一つの売上は右肩上がりそのもの。
従業員達も非常に好待遇であり、何より誰もがリンに心酔している。
今となっては、もはや崇拝のレベルでリンに仕えることを幸せとしており、誰もがリン所有の商業施設で働くことが喜び以外の何者でもない状態となっている。
その気になれば、ジュリア商会をジャスティン商会のような総合的な商会にして、自身の所有施設だけで販路を拡大させることも不可能ではないのだが…
リンはその方針を選ばず、あくまで提携先として協力関係を結んでいるジャスティン商会を、主の販路として商品の卸先とし、超高級商品のオークションも任せている。
そのことがジャスティンは嬉しくてたまらず、今となってはことあるごとにリンに日頃の感謝の気持ちとして、商会で保有している高級なお土産物や食品などを贈ったりしている。
まさに、この世に生きる神となるリンに、日頃の感謝として供物を捧げるかのように。
「これで、リン様が雇用される従業員の方々も、二万人を超える大所帯となりましたね!」
「リンちゃんの冒険者ギルドに登録している冒険者も含めたら、それ以上の人数になるし、何よりそれだけの人をリンちゃんは受け入れて、幸せに導いていっているのだから…本当に凄いとしか言いようがないよ…」
「うふふ…私、そんなリン様のおそばで暮らせて、本当に幸せしかないです…もっともっとリン様の為にも、リン様のお手伝いをさせて頂きたいです♡」
「ふふ…私ももっともっとリンちゃんの為に、リンちゃんのお手伝いをしたくてたまらないよ♡」
リリーシアも、リンの所有施設で雇用する者が二万人を超えたことを喜ぶ。
リンの施設がさらに発展していくこともそうなのだが、それによってより多くの存在が救われていくことが、何より嬉しかった。
そんなリリーシアにエイレーンも優しい笑顔を浮かべ、二人でこれからもっとリンの為に精いっぱい働こうと、心に誓う。
「わあ~…リンお兄様、ほんとに凄いなあ…」
「はあ…リン様…♡」
「リン様…わたし達メイド部隊は、ずっとリン様の為のメイド部隊です…♡」
「リン様のお世話、もっともっとさせて頂きたいです…♡」
「リン様…♡」
「リン様…♡」
そんな会話をそばで聞いていたアルスト、そしてリンのメイド部隊を含む、地下拠点で暮らす全ての者達は…
これからもリンに絶対の忠誠を誓い、リンの為に粉骨砕身の思いで働くことを思うと、どうしようもない程の幸福感がその心に満ち溢れてくるのであった。
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