第67話 独立
「そうなのですね!よかったです!」
「いや、本当にリン君様々だよ。まさかあそこまで完璧に修復してくれるとは、思ってもいなかった」
リンがジャスティンからの依頼で受けた、ジャスティンの所有物件の修築。
それを、ジャスティンの期待を遥かに上回る出来栄えでこなしてくれたことを…
今後の展開を改めて話し合おうと、孤児院に訪れ、ちょうど書類仕事を一通り終えたところのエイレーンに語っていた。
エイレーンは、自身が管轄するギルドの登録冒険者であるガイとローザが、よりにもよってジャスティンが所有する物件を荒らして、ひどい有様にしてしまっていたことを内心、とても心配していた為…
ジャスティンから、リンが完璧すぎる程に完璧な仕事をしてくれたことを、非常に満足したことが分かる笑顔で伝えられて、ほっとする。
ちなみにリンは、冒険者ギルドの方に依頼がないかを探しに、ジャスティンと別れてそっちへと向かっている。
「あれならまた、すぐにでも賃貸物件として出すことができるよ。本当にリン君は素晴らしい子だ」
「リンちゃんは、あんなにも希少で有用な能力をいくつも持っているのに…それを自分の為に使うのではなく、誰よりも人の為に使ってくれて…私ももっとリンちゃんに恩返しがしたくて、せめて我がスタトリン支部の総力での支援と、この孤児院の運営を頑張りたいと思っております」
「分かるよ、エイレーン殿…私も、正直に言ってリン君にもらってばかりだよ。だからこそ、リン君にせめてもの恩返しをしたくて、あの子を我が商会の賓客として扱うことを、決めたのだよ」
「!!そ、それは、よろしいのですか?」
「いいも何も、それをここに来る前に本部となるこの町の拠点のみんなに通達したら、全員が総立ちで喜んでいたよ。誰もが、リン君の力になれることを、ね」
ジャスティンは、ギルドに向かうリンと別れた後すぐに商会の本部となるスタトリンの拠点へと戻り、そこで全職員に、リンを商会の賓客として扱うことを宣言。
職員達は、一瞬何を言われたのか分からなかったが、すぐに総立ちでリンを心置きなくおもてなしできること、そしてリンの力になれることを心から喜んだ。
そして、誰もが次にリンが拠点に来てくれるのを心待ちにしており…
来てくれた時は、目いっぱいの心を込めたおもてなしをしようと意気込んでいる。
「このことを職員達に通達したら、誰もが次にリン君が来るのを楽しみにしていたよ。絶対に自分が先におもてなしをするんだ!という思いが見てるだけで伝わってくる程に、ね」
「…そこまでリンちゃんは、ジャスティン商会の方々に…」
「リン君には、私だけではなく商会の職員…スタトリンの拠点の人間は全員がいろいろと助けてもらっているからね。冒険者ギルド スタトリン支部と提携し、リン君を全面的に支援すると通達した時も全員が諸手をあげて喜んでいたよ」
「…我がギルドは、リンちゃんに助けられてばかりです。他の冒険者がなかなか受けてくれない町のお役立ち依頼も、率先して…それもとても楽しそうに受けてくれて…しかも必ず依頼者の期待以上の成果をあげてくれて…それに、貸倉庫サービス、ごみ処理事業、孤児院…どれもこの町になくてはならないと言い切れる程に素晴らしい仕組みをいくつも作り上げてくれて…その上、もし私達が本部から咎められて支部がなくなってしまっても、絶対に路頭に迷わせないように助ける、なんて宣言してくれて…」
「ほう…あのリン君にそこまで言ってもらえるとは…」
「我がギルドの職員達も、リンちゃんの為に動けることがとても嬉しくて楽しいみたいで…誰もがリンちゃんの力になりたいという意気込みでいっぱいです」
「ははは…そちらも我が商会となんら変わりはないようだね」
「はい…」
リンのことを話しているだけで、エイレーンもジャスティンも心がほっこりとしてくるのか…
穏やかな笑顔を絶やすことなく、とても温かな雰囲気を醸し出している。
お互いに、リンにどれ程助けられているのかを思い返し…
少し自嘲気味な笑顔も浮かんでくる。
「ニノおねえたんのおてちゅだい!」
「おそうじ、いっぱいする~!」
「ぼく、おへやのおかたじゅけ!」
「あたちも!」
「ニノおねえちゃんのおてつだい!」
「おてつだい!」
「みんな、ありがとう!ほんとにいい子!」
孤児院の維持と管理の業務の一環で、中の清掃と片づけをこまめに取り組んでいるニノ。
そのニノを手伝う子供達。
ニノのお手伝いができて、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべている子供達。
そんな子供達が可愛くて、手伝ってくれるのが嬉しくて、可愛らしい笑顔を浮かべているニノ。
そんな光景を見て、エイレーンもジャスティンも心が洗われるかのような、清々しい気持ちになってくる。
そして、こんな尊い光景を見られる、この孤児院を作ってくれたリンには、本当に感謝の思いしかない。
「…………」
「?どうか、されましたか?」
不意に黙り込んで、何か考え込むジャスティン。
そんなジャスティンに、エイレーンは疑問符を浮かべながら声をかける。
「……エイレーン殿…この町の現状を、あなたはどう思う?」
「?どう、とは…」
「この町は、魔物に対する防衛線として作られたようなもの…それゆえに、貴族はおろか国も、この地の経営に介入すら、してこない…」
苦々しい表情を浮かべながら放たれるジャスティンの言葉に、エイレーンはハッとさせられる。
このスタトリンは、魔物の巣窟である魔の森のそばに作られた、最前線の防衛ライン。
国の領土に作られた町でありながら、実際には国すらもこの町の経営を放棄しているような状態。
いわば、陸の孤島のような町なのだ。
それゆえに、町の治安も決していいとは言えず…
ゲイツのような守衛の衛兵も、実は国や貴族のお抱えではなく、この町の住人であり、実は冒険者なのだ。
エイレーンの意向で、スタトリン支部が町の為に常設依頼で、町の衛兵の仕事を設けたところに、ゲイツ達が受けたに過ぎない。
無論、他の地域にも魔物は生息しており、その脅威にさらされていると言うのは事実だが…
この魔の森と比べれば、そちらの魔物は格段に弱いと言わざるを得ない。
『栄光の翼』のような例外こそあるものの、このスタトリンを活動拠点としている上位ランクの冒険者は、他の地域の同ランクの冒険者よりもその実力は高い傾向にある。
だからこそ、国の助成も何も期待できない状態であるにも関わらず、町が成り立ち、住人が日々の生活を送ることができているのだ。
強力な魔物素材や、マダラ草のような希少で高価な商材こそ期待できる為、近隣の町に住む商人がこぞって商談に来たりすることはあるものの…
高位の魔物と言う脅威に怯え、どの貴族もこの地を領地とすることを拒んでしまっている。
国の代官も、同じような状態だ。
国はもはや、管理はおろか税収すら放棄する状態となってしまっている。
国に捨てられた町。
それが、このスタトリンと言う町の実態なのだ。
「…………」
かろうじて、冒険者ギルドの拠点が置かれ、その経営がなされているものの…
実際には地図にすら描かれない村のような存在。
しかしそれでも、町の住人はたくましく生き抜いている。
ごみの処理、食い扶持の確保の為に親に捨てられる幼い子供…
それ以外にも、治外法権ゆえの治安の悪さなどもあるのだが…
ごみの処理と孤児の問題は、リンが発案し、仕組みを構築してくれたごみ処理事業のおかげで解決が見込まれている。
同様に、リンが発案、仕組みの構築までしてくれた貸倉庫サービスのおかげで、冒険者の資材管理はもちろん、町の商会、商人、店舗の資材の保管の問題までもが解決に向かっている。
スタトリン支部では、魔物素材の保管や、日々山のように発生する書類、目まぐるしく動く資金の動きを非常に簡潔に管理できるようになった為…
業務の簡略化はおろか、町の資材の一元管理までもが、可能となっている。
「……いっそのこと、この町を国から独立させてしまうのも、いいかもな」
「?え?」
「どうせ国すらも見捨てている町なんだ。ならば私は、この町を独立させて、新しい小国として運営を始めてしまうのもありかと、思っているのだよ」
「!そ、そのようなことが、可能なのでしょうか?…」
「確かに、以前までのスタトリンならば不可能であったかもしれない…が、今の我々には、数々の不可能を可能にしてきてくれた、神のような存在がいるではないか」
「!ま、まさか…」
「そう、リン君を中心として、この町を独立させようと私は考えている」
ジャスティンがぽろりと言葉にした、壮大な計画。
その言葉に、エイレーンは思わず呆気に取られてしまう。
そんな夢物語が、実現できるのか、と思ってしまう。
だが、ジャスティンは数々の町のお役立ち依頼を依頼主の期待以上にこなし…
さらには、貸倉庫サービスにごみ処理事業、さらには孤児院と言う、町にとって必要不可欠となる仕組みを次々と生み出してくれたリンを中心とするならば、実現できると半ば確信している。
「し、しかしそれでは…リンちゃんが…」
だが、ジャスティンのその言葉に、エイレーンは強い抵抗を示してしまう。
重度のコミュ障を抱えているリンに、常に他人との折衝を強要するのは相当の負担を強いることとなってしまう。
何より、リンがいなければ成り立たず、リンを利用するような計画には、エイレーンは賛同することができなかった。
そんなエイレーンを見て、ジャスティンはむしろ安心したかのような穏やかな笑顔を浮かべ、さらに言葉を紡ぎ始める。
「無論、リン君を中心とする、とは言ったが、リン君に表に立ってもらう、とは言わない」
「?と、言いますと?…」
「ただ表に立つだけの存在ならば、この私でも構わないと言うことだよ」
「!で、ではジャスティン様が…」
「ああ、この私が代表として、統治をするつもりだ。そしてその補佐として、エイレーン殿、あなたにご助力を願いたい」
「!わ、私が、ですか?」
「そうだ、あのスタトリン支部を率いて、あのような素晴らしい環境を作り、職員の信頼、人望も厚いあなたにしかできないと、私は考えている」
「わ、私はそれ程のものでは…」
「言っただろう?私はただ、矢面に立つだけだと…領地の経営はあなたと互いに協力して進めてはいくつもりだが…実質的な部分は、リン君に相談役として入ってもらおうと考えている」
「!で、では私とジャスティン様が矢面に立って経営を…しかし実際にはリンちゃんを相談役にして、経営と改革に関わってもらって進めていく、そういうことですか?」
「そうだ、それならばリン君は自由に冒険者活動も、生産活動もできるだろうし、その合間にこちらの経営での困りごとを相談する、というスタンスで行こうと、私は考えている」
ジャスティンの静かな、それでいて熱意溢れる語り口に、エイレーンは引き込まれるような感覚を覚えてしまう。
このスタトリンを、独立させる。
それが実現できれば、リンを護るという使命を果たす為の仕組みが、より強固な形になる。
そして、そのリンに思うが儘に力を発揮してもらうことができれば、この町で暮らす人達の生活はより良いものとなっていく。
そんな未来が、エイレーンの脳裏に浮かんでくる。
「リン君は、間違いなくこの世を救ってくれる英雄…私は、そう確信している。その英雄が、世の苦しむ人々を救う助力として、この町を独立させ、その表向きの代表として、リン君に尽くしていきたい…そう思っている」
「…私も…」
「?エイレーン殿?」
「私も、リンちゃんがその力を自由にふるい、多くの人々を救うことができるように…微力ながら、尽くしていきたい…そう、思います」
「!それでは…」
「はい…私でよろしければ、このスタトリンを独立させるという壮大な計画に、乗らせて頂きたく思います」
「!エイレーン殿が協力してくれるなど、これ程に心強いことはない!リン君の為にも、よろしく頼む!」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
力強い目と声で、自分の壮大な計画に乗ってくれると言うエイレーンに、ジャスティンは諸手を上げて喜びを見せる。
リンがその力を自由に、思う存分発揮する為の土台作り…
それを考えるだけで、二人共わくわくが止まらなくなってくる。
「エイレーン殿、スタトリンの独立に伴い…冒険者ギルド スタトリン支部の独立も視野に入れたいと、私は思っている」
「!スタトリン支部を、独立…」
「そうすれば、利己的で権力主義な本部の有象無象共の意向など、気にする必要もなくなるだろう?」
「は、はい!」
「そうなれば、このスタトリン支部を拠点とする冒険者達も報われるだろうし…何より、リン君の味方となってくれる冒険者を、こちらに一斉に囲い込める。そうすれば、よりリン君の希少な能力への隠れ蓑が強固になってくる」
「我がギルドを拠点としてくれる冒険者達にも報い…職員達ももっと自由に、より楽しく業務に勤しんでもらえて…リンちゃんの支援も…」
「もうすでにスタトリン支部は、町にとってなくてはならない施設となっていて、町の住人からの信頼も厚い。そのような施設があるだけで、これからの独立計画の追い風となりうるよ」
「そのお言葉が頂けて、私はとても嬉しいです!ジャスティン様!スタトリンの独立、必ず実現させましょう!」
「もちろんだとも!私もこれからが楽しみで仕方がないよ!」
まだ何も始まっていない、絵に描いた餅のような夢物語。
だが、ここにはとても頼もしく、心強い仲間がいる。
国内でも指折りの大商会となるジャスティン商会の会頭、ジャスティン。
支部内においてその人ありと人望に厚く、優秀な部下に恵まれているエイレーン。
そして、まだ幼い少年でありながら、神のごとき万能さと希少な能力をいくつも持ち合わせ、その力を人の為に惜しまず使ってくれるリン。
魔物という脅威に晒され、それでも力強く日々を生き抜いている、このスタトリンの住人達。
その住人達の為にも…
何より、リンの為にも…
エイレーンとジャスティンは、この壮大な計画を実現させるべく、今後の方針について嬉々としながら思う存分、語り合うのであった。
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