第24話 発明
「……リン、これは何をしているんだ?」
「リンちゃん、これって、何してるの?」
場所は再び、リンが生成した生活空間の中。
リンが【土】魔法で生成したイスの上に座り、同様に生成した作業台のようなものの上で、きっちりとサイズを測って型紙を作っている。
その作業を見ていたリリムとロクサルが、興味津々な様子でリンに問いかけてくる。
「あ、リ、リリム、お姉さん、と、ロ、ロクサル、さん、に、つ、使って、もらう、為の、か、鞄を、作って、るんです」
二人の問いに、そのコミュ障を発揮しながらも答えるリン。
答えながらも、手は止まることがなく、以前作業を継続している。
「?……鞄?」
「?リンちゃん、作ってくれるのは嬉しいけど…あたしもロクサルさんも、持ってるよ?」
リンの返した答えに、二人は微笑ましい表情を見せながらも、疑問に思ってしまう。
なぜなら、冒険者として活動している二人であるがゆえに、鞄なら持っているから。
それも、それなりの容量がある、大き目の物を。
しかも、リンが作ろうとしているものは、型紙のサイズ感で見る限りは、鞄と言うよりはウエストポーチに近い、かなり小さなもの。
取り回しは楽になるかもしれないが、これではちょっとした小物入れにしかならないのでは?
リリムとロクサルは、そう考えてしまう。
「で、でき、あがったら、わ、分かると、思うんで、と、とにかく、作って、みます」
リンも自分のコミュ障を重々自覚している為、これ以上の説明は自分にはできないと思い…
とにかく、作っていくことにした。
「……ふむ…せっかくの、戦闘以外のことも学べるいい機会だ。リンの作業を、見ていてもいいか?」
「え?は、はい、だい、じょうぶ、です」
「……そうか、ありがとう。邪魔にはならないようにする」
「は、はい」
そんなリンを見て、戦闘のことしか分からない自分が、戦闘以外のことを学べるチャンスだと思ったロクサル。
そのまま、リンの作業を見学することにした。
正直、鞄を作ると言う作業自体、自分では想像もつかないものである為、見ているだけでは何も分からないかもしれないのだが…
自分の世界を広げるには、申し分ない機会だと思うロクサル。
そこからは、じっとリンの作業を、興味津々な様子で見つめている。
「リンちゃん、あたしも見てていい?」
「え?あ、あ、は、はい、だ、だい、じょうぶ、です」
「ありがとう!邪魔にならないようにするからね!」
そんなロクサルに刺激されたのか、リリムもリンの作業を見学すると言い出す。
リリム自身も、これと言った特技もなく、戦闘能力は皆無と言っても差し支えない状態。
だからこそ、リンの作業を見ることで、自分にできる何かを増やすことができれば、と思っている。
そこからは、三人共終始無言。
リリムとロクサルは、リンの作業の一つ一つを凝視し、何をしているのかを理解しようとしている。
これまで見たことのない風景と言うこともあり、その作業は二人の興味を大いに惹いている。
リンは、すでにイメージしていた形の通りにサイズを測り、型紙を形作っていく。
そして、その型紙ができあがると、収納空間からアイボリー色の厚い布地と、何かの皮のような物を取り出す。
「?……リン、それは?」
取り出された皮のような物がなんなのか分からず、好奇心を抑えきれなかったのか…
ロクサルは、リンの手を止めてしまうと思いながらも問いかける。
「あ、こ、これは、オ、オーク、の、皮、です」
「……オークの皮…それを、どう使うんだ?」
「こ、これを、鞄の、外側の、生地、として、使います」
「……そうすると、どうなるんだ?」
「そ、それで、鞄、そのものの、強度を、あ、上げられる、んです」
「!……なるほど…魔物の皮は防御力も高い…それを鞄に使うことで、鞄自体を丈夫なものにできる、ということか」
「そ、そうです」
「……ありがとう…手を止めて済まなかった、続けてくれ」
好奇心旺盛なロクサルは、リンの回答を実に興味深く聞き、そこからキャッチボールをするように質問を重ねていく。
自分の知らなかったことを、一つずつ知っていくことが楽しくて、ロクサルの顔に楽し気な表情が浮かんでくる。
リンも、自分との質疑応答でロクサルが楽しんでくれていることが嬉しくて、思わずその顔を綻ばせてしまう。
そして、作業を再開していく。
そしてリンは、作り終えたばかりの型紙を使って布地とオークの皮を、鞄のパーツ一つ一つに切り分けていく。
そのパーツ達を、布地とオークの皮を重ねて手際よく縫い合わせていき、どんどん鞄としての形を作り上げていく。
さらに、ベルトになるであろう部分に、鉄を加工することで作り上げたバックルを装着し、使う人の腰のサイズで調整ができるようにしていく。
「……おお」
「わ~…」
その手際のよさに、この作業自体を初めて目の当たりにするリリムとロクサルは、思わず感嘆の声を上げてしまう。
それは二人にとって、見ているだけでも楽しいと、思えるものとなっている。
そんな楽しい作業風景も、十分も過ぎようとしたところで、終わりを迎える。
腰に巻くベルトに付属する、まさにウエストポーチとして完成を迎える。
「……鞄と言うのは、こうして作られるものなんだな…初めて見たよ」
「リンちゃんがすっごく手際よく作っていくの見てて、なんかすっごく楽しくて!」
一つの物を作り上げる、生産と名の付く作業。
鞄と言う、一つの物が人の手によって作り上げられていく、その作業工程。
それを目の当りにしたリリムもロクサルも、子供のような興奮を隠せないでいる。
魔法や技能と言ったものを使わず、ただの手作業でこれだけのものを作り上げたリンを、二人は尊敬の目で見つめる。
「え、えっと…ま、まだ、これで、終わり、じゃ、な、ないんです」
「?……え?」
「そうなの?」
鞄そのものは完成しているのに、まだ作業に続きがある、と言い放つリン。
その言葉に、リリムとロクサルは間の抜けた反応を見せてしまう。
リンは、作り終えたばかりの鞄二つに、魔力を注ぎ、己の持つ技能を付与し始める。
付与する技能は、【空間・収納】。
ただし、鞄に付与する機能はあくまで限定する。
収納空間への入と出の機能、収納物検索の機能、そしてリンが持つ広大な収納空間への出入り口を鞄に魔力を注ぎ、付与していく。
ベルトのバックルを魔力の注入口とし、製作者と、製作者以外で最初に魔力を込めた者の魔力しか受け付けないようにする排他制御も追加。
また、鞄そのものを紛失した時の為に、登録されている魔力の者が鞄を身に着けずに、一定期間が過ぎた場合は、自動的にリンの収納空間へと収納される、紛失防止機能も追加する。
一通りの機能を鞄に追加し、動作検証を行うリン。
収納空間から試しに物を出す。
出した物を収納空間に収納する。
収納空間に収納されている物の検索。
リンの収納空間へとそれがつながっていること。
以上全てを、制作した二つの鞄で検証し、問題がないことを確認。
「で、でき、ました」
完成した鞄を、リンはリリムとロクサルに渡す。
「て、手とか、背中、とかが、邪魔に、な、ならない、ように、腰に、巻ける、ように、し、しました」
「!……なるほど、確かにこの方が動きやすい」
「でも、このサイズだと容量は少ない、よね?」
リンに言われた通りに、腰に鞄のベルトを巻いて装着感を確認するリリムとロクサル。
鞄の大きさも小さい為、邪魔にならず動きやすいことも確認。
だが、肝心の容量は見たままならかなり少ないのでは、とリリムはその懸念を口にする。
「そ、それは、だ、大丈夫、です。ベ、ベルトの、バ、バックルに、ま、魔力を、こ、込めて、もらえ、ますか?」
「?……あ、ああ…属性を意識せず、普通に込めればいいのか?」
「は、はい、そ、それで、大丈夫、です」
「?これで、何が…」
リンの指示通りに、二人はベルトのバックルに己の魔力を込めていく。
その瞬間、二人の脳内に何かの画面のような物が浮かんでくる。
「!な、なんだ!?これは!?」
「!リ、リンちゃん!?な、なにこれ!?」
品物が一つの絵として表示され、それらがずらりと並んで一覧として形作られている画面。
リンが作ってくれた鞄に魔力を込めた途端、それが脳内に浮かんできたことにより、リリムとロクサルは驚いて、何が何だか分からず困惑してしまう。
「だ、大丈夫、です。い、今、頭の、な、中に、浮かんでる、のは、ぼ、ぼくが、使ってる、しゅ、収納空間の、中身、です」
「!!な、なんだと!?」
「!!ど、どういうことなの!?リンちゃん!?」
「そ、その、か、鞄に、ぼ、ぼくの、収納の、技能の、一部を、ふ、付与、しました」
「!!ぎ、技能の付与だと!?」
「!!こ、これが…」
「た、試しに、な、何か、と、取り出して、み、みて、ください」
「あ、ああ……」
「う、うん……」
技能の付与。
そんな、とんでもないことを言ってくるリンに驚愕しっぱなしのリリムとロクサル。
驚愕しながらも、続けてくるリンの言葉に従い、一覧に表示されている物を適当に選び、『取出』の表示を選択する。
すると、二人が選択した物が、何もないところから自身の目の前にそれぞれ現れる。
一覧を確認すると、取り出した物が一覧から消えていることが分かる。
「こ、これは……」
「す、すごい……」
二人はさらに、今取り出した物を収納してみる。
すると、一瞬にして取り出した物が姿を消した。
一覧を確認すると、ちゃんと収納した物が一覧に表示されていることが分かる。
二人共【闇】属性の魔法が使えない為、収納の技能を使えない。
だからこそ、リンが作ったこの鞄の凄さを実感してしまう。
――――これは、世界の常識を覆すとんでもないものだということを――――
「こ、この、鞄に、ぼ、ぼくの、収納、く、空間を、せ、接続、し、しました。な、なので、ぼ、ぼくが、収納、空間に、持っている、も、ものは、そこから、と、取り出せ、ますし、入れる、ことも、できます」
「!!こ、これはとんでもない道具だぞ!リン!俺達のような魔法に明るくない者でも、収納空間を利用できるなんて!」
「そ、それにリンちゃんの収納空間をこの鞄から使わせてもらえるなんて!リンちゃんの収納空間なら、時間経過もないから作った料理とかもいつまでも作りたてで保存できたり、するのよね!?」
「は、はい」
「だ、だがこれを他人に奪われでもすれば、非常にマズいことに…」
「そ、それは、大丈夫、です。じ、自分の、鞄、じゃなくて、お、お互いの、鞄に、魔力を、こ、込めて、もらっても、い、いいですか?」
「?あ、ああ……」
「?え、ええ……」
二人は、言われた通りにお互いの鞄に、先程と同じように魔力を込めてみる。
ところが、先程は脳内に現れてきたはずの一覧が、現れてこない。
「?こ、これはどういうことだ?」
「リ、リンちゃん?」
「そ、その鞄を、作った、ぼくと、さ、最初に、魔力を、込めた、人、い、以外の、魔力、では、そ、その鞄を、つ、使えない、ように、し、しました」
「!!そ、そんなこともできるのか!?」
「は、はい」
「じゃ、じゃあ仮にこの鞄が盗まれたとしても、盗んだ人はこれを使えないってことなのね!凄い!凄すぎるわ!リンちゃん!」
「そ、それだけ、じゃ、なくて…」
「!!ま、まだあるのか!?」
「一度、ま、魔力を、と、登録、した、人が、その、鞄を、み、身に、着けずに、し、しばらく、経った、場合は、じ、自動的に、ぼ、ぼくの、しゅ、収納空間に、しゅ、収納される、ように、しました」
「……なんて、こった…盗難や紛失、防犯の対策も、完璧じゃないか」
「リンちゃんほんっと凄い!凄いわ!」
リンが作った鞄の数々の機能…
それらを一通り聞かされたロクサルは、リンの生産の能力が人間の領域を超えていることを痛感させられてしまう。
こんなとんでもない、現存する
そして、こんな物を作ってしまえば、奪われた時や秘密を知られた時に絶対に狙われるであろうことも想定して、その対策まで機能として付与する用意周到さも。
鞄の形として作ったのも、ただの鞄を装い、魔道具として悟られにくくする為だと言うことにも、ロクサルは思い当たってしまう。
それも、容量が小さい物にすることでなおさら、このとんでもない機能を持つ魔道具と言うことを悟られにくくする意図があったことにも。
リリムはもう、リンが凄すぎて感動してしまい、ただただリンを褒め称えている。
「こ、これで、ぼ、ぼくの、収納空間を、共有、で、できますので、も、もし、ぼくが、そ、そばに、いなかったと、し、しても、し、資材の、う、受け渡しも、できます、し、ぼ、ぼくが、作っておいた、りょ、料理も、食べてもらう、こ、ことも、できます」
「!!……それは非常にありがたい!!逆に、俺が討伐した魔物も、その収納空間に収納すれば鮮度を保ったまま、ギルドまで持って行けたりするわけだな!?」
「そ、そう、です。収納、さ、されたら、ぼ、ぼくも、分かるので、そ、その、死体、を、ぼくが、収納、の、技能で、解体、しておく、ことも、できます」
「!!……べ、便利すぎる…」
「も、もし、解体、して、ほしく、ない、時は、その、ことを、書いた、メモ、でも、い、一緒に、収納、して、もらえれば、ぼ、ぼくが、それを見て、解体、せ、せずに、置いて、おくことも、できます」
「!!……リン、これは世界を揺るがすほどの大発明だ!こんな凄い物を使わせてもらえるなんて…リン、君は本当に凄い…俺などでは及びもつかないほどに、凄い冒険者だ!」
「そ、そんな……ぼ、ぼく……」
「……むしろ、俺程度の冒険者が君のような凄い冒険者と行動を共にさせてもらっていいのか、恐縮するほどだ!…ああ…俺はなんて、幸せ者なんだ」
リンの収納空間とつながっている、この高機能な鞄の使い道をいくつかリンが出していくと、ロクサルはそのあまりの高機能と便利さに、感動に打ち震えている。
もうリンを、神を崇めるかのような目で見て、褒め称えてくるロクサルに…
リンは恥ずかしさと言いようのない居心地の悪さを感じてしまう。
「リンちゃんリンちゃん!てことは、あたしが町で買い出しとかに行って、買ったものをそのままリンちゃんの収納空間に収納することもできるってこと?」
「は、はい」
「!だったら、買い物とかすごく便利になっちゃう!それに、リンちゃんが今収納してる魔物の素材とかも、あたしとかロクサルさんが売りに行くこともできるよね?」
「は、はい、できます、けど…いいん、ですか?」
「……リン、君の秘密を護り抜くことを考えるなら、俺はリリムの意見に賛成だ。君を不必要に表に出すよりは、その方が安全と俺は考える」
「ロ、ロクサル、さん…」
「……無論、戦闘に関しては君やリム、ナイトの方が圧倒的に上だ。いざと言う時は、君達に全面的に頼ることになる。だから、人との折衝…交渉が絡むようなところくらいは、俺とリリムに任せてくれ」
「そうそう!リンちゃん達が戦闘であたし達を護ってくれるんだから、お使いくらいしないと全然割に合わないし、そのくらいさせてくれなきゃ、あたしも嫌だもん!」
リンが作ってくれた、特別性の鞄のおかげで、リリムもロクサルも、リンの為にできることが多くなったと、素直に喜んでいる。
護らなければならない秘密が多すぎるリンを表に出す必要性を減らす為に、自分達が普段は表に出て活動するのが望ましい。
そして、この鞄はそれを最高と言っていい形で実現できると、二人は確信する。
「ロクサルさん!あたしまた思いついちゃいました!」
「!……どんなことだ?」
「この鞄を使えば、リンちゃんが生産したものを、あたし達が商売人として出していくことも、できるかなって!」
「!それはいい!この生産能力を持つリンが作るものなら、絶対に売れる!…店を構えるよりは、他の店に卸す卸売りのような形が望ましいかもな…俺達自身も、そこであまり目立ちすぎると、どこかで足がつくかもしれない」
「!なるほど!あと、こんな
「……その方が波風も立たなくて済みそうだな。ある程度は高級品として、生活に便利な魔道具なども用意してもらって…というのもあり、かな」
「うわあ!なんか夢物語みたいなのに、すぐにでもできちゃいそうな感じ、しますよね?」
「……全くだ!…そうそう、金銭の管理も、この収納空間があればできるな。何せこの三人が全員で共有できるし、使った後の残金もすぐに分かる」
「!そうですよね!帳簿で管理するにしても、帳簿自体も収納空間で保管できるし、お金もあたし達三人しか取り出せないから、防犯もばっちりですよね!」
「……その通りだ!あとは…」
リンの為に動きたい。
リンの役に立ちたい。
その思いでいっぱいの二人は、自分達ができることをお互いに考え、それをぶつけあっていく。
非常に高い生産能力を持つリンがいるからこそ、それを基にした商売もできるとリリムが言い出すと、金銭の管理も収納空間一つでできるとロクサルが言い出す。
称号【ぼっち】を持っている為、そのコミュ障と付き合わなければならないリン…
そんなリンの為になるように、自分達が矢面に立っていく方針で、二人は楽しそうに嬉しそうに意見をぶつけ合う。
自分の作った鞄の使い道を、こんなにも楽しそうに嬉しそうに語り合ってくれる二人を見て、リンは心の底から喜び、感謝の念と笑顔を贈るので、あった。
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