第128話 移民⑥

こうして、リンとリリーシアが、リリーシアの抱える領地への移動を始めて数日…


その間、リリーシアは自分とリンを狙う魔物の討伐…

リンと野宿をする際の準備の手伝い…

食事の準備の手伝いなどを、リンから教わりながらこなしていった。


そして、攻撃魔法の威力を高める為にも、魔力の制御もリンに教わり、空いた時間を使ってじっくりと鍛錬していった。




名前:リリーシア・エル・サンデル

種族:人間

性別:女

年齢:15

HP:175/175

MP:2081/2081

筋力:51

敏捷:106

防御:39

知力:975

器用:817

称号:一国の王女、サンデル王国第一王女、攻撃魔導士

技能:魔法・4(水、風)

   魔力・4(制御)

   家事・1(料理)→New!!

※各ステータス値は、各称号の影響を受けていない本来の数値。




その結果、わずかながら身体能力が向上し、少しでもあるものの徒歩の移動で疲れにくくなった。

魔力、知力、器用を向上させることができ、より魔法の能力が上がった。

さらには、技能【魔力】がレベルアップ。

加えて、新たに技能【家事・料理】を取得することができた。


まだまだ簡単な調理補助しかできず、包丁を使って具材を切ることや、火を使って調理することはできないものの…

リンの為に、食事の準備を少しでも手伝うことができて、リリーシアは心の底から喜んでいる。

そして、料理をすること自体が楽しくて楽しくて、リンと共に取り組む食事の準備の時間がとても愛おしく、楽しみな時間とさえなっている。


魔力制御のレベルがアップしたことで、戦闘にも食事の準備にもいい方向で影響が出ており…

リリーシアは、少しずつでもリンの役に立てていることがとても嬉しくて、もっともっととリンに教わり、時間のある時には練習に励んでいる。


「リン様のおかげで、私今までできなかったことができるようになってます!ありがとうございます!」

「リ、リリー、シア、さん、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」

「!!えへへ…私もっともっとお料理も魔力の制御もできるようになって、もっともっとリン様のお役に立たせて頂きますね!!」


リンがとても優しく、一緒に取り組みながら教えてくれるので、リリーシアにとってそれが凄く身になり…

リンと知り合ってからわずか数日の間に【魔力】の技能レベルが上がり、さらには【家事・料理】を取得することができた。


もちろんそれは、リンの教え方がよかったからだけではなく、元々リリーシアが持っていた才能が後押ししてくれているし…

何より、少しでもリンの役に立ちたいと言うリリーシアの強い思いが、この成果を生んだと言っても過言ではない。


そして、そうしながら森の中を歩き続けること四日目。


「着きました!……」


森を抜けてたどり着いた、リリーシアの抱える領地。


だが、都市クラスの広々とした領地であるのに対し、その中にはまばらに民家があるのみ。

領地の中央に、おそらくリリーシア専属の文官達が住み込みで領地経営に勤しんでいるであろう、他の民家よりは造りのしっかりした建造物がある。

と言っても、多少しっかりした木造で、広さもそこそこ広い程度のもの。


広々とした領地の周囲は、見事に森で囲まれており…

リン達がスタトリンから来た方向と反対になる、王都側の方向からは、魔の森と比べるとさすがに脅威度は遥かに落ちるものの…

この領地の人々の生活を脅かせるだけの力を持つ魔物が多数、生息している。


領地の食糧事情を支える畑も確かにあるのだが…

魔物の襲来により、せっかく育てた作物は食い荒らされ、見るも無残な状態となっている。


領地の中に見える人々の表情はうつろで、全員がやせ細っており…

身だしなみなど気にする余裕もないのが一目で分かる程に汚れて、まるで家畜のようにただ生きることだけに全てを費やしている…

そんな、陰鬱な雰囲気に満ち溢れている。


町と言うよりは村、村と言うよりは集落。

そんな言葉が相応しい有様となっている。


「…ひ、ひどい…」


あまりにひどい有様に、リンは思わずその心境が声として漏れ出てしまう。


「…私専属の文官達も、ここに来てからはろくに食べることも眠ることもできず…ひたすらこの領地をどうにかしようと頑張ってくれているのですが…魔物の脅威があることを理由にここすらも放棄しようとして…結局、ここもスタトリン同様、国から捨てられたような状態になってます…」


この領地も、実質国から捨てられた状態となっていること。

その為、国からの支援は望めず、文官達だけでこの地の民を救おうと奮戦を続けていること。

しかし、あまりにも何もないこの土地に特産物どころか、商材となるものすらなく、経営は破綻してしまっていること。

この地の民達は生きることに希望を持つことができず、どうにか生にしがみついているような状態であること。


リリーシアは、悲痛な表情でぽつりぽつりと言葉にしていく。


「は、早く、た、助け、ないと…」

「!!リン様……」

「リ、リリーシア、さん…こ、この、領地、に、す、住む、ひ、人達、ぜ、全員、こ、ここ、に、よ、呼んで、も、もらっても、い、いい、ですか?」

「!!承知致しました!!今から文官を通して、住民全員にこちらに集合してもらいます!!」

「お、お願い、します」


助けたい。

すぐにでも、この悲惨な状況からこの人達を助けたい。


まずは、ボロボロの身なりを奇麗にしてあげたい。

それから、回復魔法で身体を楽にしてあげたい。

それから、美味しい料理をお腹いっぱい食べてもらいたい。


そうして、元気になってもらってから、スタトリンに連れて行ってあげたい。


今のような、少しの雨風だけで壊れてしまいそうな程の脆い家屋に住まわせたくない。

文官さん達にも、もっとちゃんとしたところでお仕事させてあげたい。

ここで住むみんなに新しい、ちゃんとしたお家を、用意してあげたい。

せっかくだから、スタトリンの為にもなる農地を作るし、農業をしてる人達はそこでお仕事してもらいたい。

農業以外で働きたい人達は、エイレーンやジュリアやイリスにお願いして、冒険者ギルドやジュリア商会やジャスティン商会で雇ってもらいたい。

料理や鍛冶、錬金ができる人は、自分がお店を作ってあげるからそこでお仕事してもらいたい。

親のいない子供や浮浪孤児は、自分が作った孤児院で受け入れてあげたい。


もうとにかく、この人達を助けるためならなんでもしたい。


リンの心が、そんな思いでいっぱいになる。


リリーシアが文官達のいる建物の方へ、とても生き生きとした様子で走っていき…

リリーシアと文官達が手分けして、リンのいる何もない、広々とした場所へと民を誘導していく中…

リンは民の為の炊き出しの設営を進めていくので、あった。




――――




「リン様!!これで全員、集まりました!!」


リリーシアが肩で息をしながらも、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて戻ってくる。


理知的で、しかしそれでいて民の為にと言う確固たる信念と熱意を持つ文官の若い男が一人と、若い美女が三人。

もはや動くことすらままならない程に疲弊している、くたびれた様子の高齢の男女が二十人程。

疑心暗鬼な表情でリンを見つめている、三十~四十くらいの女性が五十人程。

同じように、何が何だかと言った表情を浮かべている、二十前後くらいの男子が四十人程に、女子が八十人程。

親を喪うか、親に捨てられた行き場のない幼い子供が三十人程。


今この領地で暮らしている、全ての民がここに集まった。


「リ、リリーシア様…この少年が、そうなのですか?」


文官の女性の一人が、リリーシアに問いかける。

見たところ、十に届くかどうかの幼い少年であるリンが、この領地を救ってくれると言うリリーシアの言葉に、当然のことながら実感が持てないでいる。


「はい!リン様は、この世に顕現された神様のみ使いなのですから!」

「ぼ、ぼく…そんな…」


リリーシアは、その問いかけに確信を持って、リンがこの世に顕現した神の使いであると、この場に集まっている全ての者に断言する。

微塵の迷いも疑いもない、純粋にリンの事を信じ切っている笑顔を浮かべて。


リリーシアのそんな言葉に、リンは思わずその顔を赤らめてしまうのだが。


「あんな小さな子が…」

「リリーシア様、あんなにあの子のことを信じ切って…」

「本当、なのかしら?…」


普段から周辺の魔物討伐に自ら出向いて、領地の危機を救い…

今回も、領地の民の為にと、自ら人族にとっては死地と言っても相違ない場所である魔の森にまで出向いたリリーシアのことは、この領地の民は誰もが信頼している。


そのリリーシアが、ここまで心酔し、信頼しきっているリンと言う少年は、それ程の少年なのだろうか。

そんな疑心めいた思いが、どうしても民の中からは消えない。


しかし、ここからのリンの行動が、民のそんな疑心暗鬼な心を全て打ち砕くこととなる。


「ま、まず、は、み、みな、さん、を、き、奇麗に…」


リンは、まずここにいる全ての、文官含む民達全員に【浄化】を発動。


「!こ、これは!」

「あ、あんなに汚かったあたし達の身体が…」

「か、髪もあんなにギトギトだったのに…」

「う、嘘…」


身綺麗にするどころか、水すらも貴重品となってしまっており、身体を清めることすらできていなかった民の全身が、嘘のように奇麗になり、すっきりとする。


不潔さから発せられていた悪臭は一瞬にして消え去り…

汚れと皮脂でべとついていた髪はまるでしっかりと洗ったかのようにさらりと瑞々しさと奇麗さを取り戻し…

身体に虫が這いずり回るかのような不快感は嘘のようになくなり…

さらには、着ている衣服も全て、まるで新しく買った時のように奇麗になっている。


それだけで、身も心もふんわりと軽くなったような感じになった。


「つ、次、は、た、体力、を…(ルクス、協力してくれる?)」

(うん!ここにいるみんなに、かいふくまほうかけるのー?)

(うん、お願い)

(わかったのー!)


さらにリンは、ルクスにもお願いして全員に【光】属性の回復魔法を発動。

急激な回復に身体が異常を訴えないように、加減をしながら全員の体力を回復させていく。


「!か、身体に力が…」

「こ、これもあの子の力、なの?」

「すっごく優しくて、温かい…」

「なんて、なんて心地いいの…」


歩くことすら億劫になる程疲弊していた民達の身体が、すうっと軽くなっていく。


「おおお!わしの身体がこんなに軽く!」

「まるで、若返ったかのようじゃ!」

「し、信じられん!」


特に老人達は立ち上がることすらままならない者が多かったのだが、普通に立って歩くことができるようになる程回復している。


もうすでに、リンと言うリリーシアが連れてきた少年は、ここまで自分達のことを救ってくれている。


この子は…

否、この方は…

リリーシア様がおっしゃる通りの、神の使いに間違いない。


ここまでだけで、民達がそう確信するには十分なものだった。

しかし、リンの民達への奉仕はこれだけでは終わらない。


「つ、次、は、お、美味しい、もの、を、い、い~っぱい、た、食べて、もらわ、ないと…」


回復魔法によって体力はある程度回復したものの…

極限の飢餓状態から来る空腹は、以前そのまま。

ましてや、食べることすらままならない程のひどい状態だったのだから…

美味しいものをいっぱい食べてほしい。


リンは、その思いのままにすでに用意していたテーブルの上に、ここに来るまでにずっと作っていた料理を収納空間から取り出し、テーブルの上に置いていく。


ふわふわとした、見ているだけで美味しそうなパン。

スパイスの香りが食欲をそそるカレー。

上質な肉を使ったハンバーグ、ステーキ、ミートソースのパスタ。

瑞々しい野菜をふんだんに使ったサラダ。

この世界では高級品となる果物のデザート。

さらには、胃腸の弱い者の為に作った旨味と栄養たっぷりのスープ。


ここにいる全員で食べてもなくならない程の大量の料理が一瞬にして目の前に出現したことに、リンとリリーシア以外の全員が驚きのあまり固まってしまう。


「こ、これは…」

「お、美味しそう…」

「こ、これだけの料理を、いったいどこから…」

「ぜ、全部出来立て…」


しかも、嗅いでいるだけで食べたくなるその美味しそうな匂い。

突然、何もないところから大量の料理が飛び出してきた現実に対する困惑と、目の前の料理を食べたいと言う思いで、民達の心はかき乱されてしまう。


「皆さん!このお料理はリン様が皆さんの為にお作りになってくださったものです!さあ!遠慮はいりません!好きなお料理から、食べていってください!」


そして、リリーシアからその場一体に響き渡るこの言葉がきっかけとなり…

全員が、リンが用意してくれた料理を食べ始める。


「お、美味しい!美味しすぎる!」

「こんなにも美味しい料理を食べられるなんて…」

「ああ、幸せ…」


ろくに食事を摂ることすらできずにいた民達にとって、リンの料理はまさに幸せを具現化したような美味しさとなっている。

もう全員が、その美味しさに舌鼓を打ちながら、幸せそうにリンの料理を食べ続けている。


「お、おにいたん…こ、これ、ぼくもたべて、いいの?」

「あたちも、たべていいの?」

「うん、い~っぱい、食べて、ね?」

「!わ~い!」

「!あいがとー!おにいたん!」


そして、リンのそばに寄ってきた浮浪孤児達が、わざわざリンに食べてもいいのかを確認しにくるのだが…

当然リンは、食べてもらいたくて作ったのだから、浮浪孤児達にも食べるように促す。

リンのその言葉に、浮浪孤児達はとても喜んで、ぱたぱたとその辺りを走りながら食べたいものを食べ始める。


「あ、ありがとうございます!」

「こんなにも、こんなにも優しくして頂いて!」

「リリーシア様のおっしゃる通りです!」

「リン様は、神様のみ使いです!」


もうここには、リンの事を疑う者は誰もいなくなっている。

ひとしきり食べ終えた者から順番に、リンに跪き、頭を下げて感謝の思いを伝えていく。

そして、ヒドラの餌になりそうなところを救われたリリーシアのように、リンに忠誠を誓おうとするような勢いになってしまっている。




「よ、よかった、です…み、みな、さん、が、喜んで、く、くれて…ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」




そして、自分達が喜んでくれたことを、まるで我が事のように喜び、ふわりとした可愛らしい笑顔を浮かべるリンの姿と言葉。


それが、この領地に住む民達の心を奪うこととなってしまう。


「リ、リン様!」

「?は、はい?」

「聞けば、ヒドラと言う災害にも等しい魔物から、リリーシア様をお救いくださったとか!」

「さらには、この領地の民達にここまでの手厚い施し…なんと、なんとお礼を申し上げれば…」

「ぼ、ぼく、み、みな、さん、が、よ、喜んで、く、くれたら、そ、それで…」

「いいえ!神様のみ使いたるリン様にこれ程の大恩を頂き、我ら一同、感謝しかございません!」

「願わくば、我らもリン様の従僕として、お仕えいたしたく存じます!」

「この大恩に報いる為にも、我ら一同、リン様に忠誠をお誓い申し上げます!」

「どうか、どうか我らをリン様のお傍でお仕えさせて頂く栄誉を、お与えください!」


こんな自分達が喜んでくれるだけで嬉しい、などと言ってくれるその優しさ、器の大きさ。

何もかもがこの世の者と格別してしまっている。


気が付けば、この領地の文官達を筆頭に、民達全員がリンの前に跪き、リンの従僕として忠誠を誓いたいと宣言までしてくる。


この方にお仕えしたい。

この方が喜ばれることなら、なんだってしたい。

この方の為ならば、この命をも捧げられる。


願わくばこの方に、我らの王となって頂きたい。


純粋にリンに心酔し、忠誠を誓うその姿は、まるで騎士のようでもあった。


「よく言ってくれました!この私も、リン様に忠誠をお誓いし、すでにお仕えさせて頂いてます!これからは、私達でリン様の為にお仕えさせて頂きましょう!」

「おおお!リリーシア様!」

「我らが忠誠をリリーシア様に!そしてリン様に!」

「リンさま!リンさま!」

「わ~い!リンさま~!」


そこにリリーシアが加わり、自らリンの従僕として仕えていると発言。

そして、自分とこの領地のみんなで、リンの為に仕えていこうと発破をかける。

その発破に民達はますます心を震わされ、リンへの忠誠を深めることとなる。


「ぼ、ぼく、み、みんな、が、し、幸せ、なら、そ、それで、いい、のに…」


自分を王として崇めてくる、リリーシアを始めとする民達一同。


別に自分は王なんて柄ではない。

ただ、みんなが幸せになればそれでいいのに。


リンは、そんなことを思ってしまう。


そんなリンの思いとは裏腹に、リリーシア達はリンを王として仕え、これからリンの為に生涯かけて尽くしていく…

そんな未来を思い描いて、途轍もない程の幸福感を感じてしまうので、あった。

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