第78話 氾濫①

(リム、リラ、ナイト、ルノ、聞こえる?)

(?なあに?マスター?)

(?どうしたの?ごしゅじんさま?)

(?何か御用でしょうか?主?)


エイレーンを、かけがえのない家族を、そしてこのスタトリンを救う為…

リンは単身で氾濫スタンピードに立ち向かうことを決意。


その直後に、従魔組全員に念話で声をかける。


敬愛する主であるリンの声に、それぞれが即座に反応する。


(ご主人様…ロクサル様とわたしで調査してきた、ですね?)

(うん。ルノは知ってるけど、このスタトリンに魔物の大群が押し寄せてきてるんだ)

(!マスター、ぼくなにすればいい?)

(!ごしゅじんさま、うちは?)

(!主!ぜひ我にその魔物共の討伐を命じてください!)


もはや一刻の猶予もない、いつスタトリンに襲い掛かってきてもおかしくない氾濫スタンピードのことを、リンは非常に簡潔に従魔達に伝える。


それを聞かされたリム、リラ、ナイトはすぐさま、その事態をどうにかしようと、敬愛するリンの指示を求める。


(押し寄せてくる魔物達は、ぼくが一番前に出て戦う。だから…ナイト)

(!は!)

(スタトリンのすぐ近くで、ぼくが仕留め損ねたり、違う方向から来た魔物を討伐して、町を護ってくれる?)

(!承知致しました!このナイト、必ずや町を護ってみせます!)

(ありがとう…それから、リム、リラ)

(!うん!)

(!おしえて!)

(リムとリラは、町の中で結界を破って入ってきた魔物の討伐と、怪我人が出た時に【水】魔法とか使って治療の補助をしてくれる?)

(!わかった!ぼくい~っぱいがんばる!)

(!うちも!)

(ありがとう…それから、ルノ)

(!はい!)

(ルノは上空から、ナイトのサポートをしてあげてくれる?)

(!分かりました!ナイト先輩と一緒に、町を護ります!)

(ありがとう、みんな頼りになるなあ…)


従魔組に、一通りの指示を出していくリン。

そのリンの指示に、リム、リラ、ナイト、ルノはその期待に全力で応えようと気合を入れる。


「エ、エイレーン、お姉さん」

「!な、なんだい?」

「ま、町に、リム、達が、出ます、ので、町の、人、達が、こ、混乱、し、しない、ように、して、もらえます、か?」

「ああ!もちろんだよ!」

「そ、それ、と、町、全体、に、け、結界、を、は、張ります、ので、町の、人が、そ、外に、出ない、ように、して、もらえ、ますか?」

「うん…うん!」

「あ、あと、は、町の、冒険者、さん、で、た、戦える、人、は、リム、と、リラ、が、魔物、を、討伐、する、のに、協力、して、もらえたら…」

「もちろんだよ!ロクサル君に司令塔として入ってもらえば、両方の意思疎通ができるから、ロクサル君にも伝えておくよ!」

「あ、あり、がとう、ご、ござい、ます」

「何を言うんだい!一番危険で大変な役目なのはリンちゃんじゃないか!…絶対に、絶対に死なないで!必ず…必ず私達家族のところに、帰ってきて!」

「か、帰って、き、きます」

「その言葉、忘れないで!」


リンが、たった一人で万を超える中位以上の魔物の群れに戦いを挑む。

スタトリンを護る為に、従魔達を人目に晒し、己の秘密にすべき力をも全て解放する覚悟で。


これがきっかけで、リンを狙い、囲い込もうとする権力者や組織が出てくることになるかもしれない。

リンをよく知る、町人達の見る目も変わってしまうかもしれない。

だが、今この絶望的な状況を打破しなければ、自分達はもちろん町そのものが滅んでしまう。


魔物の脅威から、自分達を護ってくれるのがリンならば…

この状況を乗り越えることができたならば、今度は自分がいくらでもリンを良からぬ輩から護り抜く。


だから、何があっても死なずに、自分達家族のところに、帰ってきてほしい。


エイレーンはその祈りを胸に、リンに治療補助をお願いされたリーファを連れて、一足先にスタトリン支部へと向かって行った。




――――




「そ、そんな!!」

「い、いくらなんでもそれは!!」


スタトリン支部には、例の冒険者の亡骸の調査に出ていた部隊とロクサルが戻ってきており…

さらに、ジャスティン商会から会頭であるジャスティンまでもが、姿を現していた。


エイレーンは到着後すぐさま、ロクサル、リーファ、ジャスティンも交え、支部の幹部達を会議室へと集結させ、すぐさま氾濫スタンピードの対策会議を開く。


そこで、エイレーンがリンから伝えられた対策を全員に展開すると…

支部の幹部達は、リン一人が押し寄せる魔物と戦うと言う内容に、断固拒否の声を上げてしまう。


「エイレーン殿!!いくらリン君がそう言っていたとしても、それは私も賛同できん!!」


当然ながら、リンのことを我が子のように思っているジャスティンも、その策には断固拒否の姿勢を崩そうとしない。


「今からでも遅くありません!!ここを拠点とする冒険者で、戦闘能力の高い人を集めて…」

「そうです!!それで一致団結して戦いましょう!!」

「何も、リンちゃんがたった一人で戦うなんてことをしなくても!!」


幹部職員達は、とにかく少しでも戦闘能力の高い冒険者を集めて、力を合わせて戦うことを提示する。

リンはもう、この町にとってかけがえのない存在。

そんな存在を一人、見殺しにするような作戦は取れないと、懸命に訴えかけてくる。


だがエイレーンは、その訴えにも一向に首を縦に振る様子を見せない。


「どうしてだ!!エイレーン殿!!我が商会にも高い戦闘能力を有した存在はいる!!その者達と力を合わせれば…」


ジャスティンも、リンを失いたくない一心で自らの護衛部隊を戦闘に参加させるとまで言い出している。

が、エイレーンは断固として首を縦に振らない。


だが、己の無力を痛い程に感じているのか…

掌に爪が食い込み、血が流れ落ちる程に手を握りしめている。


「……俺も、それしかないと思っていました」

「ボ、ボクもお兄ちゃんなら大丈夫って信じてる!!」


だが、リンの戦いを実際に目の当たりにしているロクサルとリーファは、それが最善だとエイレーンの策に乗る姿勢を見せる。


目の前で、物語に登場する英雄のような、リンの畏怖すべき圧倒的な強さを見せられたからこそ、この策にも納得できる。


「!な、何を言っているんだ何を!今回の氾濫スタンピードは、前回よりも遥かに凶悪で大規模なんだぞ!前回ですら、町は半壊、多くの命が失われたと言うのに!」

「……だからこそ、です。この状況を救えるのは、リンを置いて他にありません」

「それなら、他の戦える者と力を合わせて戦う方がいいに決まっているではないか!なぜ、リン君を一人で戦わせようとするんだ!」


あくまでリン一人が戦うことを推奨するロクサルに、ジャスティンが掴みかかる。

そして、それならリンに戦闘能力の高い者と共に戦ってもらう方がいいに決まっていると、頑として譲らない。


だが、次のロクサルの一言に、であることを告げられる。




「……リンは、からです」




極めて冷静に、ただただ紛れもない事実を伝えてくるロクサルに、ロクサルに掴みかかっているジャスティンも、それを聞いていた幹部達も呆気に取られてしまう。


「……ひ、一人で戦うことしか、できない、だと?」

「ど、どういうこと?」

「一体、何を言ってるんだ?」


ロクサルに告げられたことの意味を理解したくてもできない、ジャスティンと幹部達。


「……リンは――――」


この会議室には、リンを護ろうとする運命共同体のみである為、ロクサルは己が告げた言葉の意味を、その場で説明し始める。


リンが【ぼっち】と言う称号を持っていること。

その称号がある為、集団での戦闘ではその力を大きく削がれ、通常の二割ほどしか力を発揮できず、さらに技能の大半が使えなくなること。

だが逆に、一人で戦闘に出た場合はその戦闘力が倍になること。

そして、【護りし者】の称号を持っている為、誰かを護る為の戦いになれば、その戦闘力がさらに倍になること。


それらの事実を、ロクサルは会議室にいる全員に伝えていく。


「だ、だから『栄光の翼』にいた時は……」

「な、なのにあんなにも誰かの為に……」

「普段のコミュ障も、それが原因だなんて……」


幹部達は、リンがどうして『栄光の翼』にいた頃に戦闘がうまくできなかったのか…

そして、普段のコミュ障の理由がすとんと落ちたかのように納得することができた。


そして、にも関わらず誰かの為に懸命に取り組んでくれていたことに、改めてリンがどれほどに素晴らしい存在であるかを痛感させられてしまう。


「……そんな、理由が……」


ジャスティンも、リンがそんな制限を抱えていたことを、今この場で初めて知ることとなり…

どうしてロクサルが、リンが一人で戦うことにこだわったのかを理解することができた。


「……俺はこの目で、リンがに挑んでいるところを見ました」

「!そ、それは…」

「リンちゃんは、そんなに強いんですか?」

「……百を超えるビッグホーンブルの群れを、二分かからず全滅させていました。それも、戦闘とは呼べない程の一方的な蹂躙劇で」

「!!な、なんだと!!……」

「ビ、ビッグホーンブルの群れを……」

「そ、それも、百以上もの群れ相手に、そんな……」

「……しかも、武器も持たず、魔法もほぼ使わず、己の肉体のみで、です」

「!!し、信じられん……」

「リ、リンちゃんが、そこまで強かったなんて……」


実際にリンの戦いを目の当たりにしたことのあるロクサルが、忘れたくても忘れられない程脳裏に焼き付いている、ビッグホーンブルとの戦いのことを話す。

その話に、ジャスティンも幹部達も驚きのあまり目を見開いてしまっている。


「……リリム…仲間の話では、ワイバーンすらも単身で、その肉体のみで軽々とねじ伏せたそうですから」

「!!ワ、ワイバーンを、だと!!」

「う、うそだろ……」

「ワイバーンなんて、災害にも等しい存在じゃないか……」

「ボ、ボクも、サーペントワーム、って言う魔物に襲われてたところをお兄ちゃんに助けてもらったんだけど、お兄ちゃん、【風】の魔法だけで倒してたもん!」

「!!サーペントワームをも、そんな簡単に……」

「サーペントワームって、敏捷性がめっちゃ高い上に、魔法攻撃の感知が早すぎて、当てること自体が難しいって聞いてたのに……」

「魔法の力まで、飛びぬけてるなんて……」


ロクサルだけでなく、リーファからもリンの強さを証明する発言が飛び出し、一同はさらに驚愕させられてしまう。

どれもたった一人で戦った結果だと言う事実が、よりリンの戦闘力の凄まじさを実感させられることとなる。


「……リンのその強さは、からこそ発揮できるものです…酷な言い方になりますが、リンに他の誰かと連携して戦闘させることは、逆にリンに枷を嵌めるようなもの…つまり、リンが戦いの中で命を落とす確率が極めて高くなります。加えて言うと、リンと共闘する形で戦闘に参加した他の人間が命を落とす確率も、極めて高くなります」


ロクサルのこの言葉に、一同はもはや言葉もなく、静まり返っている。

そして、エイレーンはこの事実を知っていたからこそ、リンに一人で戦ってもらうことを許容したことに気づかされる。


この話が事実なら、他の冒険者と組ませて戦わせる方が、逆にリンがその尊い命を落とす確率が高くなってしまうし、共に戦った冒険者も命を落とすことになってしまう。

エイレーンは、それを知っていたから、戦闘ができる者を集めて氾濫スタンピードを迎え撃つことを選ばなかったのだと。


「…そして、リンちゃんは魔物をテイムする技能を持っています」

「!!え、じゃあ…」

「魔物を、味方にできるってこと!?」

「!!そ、それは本当なのか!!エイレーン殿!!」

「はい…本人が言うには、相手の魔物にそうできる感覚を感じ取れれば、と言ってますが…」


エイレーンは、自身の護衛としてついて来てくれているリム、そして支部に来る途中でリリムから預かってきたリラを、お披露目することにした。


(リム、リラ、ここなら大丈夫だから、みんなの前に出てきてくれるかい?)

(うん!わかった!)

(わかった!)


エイレーンにお願いされたリムとリラが、エイレーンの持つポーチから、その姿を現した。

そして、その友好度を見せるかのように、エイレーンの肩に乗っかる。


「!!ス、スライム!!??」

「う、嘘、だろ?…」

「スライムが、ギルドマスターの肩に乗っかってる?…」

「…なんと…」


突然、目の前にスライムが二匹も現れ…

しかも、エイレーンに懐いているかのように肩に乗っかっているその光景。


あまりにも突然の光景に、ロクサルとリーファを除く会議室の面々は、顎が外れそうなほどに驚いてしまっている。


「リンちゃんがテイムしている魔物は、この子達の他にも、インフェルノファルコンとワイバーンがそれぞれ、一匹ずついます」

「!!イ、インフェルノファルコンに…」

「!!ワイバーン、だって!!??」

「リンちゃんと生活を共にしている私…そしてリリム君、ロクサル君、リーファちゃんは、この子達と言葉で意思疎通することができる魔導具を、リンちゃんから譲り受けています」

「!!じゃ、じゃあ…」

「テイムの技能を持つリンちゃん以外にも、今ここにいるギルドマスター、ロクサルさん、リーファちゃんなら、リンちゃんがテイムした魔物達に、指示を出すことができるってことですか!!??」

「ああ、そういうことだな」

「!!……」


リンが魔物をテイムしていること。

そして、テイムしている魔物がどれも脅威度が高く、味方になれば間違いなく頼りになる存在ばかりであること。


それらを聞かされ、エイレーン、ロクサル、リーファを除く一同は驚愕の渦にその思考を落とされてしまう。

が、同時にとても明るい、希望の光に照らされていくのを感じる。


ロクサルから聞かされた、リンの比類なき戦闘能力…

そのリンが従える、強い従魔達…


これなら、いける。

この町は、助かる。


絶望と言う名の深い闇に覆われていた心に、希望と言う名のまばゆい光がさしていく。


「いける!!いけますよギルドマスター!!」

「リンちゃんが…リンちゃんがここまで凄い子だったなんて!!」

「そうだろう!!さあみんな!!これから町の人達をここに避難させる!!手分けして、ここに誘導してきてほしい!!」

「はい!!」

「それから、今からは町から誰も出られないように、全ての門を塞ぐ!!そして、リンちゃんに町全体に防御結界を張ってもらう!!結界の外でリンちゃんが魔物達と正面衝突、リンちゃんが仕留めきれなかった魔物を、従魔のワイバーンとインフェルノファルコンに、町の守護者として仕留めてもらう!!」

「!!リンちゃん、まじで凄すぎる!!」

「そんなことまでできるなんて!!」

「リンちゃんは、一人も死なせるつもりなどないからこそ、この策を自ら提示してくれたんだ!!我々は全力で、リンちゃんのその思いに応えるぞ!!」

「承知しました!!」

「……戦闘ができる冒険者の招集もお願いします!!俺がスライム達に指示を出せるので、俺が司令塔となって、町に入り込んできた魔物を仕留めるよう動きます!!」

「!ロクサルさん、マジ頼りになります!!」

「了解しました!すぐに招集をかけます!!」

「ボク、回復魔法使えるからお医者さんのお手伝い、するね!」

「!リーファちゃんまで頼りになる!」

「リンちゃんのパーティー、まじ凄すぎ!」

「お願いします!リーファちゃん!」


はっきりとした、希望の光が見えてきたことにより、会議室の中は非常に活気づいて来ている。

エイレーンが筆頭で、リンから提示された対策を凛とした態度で幹部達に指示を出していく。

それに付随するように、ロクサルがリム、リラ、そして戦闘可能な冒険者達の司令塔として、町に入り込んできた魔物の討伐を宣言。

そして、リーファも回復魔法を使えるので、医療補助の任に着くと宣言。


過去の記録を遡っても、まるで前例がない程の大氾濫を前にして…

この逆境を切り抜けようと、全員が一体となって各自のするべきことに取り組んでいくので、あった。

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