第230話 招待
「今代の救世主となられるリン様にお仕えの方々、お初お目にかかります。私はトーリ。水翼人の国の住人であり、こちらにおられますアクウィラ王女殿下直属の侍従となります。アクウィラ王女殿下が国に帰ることができるようになるまで、私もリン様に誠心誠意お仕えさせて頂きます。どうぞ、よろしくお願い致します」
「あ、あたちアクウィラっていうの!大好きなリンお兄ちゃんにお願いして、いっしょにいさせてもらえるようになったの!よろしくね!」
アクウィラが水翼人の国に帰るに耐えうる身体になるまで、アクウィラもトーリもリンと行動を共にすることとなり…
リンはそれを快く受け入れ、自らの拠点となる生活空間に二人を招き入れることとなった。
リンの生活空間に入った瞬間、トーリはその居心地の良さと空気の清浄さ、そして魔力の豊富さに驚き…
改めてリンのことを崇拝するようになってしまう。
アクウィラはそこにいるだけで自分の身体が楽になり、元の世界にいる時のように何もしなくても身体の力が抜けていく感覚が全くないことに大はしゃぎ。
水翼人にとっての理想郷のような世界を、自らの技能で作り出すリンのことがますます大好きになってしまい…
アクウィラはずっと、リンにべったりと抱き着いて離れようとしない。
「ま、まさか亜人の中でも幻の種族と呼ばれる水翼人とは…」
「そ、それも王族なんて…」
アクウィラ、トーリとの初顔合わせとなった神の宿り木商会の従業員は、亜人の中でも伝説となっており、半ば架空の存在として認識されていた水翼人が実在し、実際に自分達の前にいることに驚きを隠せない。
同時に、シェリルのようなエンシェントドラゴン、フェルのようなフェンリルと言った伝説の存在と、次々に友好的な関係を築き上げ、今また水翼人とも友好的な関係を築こうとしているリンを、従業員達は改めて崇拝することとなった。
「あと、リン様」
「?は、はい?」
「このトーリ、リン様への忠誠の証として、こちらを献上致したく思います」
トーリはそういうと、自身の背中にある翼…
その翼を形成する羽毛の一本を抜き取り、リンに差し出す。
「?こ、これは…」
「我ら水翼人の羽毛には、【水】属性の魔力が豊富に内包されており…それを素材とすることで、【水】属性に特化した魔導具を開発することが可能となっております」
「!そ、そう、なん、で、です、か?」
「はい!そしてその魔力は、生え変わりによって抜け落ちた羽毛も変わらず内包されており…個体差こそありますが、大体は一日に数十程は生え変わりで抜け落ちることとなります」
水翼人の翼を形成する羽毛…
それは、【水】属性の魔力を豊富に内包しており、【水】属性に特化した魔導具を作る素材として非常に重宝されている。
が、他の種族にとって水翼人は幻の存在と呼ばれる程に目撃情報が全くない種族である為、入手経路そのものが不明となっており、人によっては不可能とまでされている。
人族の歴史の中で、遠い過去に片手で数えられる程度は、水翼人の羽毛を入手したと言う事実があったのだが…
それもおそらくは、今回のアクウィラのように鎖国真っただ中でろくに変化もなく、真新しさや面白味のない自国に嫌気がさして飛び出していった水翼人の者が、生え変わりの際に落としていったものをたまたま拾ったのが経緯だと言うことが分かる。
無論、個体差はあるもののその羽毛が内包する魔力は有限であり、使えばなくなっていくのだが…
水翼人の羽毛が他の一般的な魔力素材よりも優れている点の一つとして、魔の森のような魔素の強い場所や清浄な水のある場所であれば、内包する魔力を自ら補填することができる、と言う点に尽きる。
これにより、使用者自身の魔力を使わなくても条件を満たした場所であれば、素材となる羽毛の魔力を補填することができるし、当然ながら【水】属性の魔法が使える者ならば、自身の魔力による補填も行なうことができるようになっている。
その為、当然ながら極めて価値は高く…
それを一つ手に入れることができたならば、確かなところで売ってしまえばそれだけで、慎ましやかに暮らすなら一生働かずに暮らしていける程の財を成すことができる程。
「リン様、今後私の翼から抜け落ちた羽毛は全てリン様に献上させて頂きます。本来ならば我が種族が狙われる要因となる為、このようなことは我が国では禁忌とされているのですが…今代の救世主様であり、大恩あるリン様でしたら、喜んでお捧げ致します!」
「リンお兄ちゃん!あたちのうもうもリンお兄ちゃんにあげるね!」
そんな貴重で価値の高い羽毛を、トーリもアクウィラも抜け落ちたものは全てリンに捧げると笑顔で宣言してくれる。
魔導具の素材としてはもちろん、錬金術の素材としても非常に重要度が高く…
しかも現物を入手できること自体が奇跡と言える程に希少な為、研究などろくにされていない。
それゆえに、研究を進めることができたならば、より有用なものの開発につなげていくことができるかもしれない。
「あ、あり、が、がとう、ご、ござい、ます。ぼ、ぼく、す、凄く、う、嬉しい、です」
希少価値が非常に高い素材をもらえることよりも、アクウィラとトーリの思いがとても嬉しくて…
リンはふわりとした笑顔を浮かべて、二人に感謝の言葉を贈る。
リンが喜んでくれたのを見て、アクウィラとトーリの顔にぱあっとした笑顔が浮かんでくる。
「リン様!あたし達がお二人より頂いた素材を研究させて頂きます!」
「リン様の、この商会のお役に立てる何かを開発してみせます!」
そして、水翼人の羽毛を定期的にリンに献上される話を聞いていたウィッチ族が勢いよくリンの元へと駆け寄ってきて…
その羽毛を元にリンの、神の宿り木商会の為になる研究、そして開発をすると宣言。
「リン様!わし達も【水】属性が付与された武器や防具の製造に挑戦してみせるぜ!」
「リン様!ウチも【水】属性が付与された衣類や防具とか、頑張って作ってみせるわ!」
さらにはドワーフ達も、水翼人の羽毛を目の当たりにして、今までにない武器や防具を作ると、まるでおもちゃを与えてもらった子供のようにその目をきらきらと輝かせながら宣言する。
神の宿り木商会が誇る商品開発部門に鍛冶部門が本気になれば、また商会の目玉となる商品が生み出されるのはすぐとなるだろう。
ましてや、会頭となるリン自身も神のごとき生産力を持ち、誰かの為の研究や開発が大好きな性格。
【水】属性が付与された、商会の目玉商品が誕生することを思い…
神の宿り木商会の業績管理部門はまた、楽しく悩みながら経営会議ができると喜びの表情を見せるのであった。
――――
「こんな…こんな素晴らしい住処を用意してくださるとは…リン様はまさに救世主様…」
「えへへ~!リンお兄ちゃんありがとう!」
アクウィラは幻の種族となる水翼人の王族として、神の宿り木商会で丁重に扱うこととなり…
トーリもその侍従である為来賓として扱うことにしようとしたのだが、他でもないトーリ自身がそれを謝辞。
むしろ、リンの侍従として商会の役に立てることは何でも申し付けてほしい、とまで言ってくれた。
トーリは本来は騎士であり、戦闘が主な仕事だが意外に書類仕事も得意としている。
加えて、アクウィラ専属の侍従を務めている為か家事全般も思いのほかこなせる。
その為、アクウィラの傍付きを主としつつ、リンの生産活動の支援や雑務を担当することとなった。
リンは、アクウィラとトーリの為に【空間・生活】を駆使して、ハーピーとウィッチ族が住処としている山の麓に湖を作り出す。
その湖のそばに世界樹の分身体を生み出し、その枝が湖に浸るようにし…
さらに【生産・建築】と【土】属性の魔法を駆使して二人が暮らす住居を建築する。
住居は湖の畔に東屋のような形で作り、住居の中から湖に入ることもできるようになっている。
それでいて、王族を迎えるには申し分ないしっかりとした装飾をしており、広さも広すぎない程度に広く、快適な空間となっている。
リンの自宅からも、商会の従業員の居住地からも近い為、食事はどちらに行っても摂れるようになっているし、リンの専属メイドが最低一人は交代で常にお世話をしに来てくれるようになっているので、家事全般も問題はない。
ちなみに、その際にメイドがアクウィラとトーリの翼から抜け落ちた羽毛を回収する
ことも、お世話の一環として請け負っている。
住居自体にリンが【水】属性の付与をしており、水翼人が必要とする水分や【水】属性の魔力をそこに住んでいるだけで補填できるようになっているので、アクウィラもトーリも常に体調を整えることができるようになっている。
最も、リンの生活空間自体がアクウィラとトーリにとって非常に快適な世界となっている為、体調を崩す心配は皆無と言っていいのだが。
「ア、アクウィラ、ちゃん、と、ト、トーリ、さん、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」
自身が用意した、アクウィラとトーリの住居を二人がとても喜んでくれているのを見て…
リンはふわりとした、とても嬉しそうな笑顔を浮かべながら喜ぶ。
「はあ…リン様…♡」
「リン様の笑顔を拝させて頂けて…わたしとっても幸せですう♡」
「リン様のお可愛らしい笑顔…はあ…♡」
そんなリンの笑顔に、この日の傍付となっている三人のメイドの誰もがとろけてしまいそうな笑顔を浮かべて、天にも昇りそうな程の幸福感に身悶えしてしまっている。
リンの幸せと喜びを自らの幸せとしているメイド達にとって、リンの笑顔はまさに幸せそのもの。
それを目の当たりにすることができて、メイド達はますますリンへの愛情が心から溢れかえってしまう。
「(おおお…笑顔一つで傍仕えのメイド達がここまで幸せに浸ってしまうとは…さすが、さすがは今代の救世主様であり、世界樹を復活させてくださったお方…)リン様がお作り下さった住居…アクウィラ様はもちろん私にとっても非常に快適です!ありがとうございます!」
「リンお兄ちゃん!あたちこのおうちすっごくおきにいりなの!」
「リン様!このトーリ、この大恩に報いる為にもリン様の為…リン様が会頭をされる神の宿り木商会の為…粉骨砕身でお仕えさせて頂きたく思います!何卒、何卒よろしくお願い致します!」
「リンお兄ちゃん!あたちもリンお兄ちゃんのおてつだい、させてね!」
そんなリンの笑顔に、アクウィラとトーリも幸せな気持ちに満ち溢れてきてしまい…
リンの為なら何でもする、と言わんばかりにリンの活動全般や神の宿り木商会の雑務を手伝う旨を笑顔で宣言する。
「あ、あり、が、がとう、ご、ござい、ます。ぼ、ぼく、す、すっごく、う、嬉しい、です」
そんな二人の宣言に、リンはますますにこにことした笑顔を浮かべて喜んでしまう。
「リンお兄ちゃん!あたちリンお兄ちゃんだあい好き!♡」
リンの笑顔が可愛くて、嬉しくてたまらなくなったアクウィラがリンにべったりと抱き着き、その胸に顔を埋めて実の兄に甘えるかのように甘えてきてしまう。
そんなアクウィラの抱擁にリンはびくりとしつつも、アクウィラの頭を撫でて好きなように甘えさせている。
「ははは…アクウィラ王女殿下はリン様が本当にお好きなのですね…リン様にでしたら、安心してアクウィラ王女殿下をお預けすることができます」
「はあ…リン様とアクウィラ様…なんてお可愛らしいの…♡」
「こんなにもお可愛らしいリン様に加え、アクウィラ様のお世話までさせて頂けるなんて…♡」
「わたし達、リン様のメイドになれて本当に、本当に幸せです…♡」
その幼さの色濃い可愛らしい容姿で、まるで実の兄妹のように仲睦まじくしているリンとアクウィラ。
そんな二人がまさに天使のように見えて、トーリはその頬が緩んでしまう。
リン直属のメイド達は、こんなにも可愛らしい二人のお世話ができることを心の底から幸せに思えて、またしても身悶えしてしまっている。
「リン様のメイドの皆さん…いろいろとご面倒をかけるとは思いますが…アクウィラ王女殿下共々、これからどうぞよろしくお願い致します」
「!トーリ様…そんな…頭をお上げください」
「そうです!わたし達はリン様のメイドとして、リン様がお招きくださったお客様…それも水翼人の王族とその侍従の方をお世話させて頂けるのが、本当に光栄です!」
「あたし達、リン様のメイドとして、アクウィラ様とトーリ様のお世話を一生懸命させて頂きます!こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します!」
アクウィラの侍従として、トーリはこれからお世話になるリンのメイド達に頭を下げて丁寧に挨拶をする。
そんなトーリにメイド達は、自分達の方が幻の種族となる水翼人…
それも王族とその侍従となる存在のお世話ができることを光栄に思い、全身全霊でお世話をすることを、その美貌に眩い笑顔を浮かべて宣言する。
そんなメイド達を見て、トーリはここならばアクウィラはもちろん、自分も幸せに過ごせる確信しかないと思えて…
その精悍な顔に爽やかな笑顔を浮かべて、これからを楽しみにするのであった。
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