第285話 侵略①

「!それは本当か!?」

「はい!」


リンがその大いなる力をもって、一国家として独立まで導き、飛ぶ鳥を落とす勢いで発展を続けているスタトリン。

リンがその大いなる力をもって作り上げた、多くの人に愛される商業施設をまとめる形で設立した神の宿り木商会。

そして、リンがその大いなる力でもって生み出し、スタトリンと神の宿り木商会、今ではサンデル王国にとっても守護神が暮らす聖域とされている、リンの生活空間。


偉大なる守護神として崇拝するリンはもちろんのこと、これらの聖域も併せて守護を担う、神の宿り木商会の防衛部隊。


リンの生活空間にある、防衛部隊の本部。

そこに一小隊の隊員が大慌てで飛び込んできて、ゴルドを始めとする幹部に息を切らしながらも報告を行ない…

その内容にゴルド達は、驚きを隠せないでいる。


「ティラニー帝国…」

「間違いは、ないのだな?」

「はい!!」

「サンデル王国のシーサイド領にある港に停泊していた、怪しげな船を目撃し」

「我ら神の宿り木商会防衛部隊のシーサイド領防衛小隊がその船の乗組員と接触」

「すると途端に暴れ出した為、我が小隊の総力をもって制圧致しました!!」

「そしてシーサイド領にあります、神の宿り木商会の拠点の牢獄で、諜報部隊が尋問したところ」

「ティラニー帝国がスタトリンとサンデル王国を侵略し、我が神の宿り木商会までをも略奪する計画を立てていることが判明致しました!!」

「!ぬ、うう……」


ティラニー帝国。

スタトリンとサンデル王国のある大陸からは遠く離れた、西の海域にある大陸の帝国。


今となっては、この世を生きる神となっているリンのおかげで穏やかで、しかし活気に満ち溢れる国となっているスタトリンとサンデル王国。

そんな両国とは裏腹に、弱肉強食を掟とし、力ある者のみが生きることを許される国風となっているティラニー帝国。


その国風の為、力なき民は力ある者に捕食される生き方しかできず…

日頃常に命の危機に脅かされながら、どうにか命をつなぐのが精いっぱい。


「だからこそ、か……」

「偉大なる守護神リン様がこれをお知りになられたなら、どれ程その御心を痛めてしまわれるのか…」

「我が小隊が制圧した、ティラニー帝国からの刺客達も尋問の際に申しておりました」

「『普通に生きられるのならば、生きたい』と…」

「!なんと…」

「制圧に成功した際も、奴らは命を投げ捨てようと…理由を聞けば、『どうせ任務に失敗した時点で我らは国に殺される。ならば、今ここで引導を渡してほしい』と…」

「…連中も、文字通り命がけ…しかも、退路もなし…か」


シーサイド領の防衛を担う小隊の隊長から、彼らに制圧されたティラニー帝国からの刺客の話が言葉として紡がれる。


決して、ティラニー帝国の国風をよしとして生きる者達ではない。

それどころか、争いや奪い合いなどない、普通の生活を望んでいる。

だが、他に選択肢などあるはずもなく、任務に失敗した時点で死は免れない。


それを聞かされた、ゴルドを始めとする防衛部隊の幹部達は、その刺客達があまりにも不憫でならず…

誰もが悲痛な表情を浮かべて、黙ってしまう。


もちろん、刺客達が穏やかな死を望むのであれば、そうすることも可能ではある。

だが、それは自分達が崇拝し、敬愛してやまないリンが望むことではない…

そう思えてならない。


しばし沈黙が続くこととなるのだが…

その沈黙は、ゴルドの声で破られる。


「…その刺客達は、ティラニー帝国に居続けようとは思っておらず、弱肉強食の国風を望んでもいないのだな?」

「?は、はい」

「そうですが、それが何か…」

「であれば、我ら神の宿り木商会の一員…諜報部隊の方にスカウトしてみるのはどうだろうか?」

「!?ゴ、ゴルド殿!?」

「ティラニー帝国からの刺客を、我が商会に!?」

「な、なぜ!?」

「…その者達の境遇を考えれば、生きる為にやらざるを得なかったのは明白。であれば、命を奪うのは忍びない」

「で、ですが刺客には変わりありません!」

「そうです!我らも、奴らの制圧にどれ程骨を折ったか…」

「だろう?それ程の実力者達であれば、味方につけた時のメリットは大きいと私は思う」

「む…それは確かに…」

「まして、ティラニー帝国に忠誠など誓っておらず、普通に生きたいと願う者達なのであれば、味方にできる見込みしかないと私は思う」

「…そう、だな」

「ゴルド殿の言う通りだ」

「それに…そのような者達を救わんが為に、リン様は日々その偉大なるお力を駆使してスタトリンとサンデル王国を発展させ、誰もが幸せになれるようにと、奮闘なさっておられる。そのリン様のご意思に、私は沿わせて頂きたい」

「!…分かりました!ゴルド様のおっしゃる通りです!」

「我々シーサイド領の防衛小隊が、今回捕らえた刺客達にこの話をしてきます!」

「うむ!頼んだぞ!」

「商会の本部には我ら幹部が報告しよう!」


どこまでもリンの意思に沿って行こうとするゴルドの言葉に…

その場にいる防衛部隊の面々は素直にその通りだと思わされる。


行き場も失い、母国に殺されるのを待つだけの刺客達を救いたい。

自分達の味方として引き入れ、神の宿り木商会の同僚として幸せになってほしい。


その場にいる全員が、その思いでいっぱいになる。


すぐさま報告に来た小隊の隊長と隊員は、シーサイド領にある商会拠点の牢獄へと向かい…

ゴルドを始めとする幹部達は、すぐさま商会の本部と、諜報部隊の長となるロクサルにこの件を伝えようと動き出すのであった。




――――




「……委細承知しました。リン会頭であれば、必ずその者達を救いたいと思われるはず。何より、それ程の手練れであるならば商会にとっても有益そのもの。彼らが望むのであれば、この諜報部隊で受け入れます」

「ありがとう!ロクサル殿!」

「リン様の専属秘書となる私達も、ロクサルさんと全く同意見です」

「ティラニー帝国の実情は、わたくしも伺っております。人が人として生きることがまさに夢物語、と言われるような国…アシリス商会で購入する奴隷にも、ティラニー帝国から身一つで逃げ出してサンデル王国まで流れ着き、どうすることもできずに自らを奴隷として売却する人が多くいます。そのようなことをリン様がお知りになれば、どれ程その御心を痛めてしまわれるか…」

「防衛部隊の皆様、此度の報告ありがとうございます。私はその方達のことをエイレーン会頭補佐にお伝えしてきます」

「リン様の専属秘書の方々、よろしく頼みます!」

「シーサイド領担当の小隊の面々が今、その刺客達とこの件について話しているので、その報告が届き次第、改めて報告致します!」


リンの自宅の出入り口すぐそばに作ってもらった、防衛部隊の守衛室。

そこでゴルド達はリンの専属秘書となるジュリア、アシリス、イリス、さらには別の幹部が報告があると呼び出したロクサルに、此度の件を丁寧に報告した。


その報告に、諜報部隊の長となるロクサルは二つ返事で刺客達の受け入れを承諾。

同様に専属秘書達も、刺客達の受け入れを承諾してくれた。


ティラニー帝国からの刺客は、小隊からの報告では全員で十五人。

弱肉強食が掟のティラニー帝国で生き抜いてきたこともあり、その戦闘能力は折り紙付き。

加えて、諜報能力も高く調査を生業として来たと聞かされ、商会で受け入れれば間違いなく即戦力となれる存在だと、期待も大きくなる。


さすがに他国からの刺客と言うこともあり、無条件と言うわけにはいかず…

ひとまずはアシリス商会経由で奴隷として受け入れることとはなるものの…

神の宿り木商会は奴隷ですら、給金こそ出なくとも人並み以上の生活が保証されるので、普通に生きたいと心から願っている刺客達なら、その待遇に驚くことは間違いないと言うことが確信できてしまう。


そこまで話し合って決めたところで、防衛部隊の幹部達はリンの自宅の守衛担当を残して本部に直行。

ロクサルは此度の件を諜報部隊に展開する為、諜報部隊の本部へと足を進め…

専属秘書達はすぐさま、会頭補佐となるエイレーンの元へと向かうのであった。




――――




「なるほどのう…ティラニー帝国か…」

「ティラニー帝国…民のものを奪うことで贅の限りを尽くしているとは聞いていたが…」

「許せませんね…国を支えてくれる民をないがしろどころか…自らの糧とするなんて…」


神殿と称されることがすでに定着している、リンの自宅。


会頭補佐となるエイレーンの元へと動いていた専属秘書達だったが、そのエイレーンがスタトリンの女王となるシェリル、サンデル王国の王となるマクスデル、王妃となるエリーゼと共にいたのを好機と捉え…

ティラニー帝国が、スタトリンとサンデル王国、さらには神の宿り木商会にまで略奪を仕掛けてきていることを報告する。


その報告を受け、シェリル、マクスデル、エリーゼの三人共が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ティラニー帝国に対する嫌悪がそのまま言葉として出て来てしまっている。


「とにかく、ティラニー帝国から来たと言う刺客達には、帝国の情報を引き出せるだけ引き出して、それから我が商会で受け入れよう。リンちゃんが作ってくれた我が商会なら、絶対に幸せになってもらえるはずだからな…ジュリア君、ロクサル君率いる諜報部隊の方で、そこはすでに動いてくれているんだな?」

「はい!ロクサルさんが部隊の方で受け入れの準備を進めてくれてます!」

「よし。ティラニー帝国がスタトリン、サンデル王国、そして神の宿り木商会を狙っていると言うのなら、刺客からの連絡が途絶えたなら次を送り込んでくるはず…イリス君」

「すでに防衛部隊の方で、ティラニー帝国の新手の刺客が侵入してくるであろうシーサイド領の防衛を強化する方針を固めております。状況次第ではゴルドさん達幹部の出陣も視野に入れている、とのことです」

「なるほど…ならひとまずは安心か…それならば、送り込まれる刺客を全て返り討ちにして、あわよくば我が商会で受け入れ、奴らの情報を抜き出すようにしていこう」

「承知しました!防衛部隊の方にもその旨、伝えてまいります!」

「頼んだよ、イリス君。我が商会の防衛部隊なら必ずや護り切ってくれるはず…戦闘に備えて、物資も惜しみなく出せるように手筈を整えておこうか」

「その点はわたくしの方で進めておきました。我が商会は余剰の物資が潤沢にありますので、武具類も含めて防衛部隊の方の魔導具から取り出せるように物資の配分を増やしておきました。また、防衛部隊の隊員の方々が戦闘で怪我を負うことも想定し、建築部門にお願いして医療部門の方に新たに治療施設を拡張しております。これで、いざ怪我人が出たとしてもすぐに治療を開始できると思います」

「ありがとう。さすがだね、アシリスさん」


エイレーンはティラニー帝国の侵略に備えようと、冷静に務めながら専属秘書達に指示を出していく。


が、リンの傍仕えとなる専属秘書達の実力はさすがの一言。


もうすでに防衛戦に備えて各部門に手配をしており、いつ事が起きても問題のないように進めている。

その指示にすぐさま対応できる各部門の従業員も、さすがの一言と言える実力であり、神の宿り木商会の人材の豊富さが際立っている。


「うむ…さすがは神の宿り木商会の人材…一小国に匹敵する程の人員がおりながら、その一人一人が有能…物資のみならず人材に関しても宝の山、と言えるものだな」

「おっしゃる通りです、あなた…王族となる我が屋敷でわたくし達を支えてくれる侍従達…国政で支えてくれる文官も、神の宿り木商会から派遣して頂いている人材が本当に一人一人が有能で…とても助かっておりますもの」


今となっては、王都チェスターにある王城は、サンデル王国の象徴としての意味合いしか持たず、最低限の機能こそ残してはいるが、主要な機能は全てリンの生活空間に置いている。


リンが自身の生活空間に作ってくれた王族の為の屋敷に主となる機能を全て置いており…

そこと王城の両方に、元々の侍従や執政官と、神の宿り木商会から派遣される人材を適切に配置している。


神の宿り木商会から派遣される人材の有能さはすでに王城内でも絶賛されており…

しかも誰もが守護神となるリンの穏やかで優しい人柄をそのまま受け継いでいるかのような、それぞれの個性こそあれど素晴らしい人格が形成されていることもあって、王城と言う謀略など日常茶飯事のような場所でありながら、人間関係も非常に良好に築くことができている。


そんな人材を多数派遣してもらっているおかげで、王城の機能も向上しており…

リンの生活空間にある屋敷の方でも、生活はもちろん国政に関しても高水準を保つことができている。


そのことに、マクスデルもエリーゼも日々リンに多大なる感謝をしており…

ちょっと珍しいものが国土で見つかったら、すぐにリンへの捧げものとして献上したりするようになっている。


「のう、エイレーン」

「?どうされました?シェリル様?」

「妾は、リンが独立させ、日々守護してくれるスタトリン…そのスタトリンと非常に良好な関係でいてくれるサンデル王国…そしてその両方の基盤となってくれている神の宿り木商会…その全てが、妾にとってかけがえのない宝物となっておる」

「!………」

「先の勘違いも甚だしい王族もどきや貴族共が仕掛けてきた侵略の時は、妾が出るまでもないと大人しくしておったが…ティラニー帝国の者共が妾が愛おしいと思うこれらを侵略しよう、などと攻めてくるようであれば…必要であればこの妾が自ら出陣して、ティラニー帝国もろともこの世から葬り去ってやる…そのつもりでおるのじゃ」

「シェリル様……」

「無論、リンならば妾よりもたやすく連中をこの世から消し去れる…今のリンは、かつて妾と戦った時よりも遥かに強くなっておる。今のリンの前では、この妾ですら塵芥も同然じゃ」

「!そ、そんなに、ですか?…」

「うむ…じゃが、リンがそのようなことを自らするような男ではないことは、ここにいる誰もが知っている通り…じゃからこそ、妾の最愛の夫の為ならば、この妾が汚れ役となって、奴らを返り討ちにしてやるのじゃ」

「…シェリル様…」

「リンだけではない…スタトリン…サンデル王国…神の宿り木商会…その全ては妾が護るべきもの…各領地の守護は防衛部隊の役目であろうとも、妾は誰一人として死なせるつもりなどない…リンが日々そうしてくれているように…この妾も皆を護るのじゃ」


そして、この世の楽園と言える程に素晴らしい国、そして人々…

それらを護る為ならば、自ら出陣してティラニー帝国のように侵略を目論む輩を全て排除すると、シェリルは決意の表情で言葉にする。


リンから預かりしスタトリン。

その友好国となるサンデル王国。

リンが設立し、両国にとってかけがえのない基盤となっている神の宿り木商会。

そして、そこにいる全ての人々。


護りたい。

何が何でも護りたい。

その煮えたぎってくる程の熱い思いが、シェリルの胸の奥で溢れかえって来る。


そんなシェリルを見て、エイレーンはスタトリンには、リンの他にも頼りになる守護神がいることを痛感させられ、その心に喜びが溢れてくるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る