第284話 国交

「お願いします!!話を、話をお聞きください!!」

「ふざけるな!!貴様らの国が我らに、我が国に何をしてきたのか」

「知った上でそのような戯言をぬかしてるのか!!」

「やはり、やはり人族は信用ならん!!」

「帰れ!!もう二度とこの地に入って来るな!!」


神の宿り木商会が、新たな商業施設を設立し、それが大繁盛することとなった。

そして、その施設の支店を展開すべく、商会全体で活気づいている、まさにその時。


サンデル王国の最南端にある辺境の地、サースフィルドの領地。


そこからさらに南に下ったところにある、ネイティア共和国。


そのネイティア共和国の国境を越え、関所の方へと進み、そこを護る衛兵にネイティア共和国の首脳との会談を申し出るのは…

国王マクスデルより、ネイティア共和国との交渉役を任命された、エミリア・サースフィルド。


当然ながら、護衛となる従者を引き連れてはきたのだが…

その従者が驚愕に目を見開く程の低姿勢で、自国となるサンデル王国、そこにかつて巣くっていた膿となる、第二王妃と第一王子、そしてその派閥の貴族がしでかしたことに謝罪の言葉を声にして伝える。


さらには、何の慰めにもならないと知りながら、屋敷の方でかき集められるだけかき集めた金銭を国からの賠償金として手渡そうとしたのだが…

元々が純粋な人族を心底憎む亜人ばかりの国である為、当然ながら関所を護る衛兵達も亜人。


人族であることだけでも、遺伝子レベルで煮えたぎる程の憎悪が心に生まれてしまうのに…

それがネイティア共和国の民をさんざん奴隷として攫って行ったり、国の美しい自然を壊して恵みを奪うような真似をしでかしてきたサンデル王国の貴族となれば…

衛兵達の煮えたぎる悪感情は、増長する一方となってしまう。


エミリアがサンデル王国とネイティア共和国との国交を再開する親善大使として任命され、それから一日として空けずネイティア共和国を訪れているのだが…

ネイティア共和国の民が抱える、憎悪とまで言える程の強烈な悪感情はそうそう拭えるものではなく、結局この日も罵詈雑言の嵐を浴びせられた上で、門前払いされることとなってしまう。


それも、賠償金として持参してきたお金を渡すこともできずに門前払いとされてしまい…

エミリア一行は、暗く重苦しい表情のまま、渋々ネイティア共和国の関所を後にした。


「……はあ……」

「エミリア様…心中お察し致します…あの衛兵共、何もあのような対応をされなくても…」

「…違う。私が嘆いているのはそう言うことではない」

「?と、申しますと?」

「…、我が国の膿であり癌であったあの悪徳貴族共が私利私欲の為に好き放題やってきたのだと思うと…私はサンデル王国のいち貴族として激しい憤りを感じずにはいられない…」

「!!エミリア様……」

「ですが、エミリア様はサンデル王国の辺境伯…それも、今後の国交まで国王陛下より任命頂いた親善大使…」

「そのエミリア様に対し、あの者共…」

「やめろ。彼らの怒りは真っ当なもの…私が国の代表として会談を望む以上、こうなることは承知の上…覚悟の上だ」

「で、ですが…」

「いいか?この任は国王陛下より拝命頂いたものではあるが、我がサンデル王国とネイティア共和国の融和を誰よりもお望みなのは、我らが偉大なる守護神様なのだ」

「!!」

「そ、そうでした…申し訳ございません…」

「この会談を通し、我が国の誠意を見せ心からの謝罪をすることで、我が国とネイティア共和国との国交を再開させる…それは、ネイティア共和国にも偉大なる守護神様のお力が注がれると言うこと…そしてそれを、守護神様は何よりも誰よりもお望みなのだ。何より、被害者はネイティア共和国で、加害者は我がサンデル王国…この私一人が謝罪するだけでは到底足りない程のことを、我が国はしでかしてしまったのだ」

「は、はい…」

「であれば、私がどのような立場であろうと関係ない。むしろ私を糾弾して頂くことでネイティア共和国の留飲を下げてもらえるのであれば、願ったり叶ったりと言える程だ」

「!!エミリア様……」

「私は何としてもこの会談を成立させ、ネイティア共和国の許しを得て、再びサンデル王国との国交を再開させてみせる。その為ならば、私は何度でもネイティア共和国に訪れ…誠意を見せ続ける」


護衛達は、忠誠を誓う主であるエミリアが一介の衛兵達に好き放題言われ続け、あげく門前払いまでされたことに当然ながら憤りを感じてしまっていたのだが…

それを他でもないエミリアが諫めようと、自身の覚悟まで言葉にしていく。


何があろうと、サンデル王国とネイティア共和国が互いの友好国となれるよう、国交を再開する。

何があろうと、神の宿り木商会の商業施設をネイティア共和国にも展開できるようにする。

何があろうと、ネイティア共和国に偉大なる守護神リンの力が降り注がれるようにする。


それが、偉大なる守護神リンの望みなのだから。


どこまでも一途にリンを崇拝し、一人の女として愛しているエミリア。

その崇拝心と愛があるからこそ、どれ程袖にされても構わずに前を向くことができる。

どれ程誹謗中傷を浴びようとも、ただ相手を思って行動することができる。


「(守護神様…私は守護神様の救世のお力がネイティア共和国にも降り注がれるよう、何としても我がサンデル王国とネイティア共和国との国交を再開し…ネイティア共和国にも、私が愛してやまない守護神様の御手が届き、誰もが幸せになれるようにして参ります!!)」


一向に状況が改善しない中でも、エミリアの心には喜びが満ち溢れている。


偉大なる守護神であるリンの為に、自分がこうして大役を担わせてもらえている。

この大役を果たすことができたのなら、偉大なる守護神であるリンに、あの天使のような笑顔で喜んでもらうことができる。

偉大なる守護神であるリンの加護に、ネイティア共和国も加えてもらうことができる。


それを思うだけで、エミリアの心に勇気が湧いてくる。


エミリアは自身の屋敷に戻りながら、その未来を思い浮かべ…

リンならばネイティア共和国の為にどうするか、それをただただ考え続けるのであった。




――――




(偉大なる我らが守護神様!!)

(この度は、森を住処とする我らを守護神様の庇護下に置いて頂くこととなり)

(喜びと感謝しかありません!!)

(我らが必ずや、守護神様の配下と共存して)

(あの森をよりよき地になるよう、取り組んでまいります!!)


そうして、エミリアがネイティア共和国との関係改善に懸命に取り組んでいる最中…

リンの自宅の庭に、リンがこの度従魔契約を交わした、新たな魔物が群れでリンの前にその忠誠を見せつけるがごとく、跪いて頭を垂らしている。


フォレストウルフ。

その名の通り、木々の多い森の中を生息地とする狼の魔物。


高い敏捷性と、鉄すらも切り裂ける爪に、噛み砕ける牙による肉弾戦を得意としており、また群れの長の統率による集団戦を得意とする。

加えて、種族特性で【風】属性と【土】属性の魔法を使うことができ、遠距離の攻撃手段も持ち合わせている。

狼種ではあるが雑食であり、肉のみならず木の実や果実、野菜なども好んで食べると言う、狼種では珍しい性質を持っている。

体長は大型の個体でも2m程、体高は1m程と、他の獣型の魔物と比べると、どちらかと言えば小型の方に分類される。

もちろん脅威度は中位以上となっており、ブロンズ以下の冒険者が遭遇すれば死は免れないと言われている。

肉は他の狼種の魔物と比べると臭みも筋張った感じも少なく、きちんと調理すれば十分に美味しくできるので食材としても需要はそれなりに高く、毛皮は防寒性能がかなり高い為防寒具の素材として重宝されている為、討伐できた時の見返りは大き目な魔物となっている。


このフォレストウルフ達は魔の森に生息していたが、世界樹のお告げにより、今世の救世主であり、世界樹をこの世に復活させた守護神であるリンの存在を知り…

そのリンに仕えたいと言う思いから今の縄張りを捨ててリンの元へと群れ一同で大移動を始めていた。


そこでたまたま、リンの従魔でその時の狩り担当となっていたナイト、ザード、メイジと遭遇し…

世界樹のお告げにより、ナイト達がリンの従魔であることを知っていたフォレストウルフの群れの長が、守護神となるリンに会いたいと懇願したのだ。


そのことを念話でザード達に相談されたリンは、そのフォレストウルフ達が喜んでくれるならと、二つ返事で了承。


そして、ナイト達がリンの生活空間へフォレストウルフ達を迎え入れ…

こうして、リンの従魔として、守護神の神殿となるリンの自宅の庭に、他の従魔と共に住まわせてもらえることと、なったのだ。


(えへへ…みんなが喜んでくれて、ぼく、嬉しいな)


従魔契約を交わしたことにより、フォレストウルフ達の喜びの感情が伝わってくる。

フォレストウルフ達が心から喜んでくれているのを、リンは可愛らしいにこにこ笑顔でとても喜んでいる。


(おお…守護神様が、我らの喜びを己が喜びとしてくださって…)

(守護神様!!我らが守護神様の農業や狩りなどを微力ながらお手伝いさせて頂きます!!)

(さらには、守護神様に仕える諜報部隊の隊員達と共に、あの峠を越えたところにある森の調査、そして守護神様が保有されている岩山の洞窟の守護も)

(我々が交代でさせて頂きます!!)

(全ては偉大なる守護神様の為!!)

(我々一同、守護神様の手足としてお仕えさせて頂きます!!)


今回リンと従魔契約を交わすことのできたフォレストウルフは、数百頭もの群れ全てをリンに受け入れてもらうことができた。

しかも、自分達にとっては守護神の神殿と言うべき、リンの自宅の庭に住処をもらうこともでき、他の従魔達と共にリンのそばでリンに仕えることができるようになった。


【風】属性と【土】属性の魔法が使えるので農業の簡単な支援ができる他、ナイト達が普段取り組んでいる、魔の森での狩りに出ることもできる。

さらには、ここ最近神の宿り木商会の新たな拠点として手に入れることのできた岩山の洞窟の守護と、諜報部隊と連携しての索敵や岩山の洞窟周辺の森の調査もかって出てくれている。


リム達スライムと同様に頭数が多いこともあって、それぞれの分担で小隊を組んでくれると言うことで話はまとまり…

フォレストウルフ達は、これからリンに仕えられることを心から喜んでいる。


(わ~い!!あたらしいなかまだ~!!)

(これからよろしくね~!!)

(ぼくたちも、あるじさまのおてつだい)

(い~っぱいしてるんだ~!!)

(ごしゅじんさま、と~ってもやさしくてつよいんだ~!!)


そんなフォレストウルフ達に、リム達スライムがとても嬉しそうに話しかけてくる。

これから、リンの自宅の庭で暮らす仲間が増えたことを、リム達もとても喜んでいる。


(うむ!!主の騎士たる我も、そなた達が仲間になってくれたのが本当に嬉しいぞ!!)

(わたしも、ご主人様の為に魔の森の調査い~っぱいしてます!!調査のお仕事、一緒に頑張りましょうね!!)

(主様は本当に神様なんだ!!)

(お、おで、あ、あるじさま、だ、だいすき、なんだな!!)

(おいらも主様のおかげで、こんなにも幸せな生活させてもらえてるんだ!!だからみんなも絶対、幸せになれるよ!!)


もちろん、ナイト、ルノ、ザード、ロック、メイジも、フォレストウルフ達が仲間として加わることを喜んでおり、和気あいあいとしながら交流を深めにいっている。


(偉大なる守護神リン様にお仕えできること)

(まさに栄誉そのものであり、幸せそのもの!!)

(リン様がお主達を受け入れられたのであれば)

(我らはもはや一蓮托生!!これからよろしく頼むぞ!!)


ホムラ、スイ、フウ、ラクドもフォレストウルフ達の加入を心から喜んでおり、


(リン様はまこと大きくお優しいお方!!吾輩の忠誠は全てリン様に捧げておる!!)

(えへへ~!!)

(またなかまがふえた~!!)

(リンさまのじゅうまなかまがふえて)

(とってもうれしいっす~!!)


最近リンの従魔として契約を交わしたグリフ、ミラ、ヤイバ、キヌ、ミドリも、フォレストウルフ達が従魔仲間になってくれたことを手放しで喜んでいる。


(ふふふ…リン様にお仕えする従魔がこんなにも増えて、とても喜ばしいことですね。リン様の従魔のまとめ役となるこのフェルがおりますので、何かあれば声をかけてもらえたら、と思います)


そして、すっかりリンの従魔のまとめ役として定着しているフェルも、喜びを露わにしながら、フォレストウルフ達に友好的に接している。


(えへへ…みんな仲良くしてくれて、嬉しいな)


先輩従魔達が自分達をとても歓迎してくれていることに、フォレストウルフ達はとても喜んでいる。

そして、従魔達でとても和気あいあいと交流を深めることができている。


その光景を見て、リンは本当に嬉しくてたまらなくなり…

傍仕えの女性達の心を掴んで離さない、可愛らしいにこにこ笑顔を浮かべて喜ぶのであった。

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