第65話 配慮

「そうだったのね!よかった~!」

「……俺もそのことを、依頼していた情報屋から聞いて、ここに戻ってきたんだが…そうか、リンはもう、ジャスティン商会の会頭と会ってたんだな」


リンの強力な援護者となってくれている、冒険者ギルド スタトリン支部。

そのスタトリン支部との業務提携と言う形で、国内随一の商会であるジャスティン商会まで、リンの援護者となってくれた。


まだ話の尽きないエイレーンとジャスティンに、自分の拠点に戻って、このことを仲間に告げてくると一言断りを入れ、拠点の方まで戻ってきたリン。

リビングには、リンの帰りを心底不安そうにしながらも心待ちにしていたリリムがおり、リンの姿を見るや否や、凄い勢いで駆け寄ってくると…

リンが無事にこの拠点に帰ってきてくれたことで緊張の糸が切れたのか、安堵から来る涙をぽろぽろと零しながら、リンの幼く小さな身体をぎゅうっと抱きしめてしまう。


いきなりリリムに泣きながら抱きしめられて、あわあわとしてしまうリンだったが…

ちょうどそのタイミングで、情報屋からの情報を得て戻ってきたロクサルが、拠点のリビングに姿を現す。

リンが誰かに狙われている、と言う不安から来るリリムの行動を見て、ひとまずリリムからリンをやんわりと引き離し、リンと協力しつつ宥めて…

なんとか、落ち着かせることに成功。


三人で話せる状態になったところで、リンの口から自分を探っていた連中がジャスティン商会の人間であったこと…

そうしていた理由が、商会の会頭であるジャスティンが個人的な用件でリンを探していたからだと言うことを、リリムとロクサルにたどたどしい口調で伝える。


それを聞いたリリムは、心の底からの安堵の表情を見せ、リンが欲ボケした権力者に狙われてなくてよかったとほっとする。

リンのことが探られている、と聞いてからのリリムはかなり情緒不安定になっていて、その緊張感からか睡眠もかなり浅くなっていた為、これで楽になるだろうと、リンとロクサルは一安心する。


ロクサルの方は、すでに情報屋からリンを探っていた連中のことを聞いていたこともあり、リリムよりは幾分落ち着いて聞くことができていた。

しかし、リンがすでに会頭であるジャスティンと会っていたことには驚かされたのだが。


「それにしても、ジャスティン商会の会頭さんがね~…」

「……リン、実際に会頭に会ったなら、君を探していた理由も聞いたんだろう?一体、どんな用件だったんだ?」


リリムもロクサルも、ジャスティン商会の評判や功績、そして規模のことは知っている。

それゆえに、そこの会頭と言う人物が、自分達から見れば雲の上のような存在だと感じてしまう。

そんな人物が、個人的にリンを探していたなどと聞かされると、その理由は何なのか、とても気になってしまう。


ちなみにロクサルも、『栄光の翼』に所属していた頃は拠点の管理もリンに任せっぱなしだった為、かつての拠点がジャスティンの貸家だと言うことを知らない。

一応、リンが借りてきた家だと言うことは、当のリンに伝えてもらっていたので知ってはいるのだが。


「え、え~と、ですね……」


リンはたどたどしくも、ジャスティンが『栄光の翼』の残りのメンバーであるガイとローザに、賃貸契約で貸し出している家を荒らされ、壊されて非常に困っていること…

もはやどうしようもない程にひどい状態になっている為、その修理をお願いしたくて、自分を探していたことを、二人に説明する。


「……あの二人は…全く……」

「え?え?いくらあの二人でも、借りてる家だってこと知ってたはずよね?」

「……そ、そう、言えば……ぼく、そのこと、お伝え、してた、の、かな……」

「……伝えてたはずだぞ?俺はリン、君からそのことをちゃんと伝えられていたから、覚えていたしな」

「そ、そう、ですか……」

「……多分、あの二人は君の話をろくに聞いていなかったんだろう。そうなって当然なのに、君の方が自分達より圧倒的に高評価だったことが心底気に入らなかったからな」

「え~……どんだけ自分達を特別だと思ってたんですかね~……」

「……全くだ。王都やギルド本部に行けば、『栄光の翼』よりも遥かにランクも実力も上な冒険者なんてゴロゴロいるのにな……しかし、それにしても…まさかあの拠点がジャスティン商会の会頭直々に貸してくれた家だとは思わなかったな…」

「リンちゃん、そんな頃からそんな凄い人と関わりがあったのね~…」

「……リン、そんな超大物と知り合う機会なんて、どこにあったんだ?」

「え、えと、ですね……ぼ、ぼくが…」


ロクサルのふとした疑問に、リンはたどたどしくも答えていく。


まだ『栄光の翼』にも所属していない、ちょうどブロンズランクになった直後のこと…

その時、たまたま大荷物を抱えて困っていたジャスティンを見かけて、【闇】魔法の【収納】を使って荷物を運んであげたら、とても気に入られたこと。

その縁あって、ジャスティン商会のスタトリンの拠点に出入りできるようになり、その中でも職員の困りごとをちょくちょく解決してたら、その拠点の全ての人間に気に入られたこと。

そのおかげで、ジャスティンにパーティーの拠点のことを相談したら、快くジャスティンが所有している物件の一つを、格安で借りることができたこと。

ガイとローザが癇癪を起こす度に、その物件に八つ当たりして壊したりしていたので、その度にリンがこっそりと修理して、ジャスティンのところに謝罪しに行っていたこと。

『栄光の翼』に所属してからも、ジャスティンや商会の困りごとをちょくちょく解決していたこと。

『栄光の翼』に所属してからのリンを常に気にかけてくれたジャスティンに、度々食事に連れて行ってもらえたこと。


そこまでを、一通り二人に思い出しながら話していった。


「……あの二人が、やたらあの拠点に傷つけたりしてたのは見てたが…気が付いたら修理されてたんだよな…それもリンのおかげだったなんて…」

「信じられないですよね……大人なはずの二人が、そんなことして、子供のリンちゃんが修理して、しかも謝罪しに行くなんて…」

「……これに関しては、俺も同罪だ……リン、今更ながら本当に申し訳ない……あの二人の尻ぬぐいを、ひたすら君にさせるようなことになってしまって……」

「え?あ、あの、ぼく、別に……」

「リンちゃん!リンちゃんは本気で怒ってもいいところなのよ!?ロクサルさんはともかく、あの二人には本気で!」


リリムにとって、ガイとローザはよほど許せない存在なのか、一向に怒る気配のないリンを見て代わりにと言わんばかりに怒っている。

リンのような、とても可愛くて優しくて、自分のような何もできない女を護って、さらにはこんな素敵で幸せいっぱいの居場所まで与えてくれた存在に、これでもかと言う程のひどい仕打ちをしてきた二人は、リリムにとっては絶対に許せないのだろう。


ロクサルは確かにリンがしてくれていたことを全く知らなかったものの、二人のように破壊行為に出ることもなく、問題は起こさなかった。

しかし、二人の尻ぬぐいをひたすら子供であるリンにさせてしまっていたことがよほど悔しくて情けないのか、真摯な態度で頭を下げて謝罪する。


「……リン、これからも俺は君の為に…君に貢献できるように、自らの役割を全身全霊で全うしていく。今回は君と縁のあるジャスティン商会だったからよかったが、今後もこういったことがないとは限らない。だから、俺がしっかりと暗躍して、情報収集も欠かさず、欲ボケ権力者共が君に目を付けられないようにしていく!」

「リンちゃん!あたしも、リンちゃんの為に孤児院の支援とか、生産のお手伝いとか、できることなら何でもしていくから!だから、もっとあたしを頼ってね!」

「あ、ありが、とう、ご、ござい、ます。ぼ、ぼく、嬉しい、です」


ロクサルは、リンの存在がよからぬ存在にバレないよう、今後も暗躍し、情報収集も徹底していくことを宣言。

自らが持つ、斥候としての力を、リンの為に使っていくと。


リリムも、自分ができるリンのお手伝いなら何でもすると宣言。

孤児院の子供達のお世話はもちろん、リンの生産活動の手伝いでもなんでもする、と。


そんな二人の思いが嬉しくて、リンは笑顔で二人にお礼の言葉を贈る。


「!……それは俺の台詞だよ、リン!リンのおかげで、俺はどれほど幸せか!」

「そうよ!あたしの方がありがとうだもん!大好きなリンちゃんの為なら、あたしなんだってしちゃうから!」


リンが笑顔でお礼を言ってくれたのがよほど嬉しかったのか、リリムもロクサルもその思いを隠すことなく、リンへの感謝を言葉にする。


「う、嬉しい、です。ぼ、ぼく、いっぱい、助けて、くれる、人が、いて…」

「当たり前だろう!君がどれほどみんなに慕われて、好かれているのか、俺はいつも見ている!」

「そうよ!あたしがヤキモチ焼いちゃうくらい、みんなに好かれてるんだから!」


嬉しそうな、ふわりとした笑顔のリンがあまりにも尊く、可愛すぎて…

リリムもロクサルも、リンがどれ程に多くの人に好かれているのか、力いっぱい声にしてしまう。


「じ、実は、今日…」

「?……何か、あったのか?」

「?なあに?リンちゃん?」




「ジャ、ジャスティン、さん、の、商会、が、ぼ、冒険者、ギルド、の、ス、スタトリン、支部、と、協力、関係、を、結んで…」




「!!な、なんだと!?」

「そ、それほんとなの!?」

「は、はい。そ、それで、ぼ、ぼくも、ジャ、ジャスティン、さん、に、きょ、協力、して、も、もらえる、ことに、なって…」

「!!ジャスティン商会が、リンの…」

「そ、それってめちゃくちゃ凄いじゃない!!リンちゃん、ギルドだけじゃなくてジャスティン商会も味方についてくれたってことじゃない!!」


リンが、ジャスティン商会と冒険者ギルド スタトリン支部が協力関係となり、リンは双方から支援をもらえると言うことをぽつりと話したら…

リリムもロクサルも盛大に驚き、直後に盛大に喜びを見せる。


リンにまた、強力な味方がついてくれたことがとても嬉しくて、リリムとロクサルは思わす立ち上がってはしゃいでしまう。


「……よし!ギルドには、俺が仕入れた情報を共有する形を取るようになっていたが、それをジャスティン商会の方にも共有すれば、より強固な防衛ラインができあがる!」

「わあ~!リンちゃんがもっと冒険者と生産の活動を安心してできるってことですね!」

「ああ、そうだ!…よし!ますますやる気になってきたぞ!俺は常に最前線で暗躍して、リンを狙う輩の情報収集を全身全霊でやるぞ!」

「ロクサルさん、頼りになります!その情報を、リンちゃんを護るみんなで共有すれば、リンちゃんはもっと安全になりますね!」


リンの味方がまた増えたことを喜び、リリムとロクサルは今後の方針を嬉々として話し合っている。

そんな二人を見て、リンはとてもありがたくて嬉しくて、にこにことした笑顔を浮かべている。


「そう言えば、リンちゃん!」

「?は、はい?」

「今、孤児院ってニノちゃんも引っ越してきて、そこで暮らしてるんでしょ?」

「は、はい。あ、あと…」


リンは、ニノがエイレーンからの指名で、孤児院の実質の管理者として常駐すること…

そして、そのニノを支援する為の人材を、ジャスティン商会から派遣してくれること…

さらには、片親である為、ジャスティン商会や冒険者ギルド スタトリン支部で業務が忙しく育児が不十分な家庭の子供を、就業時間中お預かりして育児の支援をしていくこと…

そして、とうとう開始したごみ処理事業による、集積場でのごみ処理も子供達の手で順次行われ、その作業を子供達がとても楽しそうにしていることも、リリムとロクサルに改めて説明する。


「……それは凄いな。リンが作ってくれたあの孤児院が、多くの人の幸せを生んでいっているじゃないか」

「もうほんと!!リンちゃん!!あたしも孤児院のお手伝い、いつでもするからね!!ニノちゃんと子供達のお世話できるなんて、すっごく楽しそう!!」

「あ、ありが、とう、ござい、ます」


ロクサルは、リンが作ってくれた孤児院がすでに多くの人達の幸せを生んでいっていることが、まるで自分の事のように誇らしく思えてしまう。

ニノが孤児院に常駐することを聞かされたリリムは、ギルドの中でも特に仲が良かったニノと一緒に子供達のお世話ができることを心底喜び、これからを楽しみにしている。


冒険者ギルドには、リンは当然のように筆頭となるが、リリムやロクサルを指名する依頼も増えており、これからより町のお役立ち依頼に精を出すことができる。

さらにはリンが作った孤児院で、表向きの責任者をエイレーンとして外部との様々な折衝を行ないつつ、内部の管理者をニノとして維持管理や子供達のお世話を任せることができている。

冒険者ギルドはエイレーンとニノが孤児院に常駐になったことで人手不足が予想されるが、リンがエイレーンに渡した収納の魔導具のおかげで、孤児院に常駐しながらも書類仕事ができるようになっている為、今のところそこまで問題はない状態。

また、冒険者ギルドはもちろんのこと、ジャスティン商会からも業務支援の依頼をお願いされ、今後はエイレーンやジャスティンを経由して様々な仕事ができる。


それだけでなく、冒険者ギルドを介してジャスティン商会に秘密裏に、かつ安全にリンの生産物や魔物素材などを買い取ってもらえるようになった為、資金繰りの問題も解決。

逆に必要な資材などを、冒険者ギルドを介してジャスティン商会から購入することもできるので、拠点や孤児院の資材調達も安心して行えるようになった。


全てが、リンが今後の活動を目立たずに行なっていきやすくなっており…

また、リンの能力がバレないよう、徹底的に秘匿する為の強固な防護壁も構築されつつある。


リンは、自分のことを助けてくれる全ての存在に感謝しつつ、これからもみんなの為に頑張ろうと、心に決めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る