第30話 嫉妬
「!あ!みんな、おかえりなさい!」
この日の討伐を終わらせ、そのまま拠点となる生活空間へと帰ってきたリン一行。
一人留守番だったリリムは、全員無事に帰ってきたことに喜びの表情を浮かべながら迎えの言葉を贈る。
「た、ただ、いま、です」
「……ただいま、リリム」
(ただいま!リリムおねえさん!)
(ただいま帰りましたぞ!リリム殿!)
この空間に帰ってきた面々も、リリムの表情と空間独自のほうっとする雰囲気に心を楽にしてもらえたのか…
ほうっとした笑顔を浮かべながら(リムはふよふよとご機嫌そうな動きで)、リリムの元へと歩いて行く。
「!リンちゃん、もしかしてこの子、リンちゃんがテイムした子?」
「は、はい、そう、です」
そして、一行が出かけて行った時には見なかった顔…
インフェルノファルコンが、この場に入ってきているのを見て、リリムはリンがテイムしたのだと確信しつつも、リンに問いかける。
リンも、リリムの問いに素直に答える。
(ルノ、この人はリリムお姉さん。ぼくにすっごく優しくしてくれて、ぼくのお手伝いもしてくれる、すっごくいい人だよ!)
(はじめまして!わたしはルノっていいます!ご主人様はもちろん、皆様のお役に立てるよう頑張ります!よろしくお願い致します!)
「リ、リリム、お姉さん。こ、この子、は、イン、フェルノ、ファル、コン、の、ルノ、です」
「そうなのね!あたしはリリム!よろしくね、ルノちゃん!」
リンは、ルノにリリムを、リリムにルノをそれぞれ紹介する。
リリムもルノも、お互い波長が合うのか、すぐにルノがリリムに懐いていくようにその肩に止まる。
リリムも、そんなルノを怖がらず、笑顔でルノの顔を優しく撫でていく。
「ル、ルノ、は、【火】、と、【風】、の、魔法、を、使えて、【探索】、の、技能、も、持って、ます。そ、それ、に、飛ぶ、スピード、も、速くて、こ、行動、範囲、も、広い、ので、戦闘、だけ、じゃ、なく、て、偵察も、して、くれます」
「!わあ~!さすがインフェルノファルコン!超有望な新人さんが来てくれたね!」
「は、はい。ル、ルノ、と、ロクサル、さん、が、いて、くれる、から、せ、斥候、と、偵察、は、あ、安心、して、お任せ、できます」
「ルノちゃんすご~い!こんなにすごい子が来てくれるのは、やっぱりリンちゃんがすっごくいい子だからよ!」
(リリム様、すっごくわたしのこと褒めてくれてるみたいで嬉しいです!こんなにもいい人間さんに会えるのは、やっぱりご主人様がすっごく強くていい人だからです!)
女と雌、ということで波長が合っているのか…
言葉が通じているわけでもないのに、まるでお互いに言っていることが分かっているかのようにお互いを褒め合っている。
そして、揃ってリンのことまで褒め称えてくる。
「ぼ、ぼく、そ、そんな…」
褒められることに慣れていないリンは、当然のように恥ずかしがってその顔を赤に染めてしまう。
そんなリンが可愛いのか、リリムもルノも盛大にその表情を緩めることとなる。
(全く!同じ人間でも、あいつらとは雲泥の差ですねほんと!)
(?え?な、何が?)
(ご主人様と出会うちょっと前に、わたしのこと討伐しようとした二人組と、戦ってたんですよ)
(!そうなの?)
(はい!そいつら、妙に偉そうな雰囲気出してたくせに、もう弱くて弱くて…男の方は剣しか使えない上に投げる武器もなくて…女の方は魔法を使ってくるんですけど、合成も全くできないし属性はわたしと全く同じだし!そのくせ火力ばかり求めてるから魔力の無駄遣いしてるのがすぐ分かっちゃいました!)
(そ、そうなんだ…)
(それに、無駄に範囲まで広げてるから照準に自信がないのも丸わかりで、避けるのも簡単でしたもん!男の方なんかそもそもわたしに対する攻撃手段自体がないから、空中から遠距離攻撃で体力と魔力削ってるだけで、勝手に自滅していってましたね〜)
ルノは、リンを始めとする、ここにいる人間が素晴らしいと思えているが故に、その直前で戦った二人組…
ガイとローザのことを思い出して、ついつい比較してしまっている。
百を超えるビッグホーンブルを相手に、それを物ともしないほどの圧倒的な力の差を見せつけて、群れの全てを討伐に成功したリンと比べると…
そもそも比べること自体がおこがましいとさえ思えてしまう、ガイとローザ。
二人がかりでたった一匹である自分に挑んできてるのに、二人と言う
ガイは攻撃手段がないなら壁役にでもなればいいのに、それすらせずに自分が仕留めようとばかり…
ローザも自分の魔力や力量と相談もせずにただただ、単調に分かりやすく燃費が悪い上に当たる見込みもない攻撃魔法を、闇雲に撃ち続けるだけ…
単独行動を好むインフェルノファルコンで、生存競争厳しい魔の森で生き抜いているルノからすれば、まさに『こいつら一体何しに来たの?』と言い切れるほどに楽勝な相手だった。
(結局、その二人はどうしたの?)
(それが、一応撤退を選べる頭はあったみたいで…ギリギリのところで無様に逃げ帰ってました。正直楽すぎる戦闘で拍子抜けしちゃって…途中で追い詰めて餌にする気もなくなっちゃいました)
(そうなんだ…)
ルノの話を聞いて、リンはルノはもちろん、その二人も死ななくてよかったと心の中でほっとしてしまう。
ただ、ルノから聞いた二人が、なぜか自分が知っている人間のような気がして、妙に気になってしまう。
(ねえ、ルノ)
(?なんでしょう?)
(その二人って、どんな人だったの?)
(ふえ?えっと、男の方は短くてツンツンした金色の毛で、ゴツゴツしたおっきい人間で…女の方は、長い金色の毛で、真っ黒な服着てました)
(…………そっか)
気になったので、実際に交戦したルノにその男女の特徴を聞いてみたリンだったが…
ルノが言葉にした特徴が、今自分が思い浮かべていた人物のものとぴったり一致してしまう。
まさか、ルノにここまでコケにされていた人物が、あの二人だったなんて。
そう思ったリンの顔が、暗いものとなってしまう。
「?リンちゃん?どうしたの?」
「?どうした?リン?」
その顔が気になったのか、リリムとロクサルが心配してリンに声をかける。
「あ、そ、それ、が…」
リンは、コミュ障ならではのつたない口調でなんとか頑張りながら、ルノから聞いたガイとローザの話を、リリムとロクサルの二人に伝える。
「うっわ~…リンちゃん解雇して、ロクサルさんに抜けられただけで、そんなことになっちゃってるの~?」
「……正直、あの様子では戦闘時の連携もまともにできないとは思っていたが…あいつ等と活動を続けていたら、命を落とすと感じた俺の直感は正しかったみたいだな」
リンからルノが、リンと出会う直前にガイとローザの二人と交戦していたと聞かされ…
しかも、その戦闘の顛末まで聞かされ…
リリムは予想を超える凋落っぷりに、むしろ同情すらしてしまいそうになるほど残念さを感じてしまう。
ロクサルは、パーティーを抜ける際にガイとローザに言ったことが現実に起こりえることだと確信が持ててしまい、今ここでリンと共に行動できていることに、言いようのない感謝の念を送ってしまう。
そもそも、命を落とさなかっただけでも奇跡、と言えるほど、ひどい顛末だったのだから。
「…………」
リンは、自分がうまく『栄光の翼』に溶け込めていたなら、こんなことにはならなかったのでは、と思い…
ガイとローザの二人に、悪いことをしてしまったと、心を痛めている。
そんな、悲痛な顔をしているリンを見て、ロクサルはその内心を察したのか…
「……リン、君が気に病むことなんか、何一つないんだぞ」
リンと目線を合わせるように膝を折り、リンを真っすぐに見据えて、リンは何一つ悪くなどないことを、言葉にしていく。
「ロ、ロクサル、さん…」
「……あいつ等は、君に対する嫉妬心だけで、君にあれほどひどい仕打ちをしてきた…そして、最終的には君を切り捨てた」
「で、でも、そ、それ、は…」
「……リン、君はこれ以上ないほどに『栄光の翼』で貢献してくれていた。ただ、あの二人がそれを認めようとしなかっただけなんだ。厳しい言い方をするが、冒険者は自分が生きるも死ぬも、全てが自己責任…あの二人は、自分から自らを悪い方に悪い方に置いて行ってる…それだけなんだよ」
「…………」
「……過ぎたほどに心優しい君に言うのもどうかと思うが、もうあの二人はいないものと思って忘れてしまった方がいい。この様子では、そう遠くないうちに自らを死に追いやってしまう…あの二人は」
「そ、そん、な…」
「……だがそれも、あの二人が選ぶ道であり、選ぶ結果だ。誰のせいでもない。ましてやこれ以上ない程にあのパーティーで貢献してくれた君のせいであるなど、絶対にありえない」
「ロ…ロクサル…さん…」
「……あの二人は、君より自分達の方が何もかも上だと勘違いしている。だから事実を…現実を見ることができていない。見ていたとしても、受け入れることができない。そんな二人の為に、君が心を痛める必要なんか、髪の毛の先程もない」
ガイとローザの二人は、リンをさんざん虐げ、見下したあげく、その貢献の何もかもを見てすら来なかった。
そんな連中の為にリンが心を痛めることなど、ロクサルにとっては許せることではない。
もうロクサルにとって、あの二人は過去の人間。
今となっては、その存在すらどうでもいい人間。
だからこそ、なおさらそんな二人がリンの心にいることが許せない。
「そうよリンちゃん!リンちゃんがさんざん貢献してくれてたのに、それを見るどころか、自分達の醜い嫉妬心でさんざんひどいことしてきた連中のことなんか、忘れちゃってよ!」
「リ、リリム、お姉さん…」
「あたしもロクサルさんも、そんな連中がリンちゃんの心にいるなんて…それも、リンちゃんの心を痛める要因になってるなんて許せないの!リンちゃんがそんな連中に気を取られて、ここにいるあたし達のことを見てくれないなんて、絶対に嫌なの!」
「!そ、そんな、こと…」
「だったら、そんな連中のことなんか考えないで!今ここにいるのは、リンちゃんのそばにいるのは、誰なの!?」
「!!……」
リリムの、その心の中をそのまま打ち明けてくる言葉に、リンははっとしてしまう。
ある意味、とてもわがままな。
でも、誰よりもリンのことを思ってくれている。
そんな、リリムの言葉。
リリムとロクサルが、そんな過去の連中に嫉妬してしまうようなことを、自分がしてしまっていることに、リンは嫌でも気づかされてしまう。
「……ご、ごめん、なさい……」
ここにいる、自分にはもったいないくらい、素晴らしい仲間を置き去りにして…
もう過去の人となった人間のことばかり考えてしまっていた。
それがあまりにも申し訳なくて、リンはリリムとロクサルに、心からのお詫びの言葉を、声にする。
そんなリンに、ロクサルはほうっとした微笑みを浮かべ、優しい眼差しを向ける。
が、リリムの方は…
「だめ!あたしは許してなんか、あげないんだから!」
よほど自分が過去の連中より軽く扱われていたのが気に入らなかったのか、ぷりぷりと怒ってますアピールをしながら、リンのことをぎゅうっと抱きしめてしまう。
「!!リ、リリム、お姉さん!!??」
「リンちゃんがあんな連中のことばっかり考えて、あたしのことないがしろにしてたなんて、あたし絶対に許せない!!」
「や、やめ…」
「いや!!やめてあげない!!あたしすっごく傷ついちゃったんだから!!だから、リンちゃんの心に、あたしのことい~っぱい刻んで、絶対に忘れないようにしちゃうんだから!!」
「は、離して…」
「いやったらいや!!リンちゃんはあたしにとって、いてくれなきゃ絶対にだめな子なんだから!!気絶したって、絶対に離してなんか、あげないんだから!!」
リリムにぎゅうっと抱きしめられたことでそのコミュ障がどんどん発揮されてしまい、リンは弱弱しくもリリムから離れようと、抵抗する。
しかし、コミュ障が発揮されて
「は、は、な、し、あ、う、う、あ~~~~~~~~~~~~~~~……きゅ~……」
もうこれでもかと言うほどに、リリムとのスキンシップを強要され…
リンは案の定、あっけなくその意識を手放すことと、なってしまう。
「もお!こんなに可愛くてたまんないリンちゃんに、あんな連中のことなんか忘れさせてやるんだから!!」
しかし、よほどお冠だったのかリリムはリンが気絶しても全く離す様子はなく…
そのヤキモチによる鬱憤を晴らすがごとくに、リンを抱きしめてめっちゃくちゃに可愛がってしまう。
そんなリンとリリムを見て、ロクサルはぷっと吹き出してしまい…
リム、ナイト、ルノはすごく仲良しな二人だと思い、嬉しそうな様子でじっと見つめているので、あった。
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