第176話 勅命⑧
「ま、まさかこのようなことが、現実に…」
「リン様は…リン様はどれ程規格外のお力をお持ちなのでしょうか…」
ジャスティンが、マクスデルとエリーゼに掲げた提案。
その提案の内容をすぐさま、現実のものとしたリン。
それによって実現した、『この世のどんな場所よりも安全な住処』を目の当たりにして、マクスデルもエリーゼもこの日何度目か分からない驚愕に陥っている。
「お、おおお……私が…この私がリン様のお住まいで傍仕えをさせて頂けるとは!!」
「リン様!!私の全てはリン様の為にございます!!リン様の傍仕え、陛下、エリーゼ様の傍仕えとして、全力で尽くさせて頂きます!!」
そこに、リンの傍仕えとして同行することとなったセバスとアンも…
ジャスティンが提案し、リンが形にしてくれた場所に訪れた瞬間、感激のあまり涙を流しながら、改めてリンの傍仕えとして全力を尽くすことを、その心に誓う。
ジャスティンの提案に基づき、リンが行なったこと。
それは、王城にあるマクスデルとエリーゼ、そしてセバスとアンの私室と全く同じ構造の建造物を、リンの生活空間の地下に作り上げ…
さらに、生活空間に作り上げた四人の私室に、実際の王城にある四人の私室の扉から出入りできるように出入口をつなげること。
しかも、生活空間にある四人の私室には、それぞれの私室につながる出入口とリンの拠点の地下一階につながる出入口を設けている。
その為、運命共同体となる四人の私室への行き来はもちろん、リンの拠点への行き来も可能となっている。
加えて、王城の四人の私室にはあくまで出入口の方を生活空間に作った私室につないでいるだけなので、王城にある私室はそのまま残っている。
その為、扉からではなく、天井裏からの侵入をしても部屋は常にもぬけの殻状態となり、そこからの襲撃は不可能となっている。
しかも、仮に扉から襲撃を加えようとしても、マクスデルやエリーゼ、セバスやアンに敵意や害意のある者は、生活空間への出入り口がそれを敏感に検知し、生活空間の私室には入らせず、本来の私室に入らせるようにしてくれる。
加えて、生活空間の各私室とリンの拠点につながる出入口は、リンが認めた者しかそれを認識することができず、ただの壁にしか見えない為、間違って入られることもない。
その為、いざとなったら私室に逃げこむことで、自身を護ることができるようになっている。
「あ、あの、セ、セバス、さん、ア、アン、さん」
「!はい!リン様、如何されましたか!?」
「!はい!リン様、何か私に御用でしょうか?」
「こ、これ、から、は、ぼ、ぼく、が、へ、陛下、も、お、王妃、で、殿下、も、お、お二人、も、ま、護り、ます、ので、も、もう、だ、誰、にも、き、傷、つけ、させ、ません」
「!!な、なんと……リン様は、陛下と王妃殿下のみならず、私共までお護りくださると……」
「す、少なく、とも、み、皆、さん、が、私室、に、いる、時は、ぜ、絶対に、護り、切ります」
「!!リン様…ああ…リン様はやはり私達の守護神様…」
「リン様の生活空間の外のことでしたら、私共が陛下も王妃殿下もお護り致します!!お任せください!!」
全く同じ構造で作られた、生活空間にある私室に、四人の私物は全て移してある。
これで、今まで通り王城で生活しつつも、必要な時はリンの拠点に行き来することができるようになった。
王城では、各々の私室を拠点とすればまず襲撃されることもなく、部屋を出ない限りは安全が保証されることとなる。
リンが傍仕えとなる自分達をも護り切ると言ってくれたことが、セバスとアンは嬉しくて嬉しくてたまらず、感激の涙が溢れて止まらなくなってしまっている。
「リン君、そろそろリン君の拠点へとご案内しようか」
「は、はい」
王城の中に、四人の身の安全が保証される拠点を作り上げ…
ジャスティンの進言で、リンは自身がスタトリンのそばに作り上げた拠点へと、四人を招き入れることにした。
――――
「お、おおお……リリーシア!!」
「リリーシア!!生きていてくれて、本当によかったわ!!」
リンとジャスティンが、リンの拠点に姿を現し…
その後に続いて、マクスデル、エリーゼ、セバス、アンが入って来る。
とても楽しそうに嬉しそうにスタトリンの運営、そしてリンが所有する施設、設備、サービスなどの経営管理に勤しむ者達が、リンとジャスティンが帰ってきたことを喜ぶ中…
とても広く、温度も快適で空気も清浄、しかも生活や業務にとても最適な設備まであり、セバスとアンは興味津々に周囲を見渡している。
マクスデルとエリーゼは、その中に最愛の娘であるリリーシアの姿が、その目に映り込んだことで…
王族としての立ち振る舞いなどかなぐり捨てて、リリーシアの元へと駆け寄っていく。
「お、お父様に、お母様!!??」
リリーシアは、本来ならばこの拠点にはいないはずの父マクスデルと母エリーゼが、この場に姿を現して自分に駆け寄ってくる姿を見て、驚きの方が勝ってしまう。
そんなリリーシアを、マクスデルとエリーゼは二人で包み込むように抱きしめ、最愛の娘との再会を心から喜ぶ。
「え?え?」
「リリーシア様のお父様とお母様、と言うことは…」
「サンデル王国の現国王様と王妃様!?」
「リン様がここにお招きされたと言うことは…」
「サンデル王国と、その王家の方々と友好な関係を築ける、と言うことなんだわ!」
「は!いけない!」
「早く国王様と王妃様を、おもてなしさせて頂かないと!」
その光景を目の当たりにしたリンのメイド部隊は、すぐさまリンがサンデル王国の王家と友好な関係を築くことができたと気づき…
大慌てでマクスデルとエリーゼ、さらにはセバスとアンをもてなす為の準備を手分けして開始する。
「初めまして!わたし達、リン様にお仕えさせて頂くメイド部隊でございます!」
「この度はお越し頂き、ありがとうございます!」
「すぐにおもてなしさせて頂きますので、どうぞこちらの席へ!」
日頃からこの拠点で家事に勤しんでいるメイド部隊の実力は、ここに来てからメキメキと上がっており…
そそくさとおもてなし用の、芸術品のような美しい造りのテーブルと、座り心地抜群のふわふわとした高級感溢れるソファを用意し…
さらには、一部始終を見ていたジュリアがその料理上手な腕を振るって作ってくれたお茶請けと、リンが生産した茶葉を使って淹れた紅茶を失礼のない様に、丁寧に四人に出す。
「お待たせ致しました!」
「どうぞ、ごゆるりとなさってください!」
おもてなしの準備を終え、スタトリンではアイドル的な存在となっている美女・美少女揃いのメイド部隊の面々に眩い笑顔でおもてなしされ…
マクスデルとセバスは思わず頬が緩んでしまい、エリーゼとアンは自分達に本当に寛いでもらおうと言うメイド部隊の真心に笑顔を贈る。
「お父様…お母様…ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした」
「リリーシア…」
「リリーシア…いいのよ…生きて、わたくし達の元に戻ってきてくれたのだから」
「それに…お父様が私の為に編成してくださった護衛部隊の方々は…私を護る為に…全員…」
「…そうか…立派に、任務を全うしてくれたのだな…」
「…遺族の方々には、手厚い補償をさせて頂かないと…ご遺体は、魔の森に?」
「…魔の森で遭遇した、ヒドラと言う恐ろしい魔物によって…その亡骸も、残りませんでした…遺品となるものも、全て遺体もろとも燃やし尽くされて…」
「!…そうか…そこまでのことが…」
「…私を護って散っていった護衛部隊の方々の魂を、私を救ってくださったリン様が【鎮魂】を使って、安らかに天へと送ってくださったのです…リン様のおかげで私は命を…護衛部隊の方々はその魂を救って頂きました」
「!【鎮魂】!…リン様は、教会に認められた聖女にしか使えない秘術までお使いに…」
「ああ…やはりリン様は、サンデル王国の守護神様なのですね…」
「?お父様とお母様も、リン様を守護神様と?」
「ん?おお、そうか…リン様は、その御身に雷を宿されたお方だからな…」
「!もしや、リン様の【雷】魔法をご覧に?」
「ああ」
「ええ…それも、王家に代々伝わる『王家の友』が、リン様の御身に宿る【雷】の魔力に反応して、ひとりでにリン様の首に…」
「!じゃ、じゃあリン様は…」
「ああ。我が王家はリン様をサンデル王国の守護神様として崇拝していく。そして、いずれそのことを国内に通達する予定だ」
「そして、このスタトリンを国として独立することを、ジャスティンさんに許可を出しました。我がサンデル王国は以後、スタトリンと国同士の友好な関係を築いていきたいと思っております」
父マクスデルと母エリーゼが、リンのことを守護神として崇めていることに気づき、リリーシアは二人もリンの【雷】魔法を目の当たりにしたと察する。
そして、リンが王家でサンデル王国の守護神として崇拝されること、スタトリンの独立を認めた上で、国となるスタトリンと友好な国交をしていくこと…
それらを、リリーシアはマクスデルとエリーゼから聞かされる。
「!!あ、ありがとうございます!お父様!お母様!このスタトリンが、本当に…本当に一つの国に…あああ!私、これからも頑張らなくては!」
このスタトリンが、本当に独立して一つの国となる。
そして、サンデル王国と友好な関係を築ける。
そのことを、リリーシアは心から喜び、その母エリーゼ譲りの美しい顔に眩い笑顔を浮かべて、これからもスタトリンの為に、代表の一人として尽くそうと心に誓う。
「リリーシア様!このセバスは陛下の命により、リン様の執事としてお仕えさせて頂きますぞ!」
「リリーシア様!このアンも、陛下の命によりリン様の侍女としてお仕えさせて頂きます!」
「まあ!セバスさんとアンさんも、リン様にお仕えするのね!私も、リン様にお救い頂いてからずっとリン様にお仕えさせて頂いているの!」
「なんと!リリーシア様が!」
「私、リン様のおかげで私がお預かりしていた文官も領地の民もみんな救って頂いて…このスタトリンの代表の一人として、町の経営をさせて頂いて…リン様にお仕えさせて頂いてからは私、もう毎日が幸せでたまらないの!」
「リリーシア様…この私も、リン様に身体中に残っていた傷を一つ残らず消して頂き…さらには、リン様のお力で絶対の安全が約束された住処まで頂き…私も、リン様にお仕えさせて頂けると思うと、喜びと幸せで心がどうしようもなく踊ってしまいます!」
「!まあ…アンさん、リン様は本当に素晴らしいお方でしょう?」
「はい!私…恐れ多いですが…リン様を心から愛しております…♡」
「うふふ…私も、リン様を心から愛してます♡」
「!リリーシア様も…そ、そうですよね…リン様はそれ程に大きく、魅力的なお方ですから…」
「大丈夫よ、アンさん。この拠点に住んでいる女性の方々は、誰もがリン様を心から愛してます…もう誰もがリン様にその愛を伝えたくて、いつもリン様は私を含めた皆さんにめっちゃくちゃに愛されてますから♡」
「!で、では…わ、私も…♡」
「ええ♡一緒にリン様を愛して差し上げましょう♡」
「は、はい♡」
リリーシアがとても嬉しそうに、リンにその命を救われ、スタトリンで暮らすようになってからの日常を語っているのを見て、セバスもアンもリンに仕えることが本当に楽しみで仕方なくなってしまう。
さらに、アンは自分が女としてリンを愛していることも、その美貌を恥じらいの色に染めながら宣言してしまう。
そんなアンに、リリーシアは自分もそうだと告げ、さらにはこの拠点に住む女性の誰もがリンを心から愛し、日頃から行為でもめちゃくちゃに愛していることも伝える。
その言葉に、アンは心が昂ってしまうような感覚を覚え…
これから、リンをめちゃくちゃに愛してあげたいと望んでしまっている。
「うふふ…わたくしも一緒に、リン様を愛させて頂きたいわ♡」
「!お、お母様!?」
「エ、エリーゼ様!?」
「うふふ…と言ってもわたくしは、リン様の『お母さん』として愛させて頂きたいのです♡」
「!お、お母さん、としてですか?」
「ええ。あれ程に他の為を思って、常に人を救われているリン様が孤児で…それも人と触れ合えない呪いまで…わたくし、そんなリン様にせめて母と言うもの…そして、母の愛情を知って頂きたいのです♡」
「お、お母様…」
「エ、エリーゼ様…」
「ねえ、リリーシア。リン様があなたをもらって下さったら、わたくし本当にリン様の『お母さん』になれますの」
「!わ、私が、リン様の……♡」
「だからリリーシア…リン様に『お父さん』と『お母さん』ももらって頂けるように…あなたが『お嫁さん』として、リン様にもらわれてくれるかしら?」
「そ、そんなの、私…リン様のお嫁さんなんて…なりたくてなりたくてたまりません♡」
「うふふ、そうですよね♡リリーシア…リン様のお嫁さんでしたらわたくし、全力で応援致しますからね♡」
「お母様…私、頑張ります!」
リリーシアとアンが仲良く話しているところに、エリーゼが加わり…
リンの母親になりたいから、リリーシアにリンの伴侶になってほしいと…
実の娘であるリリーシアを焚きつけてくる。
無論、すでにリンに心を奪われているリリーシアが、リンの伴侶になりたくない、などと言うはずもなく…
リンの伴侶になれたら、どれ程に幸せでたまらないかを思い描き、とても幸せそうな表情まで浮かべてしまう。
エリーゼも、そうなって自身がリンの母親となれたなら、もうそれは最上の幸福でしかないと、心が躍ってしまう。
「それにしてもジャスティン…リン様がお作りになられたと言うこの拠点…そなたが言っていた通りだな」
「陛下も、そう思われますか」
「うむ。ここに住んでいる者達の幸せそうな雰囲気と表情…業務に取り組んでいる時ですらそれが崩れないのを見ているだけで、ここがどれ程に素晴らしいところかが分かってしまう」
「恐れながら、このセバスも陛下と全く同じ感想でございます」
「リン様があの王城に、我やエリーゼ…セバスとアンが安心して過ごせる空間をお作り下さり…しかもそこからこの素晴らしい拠点に行き来できるなど…リン様にはもはや感謝してもし切れぬよ」
「恐れながら陛下…今はまだ、リン君のことを公にしない方がよろしいかと愚考致します」
「?それは何故だ?」
「いかにリン君が、サンデル王国の守護神として崇拝されようと…いえ、むしろだからこそジャクリーヌ王妃、そしてそちらを支持する貴族が、リン君と言う国の実権の象徴を巡って醜い争いを繰り広げることでしょう。リン君は過ぎたほどに純粋で、人の為ならばその神のごとき力を使うことを惜しまぬ性格…それを利用するなど、連中にすれば当然のこととなるでしょう」
「!ぬ…下手をすれば、国全体を巻き込んだ内乱にまで発展する可能性まであるな…特にあのジャクリーヌが絡んでくるなら、まず間違いないだろう…」
リンと言う、偉大なるサンデル王国の守護神が自身の目の前に現れ、すでにその力の一端をも見せられ、その恩恵までもらっているマクスデル。
一刻も早く、リンのことを正式に国内で発表したくてウズウズしているところに、ジャスティンがそれに待ったをかける。
今のサンデル王国にとって、リンと言う存在は国民にとっては紛れもない救世主であり、守護神となり得るだろう。
だが、上流となる貴族達…
特に、国の実権を握ろうと言うジャクリーヌ派の貴族が、リンと言う存在を素直に認めることは考えにくい。
それどころか、リンを利用する為にジャクリーヌ派へ引き入れようとするのは目に見えている。
よしんばリンを引き入れることができたのならば、その中でさらにリンを巡って、血で血を洗う内乱が起こる可能性も否定できなくなってくる。
容姿も醜悪で、何一つ秀でたところがない無能なジャクリーヌではあるが、それゆえに扱いやすい傀儡として、よからぬ貴族達が旗印にしているのであり…
ジャクリーヌを旗印にしているからこそ、その裏で国王の目を欺いて選民思想の強い貴族達が領地の民など、いくらでも代わりがいる、と言わんばかりに追い込んで財を搾り取り…
その結果、民が国を見限って他国に流れる、と言う悪循環を断ち切れないでいる。
ましてや、今はサンデル王国のすぐそばに『この世の天国』とまで称されているスタトリンがある為…
その悪循環に拍車がかかっている状態なのだ。
「…これは、サンデル王国の王となる我の課題となるだろう」
「陛下…」
「今の状態でリン様をお披露目したがゆえに、却って国の内乱を勃発させることとなるのは…あの尊きリン様の御心を傷つけることになる…それどころか、我が国の内乱にリン様の御手を煩わせることとなってしまう…それだけはならん!」
マクスデルは、自国の貴族達のくだらない欲望の為に、リンがその心を傷つけたり、内乱などでその手を煩わせるようなことはあってはならないと…
このことを、自らへの課題とする。
「ジャスティン…セバス…我は、リン様の為にもサンデル王国をよりよくしていきたい」
「陛下…」
「陛下!」
「だが我は、リン様のような神のごとき力などない、至って凡夫そのもの…だからこそ二人にも、協力してほしい」
「心得ました!このジャスティン、このスタトリンと共にサンデル王国の発展の為、全力を尽くします!」
「陛下!このセバス、陛下の…ひいてはリン様の為、国の為にこの老骨に鞭打って尽くさせて頂きます!」
マクスデルの決意、そして王でありながら自らを凡夫と称し、協力を懇願する姿にジャスティン、セバスはその心を打たれる。
サンデル王国の経済を支えてくれている貢献者であるジャスティン。
王家に長年仕えてくれている執事セバス。
その二人の力強い承諾の声に、マクスデルは心強い戦友を得たと微笑むのであった。
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