第106話 幸福
「ありがとうございます!旦那様!こんなにいっぱい買って頂いて!」
「ありがとう!旦那様!」
「ありがとう!旦那様!」
ジャスティン商会での買い物を終え、フェリス達の着るものをチョイスしてくれた女性達とも別れて…
リン達は、その足でリンがスタトリンの近くに作った拠点へと向かっている。
フェリス、ベリア、コティの三人は、今はみすぼらしい貫頭衣ではなく、ジャスティン商会まで同行してくれた女性達がチョイスした服を着ている。
フェリスが、黒を基調とした魔法使いのローブのような装い。
露出も少なくおとなしめなデザインで、少しゆったりとしたサイズになっている。
だがそれでも、フェリスの自己主張激しい胸部、それとは裏腹に細くくびれた腰のラインははっきりと強調されているのだが。
ベリアは、白のブラウスに黒に近い銀色のベストと、膝よりやや上の少し短めな白のスカートと言う装い。
まだ少女と言えるベリアを可愛らしく見せながらも、凛とした雰囲気を残している。
コティはベリアと同じ服装だが、黒のブラウスに白のベスト、黒のスカートと言うコーディネイトとなっている。
また、凛としているベリアよりも愛嬌のあるコティの髪には、フリルのついたリボンの髪留めが着けられており、それがコティの可愛らしさを強調している。
それとは別に、当面は全く困らない程の数の衣類、そして下着類も購入しており…
元々貫頭衣の下に下着類を一切着けていなかった為、今はちゃんと下着を着けている。
ちなみにフェリス達が下着すら着けていなかったことに女性達は盛大に驚き…
フェリス達の話を聞いて心底同情し…
しかもその場にリンと言う、これ以上ない程の
そして、その女性達は本当はリンから受けた、多大なる恩を少しでも返したくてしたことなので、そのリンからまた何かをもらうなどということは考えてもいなかったのだが…
リンから、とても愛らしい笑顔でお礼と言われてしまえば、それを断る術などあるはずもなく…
結局、それぞれ一着ずつお気に入りを選んで、リンに買ってもらうこととなった。
リンが買ってくれたその一着は、どの女性もとても嬉しくてたまらず…
本当の意味での宝物として、大切にしようと心に誓っていた。
「うふふ…旦那様のお家で、旦那様と一緒に暮らせるって思ったら…すっごく嬉しくなっちゃう…」
「ワタシも!旦那様のお家、すっごく楽しみ!」
「あたいも!早く旦那様のお家、行きたい!」
これからは、リンの拠点でリンと共に暮らせると思うと…
フェリス、ベリア、コティの顔にとても嬉しくて幸せそうな笑顔が浮かんでくる。
その喜びからか、歩いている足もどこか弾んでいるように見える。
(リンのおうち、すっごくたのしみなのー)
(リンがじぶんでつくったおうち、とってもすごそうなのー)
(これからリンのおうちで、リンといっしょにくらせるのー)
(リンとくらすの、すっごくたのしそうなのー)
そして、それはフレア達精霊娘も同じなようで…
もはや自分達の特等席となっているリンの胸元で、リンと触れ合いながら、リンの拠点に着くのを今か今かと楽しみにしている。
リンを除く全員が、わくわくを抑えきれないような状態になりながらしばらく歩いて行くと…
スタトリンを出て、すぐ近くの森の中に入り…
森に入ってすぐの、一本の木の前でリンがその歩みを止めたのを見て、フェリス達はなんだろうと思ってしまう。
「つ、着き、ました。こ、ここ、が、ぼ、ぼく、の、きょ、拠点、です」
「?ここ、ですか?」
「?ただの木しか、見えないけど…」
「?旦那様?ここに旦那様のお家があるの?」
リンが、目の前の雄々しく大地から生えている木を拠点だと言い出したのを見て、フェリス達はさすがに疑問符を隠せないでいる。
「あ、あの…」
「?はい?」
「?旦那様?」
「?どうしたの?」
「み、みんな、の、血、を、す、少し、だけ、も、もらっても、い、いい、ですか?」
「?血、ですか?いいですよ」
「うん、ワタシもいいよ」
「あたいも」
「あ、あり、がとう、ご、ござい、ます」
そして、フェリス達を拠点の住人として登録する為…
リンは、【医療・施術】を使ってフェリス達の血液を微量、採取する。
そして、その血液を使い、拠点の住人登録を済ませると…
「!!え、な…旦那様!!なんですかこれは!?」
「!!え、さっきまで普通の木だったのに!?」
「!!な、なにこれなにこれ!?」
フェリス、ベリア、コティの目に、先程までは見えなかった六芒星の刻印が、木の幹に刻まれているのが見える。
突然、見えていなかったものが見えた為、三人は驚愕してしまい、何が何だかわからず混乱してしまう。
「ちゃ、ちゃんと、と、登録、できた、みたい、ですね」
「と、登録ってどういうことですか!?」
「こ、これ一体なんなの!?」
「な、何がどうなってるの!?」
「だ、だい、じょう、ぶ、です。こ、今度、は、あの、木、に、ふ、触れて、みて、ください」
三人の様子から、住人登録が正常に完了していることを確認し、リンはほっと一息をつく。
が、フェリス達は未だ何が何なのか分かっておらず、慌てふためきながらリンを問い詰めようとしてくる。
そんな三人を落ち着かせようとしつつ、リンは三人に木に触れるように伝える。
そのリンの言葉に従い、三人の代表としてフェリスがおそるおそるながら、木の幹に右手で触れる。
「!!こ、これって……」
フェリスが手を触れた瞬間、木の幹に人が入れるような出入口が開いたのを見て…
三人はまたしても驚愕に陥ってしまう。
「さ、さあ、な、中、に、は、入り、ましょう」
三人が驚いて言葉も出せずにいる中、リンはおっとりとした笑顔を浮かべながら、中に入るように促す。
半ば放心状態となってしまっている三人は、言葉も出せずにいるものの…
リンの言葉に従い、中へと入っていく。
全員が中に入ると、開いていた出入口はひとりでに閉じてその姿を消してしまい…
またしても三人は驚愕の渦に巻き込まれてしまう。
しかも中は、外観であるただの大きな木とは思えない程整った部屋のようなもので、物は何もないものの、明るく適度な温度を保っていて…
ずっと劣悪な環境で暮らしてきた三人にとっては、ここに住んでほしいと言われるだけでもとても住みよい家となってしまう。
その部屋の床にリンが手を触れると、床が開いて地下へとつながる階段が姿を現す。
それを見て、フェリス達三人はこれでもかと言う程に驚かされてしまう。
(わー!すごいのすごいのー!)
(そとからみたらただのおおきなきなのに、なかはすごいのー!)
(これもリンがつくったのー?)
(なのー?)
(うん、そうだよ)
(!やっぱりリンはかみさまみたいなのー!)
(こんなすごいおうちつくれるリン、めちゃくちゃすごいのー!)
(これからはあたしたちも、このおうちでリンといっしょにすめるのー!)
(めっちゃくちゃうれしいのー!)
驚きすぎて放心状態になっているフェリス達とは裏腹に…
精霊娘であるフレア達は、その仕組みに感激してとても喜んでいる。
しかも、この仕組みをリンが作ったと聞かされて、ますますリンのことが好きになってしまい、これから自分達もリンとここで暮らせることが心の底から嬉しくなっていってしまう。
「だ、旦那様……こ、これは……」
獣人女子三人の中で最も魔法や技能に明るいフェリスが、ようやくと言った感じでリンに問いかけの言葉を投げかける。
足こそはリンの後について、いきなり姿を現した階段を下りていっているものの…
思考そのものはここまで驚愕の渦に陥っており、絶賛混乱中の状態となっている。
「こ、ここ、は、ぼ、ぼく、が、作った、拠点、です」
「!旦那様が、ここを作ったんですか!?」
「は、はい」
「さ、さっきおっしゃってた登録って、一体何の登録なんですか!?」
「こ、この、拠点、に、入って、住む、ことの、できる、じゅ、住人、の、と、登録、です」
「!じゃ、じゃあいきなり木の幹に星の刻印が見えたのって…」
「は、はい。あ、あれ、は、じゅ、住人、登録、されて、いる、人、に、しか、み、見えない、です」
「と、ということは、あの出入口も…」
「は、はい。じゅ、住人、登録、されている、ひ、人、に、しか、ひ、開けない、です」
「………そ、そんな凄い仕組みを、旦那様が………」
この仕組みをリンが作ったと聞かされ、フェリスは盛大に驚くと同時に、多大な興味をそそられてしまう。
獣人の中でも魔法の力に偏っている狐人族であるフェリスは、家庭的な性格だが、探求心も強い。
特に、リンが作り上げたこの拠点のような未知の物に対して、知りたいと思う気持ちがとても強くなってしまう。
「ど、どうしてただの木に見せかけるように作ったんですか?」
「ぼ、ぼく、の、も、持って、る、ぎ、技能、とか、を、よ、よからぬ、人、に、み、見られ、ない、ように、す、する、為に、す、住んで、る、と、ところ、を、か、簡単、に、し、知られ、ない、ように、する、為、です」
「!あ……」
そして、フェリスはリンがなぜわざわざ、ただの木に擬態させた拠点を作り上げたのかが気になり、それをリンに聞いてみる。
その質問に対するリンの回答を聞いて、フェリスは非常に納得した表情を見せる。
確かに、ここまで一緒にいただけでも、フェリス自身理解が追い付かない程の能力をいくつも持っているリンならば…
それをよからぬ権力者が知れば、放っておくはずなどない。
どんな手を使ってでも、リンを抱え込もうとするはず。
元々リン自身、目立つことを好まない性格であると言うのも理由にあるのだが…
最初に生活を共にするようになったリリムから、自分の能力がよからぬ権力者に知られたら、絶対に狙われると言われ…
その後に生活を共にするようになったロクサル、エイレーンも同じようにリンの能力を無闇に誰かに知られないようにと、徹底的な防衛線を張るようにしてくれた。
だからこそ、今となっては家族と言える存在の意思を尊重すべく、リンはその力を秘匿するようにしている。
最も、あの未曾有の大氾濫の時は緊急事態であった為、その力を解放する以外になかったし、リンの力を無闇に誰かに話さずに秘匿する、と言うことをジャスティンとエイレーンが町の人全員に向けて、その理由まできちんと説明したこともあり、もはや町全体がリンの秘密を護ろうとしてくれているのだが。
「!こ、これが旦那様の…」
「!わあ~~~~~…」
「す、すっごく広くて、綺麗なお家…」
(す、すっごいのー!)
(つちのしたのおうちなのに、めっちゃくちゃひろいのー!)
(それにすっごくきれいであかるいのー!)
(リンのつくったおうち、ほんとにすっごいのー!)
そんなやりとりをしながら階段を下りていくと、普段の生活空間となる拠点の地下一階にたどり着く。
その広々とした空間、その中に目的ごとに仕切られ、作られている部屋の数々…
それらを目の当たりにして、フェリス達獣人女子、フレア達精霊娘はそれぞれ感激し、これからここに住めると思うと幸せな未来しか見えなくなっている。
「あ!リンちゃん!お帰りなさい!」
「お兄ちゃん!お帰りなさい!」
この拠点の主であるリンが帰ってきたことで、リビングにいたリリムと、メディカルルームにいたリーファがリンの元へと寄って来る。
「た、ただいま、です」
「あれ?この娘達は?」
「お兄ちゃん、このお姉ちゃん達は?」
リンが帰ってきたことでとても嬉しそうに笑顔を浮かべていたリリムとリーファだが…
そのリンが連れてきた獣人女子達を見て、誰だろうと疑問の声をあげる。
「こ、この、ひ、人、達、は……」
そんなリリムとリーファの疑問の声に、リンはたどたどしくも説明していく。
かつて、獣人と言うことで人間から迫害され続けてきたこと。
そうして、スタトリンの南東に位置する森の中に集落を作り、ひっそりと暮らしてきたこと。
だが、かつての氾濫の際に受けた傷が深く、同胞達が次々とその命を落としてしまい、とうとう残ったのはこの三人だけということ。
そして、ここにいるフェリスも、その身をディケイ菌に侵され、余命いくばくもない状態だったこと。
集落での生活に限界を迎えていたベリアとコティを救い、命の危機だったフェリスも救ったこと。
この三人が自分についてくると言ってきたので、ならばと思い自分の家に住んでもらおうと思ったこと。
そこまでを、当事者であるフェリス達の言葉も交えて、リリムとリーファに説明していった。
「そうだったのね……」
「お姉ちゃん達、すっごく大変だったよね?」
「でももう大丈夫!ここには優しい人しかいないし、何よりめっちゃくちゃ頼りになるリンちゃんがいるから!」
「うん!だからお姉ちゃん達、安心してここで暮らしてね!」
そこまでの話を聞いたリリムとリーファは、フェリス達の生い立ちと境遇を思うとほろりと涙が零れ落ちてしまう。
そして、そんなフェリス達も一緒にここに住んでくれたら嬉しいと思い、とても眩い、優しい笑顔を浮かべてフェリス達を歓迎する。
「う、嬉しいです……こんなにも、こんなにも優しくしてもらえて…」
「みんなみんな、いい人ばっかりだよお……」
「あたい、嬉しくてたまんないよお……」
ずっと迫害されてきたはずの人族。
この町に住む人…
否、リンと関わる人達は、とても優しい。
こんなにも優しくて幸せな世界に、リンが連れてきてくれた。
フェリス達は、そう思えてならない。
そう思うと、嬉しくて喜びの涙が溢れて来てしまう。
「そんなにも喜んでくれて、あたしも嬉しい!あたしリリム!あたしもリンちゃんに助けてもらって、それからずっと一緒に暮らしてるの!フェリスさん、ベリアちゃん、コティちゃん…これから、仲良くしてね!」
「ボクリーファ!ボクもお兄ちゃんに助けてもらって、それからずっとこのお家で一緒に暮らしてるの!ボク回復魔法が得意だから、フェリスお姉ちゃん、ベリアお姉ちゃん、コティお姉ちゃんが怪我したら、すぐ治してあげるね!」
「あ、ありがとう!リリムちゃん、リーファちゃん!」
「ありがとう!リリムお姉ちゃん!リーファちゃん!」
「ありがとう!リリムお姉ちゃんに、リーファちゃん!」
リリムもリーファも元々孤児だったゆえに、フェリス達の生い立ち、境遇がとても共感できてしまう。
だからこそ、仲良くしたいし優しくしたい。
そんな思いに溢れている。
そんな二人の思いが、フェリス達には痛い程に伝わってくる。
それが嬉しくてたまらず、今初めて顔を会わせたばかりなのに、まるで本当の家族であるかのように抱き合ったりして、触れ合っている。
(みてるだけで、とってもやさしくてあったかくて…)
(なんだかこころがいやされてくるのー)
(リンはほんとにてんしさまなのー)
(そうなのー、みんなのてんしさまなのー)
フレア達精霊娘にも、リリム達の思いが伝わってくるのか…
とても嬉しそうな笑顔を浮かべながら、まるでリリム達の出会いを祝福するかのようにその周囲を飛び回っている。
「よ、よかった…みんな、仲良くしてくれて…」
そんな光景を、リンはそばでとても嬉しそうな笑顔を浮かべながら見守っているのであった。
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