第166話 集結⑧

「リン様…♡…リン様…♡」

「あ、あの…は、離、して、く、くだ、さい…」

「リン様…私、リン様とこうしているのが嬉しくて幸せでたまりません…♡…リン様は、お嫌ですか?」

「!あ、う、う……」

「(ああ~♡リン様が可愛すぎます…こんなの、絶対に離したくありません…♡)」


昨晩、風呂も就寝もリンと共にすることができて、よほどその心が幸せに満ち溢れているのか…

リンよりも先に目が覚めたイリスは、リンをぎゅうっと抱きしめて離そうとせず、その幼い頬にキスの雨を降らせ、そうしながらリンの可愛らしい寝顔を思う存分に堪能していた。


イリスがそうしているうちに、リンは目を覚ますのだが…

意識が覚醒して視界がクリアになったその瞬間、イリスの幸せに蕩けた顔が間近で映ってきたことで、思わず悲鳴をあげそうになってしまっていた。


イリスの豊満な胸を始めとする、若い美人な女性の身体をぐいぐいと押し付けられるように抱きしめられ、リンは恥ずかしすぎて離してほしいと懇願するのだが…

そんなリンの懇願に、寂しそうな表情を浮かべて逆に懇願してくるイリスにリンは抗うことができない。

人の幸せを己が幸せとするリンであるがゆえに、イリスが自分にべったりと抱き着いているのが幸せだと言われてしまっては、リンはそれを拒む術などなくなってしまう。


そうして、恥ずかしすぎて顔から火が出てしまいそうな自分の心を堪えて、結局リンはイリスのやりたいようにさせてしまう。

そんなリンがあまりにも可愛すぎてたまらず、イリスはますますリンを強く抱きしめてしまう。


「リン様♡」

「?は、はい?」

「私、リン様が大好きで大好きでたまりません♡心の底から、愛しております♡」

「!!~~~~~~~~~~あ、う……」

「このイリスの全ては、リン様のものです♡イリスは生涯、リン様のおそばでリン様を愛し抜きます♡」

「!!!!~~~~~~~~~~~……きゅう……」

「あ……気絶、しちゃいました……可愛い…♡…リン様…大好きです…♡」


自分の愛の言葉で、あっさりとその意識を落としてしまうリンがあまりにも可愛すぎて、イリスはその唇をリンの頬に落としてしまう。

もう幾度となく、リンの頬に唇を落としているイリスだが…

心の底から愛してやまないリンへの口づけなら、何度しても足りない程、心も身体もリンを求めてしまう。

こんなにも愛おしい存在を、自商会の職員をリンの生活空間へと誘う旅の間だけでも独り占めできることが、あまりにも幸せでたまらない。


結局イリスは、リンが次に目を覚ますまでの間中、ずっとリンの幼く華奢な身体を抱きしめ…

リンの幼い頬に、自らの唇をずっと落とし続けるのであった。




――――




「ふむ…我が商会の職員も大半が、リン君の生活空間で暮らすことができるようになったな」


そうして、イリスが思う存分にリンを愛して幸せに浸り、その度にリンが恥ずかしすぎて意識を落としてしまう、と言うことが度々ありながらも…

途中からイリスがリンの生活空間への誘導準備に慣れてスピードアップしてきたことも手伝って、キーデン支店での誘導から十日程でサンデル王国内のほとんどの支店で、生活空間への職員の誘導が完了した。


リンの生活空間に引っ越してからの職員達の生活は、まさに平和と安心そのものであり…

しかも、サンデル王国内の至る所に支店を構えている大所帯な商会であるにも関わらず、その職員が一同に集まれる場所ができたことで非常に風通しがよくなり、商会の今後とリンの利益の為の会議を、職員が自主的に行ない、非常に活発に意見交換がなされるようになっている。


また、サンデル王国内のあらゆる支店への行き来が可能になったことで、商会の建築部門の営業担当が各支店で積極的に、客の不動産関連の相談に乗ったりして、そこから新築の案件や既存建築物の改築、修築、解体の案件に結びついたりしている。

そして、その案件の実務をリンお抱えの建築業者に依頼してこなすことで、お互いに利益を得られるようになっている。


リンのところから卸してもらう商材の価格交渉に関しても、ジャスティン商会の職員でありながらリンの専属秘書として出向中のイリスがいる為…

生活空間からイリスを通すことで、価格の交渉も容易に行なえて、新商品があるならそれもイリスから聞くことができるので、非常に滞りなく進めることができている。


加えて、診療所がなく医者も不在な町や村に関しては、その支店にジャスティン商会お抱えの医療部隊の医師を交代で滞在させて、簡易診療所として開業させることに成功している。

リンの収納の魔導具と生活空間への出入り口のおかげで、商品の在庫を置くスペースが不要になった分を、簡易診療所の方に割り当てて新規に構築している。

無論、この簡易診療所のスペースもリンお抱えの建築業者に依頼して改築をしてもらっている。


リンの生活空間への移住がなされたことで、ジャスティン商会全体の業務が以前と比べて遥かに向上し、各職員がすでに生活空間から行き来可能な支店に交代で勤務も可能になったことで、元々評価の高かった接客応対もますます向上している。

それにより経費も大幅に削減し、どれも上質なことに定評のあるリンの商材は飛ぶように売れており、さらには簡易診療所も繁盛して不動産関連の案件も数多く受注することができている為、どの支店も売上は大幅に増加している。

売上はもちろんのことながら、特に利益率の高さは、それなりに長いジャスティン商会の歴史においても飛びぬけて過去最高が確約されており、決算までにその記録をさらに伸ばそうと、職員達が活気に満ち溢れている。


「我が商会がここまで好調になれているのは、紛れもなくリン君のおかげ…君には、感謝しても仕切れないよ…本当にありがとう」

「リン様のおかげで、サンデル王国全体が不況に陥っているにも関わらず我が商会は好景気そのもの…リン様はまさに、私達の神様です♡」

「え、えへへ…み、皆さん、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です…ぼ、ぼく、の、と、ところ、で、は、働いて、く、くれ、てる、み、皆さん、の、お、おかげ、です」

「!その年で、それを心から言えるのは本当に凄いよ、リン君。やはり君は、我らの神様だ」

「リン様…♡…イリスは生涯、リン様にお仕えさせて頂きます…♡」


リンの生活空間に、ジャスティン商会の職員全員を住まわせてもらうと言うジャスティンの施策は…

その施策を出したジャスティンが思っていたよりも遥かに功を奏している。


過去最高の売上が確約されているのは、リンの商材をメインに取り扱えば十分に達成可能だと予測してはいたのだが…

リンの生活空間を活用することで可能となった、職員達が積極的に意見交換することで出てきた新たな施策が次々と当たり、業務に対する経費も大幅に削減されたことで利益率が過去例にない程に向上している。

これは、会頭であるジャスティンにとっても非常に嬉しい誤算だ。


リンの神を彷彿させる、大いなる力があったからこそ、この結果がなされたことはジャスティンもイリスも疑いの余地など微塵もないと思っており…

二人共、リンにはしても仕切れない程の感謝の念を抱いている。


「さあ、残る支店は王都チェスターにある、チェスター支店のみ…リン君、あと一つ、手間をかけてしまうがよろしくお願いするよ」

「は、はい」

「リン君、全ては我が商会の都合で君に負担をかけることになってしまい、本当に済まない。君にはまた、改めてお礼がしたいと思っているから、楽しみにしてほしい」

「?ぼ、ぼく、お、お礼、なんて…」

「ふふ…ただ私が、ジャスティン商会の会頭としても、君の友人としてもそうしたいだけなのだよ。君にそうできることが、私は何よりも嬉しいのだからね」

「!あ、あう……」

「私だけではない…我が商会の職員に、君にお礼がしたいと思わない者など一人もおらん。君は、それだけのことをしてくれているのだから…だろう?イリス君?」

「はい!リン様は商会はもちろんのこと、私個人にもこの生涯をかけても返しきれない程の幸せと喜びをくださってるんです!私の喜びは、リン様が私のすることで喜んでくださること…リン様の幸せは、私の幸せでもあるんです!リン様、このイリスは生涯リン様にお仕えさせて頂きます!」

「ははは…理知的で常に冷静、素っ気ないと言う評判だったイリス君が、ここまで感情を露わにして、これだけのことを言うなんてな。リン君、イリス君は君の専属秘書として、役に立ててるかい?」

「ぼ、ぼく、イ、イリス、さん、が、い、い~っぱい、お、お仕事、し、して、く、くれて、しょ、商人、さん、との、こ、交渉、も、ぜ、全部、し、して、く、くれて、す、すっごく、た、助、かって、ま、ます」

「!!リ、リン様…私、リン様のお役に立ててるなんて…う、嬉しすぎます…♡」

「そうかそうか。リン君がそう言ってくれるならよかったよ」


ジャスティン商会の支店行脚も、残すところは王都チェスターにある、チェスター支店のみ。

そして、完全に商会の都合でリンにこの行脚をしてもらっていることもあり、ジャスティンはリンに改めて謝礼をすると宣言。

イリスも、リンの喜びと幸せが自分の喜びと幸せだと言い切り、リンに生涯仕える宣言までしてしまう。


リンも、イリスが凄く仕事してくれて大助かりだと、とても嬉しそうな笑顔で言うので…

イリスはますますリンへの愛情と忠誠心が募ってしまう。

ジャスティンも、イリスがリンの役に立てていることが、他でもないリンの口から聞けて大いに満足している。


「さあ、チェスターに入ろうか。例によってリン君とイリス君の手続きと身分証明は私がするから、心配はいらないよ」

「あ、あり、がとう、ご、ござい、ます」

「ありがとうございます、会頭。さあリン様、私と参りましょう♡」

「は、はい」


王都チェスター。

サンデル王国の首都となる地であり、その規模は他の町や都市と比べても群を抜いている。


「わあ…おっきい…」


王都の、そして王族の象徴となる…

山程も大きな王城が、広い王都の中心に聳え立っている。

そして、その王城を囲うように、街並みが広がっている。


王都に近い領土は、民の数が万を超え、その面積も平均して八千~一万㎢とかなりの広さを誇っているのだが…

王都チェスターはそれらがまるで比較にならない程に広く、民の数も七桁に届きそうな程となっている。


スタトリンは人口だけで見れば一万人規模の都市クラスになってはいるものの、領土そのものはサンデル王国の王都周辺の領土と比べるとかなり狭く、民の受け入れの大部分をリンの生活空間に頼っているところがある為、ぱっと見の雰囲気だけではまだまだ小~中規模の町と言う感じが抜けきらない状態となっている。

そのスタトリンが普段の生活基盤となっているリンからすれば、この王都チェスターの広さはまるで違う世界に迷い込んだかのような錯覚さえ覚えてしまう。


「ははは、広いだろう?」

「は、はい」

「確かに広大な領地だし、人口も王都だけに国内随一の多さだからね…だが」

「?」

「スタトリンには、リン君が作ってくれた多くの施設、設備、サービスがあり…それらの利便性はこの王都であってもまるで勝ち目がない、と言い切れる程素晴らしいもの…」

「そ、そう、なん、で、ですか?」

「ああ、そうだとも。今のスタトリンはまだ一万人程度の規模でしかなく、しかもその民の受け入れの大半をリン君の生活空間に頼っている状況だが、断言する。これからスタトリンはますます発展していく。この王都…いや、サンデル王国すらも凌ぐ程にね」


領土の広さと人口の多さで言えば、今のスタトリンはまるで勝ち目はないのだが…

それでも、スタトリンにはリンが作ってくれた多くの施設、設備、サービスがあり、それらはこのサンデル王国が真っ向勝負を挑んだとしても勝ち目がない、と断言できてしまう程優れたものばかり。


そのリンがいてくれるからこそ、ジャスティンは確信を持てる。

スタトリンは、これからさらに加速的に発展を遂げる。

いずれ、このサンデル王国すらも凌ぐ程の大国に、なれると。


「そうですよ、リン様。リン様がお作り下さるものはどれもが、私を含む多くの人々を幸せにしてくださるもの…だからこそ、リン様の傘下に入ろうと多くの商人達が、リン様との交渉の場を求めてスタトリンを訪れてくるのですから」

「ぼ、ぼく、の、つ、作った、もの、で、み、みんな、が、し、幸せ、に、な、なってる、なら、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」

「!はあ…リン様は本当に尊くて愛すべきお方…♡」


自分の作ったもので、人が幸せになっていることが何よりも嬉しいリン。

そのことを喜ぶ笑顔は、まさに尊いの一言。


イリスは、リンのそんな笑顔に心をきゅうんとさせられてしまい…

リンの手を離したくない、と言わんばかりに強く握りしめる。


「さて、そろそろ私達の番のようだな」


国内で最も人の出入りが多いとされる、王都チェスター。

関所の方には当然、チェスター入りの手続きを待つ人の長蛇の列がある。


その列に入り、しばらく三人で会話をしながら待っていたが…

そろそろ、ジャスティン達の番が来るようだ。


「(この王都って、どんなところなんだろう…楽しみ!)」


ここまでのジャスティン商会の支店行脚で、リンは普段見ることのなかった町や都市を多く見ることができ…

そのどれもが新鮮で、とても楽しんでいた。


このチェスターは一体どんなところなのだろうと、リンはすでにわくわくしており…

子供心に早く入りたいと、珍しくそわそわしながら手続きを待っているので、あった。

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