第155話 転機
「ま、まさかフェンリルがリン君の従僕になるとは…」
「それも、神様からの使命を受けてリンちゃんを護る為に、だなんて…」
「しかもリン様は、神様から物凄く愛されてるなんて!ああ、やっぱりリン様はこの世の救世主様で、私達の神様です!」
神々の使いとして、リンの従僕を勤めることとなった神獣フェンリルのフェル。
そのフェルと顔合わせをすることとなった、リンの拠点に住む家族達は…
最初は一瞬何を言われたのか分からず、驚きの余りただただ茫然としていたのだが…
それもつかの間の事。
このスタトリンに、シェリルと双璧を成す守護神が来てくれたことを心の底から喜び…
自分達の神様となるリンを護る使命を神々から受けて、下界に降りてきたことを聞かされて、リンを護る存在が増えたことを心の底から喜び…
フェルから、リンが神々からそれはもう溺愛されていることを聞かされて、リンの存在を神々も祝福してくれているのだと心の底から喜び…
全員がますます、リンに心酔することとなり…
そして、フェルがリンの家族として加わることを心から歓迎した。
「フェル…久しぶりじゃのう…」
「シェリル…まさかあなたもリン様のおそばにいたとは…」
「ふふ…リンはこの世で唯一、妾よりも強い男…妾の生涯の伴侶じゃからのう♡」
「…まさか、あなたが人族の子供にやられるなどとは…神々も本当に驚いてましたよ」
「ふふ…一目見た時に、この子なら、と言う直感が働いてのう…そして、全力の真っ向勝負で負けて…その優しさで包み込んでもらえて…妾…妾…もうリン以外の伴侶なぞ、考えられなくなってしまったのじゃ♡」
「そ、そうですか…いずれにせよ、あなたまでリン様のおそばにいてくれるのなら、私にとっても好都合…」
「うむ…妾としても、神々がお主をリンの従僕として使いに出すとは思いもせんかったのじゃ。まさかリンが、そこまで神々に愛されておったとはのう…」
「これからは、リン様を守護する仲間として…よろしくお願いします、シェリル」
「ふふ…こちらこそよろしくなのじゃ、フェル」
実は旧知の仲であったシェリルとフェル。
実に数百年ぶりの再会に旧交を温めつつも、お互いにリンを護ると言う共通目的もあるので、これからはリンのそばで共に暮らす家族として…
お互いに優し気な微笑みを浮かべながら、握手を交わす。
「ジャスティン様!エイレーン様!リリーシア様!」
「本日も、スタトリンへの移民希望の方々が大勢来られております!」
「今の時点で、すでに八百人の移民希望が!」
「!そ、そうか!ちなみに種族などの内訳は?」
「人族が五百五十、熊人族が五十、ドライアドが百三十、ドワーフが二十、牛人族が三十、羊人族が七十となっております!」
「ありがとう。その中で、冒険者希望は何人いるかな?」
「人族のうち四百と熊人族全員、ドワーフのうち十が冒険者希望となっております!」
「あとは熊人族が全員、リン様の建築業者での勤務を希望…ドライアドと牛人族と羊人族が全員、リン様の農場勤務を希望…ドワーフは冒険者希望の者も含め全員がリン様のドワーフ工房での住み込みを希望…人族の残りのうち五十がリン様の宿屋勤務を希望…あとの百は新生冒険者ギルドでの勤務を希望、となっております!」
「分かりました!ありがとうございます!」
「では冒険者希望の者の登録と、リンちゃんの所有施設への雇用を希望通りに進めていってくれ」
「もちろん、リン君の所有施設での勤務希望者は、リン君の生活空間にある居住地への案内も忘れずにな」
「承知致しました!」
「ではすぐに進めていきます!」
フェルとの面通しをしていたところに、業績管理部隊から新たな移民希望者の報告があがってくる。
スタトリンの代表となるジャスティン、エイレーン、リリーシアがそれを受け…
すぐさま詳細も聞いて、後の対応を業績管理部隊の者達に伝えていく。
代表三人からの指示を受け、すぐさま移民の受け入れ作業を行なうべく、業績管理部隊の者達が慌ただしく、役所としての機能もある新生冒険者ギルドの受付の方へと向かって行く。
これから八百人分の住民登録、四百五十人分の冒険者登録、四百十人分のリンの各所有施設への雇用とリンの生活空間の居住地への案内があるので大忙しだが…
業績管理部隊の面々は、またこのスタトリンが大きくなり、またリンを心酔する仲間が増えることを心から喜び、とても嬉しそうに各種手続きに奔走していく。
「さあ、またリン様の元で働く従業員が来てくれました!」
「このスタトリンを移民先に選んでくださった方々を、丁重におもてなしさせて頂きます!」
リンの専属秘書であるジュリア、イリスもそこに加わり…
自身がリンの専属秘書として恥ずかしいところを見せないように、そしてこのスタトリンに来てくれた移民希望者を歓迎しようと言う思いで、各種手続きに走っていく。
「…この町は、本当に凄い勢いで発展していっているのですね」
「そうじゃぞ、フェル。この妾が王としていくからにはもちろんなのじゃが…その妾と、この町そのものを支えてくれる神としてリンがいてくれるのじゃから…町が本当に活気づいて、誰もが幸せそうに暮らせているのじゃ」
「…リン様は、本当に他の為の幸せと喜びを願い、日々を生きておられるのですね」
「そうなのじゃ…リンは妾や他の家族…リンの所有施設で働いておる従業員達…そして目に映る誰かが幸せで喜ぶことを、純粋に我が事のように喜ぶ尊き心の持ち主…妾も、妾が喜ぶのを見て喜んでくれるリンの顔を見ると、もう本当に心がきゅんきゅんさせられてしまうのじゃ♡」
「ははは…エンシェントドラゴンであるあなたともあろう者が、随分とリン様を溺愛されてますね」
「もう…もう無理なのじゃ…リンがいない生活など、妾…妾もう考えられないのじゃ…妾は、これからの生を全て、リンと共に生きていたいのじゃ♡」
日に日に発展を遂げるスタトリン…
その活気を目の当たりにして、フェルはまるでスタトリンがこの世にできた楽園のように思えてしまう。
そのスタトリンを支え、人々を幸せにするリンは、まさにこの世に顕現した神そのものだとさえ思えてしまう。
かつては隣に並ぶどころか、影すら踏める者もおらず、ひたすら孤高の存在として永き時を生きてきたシェリルが…
リンと言う人族の少年に、完全にベタ惚れになっているのもフェルとしては非常に面白く…
ますます神々からの使命、と言うことを抜きにしてリンに仕えたくなっている。
「それでは私は、リン様の日々の守護と共に、リン様が望まれることのお手伝いもさせて頂きましょう」
フェルはそう言うと、新たに拠点の地下一階に開かれた、リンの生活空間への出入り口にゆっくりと歩を進めていく。
普段はリンの生活空間で、リンの従魔達と共にリンの生産活動を支援しようと心に決め…
これからの、リンの従僕としての生活を楽しみにしながら、リンの生活空間へと移動するのであった。
――――
「こ、こんな…こんな清浄な空気と魔素に満ち溢れた豊穣の地で、暮らさせて頂けるなんて…」
「わ~!リン様ってほんとにすっごい人なんだね~!」
「ボク達ドライアドにとっても、ここは楽園だよ~!」
「町の方の農場も豊穣の地で恵みがいっぱいだったし!」
「お水もリン様の魔導具のおかげで、綺麗で美味しいのがい~っぱいだし!」
「ここで住んでる人達は、いろんな種族がいるのに誰にでもすっごく優しいし!」
「あたし達、い~っぱいリン様とここで暮らすみんなの為に、畑仕事しよう!」
「うん!」
「ここの農場も、町の農場も恵みでいっぱいにするの!」
この日無事にスタトリンまで辿り着き、新たに町の民となった者達。
その中で、リンの所有施設で働くこととなった者達が、リンの生活空間の中にある、従業員の居住地へと案内されてくる。
ドライアド達は、リンの生活空間が自分達にとって楽園と言い切れる程に住み心地のいい環境であり、職場となる農場は生活空間、町、どちらも恵みがいっぱいでとても嬉しい気持ちになってくる。
居住地で暮らす同胞達は、違う種族であるにも関わらずとても優しく接してくれて、すぐに打ち解けることができ…
空気も魔素もとても清浄で、水はリンの水供給の魔導具のおかげで美味しいのが飲み放題。
リンの為にも、この居住地で暮らす同胞達の為にも、リンの農場でいっぱい働き…
上質な作物をいっぱい育てることを、その心に誓う。
「なにこれ…こんな楽園みたいな地で暮らせるなんて!」
「ここなら、作物なんていくらでも育つな!」
「ここで暮らす同胞達はとても優しいし、ドライアドまで同僚になってくれるんなら、この農場で不作なんて考えられないしな!」
「リン様はほんとに、おれ達みたいな獣人でもめちゃくちゃ優しくて…」
「待遇聞いた時も『嘘だろ!?』って思ったくらいだったけど…」
「お家はリン様の建築業者のみんなが用意してくれて、お給金もすっごくよくて…」
「食事もリン様の宿屋とレストランのシェフ達がめっちゃ美味しいの作ってくれて…」
「よおおし!絶対にリン様と同胞達の為に、頑張るぞ!」
「わたしも!」
「オレも!」
ドライアドを同じく、リンの農場で働くこととなった牛人族と羊人族の者達も…
この居住地で暮らせることが本当に幸せだと、すぐに感じることができた。
オーナーとなるリンが、本当に誰に対しても分け隔てなく優しく、この居住地で暮らす同胞達もとても優しく接してくれた。
従業員としての待遇も、獣人である自分達には普通なら考えられない程の好待遇であり、これからの生活を思うとそれだけで心に喜びが溢れてくる。
牛人族と羊人族の者達も、リンと同胞達の為に農作業を頑張り、作物をいっぱい育てることを心に誓う。
「おいおい…おめえらこんな天国みてえなところで物作りしてやがったのかあ!?」
「ずるいぞおい!!」
「この地下工房だけでもめちゃくちゃすげえのに、この地でも暮らせていくらでも物作りしていいなんて…」
「なんでこんな天国みたいなところに来てたのに連絡しなかったのよ!ずるいじゃない!」
「うるせえな!ワシ達はリン様と同胞達の為の物作りでそれどころじゃなかったんだよ!」
「もうほんとそれ!リン様と同胞達の為に物作り…楽しすぎてたまらないの!」
「そ、そんな楽しいこと独り占めしてたとか…許せねえ!」
「おれ達も」
「あたし達も」
「こんなすげえ工房と居住地をくれたリン様と、ここで暮らす同胞達の為にいくらでも物作りするから!」
「リン様はもちろん、同胞達にも何が欲しいか聞いとかないとな!」
「そうそう!」
「最も、リン様はご自分で何でも作れるそうだから、すげえ悩むけどな!」
そして、新たにスタトリンへと移民してきたドワーフ達は…
先にスタトリンに移民し、リンの元で心の赴くままに物作りをしていたドワーフ達に羨ましそうに文句を言ってしまうものの…
リンが作ってくれた地下工房と、この生活空間の居住地がとても気に入り、すぐにでも物作りを始めたいとやる気が漲っている。
地下工房に開いてもらった、生活空間の居住地への出入り口のおかげで、工房でもとても清浄な空気に触れながら作業ができることもあり…
全員が活気に満ち溢れている。
「おおお…こんな自然いっぱいの居住地で住まわせてもらえるとは…」
「はっはっは!この世界も、リン様の技能で作られた世界で、それをリン様がわし達従業員の為にと、居住地として使わせてくださったんだ!」
「なんと!リン様と言うお方は、それ程に凄いお方なのか…」
「そうとも!なんせ高位の魔物十万超の氾濫を、たったお一人でほぼ討伐して、スタトリンをお救いくださった英雄だしな!」
「しかも、今はもうスタトリンになくてはならない設備や施設、サービスをいくつもお作りくださって、日々増える移民の中の、リン様の施設での就労希望者を次々と雇ってくださっているし…」
「元々一介の業者集団に過ぎなかったわし達をオーナーとして所有してくださって、本来ならばリン様お一人でこなせる仕事をわし達にやらせてくださってるんだよ!しかもわし達のようにリン様に所有してもらった商会と店もあって、そこも業務は劇的に改善、売上はずっと右肩上がりだって大喜びしてるよ!」
「おおお…」
「まさに…まさに神様のようなお方じゃないか…」
「だろう?」
「リン様は、あっし達みたいなリン様の元で働く者達を全て家族として…その家族達で仲良く暮らせるように、ここまでしてくださってるんよ!」
「あんた達のような力強そうなのがうちに来てくれて、大助かりだ!」
「これから、よろしく頼むよ!」
「むしろこちらこそ、よろしく頼む!」
「大恩あるリン様と、ここで暮らす同胞達の為に、この力、振るわせてもらう!」
少々お堅い雰囲気の熊人族の者達は、気さくに接してくれる建築業者の職人達からリンの凄さを、まるで己の自慢のように聞かされ…
そして、獣人として人族に迫害され続け、ずっと遊牧民として様々な場所を流れてきた自分達が、こんな楽園のような住処と職場を与えてもらえたことで、リンへの忠誠心が心に溢れかえってくる。
職人達がこの居住地に作り上げた作業場は広い上に機能性が高く、リンを頼ってくる依頼人がくれる多くの仕事を快適にこなせると思い…
町の作業場とこことで別れて仕事もこなせるので、非常にやりがいがあると感じている。
違う施設で働く他の従業員達も、とても優しく温かく接してくれて…
熊人族の者達は、この同胞達の為…
そして、この居場所を与えてくれたリンの為に、己の持てる力を尽くして貢献していこうと、心に誓う。
「やっぱり…やっぱり思い切ってスタトリンに来てよかった!」
「こんな素敵な世界にお家までもらえて…このスタトリンに新しくできた冒険者ギルドで働かせてもらえるなんて!」
「職場もここからすぐだし、ギルドは三拠点あるけど、どこへもすぐいけるし!」
「職場は前とは比べ物にならないくらい設備が便利だし、冒険者さん達も依頼は豊富で報酬もいいから凄く喜んでるし!」
「エイレーンさんがギルドマスターだから、冒険者さんにも職員の私達にも凄く温かくて、お仕事すっごく楽しくできそう!」
「オーナーのリン様は、このギルド唯一の
「その上、こんな住み心地のいい土地とお家までもらえて、待遇も前とは比べ物にならないくらいいいし!」
「人手が多いから、仕事にも無理はないし、とても働きやすそうで…リン様って、まるで神様のようなお方なんだなあ…」
「前のギルド辞めた冒険者さんも職員も、ここを目指してきてるから、これからも仲間もっと増えるわね!」
「ここで暮らす人達もすっごく優しくて、幸せ!」
「リン様とギルドマスターの為に!」
「ここで暮らす同胞達の為に!」
「冒険者さん達の為に!」
「みんな、一緒に頑張りましょう!」
そして、王国の冒険者ギルドを退職し、思い切ってスタトリンを目指して移動し…
移民希望者としてスタトリンへとたどり着いた人族の者達は…
この幸せしかない世界に住まわせてもらえること。
元の職場とは比べ物にならない程、職場の設備も待遇もいいこと。
この地で共に暮らす同胞達も、とても優しく接してくれること。
何より、ここのギルドに登録している冒険者達の誰もが、喜びに満ち溢れていること。
それらを目の当たりにして、まるで天国にたどり着いたかのような幸福感を噛み締めている。
かつて、その有能さで前職場の経営を支えてくれたエイレーンがギルドマスターで、そのエイレーンを旧スタトリン支部時代から幾度となく助け、今ではなくてはならないものをいくつも作ってくれたリンがオーナーとなってくれている、この新生冒険者ギルド。
そこで働けることが、幸せ以外の何物でもない。
この度新しく、新生冒険者ギルドの職員となった者達は…
リンの為、エイレーンの為、この地に住む同胞達の為、冒険者達の為…
持てる力を尽くして、思いっきり働いて行こうと心に誓うのであった。
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