第181話 神木②
「わ~!世界樹がほんとに芽を出してる~!」
「リン様の生活空間なら、世界樹も絶対に健やかに育ってくれるね~!」
「あたし達、もっとリン様の為にい~っぱい農作物とか、薬品とか作らないと~!」
「リン様はボク達ドライアドの救世主様なんだから、もっともっと恩返ししないと!」
リンの生活空間に世界樹の種を植え、リンの魔力によってすぐに発芽してこの世に再びその姿を顕現させることとなった世界樹。
世界樹自身も、リンの生活空間で、リンの家族として受け入れてもらえたのがよほど嬉しかったのか…
まだ小さな芽の状態であるにも関わらず、自然が持つ癒しの力に満ち溢れた清浄な空気と魔力を、自身の周囲に漂わせている。
そのおかげで、元々清浄な空気と魔力に満ち溢れているリンの生活空間に、清浄な空気と魔力が溢れんばかりになっていっている。
そして、アイリから世界樹が再びこの世に顕現したことを知らされたドライアド達は大きな歓声を上げて大喜び。
こうして、発芽したばかりの世界樹を拝する為に、居住地からリンの自宅のそばにまで訪れている。
(えへへ…世界樹さんのおかげで、ぼくの生活空間にもっと綺麗な空気と魔力が増えていってる…嬉しいな…)
(リンノマリョク、トテモオイシイ!リンノセカイ、トテモシアワセ!リン、ダイスキ!)
(世界樹さんが喜んでくれて、ぼく嬉しい。ぼくの魔力でよかったら、いくらでも食べてね)
(ウレシイ!リン、アリガトウ!)
自身の技能である【空間・生活】を使えば、リン自身が世界樹のところにいなくても、世界樹に魔力も清浄な水も送ることができるので、生まれたばかりの小さな芽の状態であるにも関わらず、世界樹はその身に大量の魔力と栄養分を常に補給することができている。
加えて、リン自身が世界樹の感情や言いたいことを感じ取れるようになっており…
世界樹もリンと意思の疎通ができて、とても喜んでいるし、リンも世界樹と意思の疎通ができてとても喜んでいる。
この意思疎通も、世界樹がリンの生活空間に根付いている為か、リンが世界樹のそばにいなくても可能となっており…
世界樹は、自分をこんな素敵な世界に住まわせてくれるリンに恩返しをしようと…
リンの生活空間、そしてそこに住む全ての存在に恵みを与えたくて、早く大きな木になりたいと言う思いでいっぱいになっている。
(リン!ワタシ、リンノミカタ!ワタシノチカラ、イツデモツカッテホシイ!)
(ありがとう、世界樹さん!ぼく、世界樹さんが家族になってくれて、すっごく嬉しい!)
(!カゾク!ワタシ、リンノカゾク!ウレシイ!トテモウレシイ!)
リンとのやりとりがとても温かくて優しくて…
しかも、リンが自分を家族と言ってくれるのが、世界樹はとても嬉しくてたまらず、その感情は喜びと幸せに満ち溢れている。
「まさか、世界樹が復活するとは…さすが…さすがはリン様です」
世界樹が再びこの世に顕現したことを、神々の使いであるフェルも大いに喜んでいる。
リンのように言葉による意思疎通まではできないものの、フェルにも世界樹の喜びと幸せに満ち溢れた感情が伝わっており…
本来ならば世界樹は、種から発芽までに数値にして五桁近い魔力を毎日与えても、五年はかかる程の魔力喰いなのだが、リンは植えた直後に発芽させることに成功している。
その植えた直後の世界樹を発芽させられる程の、規格外すぎる魔力もさることながら、世界樹を家族と言い切り、世界樹が家族になってくれて嬉しいと純粋に言えるリンのその尊い精神に、フェルは感銘を受けている。
「世界樹が再び、この世に姿を現すのじゃな…しかも、リンの家族となってくれるなどと…さすが、さすがは妾の生涯の伴侶…妾、リンからは片時も離れたくないのじゃ♡」
現状、世界樹が存在していた時代の唯一の生き証人となっているシェリルも、世界樹がこの世に再び顕現したことを、心から喜んでいる。
しかも、世界樹がリンの家族になってくれて、リンの力になってくれることをリンよりも喜んでいる。
そして、世界樹の復活を成し遂げたリンのことが愛おしくてたまらず、リンを見つめるその瞳の奥に、止めどなく溢れてくる愛情を示す形が浮かんでいる。
(リンはほんとにすごいのー♡)
(せかいじゅが、リンのかぞくになってくれたのー♡)
(せかいじゅのおかげで、リンのせいかつくうかんがもっといごこちよくなってるのー♡)
(リンがぼくたちのともだちで、ほんとにうれしいのー♡)
(もうリンからは、ぜったいにはなれたくないのー♡)
(なのー♡)
世界樹の復活と言う偉業を成し遂げたリンに、フレア達がべったりと甘えるように抱き着いている。
そうしながら、地面からぴょこんと芽を出した状態の世界樹を見て…
世界樹の喜びと幸せに満ち溢れた感情を感じて、とても喜んでいる。
(マスター!せかいじゅさんがかぞくになってくれたんだね!)
(ごしゅじんさま!うちすっごくうれしい!)
(ああ!主はやはり、この世に顕現された神そのものです!我は、我は主の騎士でいられることがどれ程幸せか!)
(ご主人様!まさか世界樹を復活させるなんて!わたし、もっともっとご主人様が大好きになっちゃいます!)
(主様!世界樹を復活させると言う偉業を成し遂げるなんて!)
(あ、あるじさま!お、おで、なんだかめちゃくちゃうれしいんだな!)
(主様!おいら主様の家族でいられて、本当に嬉しくて幸せだよー!)
世界樹の復活、そしてその世界樹がリンの家族になってくれたことを、リム達従魔も心の底から喜んでくれている。
そして、産声を上げたばかりの世界樹を見て、新しい家族ができたことを喜び…
リム達は全員が世界樹と仲良くしようと、楽しそうに話しかけている。
世界樹も、リム達が楽しく話しかけてくれるのが嬉しくて楽しくて、喜びの感情に満ち溢れている。
「リン♡」
「?シェ、シェリル、さん?」
「妾…妾、もう我慢できないのじゃ♡ん…」
「!ん、ん~~~~~~~っ!」
ここにいるみんなが、世界樹の復活を喜んでくれているのが嬉しくて、にこにことした笑顔を浮かべているリン。
そんなリンに、リンへの愛情がもうどうしようもない程に溢れかえっているシェリルが寄ってきて…
リンの身体を包み込むように抱きしめたかと思うと、そのままリンの唇に自身の唇を重ねてしまう。
最愛の伴侶であるリンと唇を重ね合うことができて、シェリルは恍惚の表情を浮かべ…
さらには、リンの唇を開いてその中に、自分の舌を這わせてしまう。
自分の口の中を、シェリルに愛おしそうに味わわれて、リンはその小さく華奢な身体をびくんと震わせてしまい…
マグマのように湧き上がってくる羞恥に、その顔が染まってしまう。
そして、その羞恥に重度のコミュ障としての性質が耐えられず…
「あ、う、う、あ、う、あ……~~~~~~~~~~~きゅう…」
気を、失ってしまう。
「ん…んむ…(リン…リン…妾…妾…リンが愛おし過ぎて、どうしようもないのじゃ♡リンをもっともっと愛したくて、たまらないのじゃ♡)」
リンが気を失っても、シェリルはリンの唇を離そうとしない。
それどころか、ますますリンの唇を貪るように味わい、その口の中も自身の舌を這わせてしまう。
シェリルはリンと唇を重ね合っている間、お腹の奥がきゅうんと響くような、甘美な感覚をずっと感じ続け…
他の男が見れば、思わず腰を引いてしまうかのような艶やかな、恍惚とした表情を浮かべ続けているのであった。
――――
(えへへ…世界樹さん、すっごく大きくなったね)
世界樹がこの世で復活を遂げてから、二日が経った。
その間、リンから膨大すぎる程に膨大な魔力と、その魔力によって生み出された清浄な水をずっと与えてもらい続け…
最初の小さな芽の状態からは想像もつかない程、立派な神木としての姿となっている。
リンの自宅の裏にある山よりも高く聳え立ち…
その上で広がる枝、生い茂る葉は、まるで天を覆い隠すかのように広々と伸びている。
しかもその下の草原には、世界樹の分身とも言うべき樹木が、森となって広がり…
数多くの自然の恵みを与えてくれている。
(うふふ…リンがとても美味しくて栄養たっぷりの水と魔力を、私にいっぱい与えてくれているからです。リンのおかげで、私は再びこの世に生を受けることができたのです)
小さな芽の状態の時のような、カタコトで幼げな口調ではなく…
妙齢の女性のような落ち着いた口調で、リンに語り掛けてくる世界樹。
だが、口調こそは落ち着いているものの、リンのことが大好きで大好きでたまらないと言う感情は、その大きく成長し続ける身体のように、膨れ上がり続けている。
(リン、私の身体から取れる雫と葉、そしてその他の恵みとなるもの…採取可能なものでしたら全てリンに差し上げます。どうぞ、リンが使ってください)
(いいの?世界樹さん…採取して身体、痛くなったりしない?)
(!ふふ…リンは本当に優しいのですね。私の身体は大丈夫です。むしろ、私を復活させてくれたリンにお返しがしたいのです。ですから、受け取ってくださいね)
(ありがとう!世界樹さん!)
世界樹の葉。
この世の植物の起源となる世界樹の、癒しの魔力が豊富に込められた葉。
その葉をすり潰して、煎じて飲むだけで単なる外傷はもちろん、様々な病をも回復させてしまう程の癒しの力が込められている。
また、直後であれば失われた命を再び呼び戻すことも可能であり…
世界樹が以前の時代に生を受けていた頃は、その効能と希少価値ゆえに悪しき者から常に狙われ、法外な金額でやりとりをされていた。
世界樹の雫。
この世の植物の起源となる世界樹の、癒しの魔力が豊富に込められた雫。
それを飲めば、どんなに瀕死の状態でも体力が万全の状態まで回復する程の癒しの力が込められている。
また、【光】属性の魔力が豊富である為、呪いを解くこともでき、重度の呪いをも解呪することができる。
こちらも世界樹の葉同様、その効能と希少価値ゆえに悪しき者から常に狙われ、法外な金額でやりとりをされていた。
リンの【光】属性の力も、光を司る精霊であるルクスと契約していることもあり…
すでに世界樹の葉、世界樹の雫と同等の癒しの効果を発揮できるようになっている。
だが、リンがいなくてもこれ程に高い効能を持つ癒しのアイテムがあることは…
すでに家族を含む多くの民を養う立場になっているリンにとってはとても安心できることとなっている。
ましてや、今代では世界樹そのものがリンの生活空間に、その身を置いており…
採取できる世界樹の葉、雫、その他多くの恵みをリンの収納空間に安全に保管することができる。
これは、自身から生まれる恵みを悪用されたくない世界樹にとっては、非常に安心できてありがたいこととなる。
(リンが作ってくれたこの世界のおかげで、私は悪しき者に怯えることなく安心して暮らすことができますし…リンの収納空間のおかげで、私から生まれる自然の恵みも、悪しき者に奪われることもありません。私を復活させてくれた方がリン、あなたで本当によかった…本当にリンには、感謝の言葉もありません)
(だって、世界樹さんはぼくの大切な家族だもん。家族なら、護ってあげなきゃ)
(!リンは私を、家族と呼んでくれるのですね…私、リンが家族だなんて…幸せ過ぎて嬉しすぎて…)
(えへへ…世界樹さんが喜んでくれて、ぼく嬉しいな)
(リン…私、あなたが大好きで大好きで…どうしようもなくなっちゃいます…)
どこまでも純粋に、無邪気に自分のことを思ってくれるリンのことが、世界樹は愛おしくてたまらなくなってしまう。
こんなにも優しくて温かくて、尊い存在が家族でいてくれることが、幸せ過ぎてたまらない。
(リン、あなたにこの力を捧げます。受け取ってください)
(え?)
この少年なら、自分の力を絶対に正しいことに使ってくれる。
この少年なら、自分の力を決して悪しきことに使わない。
それを痛い程に感じ取った世界樹は、リンに自身の能力の一部を付与する。
リンの生活空間を介して、世界樹の力がリンに付与され…
リンの身体が、瞬間激しく光り、そしてリンの身体に吸い込まれるようにその光が収まっていく。
(え?え?い、今のって…)
(リン、手のひらを正面に向け、私そのものを思い浮かべて魔力を込めてみてください)
(う、うん…こ、こうかな?)
いきなりの出来事に、リンは呆気に取られていたが…
世界樹からの言葉に、リンはその通りにしてみる。
すると、リンの正面に世界樹を小さくしたような木が姿を現した。
(わ!こ、これって!?)
(ふふ…リンの手のひらから、私の分身を生み出せる力を付与しました)
(え?そ、そんな凄い力、ぼくがもらってもいいの?)
(あなただからこそ、私はこの力を託したのです。あなたなら、絶対にこの力を正しいことに使ってくれる…私は、そう確信してますから)
世界樹の分身を自身の魔力で生み出せる力。
生活空間を介して、リンと世界樹がつながっているからこそ託すことのできた力。
リンの生活空間に世界樹がいる限り…
リンの魔力が尽きない限り…
無限に世界樹の恵みを生み出すことのできる、人には過ぎた力。
それを、世界樹はリンに託してくれた。
(リン、その力で生み出した木は、私の身体の一部です。ですが…人族で言う爪の先のようなもの…恵みは私と同じように生まれてきますし、それをどうされても私の本体に影響はありません。ですから、木材として使うなり、別の所に植えるなり、リンが望むように使ってください)
(ありがとう!世界樹さん!ぼく、この力があれば病気と呪いに苦しむ人達…食べ物がなくて苦しむ人達をもっともっと助けてあげられるよ!)
(!リン…あなたは本当に優しいのですね。私の身体から生まれる恵みを他の為に使ってくれるあなたなら、私はこの力を託してよかったと、心から思うことができます)
神のごとき生産能力を持つリンに、またしても規格外としか言いようのない力が備わることとなった。
だがリンは、その力を他の為に使うことしか頭になく、この力で多くの苦しむ人々を救うことができると思うと、とても幸せそうな笑顔が浮かんでくる。
そんなリンだからこそ、世界樹はリンにこの力を託せたことを心から喜び…
これからも、リンと共にこの世界で生きていきたいと、心から願うようになるのであった。
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