第84話 氾濫⑦
「もっとだ!もっと増血剤を!」
「はい!」
「リーファちゃん!!もっと回復魔法を!!」
「うん!!」
スタトリン支部の中に設営された、医療拠点。
その中に運び込まれたローザを見て、医師達は一刻を争う状態だとすぐに分かり…
今まさに、一人の命が助かるか失われるかの瀬戸際の中で、懸命な治療が施されている。
医療部隊の隊長の指示を元に、隊員達が目まぐるしく動く。
医療補助員として待機していたリーファも、隊長の指示で回復魔法でローザの患部の回復を促進させている。
「いいか!たった一人で魔物の氾濫と戦っているリン君が、その戦いの中でつないでくれた命だ!!何が何でも助けるぞ!!」
「もちろんです!!」
「こんな即死でもおかしくない程の重傷なのに、リン君がここまで治療してつないでくれた命です!!」
「絶対に、助けます!!」
想像を絶する戦いの中、それでも見捨てずに救える命を拾い、託してくれたリン。
そのリンの思いに応えるべく…
何より、目の前の生と死の狭間にいる患者を救うべく…
医療部隊が一致団結して、全身全霊で治療を続ける。
我らの英雄が、たった一人の戦いの中つないでくれた命!
その命を救えなくて、何が医師か!
もしこの命を落としてしまったら、我々はあの英雄に顔向けできない!
何が何でも助ける!
絶対に、助けてみせる!
命を救う、と言う医師の本能。
その本能が、マグマのように熱く燃え滾り、彼らに訴える。
助ける、と。
医師としての本能が、その本能が燃え上がらせる思いが…
目の前の重傷患者を救うべく、全身全霊の治療にと突き動かす。
「お兄ちゃんがつないでくれた命…絶対に助けるんだ!!」
リーファも、目の前の命を救いたいと言う熱く強い思いを乗せて、回復魔法でローザの傷を癒し続ける。
増血剤で失った血液の補填をし…
大きく切り裂かれてしまった背中側の血管をつなぎ直し…
しっかりと傷の洗浄も進めつつ…
体力も回復させようと回復魔法をかけ続ける…
医療部隊の全員が一丸となって、全身全霊の治療を続けていく。
目の前の命を救う、と言う本能の叫びに従い…
医師達はただただ、ローザの治療に勤しむので、あった。
――――
「グルアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
「ガアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
再び町の外へと転移し、戦場に戻ってきたリン。
最初の位置と違い、今は後ろを振り向けば町の防壁が見えている。
その至近距離で町を防衛することとなったリン。
そんなリンの目の前に、溢れかえらんほどの魔物の大群が押し寄せてくる。
「はあっ!!!!!!!!!」
だが、リンはすでに剣に集束させて纏わせていた闘気を、斬撃として放つ。
「グ、グギャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
「ガ、ガアアアアアフウウウウウウウウ!!!!!!!!!」
一撃目、二撃目よりもさらに闘気を集中させたその一撃は、またしても押し寄せる多くの魔物を切り裂き…
たったの一振りで、万を超える数の魔物の命を、奪うこととなる。
そして、魔物の死体を全て収納、召喚獣の契約も忘れずしっかりと行なう。
「(…ちょっと、不安かな…)」
大群の残りがほぼ上位の魔物のみになっていたにも関わらず…
たった一振りで万を超える魔物の討伐を成功させたリン。
にも関わらず、その顔に浮かぶのは不安。
最初の位置と比べると、今いる場所は町の防壁のすぐ近く。
その為、リンが放つ攻撃の余波を、町に張った結界がより顕著に受けてしまう。
現に今の斬撃の余波が、リンが張った結界を大きく軋ませている。
これでは、いつ結界が壊れてもおかしくない。
皮肉にも、家族の、町のみんなの思いによって…
リンの称号である【勇者】と【護りし者】の称号が呼応し…
それによって、天井知らずの力が溢れてくるのだが…
そのせいで、自身が張った結界がもたなくなってしまう事態に陥ってしまった。
「はっ!!!!!!!」
仕方なしにリンは、先程までの驚異的な威力の斬撃を封印し…
【風】や【氷】、そして【土】属性の魔法を使い、個別撃破に切り替える。
加えて、接近戦を挑んでくる魔物には剣や拳による直接打撃で個別撃破していく。
「く…これじゃ…」
個別撃破でも、十分すぎるほどに魔物を討伐できているのだが…
やはりそれでは、先程までの広範囲攻撃ができない為、どうしても討伐し損ねる魔物の数が増えてしまう。
現にナイトとルノが町を護る為に討伐した魔物の数も増えている。
今はまだ、リンのところをすり抜けていく魔物の数が少なく…
ナイトとルノも、称号【勇者リンの従魔】が天井知らずに膨れ上がるリンへの敬愛の心に呼応し、二匹共上位の魔物すら単独で複数撃破できる程にその力が漲っているのだが…
このままでは、魔物達に町に到達されて、いつか結界が壊されてしまうかもしれない。
だが、自分が全力を込めた一撃で広範囲撃破をすれば、結局結界が壊れてしまうかもしれない。
どうしよう。
どうすれば。
万を超える、津波のように押し寄せる魔物達を凄まじい勢いで個別撃破しながらも、悩むリン。
(主!!)
(ご主人様!!)
そんなリンの苦悩を感じ取ったのか、リンのところをすり抜けていく魔物を撃破し続けるナイトとルノがリンに声をかける。
(!!ナイト…ルノ…)
(町は我らが護り通します!!)
(ご主人様!!迷わないでください!!)
(!!…)
(我の主は、この程度の逆境など物ともしないお方!!迷うことはありませぬ!!そのお力、存分に解放なさってください!!)
(で、でも……)
(結界のことなら心配しないでください!!たとえ結界が壊れたとしても、わたしとナイト先輩が、絶対に町を護り抜きます!!)
(!!ルノ……)
(ルノ殿の言う通り!!そして、町にはリム殿とリラ殿、そしてロクサル殿率いる人間の仲間がいます!!)
(そうです!!みんなで力を合わせれば、絶対に町を護り切ることができます!!)
(…………)
(主!!我は主にばかり、このような重荷を背負わせる騎士ではございません!!)
(わたしもです!!ご主人様!!ここはわたし達、そして町の皆様にお任せください!!)
リンのことを、リンよりも信じ切っているナイトとルノからの、とても心強い言葉。
すでにナイトとルノも、上位の魔物を数百もの数の討伐を果たしている。
にも関わらず、その力は疲弊して衰えるどころか、ますます増してきている。
(……リン!!言ったはずだぞ!!)
(!!ロクサルさん……)
(ナイト達の言う通り、町にはリムにリラ、そして俺達がいる!!結界のことは気にするな!!たまたま運よくリンのところから逃げおおせた程度の魔物にやられるような俺達じゃない!!)
(!!……)
(マスター!!ぼくたちもやるよ!!)
(ごしゅじんさま!!うちもめっちゃちからいっぱいだから!!)
(だからリン!!リンは俺達のことは気にせず、全力で魔物共をねじ伏せてやれ!!)
心強過ぎる程に心強い、家族達の言葉。
自分が何に悩み、その力を存分に奮えなくなっているのか、全部お見通し。
その上で、こんなにも心強い
「……ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
そんな家族達の思いを力に変え、リンはその天井知らずの力を全解放する。
大気が、大地が震える程の凄まじい力の奔流が周囲一帯に広がる。
リンが張った結界が、力の奔流に共鳴し、軋み始める。
同時に、凄まじい勢いで駆けてきていた魔物達の足が、ぴたりと止まってしまう。
(ま、まだ!!あれよりもまだ上があるなんて!!)
(それでこそ我が主!!我はもう、主がどれ程のお力を発揮しようと驚きませぬ!!)
(マスター!!やっぱりマスターはすごいや!!)
(ごしゅじんさま!!すごすぎ!!)
(それでこそ、俺にとって唯一の英雄!!遠慮はいらない!!思う存分暴れてくれ!!)
先程までよりもさらに増した力の奔流に、ルノ、ナイト、リム、リラ、ロクサルは感動を覚えてしまう。
自分達の思いを背負って、それを力に変えてくれる。
それがとても心強く、とても嬉しい。
「!!な!!」
「さ、先程までとは比べ物にならない程の力が…」
「リ、リンちゃんって、どこまで強かったら気が済むの!?」
先程まで感じていたものをさらに上回る、リンの力の奔流に戦闘部隊の面々も驚きを隠せない。
それでも恐怖を感じないのは、その力の出所がリンであるということが分かるから。
驚きの声をあげつつも、その顔には希望を感じる笑顔が浮かんでいる。
リンの凄まじすぎる力に、全員が確信する。
――――この戦い、絶対に勝てる――――
と。
「はああっ!!!!!!!!!」
リンが天に、右手に握った剣を掲げたその瞬間…
そこに吸い込まれるように、大地を破壊するかのような凄まじい轟音と共に、町一つをも飲み込める程巨大な、神の怒りを連想させる程の激しい稲妻が落ちてくる。
「!!な、なんだこのすげえ稲妻!!」
「も、もしかしてこれも、リンちゃんが!?」
「う、噓でしょ!?」
「雷の魔法なんて、聞いたことないよ!?」
凄まじい光を放つ稲妻が突如、天から降り注いできたことに戦闘部隊の面々はさらに驚いてしまう。
特に魔法使い達は、現状ではその存在すら知られていない【雷】属性の魔法に、これまでの自分達の常識を壊されてしまうような感覚まで覚えている。
「……あれは、この世でリンにしか使うことのできない【雷】属性の魔法です」
「!!ほ、本当に雷の魔法があったなんて…」
「で、でもリンちゃんにしか使えないって…」
「……この世でリンだけが持っている、世界を救う英雄だけの称号…それがあるからこそ、リンはあの魔法を、使うことができるんです」
「!!英雄だけの、称号……」
「やっぱり…やっぱりリンちゃんは…」
「本当に、本当にわたし達の英雄だったのね!!」
ロクサルからリンの持つ、この世を救う英雄にのみ許された称号のことを聞かされ…
そして、それをこの世で唯一持っているからこそ、あの馬鹿げた威力の魔法を使うことができるのだと聞かされ…
誰もが、リンが今、この世に生きる唯一無二の英雄であることを確信する。
そして、その英雄がこの町を魔物達から護る為、たった一人で戦いに挑んでくれていることがとてもありがたくて…
この戦いが終わったなら、絶対にリンに恩返しをしようと…
自分達の英雄を、盛大に称えようと心に決める。
「……ふうううううう……」
すでに集束され、超高圧縮された闘気に覆われた剣に、その凄まじい程の稲妻の力が宿る。
【勇者】の称号を持つリンのみが使える、【雷】属性の攻撃魔法の威力が、そのまま剣に伝わり…
さらには、リンの底無しの生命力から生み出された闘気とかみ合わさり…
リンがその剣を掲げているだけで、大地が軋みをあげるかのように震えあがり、大気が軋むかのように雷鳴が響き渡る。
「ゲ、ゲゲゲゲゲゲ!!!!!!!」
「グ、グアアアアア!!!!!!!」
まさに神の怒りをそのまま剣に宿したかのような、圧倒的な力を前にして、ついに魔物達が雲の子を散らしたかのようにあちこちへと逃げ始める。
「逃がさない!!!!!!!!」
リンは、その圧倒的エネルギーを刀身に宿した剣を逆手に持ち替え…
右側に全身を弓を引き絞るように捻り、その反動で右から左に横一文字に振り抜いた。
「グギャアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」
「ゲゲゲゲエエエエエエエエエエエッ!!!!!!!!!!」
「ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!」
リンを中心に、弧を描くように放たれたその斬撃は…
その範囲にいる全てを飲み込み…
逃げ惑う魔物達を容赦なく、たやすく切り裂いていく。
その凄まじすぎる力の余波で、悲鳴を上げていたリンの結界がついに砕け散り…
町は、むき出しの状態になってしまう。
(な、なんと……)
(か…【雷】属性の魔法と、闘気を伝わらせた剣での、斬撃なんて…)
(マスター…すごすぎるよ…)
(ごしゅじんさま…)
(……な、なんて威力だ……)
大気中に共鳴する程の雷鳴を轟かせ、大地を軋ませる程に震わせながら放たれた…
みんなの希望を乗せた、超絶な一撃は…
氾濫で町のそばまで来ていた、斬撃の範囲内にいた魔物を全て切り伏せ、討伐に成功していた。
下手をしなくても、十万にも届いていた魔物の大群が、その一撃でほぼ全て、その命を散らすこととなった。
【雷】魔法と闘気を融合させた超エネルギーを宿した剣による斬撃。
魔法の威力もさることながら、それを剣を破壊することなく、うまく伝わらせる微細な魔力制御。
そして、それを闘気のエネルギーと掛け合わせる制御能力。
さらには、それほどのエネルギーが宿った剣を、寸分の狂いもなく横一文字に振り抜く身体能力。
それらのどれが欠けたとしても、この一撃は成功することはなかった。
それは、リン以外の人間には、この攻撃は不可能と言う事実。
まさに神の所業と言うべきその一撃に、誰もが驚愕に陥り…
しかし、人族の英雄が放った一撃が、大氾濫で押し寄せる魔物を退けたと言う事実に、歓喜の声を上げ始める。
「か、勝ったんだ!!」
「リンちゃんが、やってくれたんだ!!」
「魔物共は、消え去ったんだ!!」
が、氾濫で町に襲い掛かってきた魔物は、最初の数から見ればわずかと言える数だが、まだ生き残っている個体がいる。
「……まだ戦いは終わっていません!!リンのあの一撃の範囲外に逃げおおせた魔物がいます!!気を抜かないでください!!」
「!!お、おお!!そうだった!!」
「ロクサルさん、了解!!」
皮肉にも、構築したリン自身の凄まじい力によって、破壊されてしまった結界。
それにより、町は防壁こそあるものの、むき出しの状態。
そこに、どうにか生き残った魔物達が侵入してくる。
それでも、町に入ろうとする魔物達のほとんどをナイトとルノが討伐してくれる為、今ここに入ってこれたのは三匹のみ。
「フシュルルルルルルル……」
「グギャギャギャギャギャ……」
「シャアアアアアアアアア……」
リザードマン、ロックリザード、ヴァイパーメイジ。
この三匹が、ギルド前に陣を置く戦闘部隊の前に、その姿を現した。
ヴァイパーメイジは、体長2m程の蛇型の魔物。
その名前の通り、魔法による攻撃を得意とする魔物である。
使えるのは、【火】【水】【風】の三属性。
魔力の総量が豊富で、魔法の制御能力も高く、基本属性を複合して使う【氷】属性の魔法も使うことができる。
魔法重視の為、他の魔物と比べると肉弾戦能力は劣るものの、それでも人間相手ならその身体を使って相手を絞め殺すことができる。
敏捷性が非常に高く、逃げ回りながら魔法で攻撃をすることもできるので、討伐は非常に困難。
脅威度は上位とされている。
多種多様の魔法を使えるので、血液や内臓は魔導具用の素材に使うことができる。
その為、素材としての価値は非常に高い。
人間にとっては脅威となる防御力を誇るロックリザードが前に出て盾役。
万能戦士タイプで、
多種多様な魔法攻撃を繰り出せるヴァイパーメイジが後衛。
すでにリザードマンが他の二匹に意思疎通をして指示を出し、フォーメーションを組んでいる。
「これは厄介だな……」
ただ本能に任せて、闇雲に攻撃してくるだけの魔物なら、その肉弾戦能力に抗うことができるのならば討伐は十分できる。
だが、このようにそれぞれが役割分担をして連携を組んでくる魔物は非常に厄介となる。
それぞれが得意分野で補い合って、魔物に各個撃破をさせないように数の力で戦う、人間側の戦術。
それを魔物側にされたなら、たとえ数の上で不利であったとしても、個体の能力で人間を大きく上回る魔物の方が有利になってしまう。
ゴルドは、これまでの経験からそのことを身に染みて理解している。
しかも、今この場に見えている三匹は、全て脅威度上位の個体。
この戦闘部隊のメンバーでは、最強の戦闘能力を誇るゴルドでも、単独では一対一の戦闘で討伐ができるかどうか…
それも、その命をかけて、と言う具合である。
「……ゴルドさん、倒す必要はありません」
「!ロクサル殿……」
「……俺達は、この魔物達を相手にここを護り切り…俺達の誰一人も欠けずに生き延びる…それだけでいいんです」
「!!そうか……そうだったな……」
「……リンが…ナイトが…ルノが……このうちの誰かだけでもここに来てくれれば、その時が俺達の勝機になります!!それまで、何が何でも生き延びる戦い…お願いします!!」
「承知した!!ロクサル殿!!我らの司令塔、頼んだぞ!!」
「……任せてください!!」
誰もが認める、自分達の英雄リンが、たった一人で十万を超える魔物の大群をほとんど討伐してくれた。
そのリンの脅威を逃れてきた、千を超える魔物達も、ナイトとルノが討伐してくれている。
もう残っているのは、今自分達の目の前にいる、この三匹のみ。
たとえ上位の魔物とは言え、たった三匹相手にこの場を護ることすらできないようでは…
たった一人、命を懸けて十万以上もの魔物の大群と戦ってくれた英雄に、顔向けなどできない。
ここで、自分と共に戦ってくれる人達を一人でも死なせてしまったなら、なおさら。
ロクサルは、静かにその闘志を燃やし、ここにいる誰も死なせることなくこの場を護り切る。
その決意を胸に秘め、上位個体の魔物達に向き直るのであった。
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