第197話 設立⑬

「で、でき、ま、した」


村の中心となる広場に、一本の巨木が雄々しく聳え立つ。

リンが世界樹から授けられたその能力で生み出した、世界樹の分身体。


村を護るかのように上空を覆う枝は、生命力に満ち溢れた葉が生い茂っている。

太くたくましい幹には、瑞々しく雫が溢れている。

枝には葉の他に果実が、根本には世界樹の生命力に呼応するかのように薬草類が生い茂っている。


「お……おおおおおおお!!!!!!」

「せ、世界樹が!!!!!世界樹がこの村に!!!!!」


分身体とはいえ、その恵みの豊富さはまさに世界樹そのもの。

こんなみすぼらしい、何もない村に世界樹が顕現したと言う、普通ならあり得ないと言えてしまう現実に直面した村人達は言葉も出ない程に驚いてしまっていた。


が、それもほんの少しの間であり…

すぐに村に世界樹が生まれたことを、村人の誰もが喜びを大爆発させてしまう。


そうして村人が喜んでくれたのを、リンは笑顔で喜びながら…

さらには村と自身の能力で生み出した世界樹を包み込むように、【空間・結界】を使って村を護る結界を作り出す。

唯一の出入り口となる門は内側からのみ開くことができ、そこを開けば村に出入りすることができるようになっている。


「あああ……まさか、まさかこんな!!!!」

「村を守護する結界まで、お作り頂けるなんて!!!!」


世界樹の分身体のみならず、村全体を覆う程の強固な結界まで構築してもらえたことで、村人達の喜びがさらに爆発してしまう。


「うふふ…リン様の御力で、村の人達が凄く喜ばれてます♡」

「ぼ、ぼく、み、皆、さん、に、よ、喜んで、も、もら、えて、う、嬉しい、です」


村人が喜んでいるのを見て、ジュリアもリンも笑顔を浮かべて喜んでいる。


クレアに説明した通り、エイミの黄昏商店を神の宿り木商会の系列店舗とするのは変わらない。

ただ、それと同時に村そのものを買い取り、神の宿り木商会が経営する村とした。

そうした上で、村長としてクレアを就任することにしたのだ。


「リン様!こんな私を村長として抜擢してくださり、誠にありがとうございます!これから世に受け入れられなかった亜人や人族を受け入れ、必ずやこの村を発展させてまいります!」

「ク、クレア、さん、が、よ、喜んで、く、くれて、ぼ、ぼく、う、嬉しい、です」

「!!~~~~~~~~~~~(あああ…リン様…リン様はなんて…なんて尊くてお可愛らしいのだ…私は…私はリン様の為なら、この身も心も全てお捧げしたい…♡)」


村そのものを買い取ると言う形にして、村の状況を改善する為、村人の住居を作る為の資金を提供することにした。


神の宿り木商会が所有権を持つ村の村長となったことで、事実上クレアも神の宿り木商会の一員となった。

その為、出入り口となる門の反対、村の南側に村長の仕事場となる村役場が建てられることとなった。

住民の登録、管理の機能と窓口を持ち、村人との意見交換の為の会議室も広く作られている。

当然、リンの収納の魔導具、住民管理用の魔導具なども設置されており…

設備も充実している。

村として経営していくので、スタトリンと同様にわずかばかりの住民税を村人から徴収するようにとジュリアから進言され、クレアも二つ返事で了承する。

金額はスタトリンの半分となる銀貨二枚。

税収は神の宿り木商会預かりとなり、そこから村長となるクレア、役場の職員にも分配されることとなる。

無論、村の経営に必要な資金は神の宿り木商会の中枢に、村長となるクレアが相談して融通してもらうこととなる。

もちろんクレア一人で運営する必要などなく、クレアの裁量で村人から役場の職員を雇用し、人手を確保した上で運営すればいいと、ジュリアからクレアに説明がされている。

役場のバックヤードに村長となるクレアの自宅への扉を作り、そこからリンの生活空間にある、商会の従業員の居住地に別で建てられた自宅に出入りできるようにしている。


そのクレアの自宅は一人暮らしには十分な広さの空間となっており…

食事も風呂も洗濯も、全て居住地にある施設や設備で賄えるようになっている。

また、村の運営補助として、商会の業績管理部門の者やリンの専属秘書となるジュリア、イリスにいつでも相談できるようになっている。

何かあった時にはすぐに商会の中枢にお伺いを立てられるので、クレアも安心して村長の業務に臨むことができるようになっている。


「わあ~…あたしのお店が、こんなにも綺麗に!」


そして、エイミが経営することとなる黄昏商店を立派な商店として改築し、中に神の宿り木商会の冒険者ギルドの出張所を併設する。

そして、店舗のすぐそばにリンの生活空間にある冒険者の為の広場につながる洞窟を作り、店舗のバックヤードに商会の従業員が暮らす、生活空間の居住地への扉を作る。

さらには、黄昏商店側のバックヤードを別に作り、そこに生活空間の居住地に作られたエイミの自宅に出入りできる扉を設置している。

設備もリンの収納の魔導具があるので、エイミはこれまでのようにキーデンまで出向いて仕入れをする必要はなくなった。

そして、販売する商品はエイミの裁量で自由に販売する商品を選別できるようにし、村に住む者が欲しいものをいつでも購入できるようにしておく。

冒険者ギルドの出張所の方は、ひとまずは現在雇用されているギルド職員に出向してもらう形で運営することとなる。

最も、出向と言っても当然ながら出張所自体が生活空間の居住地に行き来できる為…

自宅から出勤する職場が変わるだけで、距離としては何も変わらないのである。


また、エイミもこの黄昏商店の店長として経営を担っていくこととなるのだが…

村長となるクレア同様、相談事があるならば商会の中枢に相談することができるので、安心して店長としての業務に臨むことができるようになっている。


「よし!害獣討伐ができる俺は、冒険者として討伐依頼をこなしまくろう!」

「わしもじゃ!」

「あたしは採取が得意だから、採取依頼をいっぱいこなすね!」

「私も採取依頼、い~っぱいこなしちゃう!」


村人のうち二人が村役場、二人がエイミの黄昏商店に勤務することが決まり…

残る四人の村人は、冒険者として周辺の森で害獣の討伐や、植物系素材の採取の依頼をこなしていくことになった。


こうして、村人全員が真っ当な仕事に就くことができた。

しかも、分身体とは言え世界樹が村の中央に雄々しく聳え立っている為、清浄な空気はもちろん、果実や薬草など、多くの恵みをもたらしてくれるようになっている。


敷地面積こそは小さいものの、まだ土地に空きはある為、今後この村に流れ着く者を受け入れる余裕はあると言える。


「リン様!このクレアがリン様からお預かりさせて頂くこの村…『神の宿り木村』と名付けさせて頂きます!そして、リン様の神の宿り木商会所有の村として、商会の看板を村の門、役場に設置することをお許しください!」


最低限、村としての体裁を整え終わったところで、クレアからこのような言葉が飛び出す。


「神の宿り木村…」

「いやそうだよ!この村はリン様と言う神様がおられて、世界樹が根付く村なんだから!」

「神の宿り木村…すっごくいいわ!」

「これからわし達のようなはぐれ者が、多くここに訪れることになるじゃろう!この村はまさに神の宿り木となる世界樹が根付く村!とてもいい名前じゃ!」


他の村人達も、クレアの『神の宿り木村』と言う名をとても気に入り…

ぜひそうすべきだと、拍手喝采の状態となっている。


「ぼ、ぼく、そ、それ、す、凄く、いい、と、お、思い、ます」

「私も凄くいいと思います!商会の看板は黄昏商店のみならず、役場の分もご用意致します!あとは村の門に設置する看板として、『神の宿り木村』の名称を記したものを、商会でご用意致します!」

「!あ、ありがとうございます!ここに住む私達が、この『神の宿り木村』を護り、発展させて頂きます!」


リンとジュリアも、クレアからの進言に笑顔で賛同の言葉を返す。

そして、商会の看板を役場の分と、『神の宿り木村』の看板を別途用意することを約束する。


会頭となるリン、会頭の専属秘書となるジュリアの言葉に、クレアは心からの笑顔を浮かべ…

この神の宿り木村を村に住む全員で護り、発展させていくことを誓う。


「リン様!ジュリアさん!本当に、本当にありがとうございます!あたしも黄昏商店の店長として、お店をいっぱい繁盛させていきます!」


エイミも、勇気を出して神の宿り木商会に交渉したことは、今後何年経とうとも自分の人生において、最良の選択をしたと断言できることだと確信。

そして、自分の店のみならず村をも救ってくれたリンとジュリアに、黄昏商店を繁盛させて商会に目いっぱい貢献していくことを誓う。


「あ、あと…」


最後にリンは、世界樹の分身体の傍に、こじんまりとした公衆の浴場を建設する。

男女別にそれぞれ、一度に十人は入れる湯舟を作り、そこにリンの魔力を貯蔵する魔導具と、そこからの魔力を使ってお湯を出す魔導具を設置する。

さらに、どちらの湯舟にも世界樹の枝が浸るようにして、非常に高い回復の効能を持つ風呂を作り上げる。

そして排水溝にリンの収納空間への収納機能を付与し、収納された排水は【浄化】で綺麗にして再利用が可能な状態にするようにしている。


さらには、村の土地を圧迫しないようにこじんまりとはしているものの…

それでも建物内に十部屋と、それとは別に管理人室、加えてリンの生活空間にある拡張領域への出入り口となる扉を備えた集合住宅を、リンは作り出す。


「こ、これ、で、み、皆、さん、か、身体、き、綺麗、に、して、け、健康、も、た、保てる、と、お、思い、ます。そ、それ、と、お、お家、も、こ、ここ、に、す、住んで、も、もらえ、たら、と、お、思い、ます」


そんなリンの心からの贈り物に、村人達は感激のあまり涙が溢れてしまう。

クレアは、リンが作ってくれた風呂場を『神の宿り木温泉』と名付け…

平民にも気軽に利用できる程度の入浴料金を設定し、村で運営していくことをリンとジュリアに伝える。


また、ジュリアはリンが建ててくれた集合住宅の管理人をすぐに手配するので、それまで入居は待って欲しいことを伝えようとしたのだが…

集合住宅の仕組みの考案者で、構築者であるリンが入居の手続きができるので、ひとまずすでに住居のあるクレアとエイミ以外の村人達の入居手続きを完了させた。

そうして、村人達が元々住んでいた名ばかりの住居は撤去し、村の土地の空きを確保した。

後は集合住宅の管理人を手配するだけなので、商会に戻ってすぐに手配をすることをジュリアは村人達に伝える。


こうして、この世から爪弾きにされた者の終焉の場とされていた名もなき村は…

神の宿り木商会の手によって『神の宿り木村』として生まれ変わることとなった。

そして、かつての自分達のように、不遇な状況に追い込まれ、どうすることもできなくなった者を受け入れて、共に幸せに暮らしていける村を目指すことを誓う。


そんな村人達の喜びと感謝の歓声を背に、リンとジュリアは神の宿り木村を後にするのであった。




――――




(わ~!マスターにテイムしてもらったんだね!ぼくスライムのリムっていうんだ!ふだんはマスターのはたけをたがやしたり、まちのひとたちのためにおそうじとかしてるんだ!よろしくね!)

(うちスライムのリラっていうの!リムにいといっしょにはたけのおしごとと、まちのおそうじのおしごととかしてるの!よろしくね!)

(我はワイバーンのナイト!主と主の家族を護る騎士としての戦闘を主としつつ、魔の森での狩りも担当している!よろしく頼む!)

(わたし、インフェルノファルコンのルノです!主に魔の森の奥地などの調査をさせてもらってます!それと一緒に、ご主人様の畑に魔力を流すお仕事もさせてもらってます!よろしくです!)

(おれはリザードマンのザード!主様のお仕事の手伝いを主に、町の警備とナイト先輩との狩りをやってます!よろしく!)

(お、おで、ロ、ロックリザードのロック、っていうんだ!あるじさまのおしごと、お、おてつだい、い、いっぱいしてるんだ!よ、よろしくなんだな!)

(おいらヴァイパーメイジのメイジっていうんだ!主様の生産活動のお手伝いを主に、ナイト先輩やザードと狩りに出たり、町の困りごとを魔法で解決したりしてるよ!よろしくね!)


この度、新たにリンの従魔として加わったホムラ達。

リンの生活空間に誘われ、そこでリンの従魔の先輩となるリム達から、歓迎の挨拶を受けている。


(私はホムラ。火を司る精霊フレア様の従者…そしてこの度、そのフレア様の友となるリン様の従者としてお仕えすることとなった。【火】属性の魔法が得意なので、リン様の生産活動とやらや狩りで助力となれると思う。よろしく頼む)

(儂はスイ。水を司る精霊アクア様の従者…そしてこの度、そのアクア様の友となるリン様の従者としてお仕えすることとなった。【水】属性の魔法が得意なので、リン様の生産活動とやらや狩りで助力となれると思う。よろしく頼むぞ)

(我はフウ。風を司る精霊ウインド様の従者…そしてこの度、そのウインド様の友となるリン様の従者としてお仕えすることとなった。【風】属性の魔法が得意なので、リン様の生産活動とやらや狩りで助力となれると思う。よろしく頼む)

(某はラクド。土を司る精霊ソイル様の従者…そしてこの度、そのソイル様の友となるリン様の従者としてお仕えすることとなった。【土】属性の魔法が得意なので、リン様の生産活動とやらや狩りで助力となれると思う。よろしく頼む)


ホムラ達は言葉はお堅い感じになっているものの、リム達が本当に自分達を歓迎してくれているのが伝わって来るのか…

温かく迎えてもらえて嬉しいと言う雰囲気が出てしまっている。


(ほほう…四元素を司る精霊の従者達…皆さん、私はフェンリルのフェル。神々の命を受け、リン様の従者としてこちらでお世話になっております。リン様の生活空間、そしてスタトリンの守護、そして生産活動の支援など、リン様のお役に立てることはなんでもさせて頂いております。今後とも、よろしくお願い致します)


だが、さすがに伝説とまでなる神の使い、フェンリルのフェルまでもがリンの従者となっていたことにはホムラ達も驚きを隠せず…

しかし、自分達を温かく迎え入れてくれたことを喜ぶ。


そして、フェルも交えて従魔達は、新たに加わった仲間と交流を深め…

主となるリンの為に頑張ろうと、和気あいあいとしていくのであった。




――――




「ははは…『神の宿り木村』か」

「それに、四元素を司る精霊様の従者となる魔物達をテイムしてきた、と…」

「ふむ…さすがは我が最愛の伴侶なのじゃ♡」

「分身体とは言え、世界樹が根付く村ですから、今後絶対に発展していきますね!」

「世の悪に虐げられている亜人が、安心して暮らせる村…今後もリンちゃんの元に、多くの亜人が集まって来るでしょうね」

「うむ…リン君がそうして種族問わず受け入れているからこそ、神の宿り木商会の生産力は凄まじいの一言…その生産力には、我がジャスティン商会も非常に恩恵を受けているよ」


ジュリアから、エイミの黄昏商店を商会の系列店舗としたこと、さらには住処を失った亜人や人族が種族問わず暮らす名もなき村を、『神の宿り木村』として商会所有の村とし、村人を救ってきたことを報告されたエイレーン。

しかも、リンが世界樹の葉と雫を浸した風呂場と集合住宅まで置き土産として作ってきたと聞かされ…

今後はふらりと村に訪れ、そのまま定住する者が増えることは想像に難くないと、エイレーンは苦笑してしまう。


加えて、四元素を司る精霊の従者となる魔物達をテイムした来たことまでリンから聞かされ…

エイレーンはもはや笑うしかない状態になってしまっていた。


そのことをスタトリンの代表となるリリーシアやジャスティン、そして王となるシェリルに話すと、全員が喜びの笑顔を浮かべて談笑に入ってしまう。


「わあ~…リンお兄様、凄いです!」

「まさにリン様は、この世に生きる神様に相違ない…我はもう、リン様に何をお返しすればいいのか分からなくなってきているよ」

「リン様がお作りくださった神の宿り木商会のおかげで、我がサンデル王国の国営は右肩上がりがお約束されたようなもの…ああ…わたくし、リン様の母としてリン様を思いっきり可愛がって差し上げたいです…♡」


そのことをそばで、一家団欒しながら聞いていたアルスト、マクスデル、エリーゼも、この度リンとジュリアが成した功績に喜びの笑顔を浮かべている。


神の宿り木商会との契約のおかげで国の備蓄も枯渇することもなく、しかもそこから来る税収はそれだけで国営を支える基盤としてお釣りが出る程。

リンはまさに、サンデル王国の守護神であると三人は実感させられる。


そして、世界樹から神の宿り木村に関する新たなお告げが、この世に生きる亜人達に向けて発されることとなり…

そのお告げを受けた、安住の地を求めて彷徨う亜人達が、神の宿り木村を目指して大移動を行なうこととなる。


そうして、神の宿り木村の村人はじょじょに増えていくこととなり…

村の経営はもちろん黄昏商店の経営も右肩上がりになり、さらには商会の方で優秀な生産者や冒険者の獲得にもつながっていくのであった。

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