第81話 氾濫④
(す、凄いです!凄すぎます!)
(わ、我が主は、どれほど強ければ、気が済むのでしょうか!!)
リンが放った凄まじい威力の斬撃。
その一撃だけで、数千にも上る中位の魔物が切り伏せられ、一瞬で討伐させられた光景。
桁が違う、などと言う生易しい表現では足りない。
次元が違う、でも足りない。
次元が、違い過ぎる。
それ程の力を見せつけたリンに、ナイトもルノも歓喜に震え…
魔物の氾濫が押し寄せる、まさにその状況であるにも関わらずその喜びを露わにしている。
「(…うん。【空間・召喚】で、召喚できる魔物が一気に増えてる)」
その凄まじい攻撃を放った当人であるリンは、切り伏せた魔物の死体と木々を収納するのみならず、【空間・召喚】を発動し、すぐさま召喚獣を増やすことに成功している。
これまではビッグホーンブルしかおらず、その数が少なかったのだが…
このタイミングでその数も増やしている。
【空間・召喚】で、数千にも及ぶ魔物の魂から、契約を望むもののみを選別し、片っ端から契約に成功させている。
同時に、契約できた召喚獣にスタトリンの守護をしてもらおうと、召喚獣への命令まで作成。
町に侵入してきた魔物を討伐する、その身を挺して町の人を護る、攻撃系魔法や補助系魔法が使える魔物には、魔法を使った支援もできるようにと、即興でありながら複雑な命令を組み上げていく。
そんなことをしながらも、右手に持った剣に、二撃目となる斬撃に備え…
刀身に白く明るい光を集約させ、圧縮させて究極に攻撃力を高めている。
周辺の木々がごっそりと切り落とされ、視界がクリアになっている。
一撃で相当数の魔物を討伐できたことにより、魔物の軍勢の第二波が来るには少し予数がある。
リンは、そのインターバルを最大限に活かし、戦闘の最中に己の手数を増やそうと準備を怠らない。
こうして手に入れた力が、町を護る為となるならば猶更。
【空間・召喚】での作業を終えたリンは、再び押し寄せてくる魔物達に目を向け…
その剣に集中させた力を放つべく、右半身を前にして剣を前から覆い隠すように構え…
構えた剣を振り抜くタイミングを伺うので、あった。
――――
「!!な、なんだ今の音!!」
「すっげえ音だったな!!」
「え、なになに!?」
「なんなの!?」
リンが放った斬撃が空気を切り裂く音。
それは、スタトリンのギルド前で戦闘に備えている者達の耳にも轟音として伝わっている。
誰もが、突如として聞こえた轟音に、激しく動揺してしまっている。
(……ルノ、何があった?)
(ルノ!!一体何があったんだ!?今の凄まじい音は!?)
主戦場となる町の外で何かがあったことは容易に想像できる為、ロクサルとエイレーンはすぐさま、従魔組の中で最も広い視野を持っているルノに、状況確認を求める。
(ご、ご主人様が…)
(?……リンが、どうしたんだ?)
(な、何があったんだ?)
(剣に…白くて明るい光をまとわせて…それを振るったら…)
(……な、何が……)
(起こったんだ?)
(ご主人様に向かって…突っ込んで来てた魔物達が…その一撃で…大量に討伐できました!!)
(!!そ、それは本当か!?)
(ど、どのくらいの魔物が討伐できたんだ!?)
(ざっと見ただけでも、数千は討伐されました!!)
(!!な…………)
(!!…………)
ルノから聞かされた、リンがあげた想像を絶する程の戦果に、ロクサルもエイレーンも言葉が出てこなくなってしまう。
「ど、どうしたんだ?ロクサル殿?」
急に、この世のものではない何かを見てしまったかのように驚愕の表情を浮かべるロクサルが気になったのか…
ジャスティン商会の護衛部隊の隊長が、不安げに声をかけてくる。
「……い、今…リンの従魔のインフェルノファルコンから念話で状況報告があったんですが…」
「!そ、それで、何かあったのか?」
「……リンが、白く明るい光を纏わせた剣の一撃で…………」
「……氾濫で押し寄せてきた魔物を、一気に数千程も殲滅したそうです」
ロクサルが、自分でも信じられないと言った感じで伝えてくる戦況。
リンが、そのあまりにも飛びぬけた力をもって出した戦果。
それらを聞かされ、護衛部隊の隊長はもちろん、その場で同じようにロクサルの言葉を聞いていた他の者達も…
ロクサルから聞かされた内容があまりにも現実味がなさ過ぎて、実に数十秒程、文字通り固まってしまっている。
そして、その硬直から復帰したその途端――――
「……な、なんだとおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」
「う、うそ!!マジで!!??」
「やばいやばいやばいやばいやばい!!!!やばすぎるよそんなの!!!!」
「リンちゃんが強すぎて、あたし、あたし!!…………」
「こんなのもう、勝てる未来しか見えないわよもうなんなの凄すぎ強すぎリンちゃんってば!!!!!!!」
「もうこんなの、リンちゃんぜ~ったいにお婿さんにもらわないと!!!!!」
「あ!!ずるいそんなの!!」
「そんなのアタシがもらってあげるんだから!!!!」
その事実を知らされたことによる驚愕の絶叫と、この戦い、勝てる未来しか見えないと言う歓喜の叫びが入り混じってその場に響き渡る。
特に女性陣はもう誰もが、リンを生涯の伴侶としてもらい受けようと言う気持ちでいっぱいになってしまい…
同じことを考えている者同士で、リンを巡っての言い合いになったりしてしまっている。
戦闘はもう、今の戦況がその規格外さを物語っており、他の追随を許さない程。
しかも前衛、中衛、後衛、斥候全て一人でこなせるという万能さ。
さらには事務全般、家事全般も長けており、雑用ももちろん高水準でこなせる。
医療、生産、建築もどれをとっても非常に高いレベルでこなせる為、できないことを探す方が極めて困難であるほど。
しかも、幼げで可愛らしい容姿に、天使のように優しくおっとりとしていて、人の為に動くことを厭わず、むしろ進んで動き、それで人が喜んでくれたら、それをとても喜ぶ性格。
生活が不安定になりがちな冒険者の女性達にとって、これ以上の優良物件は絶対にない、と言い切れるもの。
今この場では、そんなリンを生涯の伴侶としたい女性しかいないと言う状況になってしまっている。
「し、しかも白くて明るい光を纏った剣、と言っていたな!?ロクサル殿!?」
「は、はい……それが、何か?」
「それは間違いなく【闘気】じゃないか!!」
闘気は、生き物ならば誰もが持っている生命力を、その闘争本能で戦闘用のエネルギーに変換したもの。
その肉体を極限まで鍛錬して、身体能力と生命力を極限まで高め上げた戦士や武闘家のみ、扱うことのできるエネルギーとなっている。
生命力と肉体強度が鍵となる為、肉体の強度が弱い魔法使いや僧侶などには、闘気を発現することすらできない。
闘気を発現できることによって、様々な攻撃手段を持つことができるようになる。
発現した闘気を形状変化させ、剣や槍などの武器をして使うこと。
発現した闘気で己の身体を覆い、肉体の硬度や強度を上げられること。
発現した闘気を剣などの武器に纏わせ、武器の攻撃力を上げたり、纏わせた闘気を飛び道具として放てること。
闘気を発現できるようになれば、魔法が使えない前衛タイプでも遠距離の攻撃手段を有することができるようになり、肉体の強度も上げられる他、形状変化で武器を生み出すことも可能となる。
無論、そこまでのことをするのであれば闘気の繊細なコントロールも必要になってくる為、できるようになるまでは極めて過酷な修行を、相当な密度と期間で取り組むこととなる。
ただ、純粋な前衛タイプの冒険者が、冒険者ランクで
それ程に、
ただし生命力を根幹としている為、当然ながら使うだけで体力は減っていく。
高出力で闘気を使えば、並の戦士や武闘家なら一瞬で意識を失ってしまう程であり、出力加減を誤れば、その命を失ってしまうことすらある。
だが、肉体硬化や強化ならそれ程出力を上げなくてもかなりの効果が期待できる為、闘気を使い始めて間もない者は、主に肉体硬化、強化に使用する。
また、闘気は形状変化はできても、魔力のように属性変化はできない。
闘気を炎や風、氷などの現象に変換することは、できないのだ。
その反面、闘気による飛び道具は純粋な打撃に等しい為、魔法のように相性や耐性に影響することなく、敵にダメージを与えることができる、と言うメリットはある。
「信じられん…リン君のような年端もいかぬ子供が、それ程の威力の闘気を操ることができるなんて…」
「……リンが放った斬撃の光が、そんなにも凄いものだとは……」
「しかもリン君は、魔法の力も凄いと聞いている……ロクサル殿、リン君の魔法は実際どれ程のものなのだ?」
「……攻撃では、【風】魔法でサーペントワームをたやすく切り刻んだと聞いてますし、攻撃補助系や防御系の魔法も非常に多彩かつ高精度…回復や補助系はその筋の専門家よりも高い効果を誇っています」
「!!……な、なんなんだそれは…しかもリン君は男…普通は女の方が魔法の力は強くなりがちなはずなのに……」
ある程度の個人差や例外こそあるものの、この世界では男の方が肉体を鍛えた時の恩恵が大きく、闘気を扱える者もほぼ男のみ。
ゆえに、肉弾戦に特化した前衛タイプは圧倒的に男の方が多い。
逆に、知力や器用さ、そして魔力は女の方が鍛えた時の恩恵が大きく、魔法を扱う者にとっては一種の栄誉となる宮廷魔導士も、そのほとんどが女。
ゆえに、魔法の力に特化した後衛、魔法使いタイプは圧倒的に女の方が多い。
この性別による差は、多くの研究者がその理由を解明しようと解析を進めているのだが…
今のところ、取っ掛かりすら掴めておらず、この世界にある大きな謎の一つとなっている。
そんな世界であるにも関わらず、リンは男でありながら、国内でもトップクラスの宮廷魔導士ですら、足元にも及ばない程の魔力を持ち、この世界に存在する全ての基本属性を扱えて、しかも魔力の制御能力も極めて高い。
それだけでも規格外すぎるのに、非常に高精度、高出力で闘気を操り、純粋な肉弾戦能力も人間の領域を遥かに超えている。
その事実に、護衛部隊の隊長は…
リンと言う存在そのものに、圧倒的な程の畏怖を覚えてしまう。
「…闘気は私も扱えるのだが、私では肉体硬化と強化は楽に扱えても、闘気を剣に伝わらせたりするのは至難の業…それも、先程リン君が放ったような凄まじい攻撃など、まず無理だ…私では上位の魔物一匹に傷を負わせることが精いっぱい…命を燃やし尽くす程の闘気を放ったとしても、上位の魔物一匹を討伐できるかどうか…」
護衛部隊の隊長は、冒険者ランクで言えば
少なくとも
名前:ゴルド
種族:人間
性別:男
年齢:32
HP:1023/1023
MP:165/165
筋力:832
敏捷:367
防御:689
知力:274
器用:249
称号:騎士道精神
技能:魔法・1(火)
剣術・5
槍術・5
盾術・5
司令・4
技能
・盾術
盾を使った防御、攻撃ができるようになる。
レベルが高くなれば、より強力な攻撃や防御ができるようになる。
加えて、味方を狙った範囲攻撃もまとめて防御できるようになる。
・司令
隊を率いて戦闘を行なう際の司令能力が向上する。
レベルが高くなる程視野が広くなり、より規模の大きい隊を率いることができる。
また、率いる部下が多くなる程その信用、信頼、士気も高くなる。
護衛部隊の隊長改め、ゴルドはその高い生命力を活かした、闘気を用いた肉体強化、そしてそれを発揮しての肉弾戦を得意とする。
さらには盾役としても非常に優秀で、その強固さは
使えないよりはマシな程度だが、【火】属性の魔法も使うことができるので、遠距離でのけん制をすることもできる。
ロクサルがゴルドのステータスを見ることができたのならば、今の自分と比べても遥かに高い戦闘能力に驚愕しただろう。
今、スタトリンの戦闘部隊としてこの場にいる人間の中では、最も戦闘能力が高い存在と言える。
だが、そのゴルドを以てしても、リンは確実に次元が違いすぎると言わざるを得ない程の戦闘能力を有している。
数値にして四桁もの生命力に到達しており、この場にいる中で唯一闘気が使えるゴルドでも、全生命力を使い果たす程の闘気を使って、上位の魔物を一匹屠れるかどうかと自己評価している。
「……やはりリンは凄い…リンは、まさに今を生きる英雄だ!」
戦闘部隊メンバー中最強の戦闘能力を誇るゴルドの言葉に、ロクサルはまるで自身が称賛されたかのような喜びを覚えてしまう。
百を超えるビッグホーンブルとの戦いの時に見た、まさに英雄の言葉が相応しいリンの姿。
それ以来、ロクサルの中では誰が何を言おうとも、リンが英雄だと揺らぐことなきものとなっている。
そのリンと肩を並べて、とはならずとも、有事に時を同じくして戦うことができるのは、ロクサルにとっては稀代の英雄と戦えるようなもの。
抑えようのない高揚感を懸命にコントロールし、部隊の司令塔として全員で生き延びる為、ロクサルは気を引き締めなおすことにするので、あった。
――――
「せやあっ!!!!!!」
たった一撃で数千にも及ぶ魔物の討伐に成功したものの…
過去に例を見ない程の大氾濫によって押し寄せる魔物の軍勢にとって、それはほんの一部に過ぎない。
それ程の多勢を最前線で、しかもたった一人で迎え撃つリンにとっては、先など見えるはずもない、終わらない戦いの始まりに過ぎない。
だが、その先にある希望を信じて微塵も疑うことなく…
リンは、人間が放出することのできる限界を遥かに超える闘気を究極まで圧縮し、その威力を高めた斬撃を再び、魔物の軍勢に向かって放つ。
「ゲ、ゲゲゲゲゲゲゲゲッ!!!!!!!!!!!」
「ビ、ビャアアアアアアッ!!!!!!!!!!!」
「グ、グギャアアアアアッ!!!!!!!!!!!」
一撃目よりもさらに破壊力の増した斬撃が、大地を揺るがす程の轟音と共に…
リンの前方への視界を全て塞いでいる、と言っても過言ではない程の多勢が、一瞬にして切り捨てられ、物言わぬ躯と化していく。
(おおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!な、なんという強さ!!!!!!!!我が、我が主はまさに戦神と言うべき、凄まじき強さです!!!!!!!!!)
(凄い凄い凄い凄い凄いです!!!!!!!!!先程の一撃でも凄まじすぎるのに、それよりもさらに破壊力が増してるなんて!!!!!!!!!!)
ナイトとルノは、戦神のごとき戦いぶりを見せるリンの姿に、もはや狂喜乱舞の状態となっている。
一撃目よりもさらに破壊力の増した斬撃が、一撃目の倍以上の魔物を屠っていることもあって、敬愛の心が天井知らずに溢れてくる。
しかも屠った魔物の死体を一瞬にして全て収納空間に収納し、まだ契約していない魔物の魂と契約することも怠らないリン。
右手に握っている剣に、さらに闘気を集約させて次の一撃の準備を始める。
「(まだ余裕はあるけど…念の為…)」
リンの全身を、優しい白い光が包み込む。
生命力にはまだまだ余裕はあるものの、念には念を入れて回復魔法で回復させておくことも忘れない。
自分が倒れたら、町は壊滅してしまう。
自分が倒れたら、家族が殺されてしまう。
自分が倒れたら、町の人達が殺されてしまう。
その思いが、リンに油断を許さない。
「ぼくの家族には…ぼくによくしてくれる人達には…指一本だって触れさせはしない!!!!!!!」
たった二撃ですでに一万にも及ぶ数を屠っているにも関わらず…
まるで尽きることなく襲い掛かる魔物の軍勢。
リンは、自分の大切な存在を何が何でも護りたいと言う…
そして、己に容赦なく襲い掛かる脅威…
己の前に立ち塞がる逆境に一歩も引く様子すら見せず…
リンは、誰かを護りたいと言う純粋で、熱く昂る思いをそのまま闘気に込め…
その先にある希望に向かって、戦い続けるのであった。
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