第194話 設立⑩
「す…凄いです…リン様…♡」
「こんな…こんなことも…できるなんて…♡」
気絶してしまったリンを、ジュリアとエイミはリンを愛するその心の赴くままに愛し続け、まるで天に昇ってしまうかのような幸福感を得ることができた。
リンを愛することそのものが幸せ過ぎてもうどうしようもなく…
ジュリアもエイミも、生涯の伴侶に寄り添う思いでリンに寄り添うこととなった。
リンとの触れ合いを二人が思う存分に堪能したところで、リンはその意識を取り戻し…
すやすやと眠っていたリンを幸せそうな笑顔で見守る二人が微睡を残した視界に入り、思わずびくりとしてしまう。
だが、エイミの村に視察に行くと言う目的がある為、すぐさま起き上がって行動を開始したのだ。
そして、村の住人であるエイミと神の宿り木商会からの同行者としてジュリアを引き連れ、エイミの村に移動している。
今は、その移動中となっているのだが…
リンは自身の召喚獣から、飛行が可能で自分達三人なら余裕で乗せられる大きさの召喚獣を選び、エイミ、ジュリアと共にその背に乗り、【空間・結界】で自分達の防護壁を作って風の影響を受けないようにする。
そして、メイド部隊の一人でハーピーのピアから教わった【闇】魔法の【隠蔽】を使い、自分達を他から見えなくし…
そこからエイミの案内で、空からエイミの村に移動している。
スタトリンとサンデル王国の境界線となる峠から移動し始めたこともあり…
徒歩で早ければ一日、遅くて二日と言う、エイミの村までの道のりも…
リンの召喚獣のおかげで、わずか一時間足らずで到着できる見込みとなっている。
リンの神のごとき能力の一端を目の当たりにして、エイミもジュリアも驚きつつも、ますますリンへの敬愛心が深まっていっている。
「す、凄いですリン様!あの峠から、こんなにも早くあたしの村のある森に辿り着くなんて!」
「ああ…♡…リン様はまさに神様です!こんな凄い移動手段までお持ちだなんて!」
瞬く間にキーデンから外れた、エイミの村がある森の方まで辿り着き…
エイミもジュリアはまるで幼い子供のようにはしゃいでしまっている。
「あ、あの道が、あたしの村に続いている道です!」
「エイミさん、あの道を辿るとどのくらいで村に着きますか?」
「あそこからでしたら、普通に歩けば十~十五分くらいです!」
そして、森の上空を速度を落としてじょじょに村に接近していくと…
村の手前となる、とある個所に木々の隙間があり、そこから天然の山道が見えてくる。
その道が、エイミが普段から森とキーデンを行き来するのに使っている道であり…
今いる場所から降りて歩いて行けば、十~十五分程歩けば着く距離となっている。
ちょうど、召喚獣を着陸させるのにちょうどいい塩梅で開けている為…
リンは召喚獣に指示して、そこで降りることにした。
音を立てず、周辺の木々などに被害がないように静かに召喚獣を着陸させると…
リンは召喚獣に『ありがとう』と感謝の言葉を贈り、自身の召喚空間へと召喚獣を戻す。
そして、【隠蔽】を解除し、そこからは村に続く天然の山道に沿って、エイミの村まで三人で歩いて行くことにした。
「…わ~…」
樹木達に覆われた森の、空が見える木々が開けた場所を過ぎると…
年齢からしても小柄なリンにはとても大きな樹木達が、まるで空を遮るかのように雄々しく聳え立っている。
しかし、まるで『こっちが村だよ』と言わんばかりに樹木達が適度に間隔をあけて、天然の山道を提供してくれている。
スタトリン周辺の森程ではないが、魔素の濃度も高めで森の樹木や植物も成長が促進されており、自然の恵みが豊富な森となっている。
ただ、エイミの話によると魔物の出現数もそれなりに多く…
村も常に畑を護る為に、適度に戦闘能力の高い者が森に出て狩りに勤しんでいるらしい。
最も、食用になるボア系、フォレストブル、兎系の魔物の一種であるアルミラージ辺りは脅威度も低く、狩れば食料になる為村人達としてはそれも自然の恵みとなるのだが…
中脅威度の辺りに属する鹿系の魔物で、四元素属性の魔法を攻撃手段とし、さらにはその脚力を活かした素早さと蹴りも武器となる…
フレイムディア、アクアディア、ウィンドディア、ソイルディアの四種は村の中でも高い戦闘能力を持つ者であっても討伐が困難であり…
しかも村の畑を荒らしてくるやっかい極まりない害獣となっている為、その四種には日頃から頭を悩ませているとのこと。
「リン様!それでしたら商会の冒険者ギルドの出張所を、黄昏商店に併設するのはどうでしょうか?」
エイミの話では、村は4㎢程と非常に小さく、民もエイミを含めて十数人程。
村の中央を広場として開けており、周囲を囲むように、雨風をとりあえず凌ぐ程度の脆い民家が建てられていて、その中にエイミの黄昏商店がある、とのこと。
後は、民家と民家の間に貴重の食料源となる小さな畑があり…
しかしそれも十分な収穫には至っておらず、森の中での採取や狩りで食料を賄っている。
それならば、村の為の黄昏商店に冒険者ギルドを併設し、害獣の討伐や食用可能な植物などの採取、さらには村の防衛なども冒険者に依頼する形を取れば…
登録している冒険者の依頼もさらに増えるし、村の助力にもなって一石二鳥ではないかとジュリアが提案してくる。
黄昏商店の店舗は、神の宿り木商会の系列となる為リンが新たに建てることもあり、その中に、機能を冒険者への依頼の受注、素材の買い取りに限定した冒険者ギルドの出張所を併設し、黄昏商店で神の宿り木商会が生産する日用品や雑貨、必要ならば食料品を提供…
そして、中に併設する冒険者ギルドの出張所で、冒険者への依頼の受注と、採取した植物系の素材や討伐した魔物の買い取りをできるようにすれば、村の利便性はより高くなるのではと、ジュリアは説明する。
リンの生活空間にある冒険者用の広場は、現在展開しているギルドの支部にも移動できる為…
登録されている冒険者なら、誰でも村の依頼を受注して取り組むことができるので、なおさらだと言い含める。
「ぼ、ぼく、エ、エイミ、さん、が、い、いい、の、なら、そ、それ、いい、と、お、思い、ます」
ジュリアのそんな提案に、リンは顔を綻ばせて賛同する。
「そ、そこまでしてもらえるならあたしも大賛成です!」
エイミもジュリアの提案に、笑顔を浮かべて賛同する。
そして、エイミは神の宿り木商会の一員となる為、リンの生活空間にある従業員の居住地に住居を与えられることとなる。
店舗も現状より大きくなることもあり、黄昏商店と冒険者ギルドの出張所に新たにスタッフを加えて運営することとなり、そのスタッフをそれを希望する村人から雇用するのも視野に入れていく。
黄昏商店の売上の五割はエイミ個人の報酬となり、その他の人件費、資材費などの経費は全て神の宿り木商会が負担…
エイミには店主として黄昏商店を経営してもらい、月に一度は経営状況の定期報告と、何かトラブルなどが発生した場合はすぐに報告してもらう。
周囲の森がかなり広大であり、サンデル王国主要の地域からは外れているからこそ…
人族からの迫害や奴隷狩りから逃れて森に迷い込んだり隠れ住んだりする亜人が増えてくるのではないかと考え、この村はそんな亜人達を受け入れられる一つの場所として成り立たせていけば、ともジュリアは考える。
現にエイミが悪辣な貴族に幸せだった家庭を崩壊させられ、村に受け入れられたこともあるし、村自体ができてからそれ程年月が経っていないと聞く。
それもあり、ジュリアはその村に商会の店舗と冒険者ギルドの出張所を構えるのは、商会の売上にもつながると踏んだのだ。
もちろん、第一にそういった不遇な状況に苦しむ村人達を救いたい、と言うのが出てくる為、村の利便性のみならず雇用先の拡大も視野に入れている。
そこまでを、ジュリアはエイミに説明していった。
「う…うう……」
「!ど、どうしたの!?エイミさん!?」
「う、嬉しいんです…あたしだけじゃなくて、村のこともそこまで考えてくれて…」
「当然じゃない!もうエイミさんは神の宿り木商会の一員なんだし!リン様も私も、エイミさんの村なら絶対に助けたいって思うわ!そうですよね!リン様?」
「は、はい。エ、エイミ、さん、の、む、村、ぜ、絶対、に、た、助け、ます」
「ほら!リン様もこうおっしゃってくれてるんだから!ね!」
「う、うええええん!リン様あ~!ジュリアさあ~ん!」
みすぼらしく、商店としての機能も貧弱な黄昏商店を目いっぱい支援してくれるだけでなく…
自分はもちろん村も救おうと、商会の力を目いっぱい駆使しようとしてくれるリンとジュリアの思いが嬉しくてたまらず…
エイミはその溢れんばかりの喜びと幸せが涙となって零れ落ちていく。
そんなエイミに、絶対に村を助けたいと告げるジュリア。
そして、絶対に村を助けると宣言するリン。
そんな二人の言葉が、エイミの喜びと幸せをさらに溢れかえらせ…
エイミの涙をより溢れさせてしまう。
「!………」
嬉しさの余り涙が止まらないエイミを、優しい笑顔で見ていたリンだったのだが…
発動していた【探索】に、四体の魔物の反応が検知されたことで、その表情が変わる。
「リ、リン様?ど、どうかなさいましたか?」
リンの表情が険しいものに変わったことに、ジュリアは戸惑いを隠せない。
そして、その直後だった。
「ギュウウウウウウウウ……」
「ギュアアアアアアアア……」
リン達の正面に、体長も体高も5~6mは超えるであろう、それぞれ赤、水色、若草色、黄土色に身体が彩られた鹿の魔物が現れたのは。
「ま、魔物!!……」
「フレイムディアにアクアディア、ウィンドディアにソイルディアまで!!……」
ある程度の戦闘能力を持った者ですら、出会ったら死を覚悟する必要がある中位の魔物…
そんな魔物四体と遭遇してしまい、ジュリアもエイミも恐怖に怯えた表情を浮かべてしまう。
「……?あれ?」
だが、そんな二人とは対照的に、リンはこの四体の接近を察知した瞬間のような、険しい表情がなくなり…
何かがおかしいのか、きょとんとした表情を浮かべてしまう。
そんなリンの感覚が正しいと言うことを証明したのは、他でもないフレイムディア達だった。
「え、え?」
「フレイムディア達が、リン様に……跪いてる?」
フレイムディア達は、リンのそばへとゆっくり近づいてきたかと思うと…
なんと、リンを自らの主人だと言わんばかりに跪き…
その巨体をかがめて、頭を垂れている。
「……もしかして、ぼくの友達になりたいの?」
フレイムディア達のそんな様子に、リンはフレイムディア達が自分の友達になりたそうにしていると感じ取る。
それを問いかけるリンの言葉が分かるのか、フレイムディア達はその首をゆっくりと縦に振り、『そうだよ』と言わんばかりに鳴き声を一つあげる。
「……じゃあ、ぼくの友達になって!」
その反応が嬉しくて、リンは四匹に【従魔】を発動。
四匹と、従魔契約を結ぶことに成功する。
(リン様…)
(偉大なる我らが主、リン様…)
(我ら一同、リン様とこうしてお会いできたこと)
(心より嬉しく思います!)
名前:ホムラ
種族:フレイムディア
性別:雄
年齢:687
HP:768
MP:1547
筋力:896
敏捷:1411
防御:790
知力:1123
器用:876
称号:火の精霊の従者、名持ちの魔物、勇者リンの従魔
技能:魔法・5(火)
魔力・5(詠唱、回復、耐性)
精霊・5(認識)
※各ステータス値は、各称号の影響を受けていない本来の数値。
名前:スイ
種族:アクアディア
性別:雄
年齢:666
HP:692
MP:1756
筋力:656
敏捷:1711
防御:711
知力:1234
器用:989
称号:水の精霊の従者、名持ちの魔物、勇者リンの従魔
技能:魔法・5(水)
魔力・5(詠唱、回復、耐性)
精霊・5(認識)
※各ステータス値は、各称号の影響を受けていない本来の数値。
名前:フウ
種族:ウィンドディア
性別:雄
年齢:699
HP:791
MP:1498
筋力:696
敏捷:1811
防御:811
知力:1034
器用:859
称号:風の精霊の従者、名持ちの魔物、勇者リンの従魔
技能:魔法・5(風)
魔力・5(詠唱、回復、耐性)
精霊・5(認識)
※各ステータス値は、各称号の影響を受けていない本来の数値。
名前:ラクド
種族:ソイルディア
性別:雄
年齢:706
HP:992
MP:1314
筋力:924
敏捷:1211
防御:891
知力:1001
器用:789
称号:土の精霊の従者、名持ちの魔物、勇者リンの従魔
技能:魔法・5(土)
魔力・5(詠唱、回復、耐性)
精霊・5(認識)
※各ステータス値は、各称号の影響を受けていない本来の数値。
称号
・火の精霊の従者
火を司る精霊の従者となった者に与えられる称号。
常時【火】魔法の威力が基本50%増加する。
この増加率は、主となる精霊との主従関係が深まれば深まる程上昇する。
・水の精霊の従者
水を司る精霊の従者となった者に与えられる称号。
常時【水】魔法の威力が基本50%増加する。
この増加率は、主となる精霊との主従関係が深まれば深まる程上昇する。
・風の精霊の従者
風邪を司る精霊の従者となった者に与えられる称号。
常時【風】魔法の威力が基本50%増加する。
この増加率は、主となる精霊との主従関係が深まれば深まる程上昇する。
・土の精霊の従者
土を司る精霊の従者となった者に与えられる称号。
常時【土】魔法の威力が基本50%増加する。
この増加率は、主となる精霊との主従関係が深まれば深まる程上昇する。
・名持ちの魔物
固有の名前を持つ魔物に与えられる称号。
常時、全ステータスの値が倍になる。
また、異種族の言葉を話せないが理解できるようになる。
このフレイムディア達は、四匹全て固有の名前を持つ特異個体であり、それぞれの属性を司る精霊の従者となっている。
その為、ただの魔物と違って人族であるリンの言葉を理解できたのである。
【名持ちの魔物】の称号のおかげで基本ステータスが全て基準値の倍となっており、通常個体よりも戦闘能力は明らかに高い。
脅威度で言えば上位と言える強さになっている。
加えて、【〇の精霊の従者】の称号のおかげで、得意とする属性魔法の威力が最低でも50%も上昇する為、純粋な肉弾戦のみならず魔法攻撃でも通常個体より遥かに上となっている。
(わ~…みんな名前持ってるんだ…)
(はい、リン様)
(このホムラを始め、ここにいる者達は全て)
(それぞれの属性を司る精霊にお仕えする身となっております)
(…もしかして、その精霊ってフレア達のこと?)
(いかにも)
(我らの名は、我らが主となる精霊からお捧げ頂いたものです)
(そして、我らの主となるフレア様、アクア様、ウインド様、ソイル様が自ら望んで契約をなされたリン様…)
(さらには、世界樹を再びこの世界に復活させてくださったリン様は、紛れもない我らの主君となるべきお方)
(!世界樹さんのことも、知ってるんだ…)
(はい)
(復活を遂げた世界樹のお告げが、この我らにも届いたのです)
(そのお告げにより、我らはこうしてリン様の元へと馳せ参じることができました)
(リン様、このホムラ)
(このスイ)
(このフウ)
(このラクド)
((((必ずや、リン様の御心に従い、リン様の御身をお護りさせて頂きます))))
ホムラ達が、フレア達と従者契約を結んでいたこと。
その際に、自分達を示す固有の名をもらったこと。
そして、復活を遂げた世界樹のお告げにより、リンの元へと姿を現したこと。
それらをホムラ達から聞かされ、リンは驚きの表情を浮かべてしまう。
そして、ホムラ達は自身の主であるフレア達が認め、友人としての契約まで結んだリンを主君とし、絶対の忠誠と同時にリンの身を護り抜くことを誓う。
(…嬉しい)
(?リン様?)
(ぼく、ホムラ達がぼくの家族になってくれて、嬉しい!)
(!!なんと…)
(人族であるリン様が、我らのような魔物を)
(家族と、呼んでくださるとは…)
(やはり、やはりこのお方は我らが忠誠を捧げるに相応しいお方!)
ホムラ達が自分の家族になってくれたことを、リンは天使のような笑顔を浮かべて喜ぶ。
そのリンの笑顔…
そして、魔物である自分達を家族と呼んでくれるその尊く優しい心…
それに、ホムラ達は心を震わされてしまう。
((((リン様!我ら一同、誠心誠意、全身全霊でリン様にお仕えさせて頂きます!!))))
(うん!これからよろしくね、みんな!)
フレイムディアのホムラ。
アクアディアのスイ。
ウィンドディアのフウ。
ソイルディアのラクド。
リンはその四匹が新たに自分の家族になってくれたことを心から喜び…
この四匹にもいっぱい幸せになってもらおうと、その心に思うのであった。
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