第6話 従魔
「外に出て、狩りでもしよう」
朝食を終え、少しゆっくりとしていたリンだったが…
収納空間に入っている食料もそれほど多く残っていないため…
これからの時間は狩りをしようと立ち上がる。
収納空間からいつもの
「!そうだ、この
称号【ぼっち】のマイナス効果がなくなり、コンロの生成の時にも【付与】を使えていたことを思い出し、リンは自分の装備である
付与するのは、【空間・結界】。
元が厚手の布を使っただけの質素な
「【付与】【空間・結界】」
思い立ったら即実践ということで、リンはさっそく
「【空間・結界】って初めて使ったけど…どんなのかな?」
最初は殺傷力のないものから試していこうと思い、リンは【水】魔法の【水球】を右手に発動。
そして、右手側に左半身を寄せるようにして
「!!うわ…衝撃も全然ないし、水も全然入ってこない!」
【水球】をぶつけられた
これは思っていたよりも凄い防御力なんじゃないかと思い、今度は右手に【火】魔法の【火球】を発動。
それを、左半身を覆う
ところが、【火球】をぶつけられた
この
「すごいなあ…【空間・結界】の防御力…」
リンはさすがにそこまでは知らないが、王宮で保管されるような
それが、見た目布だけで作られた質素な作りの
誰もがそれを狙いにくることは必然となるであろう。
最も、今のリンは上位冒険者でもかなわないほどの身体能力、それに付随する肉弾戦能力があるうえに、希少な称号に付随する超希少な技能を豊富に取得している。
しかも、全ての技能が最高レベルな上に、魔法の力は宮廷魔導士ですら及ばないほどのものがある。
称号【ぼっち】のおかげで、一人の戦闘なら常に全ステータスが倍増となるので、上位冒険者でパーティーを組んだとしても、まともな戦闘なら返り討ちにあうことは必至と言える。
さらに、【空間・生活】のおかげでそもそもの居場所を突き止められることすらまずない上に、【探索】の技能レベルも最高なので、敵に見つけられにくいまであるのだ。
その為、仮に狙われたとしてもリンは一人でどうにでもできるし…
リン以外の誰かを巻き込んで、なんてことになれば称号【護りし者】の効果でさらに全ステータスが倍増となる。
そうなれば【ぼっち】の効果と併せて四倍のステータス増加となってしまう。
素の状態でも高位の魔物と対等に戦えるのに、それが最大で四倍もの強さになるのだ。
人間では、まず太刀打ちはできなくなってしまうだろう。
「これなら多少の攻撃は受けても全然問題なさそう!!安心だね!!」
驚異的な防御力を付与され、
より気楽な状態になったところで、
自らが作り出した生活空間に出入口となる亀裂を開け、本来の世界へと足を踏み下ろす。
そして、リンが完全に出て行ったと同時に亀裂は閉じ、その姿を消す。
「うん…最初にあの空間に入った時と同じ場所だね…」
出てきた場所は、昨晩にウォータイガーと戦い、討伐した場所。
元の世界と、自身の生活空間の時間経過は同じで、森の中も朝を迎え、木漏れ日が差し込んできている。
魔物は夜目が利く種族が多い為、全体的にその生態は夜行性の方が多い。
理由は、夜の闇に紛れた方が狩りの成功率が高いと言うことを、魔物が本能的に理解しているから。
自身が夜目が利き、闇の中でも問題なく動けるのならなおさら。
とはいえ、全体的な傾向で夜行性の種族が多いだけで、朝から日中にかけては全く魔物が出ないというわけではないのだが。
「う~ん…ちらほらとはいるけど…どれも遠いし、動く気配がないかな…」
【探索】で索敵をしてみるリン。
魔物はいることはいるものの、リンがいる場所からはどれも遠く…
しかも夜行性の種族なのか動きが全くと言っていいほどない。
おそらく眠っているか、休息をとっているのだろう。
【探索】は現代で言うレーダー探知機のような表示が頭の中に浮かんでくる。
自身を中心とした円形の画面で、その中に人間や魔物の位置が点として表示される。
表示される点の色で、それが何なのかが分かるようになっており、その色分けは以下の通り。
探索・気配
・赤:人間(敵)
・青:人間(味方)
・緑:人間(中立)
・黒:魔物
探索・罠
・黄:罠
・橙:隠し扉
・金:金銭、財宝関連
探索・痕跡
・紫:残留魔力
・灰:血や打撃などの痕(残っている、消えているを問わない)
・銀:死体(状態問わず)
【探索】の派生技能は三つあり、【気配】のみ取得している場合は【気配】で探知できるもののみ、円形のレーダー画面に表示される。
【罠】なら【罠】で探知できるもののみ、【痕跡】なら【痕跡】で探知できるもののみ、と言った感じ。
複数もしくは全て取得している場合は、一つの画面に取得している派生技能に対応する全てが表示される。
術者の力量次第で、複数取得していてもいずれか一つの表示に絞ることも可能。
技能レベルが上がるほど、詳細かつ高精度に情報が表示される。
最高レベルの5なら、一つの点の自身がいる位置からの距離、人間なら性別、魔物なら種族、罠なら罠の種類と言った風に探知できるようになる。
「あれ?すぐ近くに…なんだろ?」
【探索】で索敵をしている最中、リンのいる場所からすぐ近くに反応が出てくる。
点の色は黒なので、魔物。
距離は50mも離れていない、本当にすぐ近く。
詳細をよく見てみると…
「…スライム?」
種族はスライムと表示されている。
スライムは全身がゼリー状の丸い塊のような魔物。
目や口といった、目に見える感覚器官のようなものは存在せず、その丸い体の中心にスライムの生命の根幹となる『核』が存在する。
雌雄の区別もなく、繁殖方法は食事を摂取することによる分裂のみ。
核を破壊するか傷つければ死ぬので、弱点自体ははっきりしている。
のだが、ゼリー状となっている体の弾力性が非常に高く、打撃攻撃をはじめとする物理攻撃にはめっぽう強い。
しかも、その体をゲル状にして絡みつき、そこから相手の水分や栄養分を奪ったり、または水状にして毛穴から体内に入り込み、血管に潜り込んで血液を根こそぎ吸い尽くしたりしてくるからかなり性質が悪い。
その状態変化を逃げにも使えるので、直接的な打撃力こそ皆無なものの、相手にすると非常に厄介。
その為、魔法が使えないと討伐が困難になってしまう魔物。
しかも、核が無事な限りは生きている為、例え魔物に食われたとしても核さえ無事なら死ぬことはなく、その体内で核の位置も自由に移動させられる。
その上、この世にあるものなら何でも食べてしまう。
それが風化寸前の亡骸でも、排泄された汚物でも、なんでも。
むしろスライムに体内に入られた魔物は、摂取した食事や体内の栄養分など、最悪なら内臓や筋肉なども根こそぎ食われてしまうため、あっという間に死んでしまうことすらあるほど。
そのため、スライムを見かけても攻撃をしかける魔物は少ない。
逆にスライム自体、むやみに攻撃を仕掛けたりしなければ反撃をすることもなく、どちらかと言えば温厚な魔物なので、見かけた時は相手にしない、が一番正解となる。
水が基本的に好みなのか、水場のあるところに出現することが多いのも特徴。
色は固体によって青だったり、赤だったり、あるいは紫だったりと不定で…
さらに形状もゼリー状の丸形が多いものの、最初からゲル状だったり、液体だったりする個体もいたりする。
この辺りはこれと言った解析や研究が進んでおらず、かなり謎の多い魔物となっている。
「…こっちに来てる」
リンの探知に引っかかったスライムは、ゆっくりと移動している。
移動している方向は、ちょうどリンのいる場所。
スライムの性質はリンも知っているため、攻撃をするつもりはかけらもない。
向こうが敵意を抱かないのに、こちらから攻撃するのもどうか、とリンは思っている。
それに、スライムは生態が学術的に興味を引かれることが多く、好奇心旺盛なリンはスライムを見てみたくなってしまっている。
「…来た」
そして、リンとスライムがついに対面。
リンの前に現れたスライムは、通常の丸形で、色は青色。
ゆらゆらとゆっくり這いながら移動してきたが、リンと対面した途端に移動をやめてその場にたたずむ。
目こそないものの、まるでリンをじっと見つめているようだ。
「…なんか、愛嬌あって可愛いな」
そんなスライムを見て、好感を抱いたリン。
かなり凶悪な性質を持っているが、それが発揮されるのはあくまでスライムに対して敵意を示した場合のみ。
そうでなければ、その凶悪さが発揮されることは、基本的にはない魔物。
リンは、実際に目の当たりにしたスライムにますます興味が沸いたのか…
ゆっくりと、スライムの方へと近づいていく。
スライムの方も、リンが自分に敵意を示さず、むしろ好意的な雰囲気であることを感じ取ったのか…
スライムも、リンの方へとゆっくりと近づいていく。
お互いにゆっくりと近づいていき、スライムがリンの足元までたどり着く。
もうすぐにでも触れられる距離まで近づいたリンは、地面に膝をついてスライムに視線を近づけていく。
「おいで。ぼく、きみと友達になりたいんだ」
まるで長年会えなかった家族と再会できたかのような、そんな喜びの笑顔を浮かべながら…
リンはスライムに、その小さな左手を伸ばしていく。
そんなリンの言葉に、スライムはゆらゆらと揺れながら少しその場に停滞していたが…
本当にリンが自分に敵意を持っていないと確信したのか、リンが差し出した左手の方に動いていく。
そして、リンの小さな左手に、その丸い体を全て乗せていく。
「わあ…なんかぷにぷにしてて…思ってたよりすっごく軽い…」
本で読んだ知識でしか知らなかった、スライムという魔物…
それに初めて触れることができ、リンは思わず感動してしまう。
スライムが自分の手に乗ってくれたことで、よりスライムに愛着が沸いたのか…
空いている右手で、スライムの体を優しく撫でていく。
「あはは…なんかすっごく触り心地、いいなあ…」
まるで自分がお腹を痛めて生んだ子供にそうするかのように、スライムの体を優しく撫でていくリン。
それが心地いいのか、スライムはその体をふるふるとさせながら、されるがままに撫でられている。
そんなスライムが本当に可愛くて仕方がないリン。
少しの間、スライムを撫でて戯れていたが、ここで自分の技能に【従魔】があることを思い出す。
「そうだ…ねえ、きみのことテイムしたいんだけど、いいかな?」
自分の手の中にいるスライムと離れたくなくて、リンは技能【従魔】を使おうと思いつつも、一度スライムに問いかけの言葉を放つ。
それで言葉による意思表示があるとは思ってはいないリンだが、どうしてもこの一言だけは言いたかったようだ。
そんな問いかけを受けたスライムの方は、リンから離れる様子をまるで見せることもなく、むしろ『いいよ』と言っているかのように、その丸い体をゆらゆらとさせる。
「ありがとう…じゃあ、【従魔】」
スライムの反応を見て、使っていいと判断したリンは【従魔】を発動させる。
瞬間、リンとスライムをつなぐかのように白い光が出現し、しばらく一人と一匹の間で光っていたかと思うと、消えた。
「これが…【従魔】…」
【従魔】を使った時、リンは本当に目の前のスライムと心がつながったかのような感覚を覚える。
そして、テイムしたスライムが、リンに対してある感情を抱いていることも感じとれるようになっている。
今、スライムが抱いている感情は『喜び』。
自分のような魔物を怖がらず、嫌悪もせず、むしろこんなにも好意を抱いてくれたリンが、自分をテイムしてくれたことが本当に嬉しい。
そんなスライムの感情を、リンは明確に感じ取ることができた。
「きみはそんなにも喜んでくれたんだ…ぼくもきみがテイムされてくれて、すっごく嬉しい!」
スライムが自分にテイムされたことを喜んでくれたことが嬉しくて、リンはスライムを両腕でその胸に抱きしめてしまう。
スライムもリンが喜んでくれて、自分を抱きしめてくれて嬉しいという感情が溢れ出てきている。
それを体でも表そうと、ふるふるとしながら、すりすりとリンの華奢な胸にすり寄っている。
「あ!テイムしたからきみのステータスが見れる!」
【従魔】によるテイムでスライムとつながりを持てたから、リンがスライムのステータスを見れるようになった。
そして、リンが見たスライムのステータスはこの通りとなっている。
名前:なし
種族:スライム
性別:?
年齢:0
HP:9
MP:556
筋力:0
敏捷:286
防御:751
知力:183
器用:397
称号:生まれたて、勇者リンの従魔
技能:魔法・3(水、風)
魔力・4(回復)
形状・5(状態、同化、擬態)
摂取・5(悪食、暴食、融解)
抽出・5
「すごい!MPすっごく多くて防御力すっごく高い!魔法が使える!ぼくが見たことない技能がある!」
スライムのステータスを見て、リンはどれも物珍しくて興奮してしまっている。
自分が見たこともない技能をスライムが取得しているのも面白くて、【鑑定】で一つ一つを見ていく。
称号
・生まれたて
この世に生を受けて間もない者に与えられる称号。
これといった効果はなし。
生まれてから一年を経過するとこの称号はなくなる。
・勇者リンの従魔
勇者の称号を持つリンの従魔となった魔物に与えられる称号。
勇者の眷属となるので、全ステータスが30%増加する。
加えて、技能の取得が通常よりもしやすく、レベルの向上も早くなる。
技能
・形状
自身の体を変化させることができる。
レベルが高くなるほど様々な変化ができるようになる。
【状態】は自身の体を液体化やゲル状化することができる。
【同化】は周囲の物と一体化することができる。
【擬態】は周囲の光景に溶け込むように変化することができる。
・摂取
自身の栄養摂取の手段が多くなる。
レベルが高くなるほどより栄養の摂取効率がよくなる。
【悪食】は普通なら食せない物も食すことができる。
【暴食】はいくらでも食べることができる。
【融解】はどんなに硬い物も溶かして食べることができる。
・抽出
自身が食べた物を体内で変質・成分変化させて抽出することができる。
レベルが高くなるほど様々な物質を抽出できるようになる。
「すっごい!きみってすっごいスライムなんだね!生まれてすぐなのにこんなにすごいんだ!」
自身がテイムしたスライムが、予想を遥かに超えて高い能力を有していたことに、リンはまた喜びを露わにする。
そんなスライムがさらに愛おしくなって、リンはぎゅうっと抱きしめながら優しく撫でてしまう。
スライムもそんなリンの愛情表現が嬉しくて、ふるふると体で喜びを表現する。
「そうだ、名前がないのって不便だよね。きみに名前を付けてあげるね?」
リンはスライムのステータスに名前がなかったことを思い出し、スライムに付ける名前を考える。
「ん~…スライムだし…『リム』ってどうかな?」
少し考えたのち、スライムという種族名を文字って『リム』という名前を思いつく。
リンが付けてくれたその名前をスライムはとても気に入り、喜びの感情がどんどん溢れてくるのがリンにも伝わってくる。
「よかった!じゃあ今日からきみは『リム』だね!」
リンにテイムされたスライム、『リム』。
リムがその名前を受け入れたことで、リムのステータスにも名前が反映される。
スライムという種族の一個体、ではなく…
リムという、個体固有の名前を持つ、リンの従魔として、その生を受けることとなった。
(ありがとう、マスター!ぼくすっごくうれしい!)
リムが正式にリンの従魔となり、名前も決まったその瞬間…
リンの脳内に、覚えのない声が響いてくる。
「!!え?、これってリム?きみが?」
とっさに周囲を見渡すリンだが、自分とリム以外には誰もいない。
今聞こえた声はリムなのかと、自分の胸の中のリムに問いかける。
(うん!ぼくだよ!リムだよ!マスターがテイムしてくれたから、マスターとねんわでおはなしできるようになったんだ!)
リンの問いかけに答えようと、リムが念話でリンに話しかけてくる。
念話でお話、というリムの言葉に、リンも声を出さずにリムと同じ念話で話しかけてみることにした。
(リム、聞こえる?ぼくもリムと同じ念話で話しかけてみてるけど…)
(うん!きこえる!)
(!よかった!リム、これからよろしくね!)
(うん!ぼくのほうこそよろしくね!マスター!)
すっかり仲良しになった一人と一匹。
リムはリンの胸からよじ登って、リンの被っているフードの中に、さらにリンの左側へと移動する。
そして、リンの首筋に寄り添うようにゆらゆらとゆらめく。
種族を超えてとても仲のいい友達となったリンとリム。
リムに寄り添われながら、リンは木漏れ日の差し込む森の中を、さらに歩いていくのであった。
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