第132話 移民⑩

「ま、まさか領地そのものまで移動させてくるとは…」

「リ、リンちゃんは本当に神様のような子ですね…」


途中ちょっとしたトラブル(ジャクリーヌとロデナンに絡まれる)はあったものの、無事にリリーシアと民達を、このスタトリンまで連れてきたリン。

しかも、民達が住んでいた領地そのものをも、このスタトリンのすぐ近くまで移動させてきて。


リンからの念話で伝えられた、スタトリンの東門すぐ近くの森の入り口にジャスティン、そして話を聞いて自分もとついてきたジュリア、イリスと共に向かい…

すでに立派な防壁と通用門が作られていて、中もしっかりと整地されている領地を目の当たりにして、ジャスティンもエイレーンも驚きを隠せないでいる。


「リン様、本当に凄いです!私、ここで暮らす皆さんがよければ、ここにジュリア商会の新店舗を作りたいです!」

「リン様!もし移民の皆様がよろしければ、ここに我が商会の店舗を作りたいと思います!」


リンの専属秘書となっているジュリアとイリスは、リンの偉業を称えながらも、自商会の新店舗を作りたいと素直に意見として伝えてくる。

ジュリアもイリスも、純粋にここで暮らす人達の役に立ちたいと言う思いで、その意見を言葉にしている。

単純に店を利用してもらって普段の生活のお役に立ちたいのと、もし働くあてがなければ、新店舗で雇用したいと言う両方の思いから。


今となってはリンの貸倉庫サービスの、収納の魔導具貸出サービスがある為…

商品の在庫を確保する為のスペースは必要なく、最低限の敷地で店舗を作れることも、新店舗の起ち上げに積極的になる理由となっている。


「ははは、イリス君がこんなに無邪気に笑顔を見せながら意見を述べてくるとは…我が商会の新店舗の起ち上げは、ぜひに、と言いたいところだな」

「もちろんジュリア商会の新店舗も、ここにあれば凄く住民が助かるでしょうし、ぜひ起ち上げてほしいところですね」


普段はクールビューティーな雰囲気のジュリアとイリスが、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように無邪気な笑顔を浮かべているのを見て、ジャスティンもエイレーンもついつい頬を緩めてしまう。


最も、この領地に新店舗を起ち上げることに異存はなく、むしろ推し進めていきたいくらいなので、二人から異論が出ることはないのだが。


「ジャスティン会頭!!ギルドマスター!!」

「!これはこれはリリーシア殿下、お待たせして申し訳ございません」

「ジャスティン会頭…今の私はただのリリーシアです。ですので、ただの平民として接して頂ければ、嬉しいです」

「!と言うことは、王籍を捨てられたのですか…」

「はい!私はリン様にお仕えさせて頂く従僕なのですから!」


リンに仕えられることがとても嬉しい、と言わんばかりの眩い笑顔を浮かべるリリーシア。

王族としての立場も、本来の帰る場所である王宮も捨ててしまい、ただの平民となってしまったのに、それを嘆くどころか本当の幸せが訪れたと言わんばかりの笑顔を浮かべている。


「さあ!早くここで暮らす皆さんの為に、スタトリンの第二領地となるこの地について、話し合いましょう!」

「リリーシア様!我らも加わらせて頂きます!」

「うふふ!私まだまだ未熟なので、文官の皆さんのこと、頼りにさせて頂きますね!」

「はっ!全力でリリーシア様の為にも、よき町づくりに取り組ませて頂きます!」

「…ははは。これは思いもよらぬ幸運だな、エイレーン殿」

「はい…まさかこんな形で、スタトリンの領地を広げることができるなんて…」

「しかも、この第二領土のまとめ役として、殿が就いてくれるのも非常に大きいな」

「はい。これ程文官や民の方々に支持されているなら、この地を安心してお任せできそうです」


これからの明るい未来を思い描いて、これでもかと言う程に活気づいているリリーシアと専属文官達を見て、ジャスティンとエイレーンも笑顔が絶えないでいる。

スタトリンを独立させる、と言う目標に大きく近づく一歩となる、この第二領土。

そこの構築に関われることに、ジャスティンとエイレーンのモチベーションもどんどん高まっていく。


そこにジュリアとイリスも加わり、いろいろと意見をぶつけ合いながらも、わいわいと非常に楽しそうに、スタトリン第二領地についての話し合いが始まり…

リンはそばで聞き役に徹しつつ、みんながとても楽しそうなのを見て笑顔を浮かべている。


ジャスティン、エイレーン、ジュリア、イリス、リリーシアが代表で話し合い、文官達が協力して民達からも意見を拾って、それをさらに出し合いながら進めていった結果…

ひとまずは以下のように決まる。




・冒険者ギルド スタトリン支部の分室を建設する。

 →住民から冒険者として働きたい者達の登録、受付も考慮。


・ジャスティン商会、ジュリア商会の新店舗を建設する。

 →第二領地の民の雇用先、生活を支える店舗とする。


・リンが作ってくれた公衆浴場の受付、公衆トイレの出入り口を建設する。

 →領地の広さを考慮し、最低十箇所に分散して建設する。

 →公衆浴場の受付員の雇用も募集する。


・第一領地のスタトリン支部程度の規模で、宿屋を建設する。

 →リンが建設し、オーナーとなる。

 →管理・運営は専属秘書達が主となって行なう。

 →宿屋の従業員を募集し、雇用促進を図る。

 →他の町からの来訪者をターゲットとする。


・リンお抱えの農地を領地に区画する。

 →リンが行なう農業のお手伝いができる。

 →運営・管理はリンと専属秘書達が行なう。

 →作業員は希望者を雇用する。

 →農具や肥料など必要なものはリンが全て提供する。

 →できた作物はリンに納める。

 →作物は作業者も働きに応じて支給してもらえる。

 →それとは別に給金も出る。


・住民の住居を建設する。

 →一家族につき一家屋。

 →家族人数を考慮して家屋の敷地面積を決める。

 →購入と賃貸のどちらかを選択できる。

 →購入は今後の収入から無理のない範囲で支払っていく。


・孤児は第一領地にある孤児院で受け入れる。

 →孤児を引き取れる家庭があるなら、そちらで。


・町の護衛部隊の駐屯地を建設する。

 →町の警ら、北と西の門の守衛目的。




まずは、この形で町を作っていくこととなった。

施設や住居の建設はもちろん、リンが適宜行なっていくこととなる。


また、それとは別に




・スタトリン全体の代表はジャスティンが務める。

 →イリスを補佐とする。

 →定期的に第一領地、第二領地の代表と報告会を実施する。


・第一領地の代表はエイレーンが務める。

 →ジュリアを補佐とする。

 →定例報告会の際にリンへの相談事を取り纏め、依頼をする。


・第二領地の代表はリリーシアが務める。

 →文官達を補佐とする。

 →当面は実務経験を積む為の研修生扱い。


・住民の管理

 →住民の登録をし、住民の情報を管理する。

 →登録したら、証明書を発行する。

 →証明書を紛失した場合は情報を照合し、合致すれば有料で再発行。

 →冒険者カードを持っている者は、それを証明書とする。


・住民税の制定

 →収入に関わらず月に銀貨四枚とする。

 →払えない場合は役場指定の業務をこなすことで免除。

 →税収は町の運営に使っていく。

 →リンお手製の各施設の運営費もここから捻出。

 →リンへの町の相談(依頼)の報酬も、ここから捻出。


・水の供給設備

 →リンが【浄化】を使って真水にした水をいつでも使えるようにする。

 →リンの収納空間から浄化済みの水だけを取り出せる魔道具を設置する。

 →浄化水は公衆浴場などの排水を浄化し、常時確保する。

 →利用料は住民税に含まれる。


・町の守護

 →第一領地、第二領地共にリンの結界で守護する。

 →門の箇所は通れるようにする。

 →門には守衛を設置し、常時護衛部隊を常駐させる。

 →町の周辺にリンの召喚獣を護衛として潜伏させる。




第一領地、第二領地共通の取り決めも、この場の話し合いで決めて置き、すぐに取り掛かれるようにしておく。

無論、これは現時点での暫定の取り決めなので、今後も会議を重ねてよりよい形にしていくようにする。


そして、今後はジャスティン、エイレーン、リリーシアの専属文官達もリンとの折衝は必須となっていくこともあり…

特にリリーシア達の住居も決まっていないので…

スタトリン第一領地の南の森にあるリンの拠点にジャスティン、リリーシア、文官達の住人登録をし、ジャスティンはいつでもリンに会えるようにするのと同時に、リリーシア達は拠点を住居として使ってもらうようにと、リンから提案した。


「だ、代表、ど、同士、の、会議、や、て、定例、ほ、報告会、を、す、する、時、も、つ、使って、く、くれたら、う、嬉しい、です」

「なんと!リン君の拠点に私がお邪魔できるようになるとは!リン君!お邪魔する時はいい土産を用意していくから、楽しみにしておくれ!」

「嬉しいです!私がリン様のお住まいに住まわせて頂けるなんて!」

「リン様!よろしければリン様の事務処理や雑務なども、文官である我々にお任せ頂ければ嬉しいです!」

「リン様のお住まいに住まわせて頂けるのですから、そのくらいはぜひ!」

「リン様がお作り下さる宿屋や農地、各種施設の管理なども、専属秘書であるエイレーン様、ジュリア様、イリス様の補佐として務めさせていただきます!」

「リン様のお役に立たせて頂けるのは、この上ない喜びです!」


リンからの提案に、ジャスティンは目を輝かせながら大喜び。

町の代表達が集まっての会議や定例報告会もそこで行なえるのなら、これ以上ないセキュリティが期待できることもあり、しかも拠点の主であるリンへの連携がスムースに行なえることもあって、なおさら嬉しいこととなっている。

何より、自分がリンの身内として認めてもらえたことが嬉しくて嬉しくてたまらず、普段は自身の住居を持たず、商会の本店で暮らしているジャスティンも、これからはリンの拠点で暮らそうと思い始めている。


リリーシア達も、自分達が神と崇めるリンと同じ空間で生活を共にできることが嬉しくて嬉しくて、幸せ過ぎてたまらず、その喜びを爆発させてしまっている。

文官達は、少しでもリンの役に立ちたくて、第二領地の運営・管理と共にリンの専属秘書達の補佐まですると誓いを立ててしまう。


「リン様!リン様の農地は、このわし達にお任せくだされ!」

「リン様の農地で作業させて頂けるのは、これ以上ない幸せです!」

「なあに!わし達は農業ならお手の物ですじゃ!リン様がこの老骨に命を吹き込んでくださったから、いくらでも作業できますじゃ!」

「リン様!あたい家畜の扱い得意だから、畜産目いっぱい頑張ります!」


そして、リンお抱えの農地の作業員の希望者が次々とリンに寄ってきて名乗りを上げてくる。

ここで名乗りを上げた全員が【生産・農業】持ちで、レベルは最低でも3と農業特化と言うこともあり、


「ぼ、ぼく、う、嬉しい、です。よ、よろしく、お願い、し、します」


リンは、可愛らしくはにかむ笑顔を浮かべて喜び、その場で採用を決定する。


「リン様!リン様がお作り下さる宿屋の従業員、ぜひわたしにさせてください!」

「リン様の宿屋を、誰にも寛いで頂ける、最高の宿屋にさせて頂きます!」

「あたしは料理に自信がありますので、ぜひ宿屋の料理人をさせてください!」

「宿屋の清掃は、私にお任せください!」

「金銭の管理は、計算が得意な僕にお任せを!」

「リン様!」

「リン様!」


さらに、リンが第二領地で建設予定の宿屋の方にも、従業員希望の者が次々と名乗りを上げてくる。

それぞれが【家事・料理】【家事・清掃】【家事・洗浄】【算術】などを最低でもレベル3で持っており、宿屋を任せるには最適な人材が揃っている。

中には【経営】の技能を持っている者もおり、責任者候補の人材までもが名乗りを上げてくれている。


「う、嬉しい、です。ぜ、ぜひ、よ、よろしく、お、お願い、します」


みんながとても喜んで名乗りを上げてくれるのがとても嬉しくて、リンは宿屋の方もその場で採用を決めてしまう。


そんなリンの笑顔を見て、リンの農地での希望者達、宿屋での希望者達は誰もが嬉しくなってしまい…

リンの農地と宿屋を、この世で最高のものにしようと心に決める。


加えて、リンが作った大衆浴場の受付作業員…

冒険者ギルド スタトリン支部分室の職員…

ジャスティン商会の第二領地の新店舗の職員…

ジュリア商会の第二領地の新店舗の職員…

これらも、瞬く間に希望者が殺到し、即座に採用となった。


こうして、新たにこの地に来た成人済みの移民達は、一人もあぶれることなく仕事に就くことができ、これからの生活を思い描いて誰もが笑顔を浮かべている。


ちなみに、ろくに面接もせずにここまで即時採用となった理由は、もちろん民達のリンへの忠誠心。

あの先の見えない暗闇のような、過酷な状況から自分達を救い出してくれたリンの為に、リンが喜ぶことをしていきたい。

その思いが、どの民を見てもすぐに分かる程に顔にも雰囲気にも出ていたからだ。


これ程までにリンを心酔している民達なら、そのリンを裏切るようなことなど、するはずもない。

人の喜びを、己が喜びとするリンに倣うように、誰もが人の喜ぶことをしていくと思える。

しかも、どの民も思いのほか職能として使える技能をそれぞれ持っており、その働きにも期待が持ててしまう。


それがあったからこそ、本来ならばありえないはずの大量即時採用が成立したのだ。


加えて、まだ成人を迎えていない子供達も、冒険者として登録し、小遣い稼ぎのレベルではあるものの町のお役立ち依頼や、近場の森での採取依頼などを受注できるようにすると、意気込んでいる。

もう誰もが、このスタトリンに来て喜びに満ち溢れ、笑顔でいっぱいになっている。


そんな彼らを見て、リンはとても嬉しくなり…

精霊娘達にも協力してもらって、話し合いの中で決まった施設や住民の住居を次々と建てていく。


第一領地よりもかなり広く、建てるべきものもかなりあったはずなのに…

たったの六時間程で、話し合いに出ていた全ての施設や住居、そして農地が完成したことに、その場にいたリン以外の者達は言葉も出ない程に驚いてしまうものの…

やはりリンはこの世に顕現した神様だと言う思いがますます強くなり、これからは少しでもリンの為に何かができるようにと、その思いを強くするのであった。

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