第212話 戦争③

「せ、戦争、で、です、か?」

「そうだよ、リンちゃん。サンデル王国の第二王妃・第一王子とその派閥の貴族達が、このスタトリンを奪いに戦争を仕掛けてくるそうなんだ」

「そうなのじゃ、リン。かつて、こともあろうにリンを愚弄しよったあの愚物共が、その取り巻きの貴族共とスタトリンを奪いに来るなどと…妾、もう絶対に許してはおけぬのじゃ」


この日の生産活動も一区切りとなり、残りは自身の技能【空間・作業】の作業空間での作業のみとなっていたリン。


その為、一度生活空間内の自宅に戻って一息ついていたのだが…

そこに、エイレーンとシェリルの二人がそこに訪れ、ジャクリーヌとロデナン、そしてその取り巻きとなる貴族達が、スタトリンの略奪の為に戦争を仕掛けようとしていることを、リンに伝えてくる。


「もうすでに、国境となる峠を防衛線の最前として、そこにある商会の拠点と宿屋を砦にして物資の供給、そこにつながる防衛部隊の本部を戦闘員の退避及び待機場所として、怪我人の治療や食料の補給をすることで、準備は整っている。砦の麓には前衛、中衛、後衛に部隊を分けて、総勢約二百名弱で構成し、ロクサル君に最前線の司令塔として動いてもらうことになっている」

「戦闘員には、サンデル王国の王家直属の騎士団に魔導部隊、セバス、アン、マテリアも参戦することになっておるのじゃ。加えて、神の宿り木商会からもピア、ローザ、フェリス、ジャスティン商会からもゴルドを始めとする護衛部隊が戦闘員として最前線に配置されることとなっておる」

「!ぼ、ぼく、が、さ、最、前、線、に…」

「だめだよ、リンちゃん。いくらそれが最善だからと言って、私はそんなことをするわけにはいかない」

「そうじゃとも。エイレーンは先の大氾濫で、リン…お主をたった一人死地へと送り出したことを、とても後悔しておる…」

「で、でも……」

「それに、あの時のようにリンちゃん一人に頼りっきりになっていたかつてのスタトリンと、今のスタトリンはまるで違う。リンちゃんがここまで発展させてくれたおかげで、戦闘員一人一人戦死のリスクを最小に抑えたまま、最大の戦果が得られるようになっているし…」

「何より、戦闘員の質もかつてより遥かに向上しておる。ましてや、先の大氾濫で上位の魔物三体相手に、その場にいた全員をほぼ無傷で戦い抜いた司令塔、ロクサルが此度の戦でも指揮を取ってくれるのじゃ。諜報部隊が得た情報によれば、相手の戦力は人族のみで、しかも戦闘の練度も低い者ばかり…数も当初の見込みより遥かに少ない五千弱と来ておる。この程度なら、妾やリンが出る必要などないのじゃ」

「むしろこの程度の相手にリンちゃんやシェリル様に出張ってもらうなんて、二人以外はこのスタトリンが大したことないってアピールするようなものだからね。リンちゃん…私は…私はやっとリンちゃんを血生臭い戦場に送り出すことなく…リンちゃんを護ることができるのが、本当に嬉しくてたまらないんだよ」

「…エ、エイレーン、お、お姉、さん…」

「だからリンちゃん…リンちゃんはこのスタトリンの神様なんだから…リンちゃんはシェリル様と共に、ここでどっしりと構えてくれてたら、それでいいんだよ」

「その通りじゃ、リン。エイレーンの言う通り、お主はこのスタトリンの神として、どっしりと構えておけばいいのじゃ。妾もこのスタトリンの王として、皆の戦いを見守ることにするのじゃ」

「…シェ、シェリル、さん……」


戦争と聞いて、悲し気で不安げな表情を浮かべるリン。

それならば自分が最前線に出て、スタトリンを護ると言おうとするのだが…


それをエイレーンは断固拒否する。

そして今のスタトリンが、見込みよりも遥かに矮小な敵を相手に屈するような情けない国ではないと主張し、王であるシェリルと共に果報を待ってくれていたらそれでいい、と優しく言い聞かせる。


シェリルもそれに便乗し、自身も今回構成された戦闘員、そして防衛線を信じてどっしりと構えて待つことを、リンに伝える。


(リン、しんぱいいらないのー)

(わたしたちが、リンのかわりにみんなをまもるのー)

(ぼくたちがリンとかんかくきょうゆうして、リンがみんなをみまもれるようにするのー)

(みんながあぶなくなったら、ぜったいにまもるのー)

(だからリンは、しんぱいしなくていいのー)

(リンのためだったら、わたちたちい~っぱいおてつだいするのー)


まだ不安げな表情が抜けないリンに、フレア達精霊娘が寄ってきてわちゃわちゃとリンを安心させようとしてくる。

それぞれ四元素と光、闇を司る高位の精霊であり、リンとアイリ以外には誰にも見られずにサポートができるので、フレア達はリンの為ならばと、ふんすとやる気に満ち溢れている。


(みんな…ありがとう…)


自分の為に、こうして安心させようとしてくれて…

最前線で敵を迎え撃つ戦闘員達を護ると言い切ってくれるフレア達の思いが嬉しくて…

リンはふわりと微笑みを浮かべて、感謝の気持ちを言葉にする。


(えへへ~♡リンがよろこんでくれたのー♡)

(リンのえがお、す~っごくかわいいのー♡)

(だいすきなリンのためだったら、いくらでもがんばれるのー♡)

(リンのためにも、スタトリンのみんなをまもるのー♡)

(リン、あんしんしてなのー♡)

(リン、だいすきなのー♡)


そんなリンの笑顔に、フレア達はリンの胸元でリンに甘えるようにべったりと抱き着き…

思う存分にリンと触れ合い、幸せな気持ちでいっぱいになってしまう。


「ああ~もお!!リンちゃんはなんて可愛いんだ!!♡」

「全く持ってその通りなのじゃ!!リンは可愛すぎるのじゃ!!♡」

「!!ひゃ、あっ!?」


リンのふわりとした笑顔がよほど可愛すぎて心を撃ち抜かれてしまったのか…

エイレーンとシェリルもリンをぎゅうっと抱きしめて、思いっきり可愛がろうとしてきてしまう。


「あ、あう…」

「こんなにも可愛くて尊いリンちゃんを護ることができるなんて…私は嬉しくて、幸せ過ぎて…♡」

「リン…妾はず~っとリンのそばにいるのじゃ♡ぜ~ったいリンのそばから離れたりなぞ、しないのじゃ♡」

「や、やめ…」

「リンちゃん…リンちゃんがここまで発展させてくれたスタトリンは、どの国にも絶対に負けない難攻不落の国にもうなっているんだ♡私だけじゃない…このスタトリンで暮らす誰もが、リンちゃんを護ることができて嬉しいんだよ♡」

「そうなのじゃ♡じゃからリンは安心するのじゃ♡スタトリンはリンに護られるばかりではない…リンを護ることもできる国となっているのじゃ♡」

「あ、あ、あ、あ………………きゅう………」


シェリルとエイレーンに抱きしめられて、その幼い頬にキスの雨を降らされて…

リンはあっさりとその意識を手放してしまう。


そして、天使のような可愛い寝顔を晒し、すうすうと可愛らしい寝息を立てて眠るリンが可愛すぎてどうしようもなくなったシェリルもエイレーンも、ますますリンを愛そうと可愛がってしまい…

気が付けば、二人もリンを抱きしめたまま眠ることとなってしまうのであった。




――――




(マスター!ぼくスタトリンまもるためなら、いくらでもがんばるからね!)

(ごしゅじんさま!うちも!)

(主!ロクサル殿達でしたら心配は無用と思われますが…いざと言う時にはぜひ、主の騎士たるこの我を最前線に!)

(ご主人様!最前線はわたしがいつでも偵察に出て、必要ならば支援します!)

(主様!もし最前線の人達が苦戦するようなら、おれもいつでも戦闘に参加します!)

(あ、あるじさま!お、おでも、ス、スタトリンのみんな、た、たすけたいんだな!)

(主様!おいらがいつでも後衛で魔法でみんなのサポートするから、安心してね!)


シェリルとエイレーンにさんざん可愛がられて、ようやく目を覚ますことができたリン。

自宅を出て、その近くにある大きな農場で農業をしようと出てきたところに…

いつの間にかジャクリーヌとロデナンの派閥の貴族達が、スタトリンに戦争を仕掛けてくることを聞いていたリム達従魔が、自分達もスタトリンの防衛の為に力を惜しまないと宣言してくる。


(リン様、このスタトリンの防衛にはこのホムラも加わりとうございます。どうか、どうか私にご命令を!)

(リン様、ホムラだけではございません。このスイもスタトリンを守護させて頂きとうございます。ぜひこの儂にもご命令を!)

(リン様、このフウもスタトリンを護る守護者として、前線に出陣しとうございます。この我にどうぞ、そのご命令を!)

(リン様、このラクドもスタトリンを守護させて頂きとうございます。某にもどうか、どうかご命令を!)


さらに、ここ最近リンの従魔となり、商会の従業員達からも同胞としてとても友好的に接してもらえているホムラ達も、スタトリンを護る為ならばと、前線に出ようとリンからの命令を求めてくる。

様々な種族が、壁を感じることなくとても友好的に触れ合えているこのスタトリンがホムラ達にとっても非常に住み心地のいい国となっており…

そのスタトリンを護る為なら、力を惜しむことなく振るおうとしてくれている。


「リン様、このスタトリンを護るためでしたら、このフェルもいつでも出陣させて頂く所存でございます。ここにいる従魔の仲間達と共に力を合わせ、このスタトリンを奪おうなどと目論む愚物共を蹴散らして御覧に入れましょう」


そして、従魔のまとめ役としてすっかり定着することとなったフェルも、スタトリンを狙う悪党共との戦争に参戦する気に満ち溢れており…

それを願うリンの言葉を、今か今かと待ち望んでいるような雰囲気を醸し出している。


ここにいる従魔達が、スタトリンを狙うジャクリーヌ達のことを知ったのは、人族の言葉を理解し、話すことのできるフェルが諜報部隊が集めた情報について、商会内部で話しているのを聞いていたからこそ。

フェルが聞いた話を、そのまま他の従魔達に伝えたからこそ、どの従魔もスタトリンを護ろうと言う思いが心に満ち溢れている。


(みんな、ありがとう!ぼく、すっごく嬉しい!)


そんな従魔達の心意気がとても嬉しくて、リンは眩いばかりの笑顔を浮かべて、感謝の言葉を贈る。


(お主達の心意気、この妾もとても嬉しいのじゃ)


そこに、いつの間にかリンのそばに来ていたシェリルも加わって、従魔達に感謝の言葉を贈る。


(じゃが、今回はみんなの出番はなさそうじゃぞ?)

(?そうなの?シェリルさん?)

(うむ、最前線はロクサルが司令塔となる上に、一人一人が高い練度を誇る戦闘員ばかり…場所が狭い為二百人弱程での防衛線となるが…敵は五千弱とは言え数が多いだけで一人一人の練度はお世辞にも高いとは言えん…むしろ低いくらいじゃ。おまけに場所が狭くなるゆえ敵は大人数の利点を活かしづらく、逆にこちらは兎人族や猫人族、そしてハーピーの陽動や奇襲を仕掛けやすく、敵隊を混乱状態に陥れやすい…そういう意味では、地の利もこちらにあるのじゃ)

(ふむ…それでしたら商会の防衛部隊が中心となれば、スタトリンの防衛は造作もない、そう言うことですね?シェリルさん?)

(そうじゃ。しかも峠の麓にある商会の事務所が砦となり、そこから交代の戦闘員もすぐに出てくることができるし、いざとなればそこに逃げこめば一切の攻撃を受け付けなくなるからのう…後衛の魔術部隊も高い火力を誇る者ばかり…負ける要素なぞ、微塵もないじゃろうて)

(そうなんですね、シェリル様!)

(うむ。それに…)

(?それに?)

(その程度の敵なぞ、リンや妾、フェルにお主達従魔が出るのは過剰戦力とまでエイレーンに言われてしまったからのう…ロクサル達最前線を担当する者も、『この程度の敵、自分達で迎撃できなければ、このスタトリンの防衛部隊は務まらない』とまで言っておったわ!)

(ははは!さすがはロクサル殿!であれば、我らはこのスタトリンの領地の防衛に集中すればいい、と言うことですな?)

(その通りじゃ、ナイト。最も、国土全てをリンの結界が護ってくれておるし、国の出入口には神の宿り木商会の守衛部隊とジャスティン商会の護衛部隊ががっちり固めてくれるから、それも必要ないかもしれんがのう!)

(ほほう…それを聞かせて頂き、このホムラ、安心しましたぞ!シェリル殿!)

(では万が一、このスタトリンに攻め込もうとする敵が現れましたら、このフウが一網打尽にしてやりますぞ!)

(いやいや!そこはこのスイが!)

(ならん!このラクドが!)


シェリルの言葉に、従魔達は最前線で展開される防衛線の心強さを感じつつも、いざと言う時は自分達も、と意気込む。

ひとまずはスタトリンの領地そのものの防衛に集中すればいい、と言うことは理解したので、とりあえずはいつものように農業や漁業、鉱物資源の採掘などに勤しもうと切り替えることにした。


「ふふ……リン、お主はまさにこの世に生きる神様なのじゃ…♡」

「?シェ、シェリル、さん?」

「人族と亜人はもちろんのこと…妾やこの者達のような魔物までもが、このスタトリンでは他の種族と当然のように交流ができ、お互いに助け合って生きることができておる…かつては吹けば飛ぶような小さな町だったこのスタトリンを、国として独立させたばかりでなく、まさにこの世界に生きる者達の理想郷のような国にしてくれるとはのう…さすが、さすが妾の生涯の旦那様なのじゃ♡」

「そ、それ、は、ぼ、ぼく、じゃ、な、なく、て、み、みんな、の…」

「お主の言いたいことはよ~く分かっておる…この国には、マクスデル殿も言っていたように他の国から見れば喉から手が出る程欲しいと思わせる人材が豊富にいて、その人材達が国を…神の宿り木商会を盛り立てて行ってくれていることも、重々承知しておる。じゃが、そんな有能な人材達がこうして、この国を…神の宿り木商会を選んでくれるのは、リン…お主がそれだけこの国、そして神の宿り木商会を魅力ある場所にしてくれているからに他ならないのじゃ♡」

「?ぼ、ぼく、が?」

「そうなのじゃ。そしてそれだけではない…何よりもお主と言う存在を慕い、崇め、愛したくて、力になりたくて…その為に皆、お主の元に集っておるのじゃ♡生涯の妻となる妾はもちろんのこと…この国に住む者は誰もが、お主が大好きで大好きでたまらないのじゃ♡」

「あ、あう……」

「…リン…本当にお主は…どこまで妾の心を奪っていけば気が済むのじゃ?全く…♡」

「!あ、や、やめ…」

「嫌なのじゃ♡こんなにも可愛いリンを愛せぬなんて…妾寂しすぎてどうにかなってしまうのじゃ♡」

「は、はな、して…」

「だめなのじゃ♡リンは妾の最愛の旦那様なのじゃから…妻が夫を愛するのは当たり前のこと…ぜ~ったいに離してなぞ、あげないのじゃ♡」

「あ、う、う、あ、う、あ、あ、あ………………きゅう……」

「リン…妾リンが愛おし過ぎて、もうどうにかなってしまいそうなのじゃ♡ん…♡」


自身の異性の欲情を誘う、抜群のスタイルを誇る身体を押し付けるようにリンを抱きしめ、その溢れんばかりの愛を囁くシェリル。

そんなシェリルの抱擁と愛情攻撃に、リンはなす術もなくその意識を奪われてしまう。


だが、リンが意識を手放しても、シェリルの愛情攻撃は収まることなどなく…

心の中で溢れかえって止まらない、リンへの激しすぎる愛情をリンにぶつけたくて、シェリルはリンの自宅に気絶したリンを抱きしめたまま連れ帰り…

ベッドに一緒に入って添い寝しながら、リンの顔にキスの雨を降らせてしまうのであった。

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