連袂
†
わたくし達は北西部へと続いているでしょうトンネルに停められた蒸気自動車に乗り込みます。
ヒツギ様は車を始動させると金髪の少女へと振り向き、声をかけました。
「助けてくれて本当に感謝する。この恩は決して忘れない、せめて君の名前を教えてくれないか?」
少女は少し離れた位置で腕を組みながら、背筋よく立って苦笑します。
「嫌よ。そんなことをしたら、
そう告げる、彼女の赤い瞳は強い意志を秘め、同時にわたくしはかすかに
彼は少し困った顔で微笑んで、ひと息をつきます。
「……君の為すべきことが上手くいくよう、祈っている。」
「――あなた達もね。」
そして、名前も知らない少女に見送られながら、蒸気自動車は発進しました。
しばらく暗いトンネルを走り続けると、やがて出口の光が見え始めます。
それは、わたくし達の未来を暗示しているようにも思えました。
出口を抜けると一気に視界が開けます。
目に映るのは右側上方に大きな橋、わたくし達の下には広めの川が流れ、左手には中央部都市から続く街並みと都市間を隔てる外壁が見えました。
どうやら、この道は蒸気機関車の線路に寄り添うように造られたものらしいです。
淡いミントブルー、朝の青空の下を時折列車が通り過ぎていくのを眺めます。
北西部都市の都市圏に近づくと広大な山間部に突入していきました。
緑が生い茂る山々の間を縫うように、車が走れるようにだけ簡易に整備させた道を走り続けます。
「これだけ大きな山を越えるのは初めてだな。運転には気をつけるが、何かあったらすぐに言ってほしい。」
肌に触れる空気は涼やかで、あの人は声をかけてくれました。
「ありがとうございます。あなた様も無理せず、いつでも休んでかまいません。」
彼と目を合わせ、笑顔を作って見せると頭を撫でられます。
もう。この人はすぐ、わたくしに触れて甘やかそうとするのですから。
照れて目を細め、うつむきながら撫で受けました。
太陽が空の真上に昇る頃、休憩のために山の中腹で蒸気車を停めて昼食にします。
後部の荷台には、一週間以上は持つ保存用の食料品と水が積まれていました。
「ずいぶんとたくさん載せてくれたのですね。わたくしには一ヵ月でも食べ切れるか分かりません。」
「携帯用の保存食だから少し味気ないかもしれないが、逆に俺には
わたくしは彼にもたれ、腰を抱かれながら話を聴きました。
ヒツギ様の過去。
ここではない別の世界での出来事。
彼の失われていた記憶を。
けれど、わたくしは考えていたことを口にします。
「……あなた様は
おそらくそれは、破滅への道に繋がっていました。
もう一人のわたくし――エノテリアのように。
彼女は過去の記憶に絡め取られ、躍起になってしまったがために絶望し、自ら
その姿は同時に、わたくし自身の未来のひとつとも言えるでしょう。
それを、彼女との関わりを混じえて重く受け止めなくてはなりません。
「クラン、心配しないでくれ。迷いや悩んでいるわけじゃない。この記憶はもう一人の
わたくしは彼と目を合わせて頷き、血に濡れたヒビ割れたロザリオを握る彼の手に触れます。
「それでこそ、
そうして、再び車を発進させて北西部の街を目指したのでした。
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