前世の記憶 後編
♠︎
宗教国家都市中央部の大聖堂に到着すると、一足先に内部へと案内をされた。
クランフェリアと二人で並んで奥へと進むと、端にある長椅子に一人の幼い少女が座っていた。
俺達は顔を見合わせてから、近くへと歩み寄っていく。
「こんにちは。わたくしはクランフェリア。今日から巫女神官となります。あなたのお名前は?」
彼女は屈んで少女と目線を合わせて優しく話しかける。
「……パフィーリア。」
おずおずと名乗る少女はふわふわの金髪を揺らしながら俺達を見やり、金色で花のような瞳孔の瞳と目が合う。
その瞬間、この子は六年前の南西部で生き残った赤ん坊だと理解した。
「この方はわたくしの補佐官でヒツギ様といいます。これからよろしくお願いしますね、パフィ。」
「……おにい……ちゃん?おにいちゃんなの?パフに……会いに来てくれたの?」
目を輝かせる少女の言葉に、俺は息を飲み込んだ。
あの時、赤ん坊だったこの子が俺のことを覚えているわけがない。
「あなた様……?お知り合いだったのですか?」
俺は彼女に六年前の南西部での出来事を簡単に説明する。
パフィーリアはにこにこと抱きついている。
「……そんなことがあったのですね。あなた様と出会った頃、南西部都市でも紛争が起きていたのは耳にしていましたが……」
その時、ちょうど他の巫女神官達も大聖堂へと姿を現した。
振り向いた先には、見慣れない白と朱の修道服にストール、紫髪のお下げの少女。
「お初にお目にかかります。あたしはヒルドアリア。北西部を管轄している巫女神官です。」
丁寧にお辞儀をして、こちらに歩み寄った。
十二歳のクランより少し年上だろうか。
目が合うと、にっこりと微笑んでくれた。
「どうやら、皆すでに集まっているようだな。それではさっそく新たな巫女神官達を迎える儀式を始めようではないか。」
長身痩躯の黒髪の女性は声も高らかに両手を広げた。
その傍らには厳かな司祭服を身に纏う赤い髪の少女もいる。
彼女達は大聖堂の中央で距離をとりつつ、輪になるように対峙した。
俺はクランの後方で儀式の様子を見守る。
彼女達は声を合わせて
「「我は天の創造主たる全能の父なる神を信ず。我はその子なる神たる
すると、五人の巫女神官の背後にそれぞれ子なる神、
あまりに荘厳で威圧的な尊影に圧倒されてしまう。
その中で見たことのあるものがあった。
パフィーリアの
俺は六年前の南西部紛争を思い出していた。
銃弾の飛び交う戦場を瞬く間に巨大な虫だらけにして制圧してしまったあの時を。
他の
その後、儀式は無事に終わり、席が欠けていた三位にクラン、五位にパフィーリアが新たに巫女神官へと就任した。
クランが巫女神官となってからは、南東部の街で聖務の取り仕切りや慈善活動を手伝った。
隣国との戦争は今でも続いていて、戦闘が始まれば俺も兵士とともに戦い、クランは街の人々を
俺もクランの意思を尊重した。
戦いや血に
清楚で大人しくもはっきりとした、執着心にも似た強い意志を持ち、清貧を貫いて他人に献身するクランフェリア。
そんな彼女に自分の姿を重ねてみる。
もっとも、俺自身は淡白で無感情、敵対する者への殺意といった
……すっかり血に染まった俺の手は、生き方が違えば彼女のようになれたのだろうか。
彼女への思いが好意に変わるのは遅くはなかった。
それは俺が二十の時だ。
いつものように甘えてきた彼女に対して、俺はとうとう少女の躰を求めてしまった。
クランは戸惑いながらも抵抗はせずに、されるがままだった。
最初こそ痛みに震えていたが、慣れてしまえばもはや行為も頻度も加速するだけだった。
聖務のない安息日には日がな一日、少女と肌を触れ合わせることもあった。
そうして南東部での日々を過ごし、ある時に聖務で南西部都市へ向かい、あの出来事は起こった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます