帰路

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 クラン達が宗教国家南部海岸のわたしに別荘に来て四日目の朝。


 彼女とヒツギは帰り支度をして荷物を蒸気自動車へと載せていた。

 パフィーリアはすでに車の後部席に乗り込んでいる。


「また一緒に遊びに来ようね、おにいちゃん!」


「ああ、もちろんだ。」


 わたしは見送りに彼女達の近くへ歩いていった。

 クランはわたしに気づくと声をかけてくる。


「おはようございます、ラクリマ。この度はお世話になりました。支度が済んだら挨拶に向かうところだったのですが……」


「おはよう、クラン。気にしないでいいのよ。」


 答えつつ、彼女の様子をみる。

 少し疲れた感じはあるものの肌ツヤはとても綺麗だった。


「……悪かったわね。貴女達を試すようなことはしたくなかったのだけど。」


「それこそ気にしないでください。結果的にわたくしも彼も分かり合えて、より仲を深められました。それに、ラクリマは自分の役目を果たしただけ……ですよね?」


 優しい微笑みを向けてくれるクランに、わたしは苦笑するしかなかった。


「あはは。そうね、全くもってその通りよ。」


 そう話していたところで後ろから話し声が聴こえてきた。


「……そもそも賽銭さいせんという行為は神仏への願い事やお礼だけではなく、金銭に自分の罪を託して払うという意味もあるんです。あたしの神社にはたくさんの人々が訪れますが、昔はお米などの食べ物も納められてたんですよ。」


「ふむ、私の信仰に高く掲げる喜捨きしゃに通ずるものなのだな。興味深い。時間があればまたゆっくりと談議をしたいものだ。」


 ヴァリスネリアとヒルドアリアだ。

 彼女達もこの後は迎えが来て、自分の管轄へと戻る予定になっている。


 長身痩躯そうくのヴァリスネリアがクランを見つけて話しかけた。


「クランフェリア、ちょうど良かった。北東部で異教徒達との紛争が激化し始めたとアルスメリアから電報が入った。私も向かうが、君も準備が出来れば応援に来てもらえないだろうか?」


「北東部、ですか?あそこの管轄はエノテリアですね。わかりました。聖務の予定と支度が整いましたら向かうことにいたします。」


 真面目な二人は事務的に話を進める。


「御主人――ヒツギさん!お名残り惜しいですが、今回はここでお別れです。また今度、ゆっくりお会いしましょうね!」


「ああ。必ず会いにいくからヒルデも元気でな。」


 そう言って頭を撫でるヒツギと頬を染めて見つめるヒルドアリア。


「あっ、ヒルデずるい!パフもおにいちゃんになでなでしてほしいのにっ!」


「えへへ、これだけは誰にも譲れません!」


 一気に賑やかになったところでヒツギが車を始動させ、クランが助手席に乗り込む。


「それでは皆さん、またお会いしましょう。」


 彼女達を見送り、わたしは思う。

 いつかあの二人には大きな試練が待ち受けている。


 その時、わたしはどの立場にいるかはわからないけれど、きっと手を取り合って乗り越えていくのだろう。


 それを見届けたいとともに、清楚な少女の幸せを祈らずにはいられなかったのだった――

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