第七話 耽美たる煌々の聖寿

南部都市へ

    ×


 男女の営みは決闘の如く。

 己の尊厳を賭けて一切の騙し合いをせず持てる全てでぶつかり合う。


 生死を賭す決闘は男女の営みの如く。

 相手のみを見つめ最も弱い場所を探り徹底的に責め立てる。


 わたしはそこにきらびやかな燃える命の輝きを見出すのです。


    ♤


 宗教国家都市南部は海に面した地域で、シスターであり七位巫女神官ラクリマリアの管轄だ。

 歓楽街が広がり、夏季には多くの観光客で賑わうリゾート地もあるらしい。


 俺とクランは彼女のプライベートビーチに招待されて、蒸気自動車で現地に向かっている最中だ。

 まだシーズン前ではあるが、週末を利用して四日ほど休暇の予定になっている。


 旅行の道すがら南西部に寄って五位巫女神官のパフィーリアを一緒に乗せてきた。

 迂回する形にはなったものの海岸線まで出て来ると、後部席から可愛い元気な歓声が上がった。


「わぁあ!おにいちゃんっ!海だよ、海!すっごくきれい!」


 パフィーリアが俺の座席に手をついて身を乗り出す。

 快晴の空に幼い少女の金髪はとてもよく映える。

 目の前に広がる透き通るような青い海を横目にみると、五時間かけての運転の疲れも吹き飛んだ。


「絶景だな。天気にも恵まれて休暇を過ごすには最高の場所だ。」


 助手席に座るクランが海風を受けて流れる長い亜麻色の髪を押さえた。


「そうですね。とても素敵でなんだか心がおどってしまいます。」


 眩しそうに目を細める彼女に見惚れそうになりつつ、少女にも声をかける。


「パフィーリア、あんまりはしゃぐと危ないぞ。」


「くひひ。大丈夫だよ、おにいちゃん!ちゃんと掴まってるから!海に着いたらみんなで遊ぼうね!」


 笑いながら俺の頭に上体を乗せてくる。

 可愛い妹をあやすように片手で少女の頭を撫でる。


「もちろんだ。パフィーリアの街で皆の水着も買ったことだしな。今から楽しみだ。」


 と、そこでパフィーリアが何かに気づいた。


「あれ?近くにヒルデがいるよ!」


 少女の声に耳を傾けたところで、大きな鳥の羽ばたきとともに巨大な白い不死鳥が並ぶように飛んできた。

 不死鳥の背中には大きな荷物と一緒に巫女装束の少女が乗っている。

 四位巫女神官のヒルドアリアとその神鎧アンヘル『ベルグバリスタ』だ。


 神鎧アンヘルとは聖なる教の三位一体、天使をかたどる子なる神。

 シスターの中でも特別な七人の巫女神官だけが顕現できる彼女達の魂の器とのこと。


「こんにちはぁ!みなさんも今向かっているところなんですねぇ!」


 俺は軽く手を上げて返事を返すと、ヒルデはにっこり笑って手を振る。


「あたしは一足先に行ってお待ちしていますね!また後ほどです、ヒツギさん!」


 そして、彼女は車の近くから離れたと思うと、不死鳥の神鎧アンヘルを一気に加速させて遥か遠くに飛んで行った。


「流石に速いな。もう見えなくなってしまった。」


 つい呟くとパフィーリアも手のひらをかざして眺めながら。


「いいなぁ。空を飛ぶの気持ちよさそう。でも、おにいちゃんとドライブするのも楽しいよね!」


「はは、それは良かった。パフィーリア、目的地までもう少しの辛抱だ。」


 少女が大人しく座ったところで俺も運転に集中する。


「あなた様。長い時間の運転、お疲れ様です。無理はしないでくださいね。」


 そう言って飲み物を手渡してくれるクラン。


「ありがとう、君がそばにいてくれるだけで十分に癒されているよ。」


 珈琲を受け取りつつ感謝を伝えると、彼女は小首を傾げて優しく微笑んだ。


    †


 陽が真上に昇る頃にラクリマリアの別荘に到着すると、わたくし達は入り口で待っていた彼女へと挨拶をします。


「こんにちは、ラクリマ。お誘いありがとうございます、お世話になりますね。」


「いらっしゃい、よく来てくれたわね。今、部屋へ案内するわ。クラン、こっちよ。」


 ドレスのような修道服を纏うラクリマは軽く手を振ると、優雅な仕草で屋内へ招いてくれます。


「ここに着いたのは貴女達で最後よ。とはいえ、アルスメリアは暑いのが苦手なのと聖務の関係で、エノテリアには無言で断られてしまったのだけど。」


「それは残念でしたね。神鎧お披露目以外で巫女神官全員が集まるというのも大変ではありますが。」


 ラクリマについていきながら話しをします。

 わたくしの後ろでは荷物を持ったあの人とパフィが談笑していました。


「貴女達は三人一緒になるけれど、大きな部屋を用意したから困ることはないと思うわ。何かあれば言ってちょうだい。」


 案内された部屋は開放感のある適度な広さで、三人並んでも寝れるほどの大きなベッドがありました。

 窓からは海岸も一望できるようになっていて、とても素敵です。


「これは良い部屋だな。快適な休暇になりそうだ、ありがとう。」


「気にしないでいいのよ。夜の食事までは自由に行動してくれて構わないわ。」


 それを聞いたパフィが顔を輝かせます。


「やったあ!遊びにいこっ、おにいちゃん!」


「そうだな。それならさっそく着替えて海に行ってみるか。」


 荷物を下ろして彼は言いました。


「別荘の隣に更衣室があるから、そこで着替えるといいわ。わたしも支度をするからまた後でね。」


 そうして、わたくし達は海で遊ぶための準備をするのでした。

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