視察
♤
宗教国家都市中央部、その一等地にある巫女神官の保養施設。
そこへ視察中の俺とクランは施設内を順に見て回っていた。
次に訪れた場所は小さな美術館のようだった。
絵画や宝石が所狭しと飾られている。
「ここはヴァリスネリアの管理する美術館です。名のある画家の絵や貴重な宝石を保管しているようです。」
俺に美術品の価値は分からないが、ここにある物はみな値の張るものばかりなのだろう。
「図書室も併設されていて、学術書や文学書も多く集められています。そちらは閲覧も出来ますので機会があれば、お邪魔するのも良いですね。」
「美術品に宝石や書物の
感心が口に出る。
「二位巫女神官のヴァリスネリアは神学校で教鞭を振るう教職者でもあります。ここで働くシスターはほとんどが彼女の補佐官で元生徒なんです。」
それなりの人数のシスターが施設にいるのも合点がいった。
美術館の先は雰囲気の変わった中庭になっていた。
細かな石が一面に敷き詰められ、池に沿って石造りの道が伸びている。
道端に咲く花や植木もパフィーリアの植物園とは異なるものだ。
「ここからはヒルドアリアの管理する異国風の庭園ですね。独特な世界観のある造りとなっていて理解するのは難しいです。」
俺は何故だかこの空気に親近感を覚えた。
「この感じ、どこかで……」
「何か思い出せそうなのですか?」
クランが俺を見上げる。
「いや、そういうわけではないが。何となく馴染みがあるような気がした。」
「そうですか。ヒルドアリアと話をすれば、また分かるかもしれませんね。」
池には大きめの鮮やかな魚が泳いでいる。
淵に沿って半周ほど歩くと、何やら物々しい社が現れた。
穏やかさが一転して張り詰めたような空気感を放つそれは、足を踏み入れること拒んでいるかのようだ。
俺とクランは目の前で立ち止まる。
「ここは特に不思議な場所で、わたくしはもちろん他の巫女神官も近寄りません。ヒルドアリアだけが施設に訪れる際に必ず入っていくようです。」
俺は不思議と中へ誘われているような感覚に陥る。
「さぁ、もう行きましょう。あなた様。」
社の近くに長居をしたくないのか、俺の袖を引く彼女。
二人で異国風の庭園を抜けていく。
すると、今度は広めの家庭菜園が見えてきた。
クランは少し嬉しそうに話す。
「ここはわたくしの管理する菜園です。わたくしの母屋より広く使えるので色々と試しています。頻繁に来れないので、育成はここの職員の方々にお任せしてしまっていますが、収穫した物はそのまま食事に使っていただいてます。」
菜園の手入れをしていた職員のシスターがクランに気付き近づいてきた。
「三位巫女神官様、こんにちは。いらっしゃっていたのですね。この前に整えた場所が安定しましたので見て行かれますか?」
「それはぜひ。収穫はいかがですか?」
「どれも順調に成長しています。宿泊はされていくんですよね。取れたものを三位巫女神官様の部屋へお持ちしますか?」
「お願いします。いつもありがとうございます。」
微笑んで丁寧に頭を下げるクラン。
彼女の補佐官ではなくともきちんと仕事を請け負ってくれるのは、彼女の人柄あってのものだろう。
クランと職員のシスターが菜園を見て回り、手入れや育成を語り合う。
俺は邪魔にならないように、その場に留まって遠目に眺めて待った。
屈み込んで、その小さく可憐な花に触れた。
何故か懐かしさと同時に、哀しさのようなものが心に湧いてくる。
――不意に視線のようなものを感じて辺りを見回す。
すると遠く離れた腰の高さほどの花畑の中で、クランとよく似た少女がこちらを見ていた。
その瞳は蒼く輝いているようで、目を合わせていると心の中がざわついていくのを感じ、思わず少女の元へと駆け出そうとして――
「お待たせしました、あなた様。次へ参りましょうか。」
後ろからクランに声をかけられて振り返り、彼女の顔をまじまじを見てしまう。
「どうかしましたか、あなた様?」
「ああ――いや、何でもない。」
再び花畑の方を見やると、まるで幻だったかのように
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます