殉教と犠牲
♤
俺はクランが口にしていることに耳を疑った。
誰かを犠牲にしなければ、力を得ることが出来ない。
嫉妬する相手をズタズタに切り裂いてしまうように。
そしてつい、わかり切ったことを訊いてしまう。
「もし、『バルフート』の内部に取り込まれたとして……その人間はどうなってしまうんだ?助ける手立てはあるのか?」
巨像の
「――その人間は命を落とし、もちろん助ける
とんでもない話であると同時に、考えてはいけないことが頭によぎる。
最愛の彼女が言っていることは普通の人間にはとても不可能だが、唯一この場にはそれが可能な者がいた。
クランは伏し目がちに
――不死の少女。
さらには、
……俺のことを御主人様と慕ってくれる女の子と目が合った。
頭を振って、すぐさま考えを振り払った。
一瞬でも思い至ってしまった自分を恥じる。
「クラン……何か、他に方法はないのか?ここにはまだ、パフィーリアやエノテリアがいる。みんなで力を合わせれば、アルスメリアを止める手段も――」
そう言いかけ……上空では天使型の
「猶予は多くありません、あなた様。
エノテリアはフード越しに俺を見据える。
その蒼い瞳が訴えているもの。
アルスメリアが作ろうとしている世界。
聖なる教と巫女神官が秩序を築き崇拝される未来。
それは決して、俺達に不都合のあるものではないだろう。
しかし、エノテリアにとってアルスメリアは仇敵であり、そもそも
『魂の解放の儀』による強引な改変は
だからといって、その為に巫女の少女を生贄にすることも、理には
それゆえにクランは明確な言葉を飲み込んでいる。
俺は思わず頭に手を当てた。
何か手はないか。
そう考え始めたところで……不意に袖を引かれる。
顔を向ければ、すぐ傍にヒルドアリアがいた。
巫女の少女はそっと口を開く。
「……御主人様。あたし、『バルフート』の中に入ります。」
「だめだ。そんなこと、させられるわけがない。それなら、いっそ同じ不死である俺があの中に……」
迷わず即答する。
「それでは何も意味がありません。それに御主人様が身を挺しても、クランさんの
ヒルデは俺の手に小さな両手を重ねた。
囁くように、俺だけに聴こえるように呟く。
「――これは、あたしの果たしてきた使命であり罰なんです。クランさんからあなたを奪おうとした、あたしの
いつだって街の人々や信仰のために命を捧げてきたであろう少女。
俺を助け、諭して導いてくれた彼女は諦念や悟りに似た表情を見せる。
「そんなことは……それを言うなら俺にこそ非が――」
「御主人様。あなたは何も悪くありません――それにあたし、後悔はしていませんよ。いつでも優しくしてくれましたし、楽しかったですから。あなたのためにこの身を使えること、誇りに思います。」
まるで、最期の別れのような台詞だ。
そんなものを聞きたいわけでもない。
「ヒルデ、
「ごめんなさい、御主人様。もう決めたことですから……クランさんと仲良くしてくださいね!」
ヒルデは背伸びをして、俺の頬へ
咄嗟のことに手を差し出すも間に合わない。
「――クランさん、お願いしますっ!」
彼女はクランの傍を走り抜け、
「ヒルデっ!!」
少女の名を呼ぶも、届く前に巨像の
目を
「不死と怠惰を体現する者。煉獄の
そして、力ある言葉を紡ぐ。
「――『血算……起動』!!」
巨像の
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