憐れみ

    †


 夕食を終えると皆その場で解散をして、わたくしとパフィはお風呂で汗を流しました。

 ヒツギ様と三人で宿泊する部屋へと戻ってくると、遊び疲れてお腹も膨れたパフィはすぐにベッドで眠ってしまいます。


「パフィーリアはすっかり元気そうで安心した。」


 彼が三人寝れるほどの大きなベッドに腰掛け、パフィを見て呟きます。


「そうですね。パフィは感情が体調に出やすい子なので、少しでも楽しいことを……と思って連れてきて正解でした。」


 わたくしは彼の隣に寄り添うように座りました。


「パフィーリアの生活や聖務は変わるのか?――神の子の禊とかは……」


 あの人が気にしていた疑問を訊いてきます。

 少しだけ考えながら口を開きました。


「――とても特殊な信仰形態でしたから。今はまだ復興途中で聖堂も完全には使えないですが、今後の聖務は検討が必要でしょう。例の儀式に関しては、あの子の神鎧アンヘルに必要なことを踏まえると、多少は緩和されるものの残るとは思います。」


「……そうか。補佐官や周りで関わってきた人々のこともあるしな。少しでも良い方向に改善されるといいが……」


 彼は視線を落として複雑な表情になります。


 補佐官のこと……。


 わたくしは昼間のヴァリスネリアとの会話を思い出します。

 彼女がわたくしとヒツギ様の関係に釘を刺してきたこと。


 すでに何度も躰を重ねてきたのは知られなくとも、ラクリマは察しているでしょう。


 ――今から関係を正すのはもう考えられません。

 それほどまでにあの人と……その行為の虜となってしまいました。


 わたくしはどうすれば良いのでしょうか。


 思わず、わたくしのシンボルである円と十字の印を切りました。


「……クラン?何か心配事でもあるのか?」


 ハッとして顔を上げると彼が心配そうに覗きこんでいます。


「い、いえ!そういうわけではありません!」


 つい動揺して上擦った声になりました。


 あの人はわたくしの腰に腕を回して抱き寄せます。

 躰が強張りながらも腕の中に収まると、静かに語りかけられます。


「クラン。言いたくなければそれでもいい。だが、俺はいつでも君と一緒にいることを覚えていてくれ。何があっても絶対に、クランを守ってみせるし裏切らない。」


 その言葉に、わたくしの躰の緊張と不安は溶かされていきました。

 頬を擦りつけながら心音を聴きます。


 わたくしは何を怖がっていたのでしょう。

 彼と一緒なら、きっとどんなことでも乗り越えられます。


 顔を上げて想いを伝えます。


「あなた様、お慕いしています。心も躰もずっとあなた様とともに……わたくしを離さないでくださいね。」


 返事の代わりに頭を撫でられ、ゆっくりと押し倒されます。


「いけません、あなた様。パフィが起きてしまいます、んんぅ……」


 わたくしは彼のされるがままに身を委ね、服を脱がされて――熱い夜を過ごしたのでした。


    ×


 わたしは一人、サロンのソファーに寝そべりグラスを手にしていた。


「主よ、憐れみたまえ」


 わたしは×と十字の印を切って祈りを捧げた。


「生まれながらに死という極刑を言い渡されて、魂は業に縛られ新たな罪を犯し続ける。身に余る神力をふるうわたし達に下るは救済か神罰か。」


 掲げた我らが主の血――聖別された葡萄酒を飲み干す。


「巫女神官と補佐官との禁断の恋。そろそろきちんと彼をしないといけないのかしら。あの子を傷つけたくはないのだけれど――ふぅ、今日はもう少し酔わないとダメね。」


 酒を注ぎながら、彼女達を連れ出す算段を練っていた――

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