微睡みの朝
▱
その日は朝から天気が良く、日の光が柔らかく寝室に差し込んでいました。
あたしはゆっくり目を覚まし大きく欠伸をします。
……眠い。
あたしは思考する。
眠気が抜け切らないせいか頭の中の処理が遅い。
……そういえば今日はお休みでした。
新しい年を迎えて数日、睡眠もろくに取らず休むこと無く聖務をこなしてきました。
昨日も夜遅くに帰ってきてお風呂に入ると、寝巻きも着替えずに床に着いたのを思い出します。
これはもう大人しく二度寝しないと勿体ないですね。
暖かい日差しを浴びながら再び布団へ潜り込むと
いよいよ気持ちよく眠りに落ちる、という手前で部屋の扉が叩かれました。
「――四位巫女神官様、起きて居られますか?」
「寝てます。」
あたしは即答した。
一瞬の間を置いて部屋の扉が開かれる。
何故だ。
「お休み中に失礼致します。四位巫女神官様宛てに書簡が届いております。」
聞き慣れた声。
あたしより一回り年上で補佐官をしているシスターだ。
淡々と業務をこなすキャリアウーマン(?)で仕事は出来るけども、とにかく厳しくうるさい。
最近、気になる年下の同僚がいるらしいが、どうせなら色恋に現を抜かして丸くならないだろうか。
切に願う。
このまま狸寝入りを決め込もうかと思ったが、一度返事をしてしまったので布団を引き剥がされるのは時間の問題だろう。
「後で読むからその辺に置いといてください。」
眠りを妨げられた恨みを語気に練り込みながら言い放つ。
あたしの補佐官は全く気にせず続ける。
「そうですか、送り主は三位巫女神官様の補佐官殿のようですが。」
…………
ん……?
あたしは思考する。
三位巫女――たしか二歳年上の生真面目で優等生なクランフェリアさんよね。
その補佐官といえば……
…………
あたしは飛び起きた。
「ちょ、ちょっとそれ見せてください!」
勢いでつまずくが、かまわずに補佐官から手紙をひったくる。
渦巻いていた眠気は吹き飛んでしまった。
机の上のレターナイフをつかむと秒で上部四ミリを平行に切り裂く。
我ながら見事な手捌きだった。
封入された手紙を抜き出し食い入るように読み始める。
「親愛なるヒルドアリアへ」
あの人の字だ。
あたしは感激で頭がくらくらした。
逸る気持ちを抑え深呼吸をして再び手紙に目を落とす。
「時間のある時で構わない。二人きりで会って話がしたい。」
手紙は簡潔な文章で綴られていた。
あたしが思考する前に体は動いていました。
手早く着替えて羽織を掴み、補佐官の横を抜けて部屋の外へと飛び出します。
神社敷地内の母屋から少し離れたあたしの管理する神殿へ向かい、境内の真ん中へ辿り着いた瞬間に
シスターの中でも特別な七人の巫女神官だけが顕現できる七つの御神体です。
「――いきますよ、『バリスタ』!」
足元を焔が弧を描いて
その背に飛びついてよじ登り、
「――『血算起動』!!」
不死鳥は鎧装に包まれた素体部を紫に発光させ、その体躰より大きな翼を広げて羽ばたき、高速で空へと飛び立つ。
「御主人様!あなたのヒルドアリアが今すぐ!会いに行きます!!」
起こしに来た補佐官の事を飛び立ってから思い出したが、どうでもよかった。
後のことは何とかしてくれるでしょう。
とにかく今はあの人に会う事だけが頭の中を埋め尽くしていた。
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