異変
♤
俺は気を失ったクランフェリアを抱いて蒸気自動車へ戻り、すぐさま彼女の母屋へと車を走らせた。
幸いにも彼女は眠っているだけで、部屋のベッドへ寝かせると気をつけながら修道服を緩める。
念のため、濡らしたタオルと飲み物を用意して椅子に座った。
クランフェリアの寝顔を見つつ、懐から血濡れたロザリオを手に考える。
これに触れた途端、強い頭痛が起こり不思議な光景が見えた。
心の中に彼女への想いが溢れて思わず抱きしめてしまったが、あれは失った俺の記憶だったのだろうか……。
それにしては、あまりにも現実味がなさすぎた。
俺とクランフェリアは生誕祭の時に初めて会ったはずで、それは彼女自身も言っていた。
しかし、この血濡れのロザリオを手渡したのは確かに記憶の中のクランフェリアでもあった。
そもそも何故、俺は彼女の聖堂で倒れていたのか。
あの大剣に関してもそうだ。
初めて顕現させた時も彼女に触れていて、おそらく懐にこのロザリオを持っていた。
そしてつい先ほどクランフェリアの手とこれに触れた時に大剣は顕れ、抱きしめた彼女から強い力を受け取ったのを感じた。
――わからないことだらけで考えがまとまらなかった。
「ヒツギ様……」
気がつけば彼女が目を覚ましていた。
「クランフェリア、もう大丈夫なのか?」
身を起こそうとする彼女を支え、飲み物を渡した。
クランフェリアは水を少し飲んでから話しをする。
「そのロザリオですが、わたくしも同じものを持っています……正確には自分で作った、たった一つのロザリオであるはずでした。」
そう言って、彼女は自分のロザリオを取り出してみせた。
「ですが、その血に濡れたロザリオは何故か細かいキズの位置や深さまで全く同じなのです。濡れた血以外はまるで複製されたかのように。」
俺は二つとあるはずのないものが存在していることの意味を考える。
彼女は大きな汗をかいて、何やら苦しそうにし始めた。
「クランフェリア、具合が悪いのか……?」
「心配はいりません。
濡れたタオルで額の汗を拭いて彼女の背中をさすってあげると、クランフェリアは大きく躰を震わせた。
「んうぅっ……!」
「ほ、本当に大丈夫なのか?」
彼女は頬を紅潮させて、息も絶え絶えに言った。
「ヒツギ様……お願いです、今だけは……わたくしに触れないでください……!」
どうにも心配でたまらないが、明らかに様子のおかしいクランフェリアに対して何をしてあげればいいのか、まるで思いつかなかった。
俺はただ、何かに苦しむ彼女を見ているだけしか出来ずにいた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます