記憶の片鱗
†
わたくしはヒツギ様の手を引いて蒸気自動車の方へと歩き出しながら、出会った日の礼拝襲撃事件を思い出します。
わたくし達の宗教国家都市の歴史とは、周辺国の異教徒との戦いの歴史でもありました。
普段の日常こそ平穏な日々が流れながらも、生誕祭などの宗教行事の際には何かが起こっても不思議ではないくらいには敵対していたのです。
強力な
教会主導の統治をしている宗教国家都市の周辺には二つの大きな国があります。
王室と元老院による統治の王政国家都市。
傭兵団ギルドの議会制による統治の傭兵国家都市です。
特に右隣りの王政国家都市とは何度も戦争を繰り広げていて、互いに打撃を受けるほど街の被害もありました。
そして、国境に隣接する南東部でも特に戦闘が激しかった地域へと到着します。
「もう十年前でしょうか。当時はわたくしもまだ六歳でこの近くの孤児院で暮らしていました。」
あれから復興もだいぶ進んではいるものの、まだまだ戦争の爪跡はあちこちに残されていました。
「ひどいものだな。この前の異教徒達も隣国に関係があるのか?」
ゆっくり車を走らせて訊く彼に頷き返します。
「そう聞いています。現在は休戦状態にありますが禍根は残り、この前のようにゲリラ的な紛争はたびたび起きてしまいます……」
話しをしているうちに小さな教会が見えてきます。
わたくしはここで車を止めてもらい、教会へと歩くと彼も後ろをついてきました。
正面扉を開けて中へ入ると誰もいないものの、定期的に掃除や管理をしてくださっているので、とても綺麗でした。
祭壇に祈りを捧げ、教会の裏手の庭へと回ります。
そこには石碑と周囲に十字の昼咲花が一面に咲いていました。
わたくしは石碑にも祈りを捧げると、彼は察したのか並んで祈ってくれました。
静かな時間が流れる中、意を決して懐から血濡れたロザリオを取り出します。
「クランフェリア、それは?」
「ヒツギ様、これをお返しいたします。初めてお会いした時、あなた様が手に握られていたロザリオです。隠していてすみません……ずっと迷ってしまって……」
ヒツギ様がゆっくりとロザリオに触れた時でした。
「……っ!?」
突然、眩い光とともに再び大きな剣が顕現します。
彼は頭を押さえながら片膝をつきました。
「ヒツギ様っ!?」
側に寄ってあの人の肩に触れると、そのまま抱き寄せられました。
その瞬間、視界に見知らぬ場面が目に映り――いえ記憶のようなものが頭の中に流れ込んできたのです。
それは深く傷つき倒れて死の淵にいるヒツギ様を、わたくしが介抱して自分のロザリオを渡すというもので……。
その時の心情はまさに恋人を想い、失うことを悲しむそれで胸の内がいっぱいになります。
身体を離されると、現実へと引き戻されました。
頭の中が熱くなり、鼓動が早鐘を打ちます。
茫然となりながらお互いを見つめていました。
「クラン、君は俺にとってとても大切な……」
「あなた様は、やはりわたくしの運命の……」
大剣は光り輝き、わたくしはまるで
その急激な勢いに体から力が抜けて、彼の胸へと倒れ込みます。
「クランフェリア!?」
そして、意識はそのまま薄れていきました――
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