一か月後
†
宗教国家都市、その中央部の大聖堂を中心として七芒星の頂点にそれぞれ七つの聖堂があります。
そのうちの一つである南東部に位置する聖堂の管理をわたくしは任されていました。
もちろん聖堂の周辺は管轄区域として近隣の教会や礼拝堂を通して信仰の補助、慈善活動や治安維持などを行なっています。
そして今日もまた補佐官のヒツギ様とともに蒸気自動車で街の見回りに出ていました。
「――今日は天気も良くて、平和なものだな。」
隣で運転をしている彼が穏やかに言いました。
爽やかな風を受けつつ、見晴らしの良い流れる景色を眺めます。
「そうですね、とても気持ちがいいです。」
わたくしの街は牧畜や農業で繁栄をしているので、宗教国家都市の中でも田舎のような雰囲気があります。
治安は比較的安定しているのですが、市場などの活気あふれるところでは揉め事が起こることも珍しくありません。
「おはようございます。今日も良い天気ですね。何かお変わりはありませんか?」
わたくしは市場で道行く人や店を構える方々と挨拶をして、世間話に花を咲かせます。
街の皆さんは活力にあふれて忙しくも充実した生活を送っていて、とても眩しくみえました。
「クラン、酒場の方で揉め事らしい。少し行ってくる。」
あの人が言って、一人駆け出しました。
市場の方々は日が昇る前の早朝から働くので、ひと息つけるよう朝から酒場も開いています。
お酒に酔って喧嘩が起こることも日常茶飯事で、現場に居合わせるたびに彼が仲裁に入りました。
わたくしも話しを打ち切って後を追います。
周りには人だかりが出来ていて、わたくしは背伸びをして様子を見ます。
ちょうど彼が喧嘩をしている二人組の間に入っている様子が見えました。
二人共とても酔っているのか、興奮していて掴みかかる勢いがあり、暴力沙汰にもなりかねません。
一人が酒瓶を手に振り上げて殴ろうとした瞬間、ヒツギ様がその腕を取り、素早く足を払って投げ倒しました。
「これ以上はただでは済まなくなる。悪いことは言わないからもう落ち着け。」
わたくしは人垣をかき分けて近づくと、事は終わっていました。
「皆さん、大丈夫ですか?あまり飲み過ぎてはいけませんよ。さぁ、もうお開きにしましょう。」
見物をしていた人達も散っていき、再び賑やかな空気に戻ります。
店主の方にお礼を言われ、わたくし達もその場を後にしました。
「……ヒツギ様も怪我がなくて何よりです。無茶だけはしないでくださいね?」
店を出て人通りの少ないところへ来ると、彼の服の埃を払い整えます。
「このくらいの荒事は慣れたものさ。生誕祭の時の襲撃に比べたら、なんて事はない。」
「いいえ、何かあってからでは遅いのです。その慣れこそが命に関わるのかもしれませんから。」
ヒツギ様は正義感も
彼のおかげで迅速に解決しているのは確かですが、それでも心配なのは変わらないので見上げて諭します。
「君の言う通りだ。肝に銘じておくよ。」
肩をすくめて、ばつが悪い顔になるあの人。
「はい。それでこそ、わたくしの敬愛するあなた様です。さぁ次へ参りましょう。」
そして、わたくし達は次の場所へと移動するのでした。
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