一日の終わり
♤
俺達は聖堂の隣のクランフェリアの母屋へと帰り、夕食の時間を過ごしていた。
豆のスープに固めのパン、俺には多めに作ってくれた。
「ヒツギ様、今日はいろいろとお疲れ様でした。なんだか大変な一日になってしまいましたね。」
パンをちぎりながら話す彼女。
俺も彼女と同じくパンに手を伸ばす。
「ああ。でも、おかげで君やこの街のことをなんとなく知れたと思う。宗教的にはもっと勉強しないといけないが。」
「……何か思い出せましたか?」
「残念だがさっぱりだ。生活に関わることは無意識に理解しているが、過去の記憶はまるで切り取られたように全く思い出せなくて……」
スープを口に含む。
薄めの味つけが疲れた体に染みて温まる。
「そうですか。しかたないですね、少しずつでも思い出していけるといいのですが……」
実際のところ、内心では少し安堵していた。
クランフェリアとこうして一緒にいられる事に嬉しさを感じているからだ。
過去の記憶がないことに不便はないので、今はまだ触れずにいよう。
自分が何者であるかで問題が起きたなら、その時に対処すればいい。
礼拝を襲撃した異教徒達のことも気になったが、食事中に訊く話題には重すぎた。
「クランフェリアはずっと一人でここに住んでいるのか?」
比較的に軽そうな話題を選んで訊いてみた。
「はい。わたくしは孤児院育ちで神学校は寮から通い、四年前に巫女神官となってからはここに住んでいます。巫女神官になるという立場上、一般の方々とは隔てられた生活をしてきました。」
それで聖堂や母屋の周りに高い塀があるのか。
「なるほど。やっぱり大変だったのか?」
これはこれで訊きづらい話題になってしまった。
「そうでもありません。一人でいることには慣れていましたし、生活面で教会の方々にお世話になっていたので。」
これもある意味で箱入り娘というやつだろうか。
しばらくの間、静かに食事は進んだ。
食べ方やペースを彼女に合わせるように口へ運ぶ。
「あの……わたくしも訊いてもよろしいでしょうか?」
不意に話しかけられて、食べながら彼女の目を見る。
「わたくしと一緒にいてどうですか?おかしなところはありませんか?今まで男性とこうして過ごすことがなくてその、怖かったりとかは……」
妙な質問に少し考えながらも正直に答える。
「そんなことはない。君は記憶のない俺にこんなに優しくしてくれる命の恩人だ。むしろ感謝しかない。その……とても可愛いしな。」
彼女は頬を染めながら目を泳がせる。
「そ、そうなのですね。ありがとうございます。わたくし、特別な力も相まって人に怖がられているところがありまして……あなた様にそう言っていただけると嬉しいです。」
二人の間になんとも言えない空気が流れつつ、食事が終わった。
「あ、あのわたくし、お風呂に入ってきますね。」
食器を片付けながら、そのまま部屋を出て行ってしまった。
俺は二人分の食器を洗ってから、居間のソファーに座り今日の出来事を振り返る。
クランフェリアの聖堂で目を覚ましたこと。
生誕祭の礼拝中に起きた異教徒の襲撃。
大剣が顕れて意のままに操り、常人離れの身体能力を発揮したあの力。
彼女の巫女神官としての神力、
神様というものはまだよくわからないだが、彼女との出会いは運命的なものなのだろうか。
考えを巡らせているうちに、うとうとしていた。
風呂から出たクランフェリアに肩を揺すられて我に返る。
「ヒツギ様、ここで眠ると風邪を引きますよ。お風呂も空きましたので、良ければお入りください。」
「ん。ああ、ありがとう。風呂を借りてから寝るとする。君は先に休んでいてくれ。」
「はい、それではまた明日。おやすみなさい。」
にっこり笑う風呂上りの彼女は艶やかな寝巻き姿で、大きな胸の谷間に目が吸い寄せられそうだった。
そうして俺が目覚めた一日は終わった。
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