神鎧

    ♤

 

 街の広場にクランフェリアの声が響き、俺を含めて異教徒達の動きが止まる。


 彼女は胸の前で手のひらを組み、広場の真ん中に立っていた。

 丸腰の少女に異教徒の目が向けられる。


 まずい!


 そう思った矢先、彼女に眩い後光が差した。

 光の中から七メートルほどの鎧装を纏った人型、白い巨像が顕れていく。


 両肩に大きな花弁のような四枚の肩部装甲。

 左腕には巨大な三連の機関銃。

 右腕にアンカーブレードを備えている。

 背部には数基のカチューシャ砲らしきものもあった。

 その姿はまさに巨大な人型兵器そのものだ。


「クランフェリア……!?」


 俺は思わず彼女の名を呼び、その不思議な光景を目の当たりにして動くことができない。

 異教徒達も例外ではなく立ち尽くしていた。


「命までは奪いたくありません。武器を捨てて投降してください。非道な行いを悔い改めるのです。さもなくば、わたくしの神鎧アンヘルの怒りが火を噴きますよ……!」


 その時、異教徒の一人が白い巨像に向けてロケット砲を発射した。

 巨像は即座に反応して、四枚の肩部装甲の一つから近接防御火器ファランクス機関銃バルカンを百発近く掃射する。

 飛来するロケット弾を撃ち落とし、そのまま異教徒は蜂の巣にされる。


 それに驚いた数人の異教徒達がクランフェリアに銃口を向けた。

 俺は反射的に大剣を遠隔で操って、彼らの両脚を斬って動きを止める。

 四基の自動迎撃機関銃によって異教徒達へ数千発の銃弾の雨が降り注ぎ、肉塊を作り上げた。


 巨像はゆっくりと前進すると味方の兵士と異教徒達を選別しているのか、的確な自動射撃で敵の頭を撃ち抜いていった。


 大型の三連機関銃やブレードを使うまでもなく制圧していく様子を傍観していると、街の兵士達も応援を連れて駆けつけてくる。


 残り数人となった異教徒は包囲され、武器を捨てて両手を上げた。

 俺はほっと息をつくと大剣はゆっくりと消失した。

 彼らに注意を払いながら彼女に駆け寄る。


「――クランフェリア、ありがとう。助かったよ。」


「ヒツギ様もご無事でなによりです。あとは街の兵士の方々にお任せしましょう。」


 見れば兵士達が異教徒達を捕縛し、連行している。

 クランフェリアは巨像を見上げて話す。


「これがわたくしの神鎧アンヘル、天使をかたどる子なる神。名は『バルフート』と言います。」


 力強く佇むその姿に感嘆すると、隠れていた住民や信者、兵士達まで白い巨像に祈りを捧げていた。

 彼女は神鎧アンヘルを回帰させていく。


「神様か。本当にすごいんだな、君は。」


「ヒツギ様こそ、先ほどの大剣にあの身体能力。やはり、あなた様は何か特別なお方なのですね!」


 クランフェリアは目を輝かせて見上げている。


「わからない。ただ俺はクランフェリアを――君を守りたいという思いで一杯だった……」


「そ、それはその……ありがとうございます……」


 クランフェリアは顔を紅くして俯いてしまった。


「三位巫女神官様っ!良かった、ご無事で!」


 聖堂の方からシスター達がやってくる。


「クランフェリア、聖堂へ戻ろう。」


「そうですね。生誕祭の途中ですから。」


 ――その後、礼拝は無事に終わり街のシスターや信者達は帰路についたのだった。

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