激突

    †


「――いきますよ、『バリスタ』!」


 ヒルドアリアの周囲に焔が奔り、二十メートルを超える鎧装に覆われた不死鳥型の神鎧アンヘル『ベルグバリスタ』が顕れます。

 彼女はその背に飛び乗るとよじ登って、力ある言葉を発しました。


「――『血算起動』!!」


 鎧装に覆われた不死鳥の素体部が紫に発光して翼を広げ、瞬く間に空へと舞いました。

 そして、焔を纏ってパフィの聖堂へ向かい突撃します。

 噴き出す焔は特別なもので襲いくる虫達だけを焼き払い、まっすぐに道が出来上がります。


「あなた様、参りましょう。わたくしから離れないでくださいね。」


 わたくしは白い巨像の神鎧アンヘル『バルフート』を進ませます。


 しかし、パフィの神鎧アンヘル『クインベルゼ』から産出される虫達の数はあまりに多く、四枚の肩部装甲の近接防御火器による数千発の自動迎撃もまるで追いつきません。

 そう言っている間にも、わたくしの倍以上の異形の虫が目の前に降り立ち、鋭い腕を振りかぶります。


「――きゃっ……!」


 驚いて思わず身が縮こまり、目を閉じました。


「――クランっ!」


 ヒツギ様の声が聴こえて大きな金属音とともに、わたくしの躰は庇われるように抱きしめられます。


 そっと目を開けると、彼は大剣を盾にしながら鎌のような虫の大きな腕から守ってくれていました。

 そして、すぐさま大剣を水平に薙ぎ払って虫を両断します。


「大丈夫か、クラン。怪我は?」


「あ、ありません。ありがとうございます……」


 とはいえ、わたくしの躰は震えが止まりません。


「――あっ、あなた様!血が出ていますっ!」


 虫の攻撃で斬られたのか、あの人の片腕がみるみるうちに血で染まっていきます。

 心配でつい、すがりついてしまいました。


「これくらいなら問題ない。俺が先行するからクランは『バルフート』を動かすことに集中してほしい。」


「は、はい。あなた様……!」


 ヒルドアリアは『ベルグバリスタ』で飛び回りながら、噴き出す焔で大量の虫達を焼失させています。

 ようやくパフィの庭園へたどり着くと、そこは大量の虫で覆われ、白い異形の神鎧アンヘルが聖堂に取りついていました。

 ここからなら狙い撃つことが出来そうです。


「――『血算起動』……!」


 力ある言葉を口にすると神鎧アンヘル『バルフート』の鎧装に覆われた素体部が紅く発光しました。

 全武装を解放させると急激に体力が奪われる感覚に襲われます。


 左腕の三連大型機関銃を構え、轟音とともに射撃を開始しました。

 異形の神鎧アンヘルは激しい銃撃を受けると即座に飛び出して再び大量の虫を放出します。

 ヒルドアリアは『ベルグバリスタ』に焔を吹かせ、虫達を焼き払い続けています。


「パフィーリアはどこにいるんだ……!」


 わたくしの周囲を守ってくれながらパフィを探している彼。


「パフィは……白い異形の神鎧アンヘルの中です、あなた様!」


 神鎧アンヘルを発現した当時の彼女は赤子で、身を守るためにとった最善が彼女ごと胎内へ取り込むことだったのですから。


「なんだって!?しかしそうなると異形の神鎧アンヘルを攻撃するということは……」


 聖堂の周りを飛び回る異形の神鎧アンヘルを狙って機関銃を撃ち続けます。

 弾丸が神鎧アンヘルを抉るたびに悶えて苦しむ様子にあの人は見かねました。


「クラン、待ってくれ!これではパフィーリアを助けるどころか命が危ないんじゃないのか!?」


 彼の言う通りでした。

 けれども神鎧アンヘルを大人しくさせなければ、わたくし達も危険に晒されます。


 パフィの街はすでに虫で溢れていて、多くの犠牲者が出ていました。

 街を守る兵士達も様々な武器で応戦しましたが、虫は倒されるたびに別個体へと耐性が反映されます。

 受けた攻撃が一切通用しなくなるので、今や通常の兵器では倒す術がありません。

 ヒルドアリアの『ベルグバリスタ』がわたくし達の下に戻ってきました。


「なんだか様子がおかしいです!」


 わたくしやヒルドアリアの神鎧アンヘルによる攻撃か彼の振るう大剣のみが有効な攻撃手段になる中、異形の神鎧アンヘルにさらなる異変が起こりました。


    ♤


 パフィーリアの神鎧アンヘル『クインベルゼ』から生み出された虫達はそのまま本体に取りつき始める。

 大きな虫の塊、いや巨大な繭のようになっているそれはクランの神鎧アンヘル『バルフート』の射撃ですら削りきれないほどだった。


 そして一回りほど膨れ上がったかと思えば、中から別の姿をした異形の神鎧アンヘルが繭を破り現れた。

 それは鎧装をまとった女王蟻のようで、上半身は人型になっていて背から八本の鉤爪が生えている。

 全体の大きさは四十メートルを超えるだろう。


 異形の神鎧アンヘルは聖堂から離れると、虫達を引き連れて機敏な動きでこちらへと向かってきた。

『バルフート』が応戦するも『クインベルゼ』は鉤爪を盾のように重ねて弾丸を弾き、そのうちの一本で薙ぎ払って反撃する。

 巨像の神鎧アンヘルは右腕のアンカーブレードを射出して受け止める。

 ヒルドアリアの神鎧アンヘル『ベルグバリスタ』が焔を吹くと異形の神鎧アンヘルは嫌がるものの、さらに暴れて手がつけられない。


「うぅっ!あなた様、一度下がりましょう……!」


 八本の鉤爪による攻撃は強力で、クラン達の神鎧アンヘルは後退せざるを得なかった。

 このままでは消耗してみんなやられてしまう。

 クランを守りながらもなんとかしなければと考えていると、ふと異形の神鎧アンヘルの胸元に何かを見つけた。


「――あれは……パフィーリアか?」


 半身が神鎧アンヘルと繋がり、結晶に取り込まれるように幼い少女が項垂うなだれていた。

 神鎧アンヘルの姿が変わったことで宿主のパフィーリアが露出したのか。

 それなら俺の力でも助けられるかもしれない。

 さっそくクランに提案することにして、彼女の肩を抱き寄せる。


「あ、あなた様……?」


「クラン、頼みがある。それと『力』を貸してほしい。」

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