宿にて
☆
クランとヒツギおにいちゃんと三人でヴァネリスに教えてもらった宿へ泊まりにきた。
貴族や国の偉い人たちがよく来るところみたいで、とても大きくて豪華な見た目だった。
入り口にはヴァネリスの補佐官のシスターが二人待っていて話しかけてくる。
「お待ちしておりました。三位巫女神官様、五位巫女神官様。お話しは我らが仕える二位巫女神官様から伺っております。どうぞこちらへ。」
案内されて中に入るとまるで聖堂のようにキラキラとして暖かかった。
三人で並んで歩いているとおにいちゃんがシスターに引き留められた。
「三位巫女神官様の補佐官殿の部屋もすぐご案内しますので少々お待ちください。」
「彼はわたくしと同じ部屋でかまいません。」
「は、いえしかし……」
戸惑うシスターと話をするクラン。
「心配はいりません。わたくしの身の回りの世話は、いつも彼に任せているのです。」
「パフもクランと同じ部屋でいいからねっ!」
「失礼いたしました。そういう事でしたらご一緒にこちらへご案内いたします。」
頭を下げて歩き出すシスターの後ろについて、また三人で奥の方へと歩いていった。
「わあ!ひろぉい!見て、クラン。すっごくキレイだよっ!」
案内された部屋は三人でも遊び回れるくらい広くて、まぶしい豪華な飾りがあちこちにあった。
窓の外はもうすっかり暗くなっていて、なおさら部屋が明るく感じた。
クランとおにいちゃんは部屋の入り口に並んで立って見回してる。
「流石にこれは――いや、クランとパフィーリアは巫女神官だからこれが普通なのか。」
「わたくしもあまりこういうのは慣れていなくて、いつも戸惑ってしまうのですが……」
部屋の中を歩き回ると大きな机の上にあるものを見つけた。
「あ!クラン、お菓子がいっぱいあるよ!これ食べてもいいのかなぁ?」
「パフィ、もうすぐ夕食の時間です。お菓子は後にしましょうね。」
クランがみんなの荷物を整理していると、部屋をノックされて料理が運ばれてきた。
「わあ。美味しそう!」
料理が部屋の真ん中のテーブルに並べられていく。
色とりどりの庭園のように鮮やかで良い香りが漂って、お腹の虫が鳴って我慢ができなくなる。
「それでは食事にしましょうか。」
クランの言葉で席に着く。
おにいちゃんの向かいにクラン、パフはおにいちゃんの隣に座った。
「主のお恵みに感謝を。」
「いただきます。」
「我らが主よ、あなたの慈悲ふかき
「パフィ、今日はわたくし達だけなので略式でも良いですよ。」
優しく言ってくれるクラン。
さっそく一番近くのお肉から切って口の中へ入れると、熱々の肉汁と濃厚なソースの味が広がった。
柔らかく溶けるような食感のお肉も美味しい!
添えられた野菜も次々と口に含んで噛むと、色々な味が混ざってまるで刺繍やブーケを作ってるみたいだった。
夢中になってどんどん食べ物を口へ運んでいく。
「落ち着いてゆっくり食べていいからな。」
おにいちゃんが丁寧に口元を拭いてくれる。
気がつけば目の前の食べ物があっという間になくなっていた。
けれど全然食べ足りないし、もっともっと美味しいものを食べたかった。
「足りなかったら、わたくしの分も食べて良いですからね。」
「いいの?」
「わたくしには少し量が多いですから。」
お腹が膨れるほど食べたら、おにいちゃんが良い食べっぷりだなと笑ってた。
みんなが食べ終わって食器を片付けると、自分の荷物の中から数字の書かれたカードを取り出しておにいちゃんを遊びに誘った。
もちろん快く引き受けてくれて、二人で遊んでいるとクランがお茶とお菓子を用意してくれる。
「パフィーリアは神学校に通いながら聖務をこなしているのか。」
おにいちゃんはパフの話をなんでも聞いてくれた。
暖かい南西部都市の聖堂に住んでいること。
神学校に通い、時々ヴァネリスから神学を教わっていて、聖歌隊にも参加していること。
ブーケ作りの他に裁縫や刺繍も得意なこと。
「パフの手は小さいから細かい作業がすごく得意なんだよ!おにいちゃんの服も
お菓子を食べてた手を差し出すとおにいちゃんも手を出して合わせてくれた。
とても大きくて温かく、ずっと触れていたかった。
「そうだ!明日はヴァネリスの演奏会があるんだよ。おにいちゃんも聴きに行こうよ!」
「彼女が別れ際に催し事があると言っていたのはそれか。どんな音楽を奏でるのか気にもなる。よし、一緒に行こうか。」
約束に嬉しくて笑いあっていると、大きなあくびが出た。
今日は朝も早くて疲れたし、お腹いっぱいになったからかもしれない。
「パフィ、眠くなってしまいましたか?お風呂はどうしましょう。」
お風呂の準備をしていたクランが聞いてくる。
「ん、明日起きたら入るぅ……」
カードはそのままで寝室の二つあるベッドの一つに寝転がると一気に眠気がやってきて、すぐさま夢に落ちるようにぐっすりと寝てしまった。
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