審問
†
「ふむ。そういえば君は最近、クランフェリアの補佐官となったようだが出自は何かね。」
ヴァリスネリアは彼の事が気になったのかあの人に問いました。
わたくしはどのように説明したものか考えあぐねます。
「悪いがその質問には答えることができない。俺には記憶がなくてな。」
彼はわたくしの心配をよそにあっさりと答えます。
「記憶がないだと?冗談のつもりかね?」
彼女の目つきが鋭くなります。
「冗談だったならよかったんだがな。逆に訊くが貴方は自分の過去のことを一日欠かさず、隅々まで覚えているのか?」
「それは戯言というものだ。少なくとも生まれや故郷のように大事なことは覚えていて当然だろう。」
「俺はそう思わない。それで腹が膨れるのなら苦労はしないからな。大事なのは今の自分がどうあるのかだ。」
「――君は聖なる教の信者ではないだろう。信仰についてどう考えているのかね。」
「正直言って俺は神様というものがよくわからなかった。だが
「君がクランフェリアの優しさにつけ込んで彼女を利用していないという確証はあるのかね。
「それはあり得ません!彼はわたくしの事を心から……!」
わたくしはつい間に入ってしまいました。
ですが、彼女に片手で静止されます。
「俺はクランフェリアに手を差し伸べられて救われた。この俺の全ては彼女の為に使うと決めた。
そう言って彼はどこからともなく目の前に大剣を生み出して地面に突き立てました。
ヴァリスネリアは眉を上げて目を見開きます。
「その大剣、それにこの力の流れはまさか……」
彼女はしばらくの間に何かを思いめぐらせて彼を見つめます。
「――分かった。君がクランフェリアの補佐官であることをこの場は認めよう。機会があればまた話をしようではないか。」
わたくしは内心、ほっとしました。
と、そこへ元気な足音が聞こえてきます。
「あ、いたいた!クランにヒツギおにいちゃん!ヴァネリスも。三人でお話ししてたの?」
五位巫女神官のパフィーリアが駆け寄ってきて、わたくし達を見回します。
「ああ、そうだ。パフィーリアも今日は御苦労だった。礼と言ってはなんだが、私が経営している宿で君達に格別の持て成しをするよう話を通してある。ぜひ利用してくれたまえ。」
得意満面に彼女は話します。
「くひひ、やったぁ!今日は美味しいご飯がいっぱい食べられるんだね!」
「うふふ、良かったわね。パフィ。」
わたくし達の空気を読むように、ヴァリスネリアの補佐官の一人が彼女へそっと耳打ちをしています。
その近くにはパフィーリアの補佐官も控えていました。
「そろそろ時間か。私は次の催し事の準備があるのでこれで失礼するよ。三人とも私の街を満喫してくれたまえ。」
そう言い残して彼女は補佐官達とともに聖堂へと戻っていきました。
「ねぇねぇ、はやくご飯食べに行こうよっ!パフ、お腹空いたよう!」
パフィがわたくしの袖を引きます。
「わたくし達も参りましょうか、あなた様。」
「ああ。そうだな、クラン。」
そして、わたくしはパフィとともに彼の運転する蒸気自動車に乗って、陽の傾き始めた街の宿へ向かうのでした。
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