追懐

    †


 隣国との戦争が終結してから二年。

 わたくしは宗教国家中央部都市にある神学校で寮生活をしていました。


 同じ巫女神官見習いであり、学生のヴァリスネリアは人を通して様々な支援をしてくれました。

 神学校へ通うと決めた時も過剰と言えるほどの高待遇を用意していたのです。


 寮は他の生徒と相部屋ではなく、生活全てを丸々補える部屋を与えられました。

 わたくしはの教えもあり、できるだけ質素にお願いしたのですがそれでも十分過ぎるほどに。


 学生生活では一日の半分を神学や学問に費やしました。

 巫女神官見習いという立場上、他のシスターの方とご一緒する機会はほとんどありません。


 ある日の午後、わたくしは久方ぶりに再会したヴァリスネリアと二人で神学校の礼拝堂に居合わせました。


「クランフェリア、君の書いた論文に目を通したよ。とても素晴らしかった。十に満たない歳でこれだけの理解があるのならば、将来も巫女神官として多くの民衆を先導していけるだろう。君の先代の様に。」


「――あの方のこと、わたくしが覚えているのは多くはありません。あの方は、はどのような巫女神官だったのでしょう。」


 ヴァリスネリアはわたくしを一瞥いちべつした後、思い出すように間を置いてから語り出します。


「先代の人柄は君も知っての通りだろう。私自身、彼女と深い関わりがあったわけではない。神官見習いとして活動を始めて一年ほどだ。だがそれでも民衆の期待に応え、愛され、時に威厳を示す姿は巫女神官として非の打ちどころのない完璧さだった。」


「――そして私も次の誕生日には正式に巫女神官となる。復興支援で各地を回っていて随分と遅れてしまったがようやくだ。」


 わたくしはの教えを思い出します。

 そしていつか、わたくしの誕生日に現れるという殿方のことは頭の片隅にいつも想い浮かべていました。


「おめでとうございます、二位巫女神官様。」


「ありがとう。とはいえ、君もこの調子なら神学校を卒業する頃には巫女神官として迎え入れられるはずだ。」


 彼女は手元にある神学書をかざします。


「私も巫女神官の聖務の傍らに神学の教鞭を振るい、君に教示する機会もあることだろう。」


「ふふ、それではより一層に勉学を励まなければなりませんね。」


 そうして、わたくしは十二歳になって卒業するまでの四年間、ヴァリスネリアに神学を教授されることになるのでした。


「わたくしは神学校を卒業した後、今の聖堂へ移り聖務の合間に街の復興支援や奉仕活動に参加をしてきました。『神鎧アンヘルの力』を街を守り人々を救済するために使い、今に至ります。」


 話し終えて、目を開きます。


「クランはいつでも立派に努力しているんだな。」


 彼が優しく褒めてくれました。


 わたくしにとっては当然のことですが、彼に言われると照れてしまいました――

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