回顧

    ♢


 ――だが数日後、あの夜が来た。

 異教徒達が夜の闇に紛れて大規模な夜戦を仕掛けてきたのだ。

 戦火は孤児院のすぐ近くにまで迫っていた。


 私は自動小銃に銃剣を取り付け、戦闘の準備を整えた。

 我ら宗教国家都市の兵隊が戦う銃声や爆発音が夜の街に響く。

 教会施設は周りを高い塀で囲われていて、孤児院もその一つだ。

 院内のシスターや子供達は地下へ避難をさせたので心配はないだろう。

 異教徒との戦闘に加わる為に立ち上がると近くに気配を感じた。


 クランフェリアだった。


「そこで何をしている。君は大人しく避難しているんだ。」


 少女は不安げな表情で私を見ている。

 ――いや、私ではない、その先を見ていた。

 振り返ると入り口に元三位巫女神官――エノテリア殿が訪れていた。


「ご無事ですか二人とも。外は危険ですから早く避難を。」


「私も戦います。異教徒どもにこれ以上好き勝手させる訳にはいかない。」


 彼女は私の肩に手を触れた。


「この場はわたくしが収めます。」


「しかし……」


「あなたはこれから先、巫女神官の一人として大役を務めなければなりません。その子を、クランフェリアのことをお願いします。」


 言い返す事が出来ず、ただ頷くしかなかった。


 彼女はクランフェリアの方へ近づき見つめ合う。

 何か言いたげな少女をそっと抱きしめて、躰を震わせた。


 そして、孤児院の広場へ出ると眩い光を発して神鎧アンヘルを顕現した。

 光の中から十数メートルほどの巨大な人型の巨像が呼び出され、地に降り立つ。


 ――私は圧倒されていた。


 神々しくも重厚な鎧装に覆われた、花を思わせる神鎧アンヘル

 彼女の温厚さとは裏腹に、一片の慈悲も感じさせない威圧感を放っている。


 私はクランフェリアと共に彼女を見送って地下へと避難をした。

 地を揺るがすほどの振動が何度も起こった。

 永遠のようにも思えた長い一夜が明ける。


 後に聞いた話では、その夜の戦闘で敵の夜戦部隊は全滅し、隣国の都市一つを特殊な爆弾で丸ごと吹き飛ばして手痛い打撃を与えたらしい。

 結果的に双方に大きな被害を受けたことで戦争は休戦状態となるが、エノテリア殿は二度と姿を見せることはなかった。


 とにかく、それからは今まで以上に多忙となった。

 宗教国家都市の被害区域復興のために各地へ駆け回らなければならないだろう。

 本来ならば彼女に頼まれた手前、クランフェリアを連れていくべきだった。

 しかし、まだ六歳の少女に各地を転々とさせることは教育や体力的に厳しく、やむなく孤児院に残すことにした。


「彼女との約束だ。せめて君が生活に困る事がないよう人を寄越して支援する。神学校へ通うのなら手配もしよう。」


 その後、少女と再会したのは二年が経ってからだった――

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