十年前
♢
それは私が歳も十五の話になる。
当時は巫女神官見習いで学生でもあった。
宗教国家東部で指折りの貴族の生まれである私だが、幼少の頃から将来的に民衆を統べる者となるべく様々な経験を積んでいた。
政治的にも宗教国家へと大きく影響力のある我が家系は、私が
私自身も巫女神官として国や聖なる教を支えていかねばならない。
しかし、我が宗教国家にはある問題を抱えていた。
我が国は大陸の中ほどに位置していて、昔から周辺国との宗教的な
海に面する南部を除き、ここ数十年は武力による衝突もあちこちで頻発している。
そしてとうとう隣国と大規模な戦争が起こり、多大な被害を被った。
その時、私は最も戦闘の激しい宗教国家都市の南東、国境付近にある孤児院へ戦闘支援のため駐在していた。
渦中の孤児院は避難により人が多く集まって、生活も楽ではなかった。
私は広場へ炊き出しの準備をして辺りを見回す。
「相変わらず酷い景観だ。街の外縁の三分の一は瓦礫に埋もれ、いたるところで戦火が立ち昇る。最前線は地獄そのものだろうな。」
調理を始めたところで声をかけられる。
「こんにちは、ヴァリスネリア。炊き出しの準備、わたくしもお手伝いします。」
それは二十代前半で亜麻色の長い髪、紅い瞳に十字の瞳孔が印象的な女性だった。
傍らには親子のようにそっくりな少女がいた。
六歳くらいだろうか、人見知りなのか女性の後ろに隠れて窺い見上げている。
「ごきげんよう、三位巫女神官殿。お気遣い感謝します。そちらの子は?」
「わたくしはもう神官ではありません。名前で呼んでいただいて結構です。この子はクランフェリア、この孤児院で生活をしている三位巫女神官の次期後継者です。」
そっと少女の背を押して私の前に立たせる。
見上げる瞳は紅く、女性同様に十字の瞳孔が刻まれていた。
「こ、こんにちは。二位巫女神官様、クランフェリアです。よろしく、お願いいたします……」
「こちらこそよろしくお願いしよう。とはいえ、私もまだ見習いだ。三位巫女――いや、エノテリア殿。この子が後継ということは
「まだ発現はしていません。それに力を発揮するには宿主への負荷が大き過ぎて、現状では暴走してしまうでしょう。」
実のところ二位巫女神官見習いである私も
この子と共に
三人で炊き出しのスープを作り始めた。
調理をしていると遠くで小規模の爆発音が連続して聞こえてきた。
何処かで小競り合いの戦闘をしているのか。
銃声までは聞こえてこないが何発かの煙が立ち昇っていた。
隣にいる元三位巫女神官――エノテリア殿が厳しい面持ちで音の方向を見つめている。
神官としての籍は残っているが、彼女は心臓を患っていて
「ヴァリスネリア、念のためにこの子と避難をしてください。ここはわたくしが見ています。」
「了解しました。クランフェリア、さあこっちへ。」
彼女の傍を離れたくないのか、後ろ髪を引かれるように何度も振り返る少女。
その日はそれ以上に戦闘行為が起こることはなかった――
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