聖なる教
外は綺麗な青空の良い天気だったが風はまだ冷たく、日差し以上に寒く感じられた。
改めて周囲の景色を見渡してみると、聖堂の敷地は母屋を含め高い塀で囲まれているようだ。
塀の入り口は頑丈そうな格子扉で、聖堂に向かって真っ直ぐに道が続いていた。
再び聖堂前へ訪れ、固く閉ざされた正面扉を開錠して中へ入る。
クランフェリアは懐中時計を取り出して時間を確認した。
「街のシスターや信者の方々が来られるまで少し時間がありますので、まずはわたくし達の宗教について詳しくお教えしますね。」
俺は身廊の一番前の長椅子に座り、彼女は聖書と思しき分厚い本に紙とペンを持って隣へ座った。
「わたくし達の聖なる教は神の実体を一つ、神の位格が三つの三位一体、主と
彼女は紙にペンを走らせ、図式を書いて教えてくれる。
「わたくしは父なる神である主に仕えるシスターですが、中でも特別な力を持つ巫女神官という立場にあります。その力とは子なる神、
俺は彼女の書いた図式の神鎧の部分に指を差す。
「クランフェリアは神様を呼び出せるのか?」
彼女は頷きながら答える。
「はい。そして
新たに七芒星の図式を書いて説明する彼女。
「この聖堂は中央部都市からは南東に位置しています。ですからこの周辺の街はわたくしの管轄、ということになりますね。街にも自然とそれぞれの
七人の巫女神官自体にも、それぞれ信者達がいるということか。
「七つのどの聖堂も重要な聖遺物を所有しているために普段から解放はされておらず、生誕祭やミサのような大きな祭事の時だけ開かれます。」
まだ朝とはいえ、俺とクランフェリア以外に人の姿がないのも納得した。
「その代わり、街には教会や礼拝堂といった日常的に通える場所があり、一般のシスターの皆さんが街の住人や信者の方々と交流を交わしています。わたくしも日頃はそちらで一緒に参加をしたり、聖務や慈善活動をさせていただいています。」
「――聖霊というのは?」
「万物に宿る守護の霊体――といえばいいのでしょうか。人々や物などあらゆるものに加護を与える神で、わたくしやヒツギ様はもちろん、この紙とペンをも見守りくださっています。」
「なるほど。感覚的にだが理解できたよ。この国ではこの聖なる教と巫女神官のシスターが中心になっていて、とても重要なんだな。」
クランフェリアは微笑みながら頷いた。
「そういうことです。今日は主の生誕祭なので宗教国家の七つの聖堂で礼拝が行われます。礼拝についてですが、ヒツギ様には進行の手伝いをお願いいたします。多くの信者の方が来ると思われますが気を楽にしてくださいね。」
礼拝の流れを簡単に教えてもらいつつ、俺の身体に合ったコートを受け取る。
「――ふと思ったんだが、一年十四ヶ月に一度の祭事なのに、中心部の大聖堂ではやらないのか?」
「宗教国家で最も重要かつ神聖な主の大聖堂は、七人の巫女神官全員が集まる祭事の時のみ解放されます。さらに大聖堂の中に入れるのは巫女神官とその補佐官だけで、信者や一般の方は入れません。他にも理由はあるのですが、それはまた別の機会にお話ししましょう。」
彼女は含みを持たせて俺の疑問に答えた。
「そろそろ聖堂敷地入口の格子扉を開放しておきましょうか。街のシスターや信者の皆さんを迎え入れるために。」
そう言って立ち上がる彼女。
俺はコートを羽織りながら後に続いていった――
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